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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月21日

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遭遇中です(紅と白)


そして一人で海の家に行って、騒ぎを起こして帰還したユキ……





 少し体が重い、やっぱり体が思うようにいかないなぁ……そう思いながら海から戻りました。

 そして玄関の扉を開けると、そこに赤い炎を感じて身を竦めます。

 鮮烈な何にも勝る絶対的な赤。

 火事かと思いましたよ? 

 ビックリしました。何だろうこれ? そう思いながら、私は白と赤の混じった雪、その赤い部分を思い出しながら日傘を置きます。

「良い子で待っていてね」

 日傘にそう言っていると、

「今日はお客様が来ているのよ」

 迎えに出てきた葉子さんの後ろから、先ほどの赤い色が私を焼かんばかりに網膜を埋めます。これほどの輝く色を感じさせる人は少ないのです。

 その炎は絶対的で、激しく、私の髪を翻すように強く、頬にその熱さを感じました。

「二人共、ぼーっとしちゃってどうしたの? もしかして、お互いに見とれてた?」

「……まあ、そんな所だ。ずいぶんと綺麗な娘じゃないか」

 葉子さんの言葉で見つめ合っていた事に気づいて、それも綺麗なんて言われて、照れてしまいながら笑い返して誤魔化します。



 そこには小柄ながら、赤いドレスを身に纏い、赤い髪をツインテールにした威圧感のある女性が居ました。

 でも赤く見えるのはドレスの色のせいだけでは絶対にありません。小さい顔に日本人とは違う顔立ち。

 何よりも私と似た赤い瞳。



 な、仲間だーーーーーー



「雪姫です。よろしくお願いいたします。私の事は気軽に『雪姫』と呼んで下さい」

 前田と葉子さんが紹介してくれたので、それに合わせようとして、照れて止めます。宵乃宮って名乗らないと、何だかまだ他人の名のようです。でも戸籍はもうそうなんだから少しは慣れないと。

 それにしても前田はタカおじ様の苗字だけれど。それはお母さんの好きだった刀流さんの苗字。生きていれば本当にお父さんだったかもしれない、もしかしたら本当にお父さんかも知れない。そんな事を考える事もあって、その苗字を使うのは何ともくすぐったいです。

「ベル・イグニスだ。当分の間、ここで世話になる事になった。自分の事も『ベル』と気軽に呼んでくれて構わない。こちらこそ、よろしく頼む」



 や、優しい、お姉様です。



 何だかわからないですけれど、握手を交わすと、とっても安心できて。

 具合が優れないのを忘れる程に。

「よろしくお願いいたしますね、ベルお姉様」

 そう私が言った途端、その場の空気が固まったので、おどおどしてしまいます。

「……えーと、雪姫とやら。何故ベルの事を『お姉様』などと呼ぶ?」

 沈黙を割って聞かれましたが、何か都合が悪かったでしょうか?

「えっ? だって、ベルお姉様って私より年上ですよね? あっ、もし間違っていたらごめんなさいっ」

 でもお姉様ですよね、もしかしてお兄様だった? ……そんな事はないです。素敵な女性です。でもとにかく頭を下げます。

「あの……ベルお姉様、もしかして怒ってますか? 難しい顔されてますけど」

「……えっ?」

 彼女は複雑そうにしながら笑い返してくれて、

「いや、違うんだ。一目でベルが年上だと見抜いた事に驚いていただけだよ」

「そうなんですか、よかったぁ」

「えっ? ベルちゃん……いえ、ベルさんってユキさんよりも年上だったの? ごめんなさいね、私全然気が付かなくて」



 葉子さん、何故か私より年が下と思ったようです。身長のせいでしょうか? でも司先生にしても身長が低くても、違いますよね? その存在や魂の重さと言うか、色味や感触でわかるでしょう。

「いや、いいんだ。最初に言っておかなかったベルが悪い。それと葉子、ベルは呼び方は気にしない。今まで通り『ベルちゃん』と呼んでくれて構わないぞ。それと、雪姫」

「は、はいっ」

 ぼーっとしていたので、びくっとしてしまいます。

「おいおい、力を入れなくていいんだぞ? それと、ベルお姉様という言い方はやめろ。何だかくすぐったい」

「で、でも、年上なんですからきちんとした名前で呼ばないと……ベル様? うーん」

「……わかった。ベルの事は親しみを込めて『ベル姉様』と呼ぶといい」

「本当ですか!? じゃ、じゃあそう呼ばせていただきます、ベル姉様!」

「ああ。改めてよろしくな、雪姫」



 姉様、姉様……すごく憧れた響きです。仲間も良いけど、姉妹って素敵です。

 今日、ARIKAで汐ちゃんの為に、本気で彼女を守ろうとする姉、海さんの姿を見たのも重なって。

 兄弟どころか、父もわからず、今は母もいない私には、姉と呼べる存在はすごくうれしくて。

「あらあら、二人共すっかり仲良くなっちゃったみたいね。ああいけない、夕食の支度に戻らなきゃ。ベルちゃん、手伝ってくれる?」

「……ん? ああ、任せておけ」

 私にすら余り手伝いをさせない葉子さんが、ベル姉様を呼び、二人は台所へ向かっていきますよ。

 おかしいな、そう思いながら二人を見送り、私は荷物を置きに離れに戻ります。

「姉様、ベル姉様……」

 小さな声で呼んでみて、一人でニコニコしてしまいます。でも途端に左の首筋に痛みが走ります。

『お前のようなのが生きていて何になる?』

 そんな声がして。私が嬉しいと、嫌みたいです。

 泣きたくなる気持ちを抑えます。この頃、気弱になってるみたい、変な記憶や夢に振り回されて。



 何とか気持ちを宥めて、夕食に足を運んだ時、賀川さんの姿はそこにありませんでした。

 ベル姉様は本を探してうろなに来たそうです。

 本一冊の為に大変……そう思いながら話を聞いているのですが、何とも箸が動きません。本当に食欲ないんです。いい匂いがするのに。

 ぼんやりと賀川さんの居ない席を眺めながら、何とか食べてみようと鶏のから揚げを口に運びます。

「ーーえっ!?」

 驚いてしまいます、一緒に食べているお兄様達も、『何だこの唐揚げはぁ!? いつもよりかなり美味いぞ!』なんて言ってますよ。

「……この唐揚げ、いつもと違う……なんて言うか、火の通り、でしょうか? 一番いい具合に火が通っています」

 たくさんは無理でも、少しずつなら丸一つくらい食べられそうです。リスになったように細かくしながら、ゆっくり味わいます。



 その美味しさの秘密は何やらベル姉様にあるようです。

 夕食の後、タカおじ様が清水先生が持って来てくれた『海江田の奇跡』でお兄様方をその場から去らせました。貰ったのは全部無くなったはず。それにしてもいつの間にお取り寄せしたんでしょう?

「ふふ、タカさんは美味しい物に目がないのよ。よっぽどあのお酒が気に入ったみたいね」

 お兄様達は残った鶏のから揚げをおつまみにするそうです。

「あら、賀川君の分取り起き忘れたわ。仕方ないからお茶漬けで良いかしら……」

 その時、タカおじ様と話していたベル姉様が、

「いいだろう。だが、これからベルが見せるのは紛れもない真実だ。そこを肝に銘じた上で、その目に焼き付けろ」

 威厳の籠った確かな言葉で、葉子さんと私は会話が途切れます。



 ベル姉様が手を差し出すと、その指先に炎が灯ります。

 親指から順番に灯る炎は、それぞれベル姉様の色を纏ってとても美しいのです。それは炎の薔薇のようで、花弁が散ってそれが辺りに飛び散る様に見えました。

 炎は掌でベル姉様が望んだ通りに花開き、消え、質量と熱さがあるのに、ベル姉様の肌を傷つける事はありません。握りつぶせば炎は消え、名残で散る火の粉に花弁が幻のように消えていくのです。

「ーーまあ、このようにベルはタネも仕掛けもなく火を操る事ができる。料理用の火から、対象を燃やすほどの炎までな」

 タカおじ様も葉子さんも口々に驚きを乗せます。

「すごい……」

 ただ一言そう思いました。

 その上、その力をこの家の為に役立てると申し出ています。



 こんな風に私も力を使えたならば、誰にも迷惑をかけたりしないのに。誰かに手を出されても、無白花ちゃんみたいに腕が立つわけでもなく、ベル姉様のように不思議な力で炎を使って燃やしたり、焼いたりできるわけでもないのです。

 何もないのに何で『巫女』と言って、狙ったりするのでしょうか。意味が解りません。放っておいて欲しいのに。

「ユキさん? どうかしたの?」

 心配させてはいけません。葉子の問いに、笑い返します。私は私、出来る事をするしかないのだから。そう思いながらも弱気になってしまいます。

「い、いえ、何でもないです」

「決まりのようだな。では、これからしばらく、この家の火はベルに任せてもらおう」

「それじゃあベルちゃん、これからしばらくよろしくお願いね。それと雪姫さん、ベルちゃんの部屋だけど、しばらくの間は離れでベルちゃんと一緒に寝泊まりしてあげてね。女の子同士安心できるでしょうし、二人共仲良しになったみたいだし」

「はい、葉子さん。よろしくお願いしますね、ベル姉様」

「ああ。では雪姫、戻ろうか? お前とはもっと色々と話をしてみたい」

「はい!」

 その台詞が何よりうれしくて、その手を握ります。ベル姉様は手を握った事で少し目線を投げますが、それ以上は気にした様子もなく離れに戻ろうとした時、葉子さんの声が聞こえます。



「そうだ、ベルちゃん。最後に一つ聞きたいんだけど、どうしてあなたはその力を私達に見せてくれたの?」


 ベル姉様は笑いながら、

「ーーさあ、わからない。しいて言うなら、ただベルがそうしたかっただけだ。それに、お前達ならマスコミや胡散臭い研究機関などに情報を流すような事はしない。そう直感したからかな」

 信用してもらえてる、それって嬉しいのです。

 この後、離れに戻るとベル姉様は私の絵をべた褒めしてくれます。

 それにベル姉様のとても特徴的なその服装について話しました。

 ベル姉様の服はゴスロリ系、とってもゴージャスで、それをソツなく着こなしているのです。いつも着ているのですか? そう尋ねると、

「ああ。家にいる時は普通の服だが、今回のような、まあ仕事かな? そういう時にはこのドレスを纏うのさ。いわゆる、ベルにとっての戦装束だな」

「すごいですっ。それがベル姉様の正装なんですね! ベル姉様の髪にドレスの紅がとてもよく似合っています! それに、頭に乗せたティアラも綺麗な細工がしてあってとても綺麗です!」

 ベル姉様はありがとうと言った後、特別だぞ、そう付け加えるとティアラを外して私の頭に載せてくれました。ベル姉様の髪色に合った色なので、私の白髪には合いませんが、それでも鏡の中の私は何だか特別になったようです。

「ベル姉様」

「何だ?」

「いいえ、私も……何か出来る事があればいいのに」

 ベル姉様は不思議そうな顔をしながら、しかし力強く微笑み、

「ベルには何の事かはわからないが、ユキ、お前はもう少し自分自身に自信を持て」

 そう言ってくれるのでした。






 ちなみに私もベル姉様も、……この家の誰も気付かなかったのですが。

 ベル姉様が台所で美しい炎を見せてくれている時、賀川さん、やっと起きて下階に降りて来ていました。ですが、ベル姉様の掌で遊び舞う炎を覗き見て、

「げ、幻覚か? 俺、まだ疲れているのかな?」

 そう言って、再度自室に引き籠ったのでした。



朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん。


YL様『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌より』司先生。イメージで。


小藍様 『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より、海さん、汐ちゃんイメージで。


お借りしております。

問題ありましたらお知らせください。

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