帰宅中です(海へ)
食べられないよぅ。
変な声もするし、変な夢も見るし。
出されたスープですが、美味しいのですが、たくさん飲む様にと言われたのに、飲み込めず苦労していました。そうしたら、汐ちゃんが小さな柑橘を絞って入れてくれました。
「スープ自体も即席で海お姉ちゃんが作ったんだけど、ユキお姉ちゃんが飲めなさそうだから、絞って来てって。海お姉ちゃんが厨房担当なんだけど、さっきは空お姉ちゃんが休憩に出ていたからフロアの方に居たんだよ」
柑橘で爽やかさが出たスープ。
きっと私が飲めなさそうにしているのに厨房から気付いて、配慮してくれたのでしょう。やっと喉を通って行ったそれは体にしみこむようです。しっかりとした出汁が出たソレは即席とは思えない味わいです。元々他の料理を作る時にベースにする物に手を加えてくれたのでしょう。
タオルが巻かれた氷で体が冷えだしていたので、暖かいモノが美味しく感じます。
「食べてくれたー」
ゆっくり何とか飲み干すと、手を叩かんばかりに喜ぶ汐ちゃん。
「あの、お金は?」
「これはサービスって。絵、貰ったし」
「そんなつもりじゃなかったんです。でもありがたく頂きます」
そう答えた私の顔を、汐ちゃんは覗き込むように、小さな声で、
「怖いキラキラに会ったの?」
キラキラが意味するところは解りません。でもその澄んだ瞳は私に何があったのか、知っているようでした。心配してくれているのが伝わってきたので、
「大丈夫だから」
不安にさせぬようそう言うと、首を振って、
「大丈夫じゃないよね。でもそう言わないと心配するよね」
「……汐ちゃん」
何だか彼女の悩みも近い気がして。
その後は、五人姉妹だとか、旧水族館の方と仲がいいとか、他愛ない話を聞きます。そうしてお手伝いに戻る小さな背中に、私も負けないようにしなきゃと思いながら、とにかく今は休みを取ります。
しばしすると、調整のギター音がたまに響いてくるようになり、店が混雑し出します。
お店の前の特設ステージで、ライブがあるそうです。特にお金にもならないのに、これ以上席を陣取っていると迷惑になります。
「帰っちゃうの?」
折につけて、私の所に氷やタオルを替えに来てくれた汐ちゃん。
この頃、沢山食べられない事を言うと、何か食べれる様にとあっさりしたリゾットなどをその後も出してくれた海さん。
飲み物くらいしか頼めない客に、本当に良くしてくれてとても嬉しかったのです。また来たいけれど、来年かな?
「まだ居ると良いのに。タクシー呼ぶから」
「いいえ、荷物もそんなにないから電車で帰れます。お世話かけてすみませんでした」
心配そうにしてくれる太陽さんにぺこりと頭を下げて、フワフワと駅に向けて歩き出します。荷物も少なくなったし、夕方で気温も僅かに下がり、少し体が楽です。
空さんというお姉さんの声で曲が紹介され、綺麗な音楽が私の背を押し、辺りが優しさで包まれます。
黒いマントの人や、どこかで聞き覚えのある猫の鳴き声を模した語尾の少女、その脇を抜けて海の家を後にしながら、その背に音楽を聞きます。
「皆違って、いい、か」
でも普通の中にあって、違いが大きすぎて、刃物となるなら。
友達を友達ともわからず、傷つけてしまう。正義も悪もなく、そこにあった意志に巻き込まれて。そんな私が人間で在れるのか……余りに違い過ぎるものとして、私は異質として排除されるべきなのでしょうか?
「わからない、けれど、私はココに居たい」
遠い波の音。海の風。溶け込む音楽。
聴いている皆さんも、強く生きて欲しい……そんなメッセージが素直に受け取れるようになるのはいつでしょうか?
『永遠に、そんな時は来ない。お前は所詮、俺らと一緒だ』
「違います、私は……」
頭に響く不快な声。毎日繰り返す夢に私はだいぶおかしくなってきている気がします。
その後、自分の壁を破る事を決意した少女の可愛らしい声を遠くに聞きます。私にはまだそんな勇気はありません。
それでも歩かなければならないと思い、罪の意識を押さえこみながら電車へと乗り込み、海を後にしたのでした。
小藍様 『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より、海さん、空さん、汐ちゃん、太陽さん お借りしました。
とにあ様『URONA・あ・らかると』より、カラスマント様お見かけ。
寺町 朱穂様 『人間どもに不幸を!』より、鍋島サツキさん、お見かけ。
アッキ様『うろな高校駄弁り部』より、『DQN's』の海の家AKIRA前特設会場ライブを聞きかじりで。
以上使用させていただきました。問題あればお知らせください。
明日更新からはARIKAへ行く朝、ユキとの約束に間に合わなかった賀川視点で話を追います。
宜しくお願いいたします。




