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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月21日

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交通事故中です(紅と白)



ユキが海の家ARIKA向かった朝、約束に間に合わなかった賀川には、こういう事情がありました。



 







 まずい、非常にまずい。



 俺は頭を抱えたかった。

 毎回の労働基準法無視のシフト。

 普段は徹夜明けは仮眠を取って、職場を後にするのだが。



 この日のあがりの予定は朝の四時だった。

 少し仮眠した後に、毎朝の鍛錬に向かう予定……

「は? あ、申し訳ありません。日付指定、はい、本日朝七時までにですかっ!」

 しかし明ける頃に、以上のような昨日日中の小荷物誤配送への苦情電話を受けたあたりから予定が狂う。

 無論誤配送は俺ではない、仲間の不手際。だからと放っては置けない。

「何とか、追跡番号で行けます。はい」

 明け方であるので誤配送先への確認も取りにくく、だがもともと昨日の日付指定で、お客様に中身が朝には必要と言われ、必死に連絡調整を行う。それが落ち着く頃に、

「すまん、コンベヤと一人止まった! 早く来いっ」

「はい?」

 そんな中、荷物を送り出すコンベヤが停止し、更に夜勤者一人がぎっくり腰で戦線離脱、応援を呼ぶもののなかなか来ない。

 何とか動き出したコンベヤに、胸を撫で下ろしたのもつかの間、予定外の他町で仕分け予定の荷物が大量に運ばれる。

「な、何事ですか?」

「先日のゲリラ豪雨でやられた倉庫の機械の調子が戻りきれず止まったらしい」

「さっきまでここも止まっていたのに、これは許容オーバーですよっ」

「やりきるしかないだろーっ」

 早朝のトラックへの仕分け待ちが混雑する中、応援と早出の日勤者が来て、どうにか仕事を捌けさせる。



「ふ、普通じゃなかったな」

 そう思いながらも、俺は車を出した。

 少し……休みたかったが、この所、明るくはしているが、どこか疲れた様子のユキさんのお出かけに付き合う事を約束していた。早くからまずは森へ行きたいと言っていたから、急がないと一人で出て行ってしまうだろう。

 だがその無理が悲惨な結果を招く。



 居眠りと集中力の欠如。

 気付いた時には遅かった。



 赤すぎる、深紅のバラを思わせる子供が目の前にいた。

 スピードが出ている、間に合わない! そう思いながら俺が踏むブレーキのけたたましい音。

 そして重い衝撃音……




「うそ、だろ……It is no use crying over spilt milk.……」



 やってしまった。

 後悔は先に立たない、覆水盆に返らず。

 いつもは封印している英語が口を付くほどに、俺は動揺する。



 俺、人を轢いた。

 まずい、非常にまずい。



 早く駆け寄らねば、そう思って飛び出そうとして、一秒ほど間が空く。

 俺の職業は運送業……事故を起こす事=失業にも至る。この仕事を失いたくない、これは亡くなった母と俺を繋ぐ橋。

『……逃げるか』、と、一瞬悪魔の囁きを聞いた。だがそんな事をしてまでこの職に就くことをあの人は望まないだろう。

 それより人命だ。

 だが、あの吹っ飛び方は……覚悟をしながら意識を確認。反応がない。

 俺の顔色は相当おかしかっただろう。

 平和な場所での……殺人。

 また俺はこんな所でまで……こんなに動揺するモノかと思いながら震える手で服のポケットから携帯電話を取り出し、119番通報をしようとした時ーー



 俺はぎょっとする。




「……ああ、痛かった」


 真紅の少女が何事もなかったかのように起き上がったのだ。

「君、大丈夫なのか……!?」

 奇跡だ、これは奇跡だ。

「大丈夫だ、問題ない」

 そのセリフに俺は神に感謝した。

 今はその事を知らなかったが……と、いうか、それを知る機会に恵まれるか不明だが……真紅の彼女が『堕天使ベリアル』――ソロモン七二柱が一員で六八位の序列を戴く堕天使とも知らず。普段超リアリストの俺は、珍しく神へ深く深く感謝したのだ。

 と、いうか、もしこの場で『堕天使だ』と聞いていた所で、どこが凄くて偉いのか、俺には全く分からなかったろうが。

 とにかく心の底から、神に感謝したのは初めてかも知れない。

 もう理由のない人殺しはご免だった。ただ……理由のある殺人なら、するかもしれない。物騒だが、ユキさんを狙う者には容赦する気はない。



 目の前の彼女はユキさんとはまた違った可憐さを持った少女だった。

 俺にその手の趣味は無いが、低めの身長に特徴的な赤のツインテール。俺の愛する彼女とは違った赤、炎を宿す苛烈な瞳。

 それに合わせたゴシックロリータ調のドレス、控えめな胸の大きさだが、それはそれで品を感じさせる。それは彼女の腰のラインや身長を引き立て、まさに世にいうロリータ系を愛する男子の天使だろう。

 ユキさんを同じような服を着せこませ、並べてみたいと非常識にも考えたのはまた別の話としよう。



「……さて、どうしてくれる? 怪我をしていないとはいえ、お前がベルをはねたのは紛れもない事実。それも、直前まで居眠り、さらに法定速度スレスレで走っていたというおまけ付きでだ。目撃者がいないとはいえ、ベルが警察を呼べば、お前は即犯罪者だ」



 痛い、痛すぎる。

 子供のようだが、かなり鋭い。いや、子供ではあり得ない気配、まるでアンダーグランドで味わった腹の探り合いを模した様な迫力を、こんな所で感じるとは思わなかった。

「……しかし、先程の衝突の衝撃と一瞬の浮遊感、アスファルトへの衝突具合……実に素晴らしいものだった……くふふ、自動車を使ったプレイは初めてだったぞ……くふ、くふふふふ……」

「……っ!?」

 更に彼女の気配が変わる。息を荒らげ、頬を染めながらの色っぽい表情に俺は無意識の内に数歩下がってしまうほどだった。鋭い話しぶりと言い、一筋縄ではいかない、ただの可愛い少女ではない、と完全に認識を直す。

「……ああ、すまん。こっちの話だ。とにかくだ、先程の体験の礼といっては何だが、事を穏便に済ませたいと思う。しかし、条件がある」

「……何が望みだ」

 もう、俺はそう言うしかなかった。



「ベルは訳あって当分の間、格安で寝泊まりできる場所を探している。心当たりがあればそこに案内しろ」



 そして。殆ど車に影響がなかったので、俺は彼女を連れて走った。



「あー、それと葉子さん、その……『拾い物』です」



 俺は彼女を、タカさんの家に連れて行く事にした。

 居候なので、大きな顔は出来ないが、それしか思いつかなかった。ここでなら悪いようにはしないはず。後、直感だが彼女は『害をなす』者ではないと思ったからだ。で、ないとユキさんの側には置けない。

 そう考えながら、葉子さんに引き渡す。

「おいおい、人を物扱いするのは感心しないな……まあ、そういうのも嫌いじゃないが」



 彼女にそう言われて、人と物は区分けがあったな、と思う。英語ならthisで済むのだが。

 疲れていて相当、言葉がおかしくなってきている。

 その上、こうやって帰ってきたと言うのに、もう彼女は森へ出てしまったとの事。森に彼女の了解なく、理由もなしに押し掛けるのはルール違反だ。


 何か二人が言っているがもういい。

 玄関口にあるはずの日傘がない所を見ると、森から今日はどこかに向かう予定だったと見えた。だがそれなりに広いうろな、どう探せばよいかわからない。GPSで追えない事はないが、それじゃあストーカーだ。……行先を確認しておけばよかった、そう思うが後悔先に立たず。



 It is no use crying over spilt milk.



 今日はつくづく付いていない。

 葉子さんに彼女を任せ、俺は張り紙をすると、ベッドまで行って惰眠をむさぼった。




不運な賀川でした。


朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃんお借りしております。


諸事情ありましたが、とてもお待たせいたしました。


朝陽様の作品に追いつくまでは毎日更新です。


宜しくお願いいたします。

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