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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月21日

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90/531

受渡中です(海へ)


あ、あやしいですか?

いえ、アヤシイ者ではありません。

ただ髪が白髪で、目が赤くて、おっきな荷物持ってて…

じゅ、十分アヤシイですか?

 



 こ、このままでは拙いです。

 店員さんがジト目で私を疑ってます。ハネ気味の黒のショートカットが可愛らしい方ですが、この際、そんな事言ってる場合ではなくて。あんまりいろんな事を気にしない私ですが、これはちょっと、いやとっても拙いです。

 警察には行きたくないのですぅ。許して下さい、って、私、何にもやってないんですけど。でも犯罪者は皆そう言うんですよね? じゃ、説得力無いですよね。うーん。

 困った私に、天使の声がします。

「森に居たキラキラの人だ〜っ!」

 ふわふわの栗色の髪、一か月近くたっているので会った時より少し長くなっているかな? 可愛らしい、にこやかな女の子、汐ちゃんです。

「ち、チラシ貰ったので、来てしまいました。あの時のお姉さん、な、渚さんを随分驚かせてしまいましたが、大丈夫でしたか?」

 目一杯チラシを広げて力説します。そう、私、チラシ貰ってきたんですよ、と、店員さんにアピールです。そう言えばどことなく、この店員さん、森であった汐ちゃんのお姉さん『渚さん』に似ておいでですよ?

「うん、大丈夫。そこに居るのもお姉ちゃんなの。海って言うんだよ」

「あ、海さん。すみません。怪しくて……」

「お、お客さん……」

「いえ、ごめんなさい。正確にはお客さんにはならないんです。だから、これを渡したら、すぐに失礼します」

 海さんは私と汐ちゃんを気にしながらも、他の接客に戻ります。

 私は何とか運んできた絵を取り出して、汐ちゃんに渡します。

 始めに描いたのは展覧会用で、意味を持たせて手を描いていましたが。インテリアにするには向かないので、別のバージョンで描いたイルカさんの絵を二枚、渡します。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



「汐ちゃんを見ていたら何となく思いついて描いたのです。どちらかだけでも気に入ってくれるなら、貰って下さい」

「えー、どおっちが良いかなぁ? 選べないよ」

「どっちも気に入ったなら、二つとも」

「いいの? ありがとう。森のお姉さん。あ、もう、何か注文した?」

「何か……食べたかったのですけど、あんまり気分が悪くて食べられないから帰ります」

「ええっ、うちのは何でも美味しいんだよっ」

 残念そうに言うので、何か食べられそうなモノを考え、選びます。

「か、かき氷くらいなら」

 そう言いかけた私の前に、お姉さんがまた一人現れます。



 渚さん、海さん、そして現れたお姉さん。皆似ています。汐ちゃんはちょっと違うけど、やっぱりどこか皆似ています。

 たぶんお姉さんなんでしょうが、汐ちゃん、一体何人お姉さんが居るのでしょう? そう思った私にかけられた言葉は、

「初めまして、汐の母、太陽です」

 えええええええっ、私の母も若く見えたけれど、またこの女性も特別お若く見えます。インカムか何かで訊いたのか、海さんが報告したのか、

「先程は海が突っ走ってしまったようで、申し訳ありません」

「だ、大丈夫です。私が怪しかったので、警戒させてしまってこちらこそ……」

 丁寧に謝りかけた私に、太陽さんがついっと手を伸ばしてきます。



「貴女、お水、ちゃんと飲んでる? 何か食べた?」

「え?」

 今日は朝も食べていないし、もうお昼も過ぎて二時近いから。昨日の夕方から、かれこれどのくらい飲食してないんだろう? わからなくて、笑って首を竦めます。

 太陽さんは真剣な顔で、テーブルの絵を見てから、

「調理場の窓から、木の下で絵を描いている子が見えたけど、もしかして、貴女だった?」

「あ、申し遅れました、宵乃宮 雪姫と……」

「名前なんか良いの。どのくらいあそこにいたの?」

「二……い、一時間くらい」

 二時間近くいたけれど、とてもそう言える雰囲気ではなくて半分にしときます。

「汐、急いで氷を袋に入れて幾つか持って来て。海、何かスープない?」

 再び近くに来ていた海さんを呼び止めます。



「こんな真夏にスープなんか売れな……」

「何かあるでしょう! 塩味のあるスープ。味噌汁でも何でも良いわ、熱過ぎない温度で持ってきなさい。氷も早く」

 どやされる様に指示を受けた二人が、厨房に滑り込みます。

「もう帰りますから、お気遣いなく」

「待ちなさい、貴女も自己管理しなさい。熱中症になりかけているわよ」

 熱中症、暖かい所で、水分も取らずにいるとなる病気ではなかったでしょうか? そう言えば私、暑い所に居たかなあ?

 汐ちゃんが氷の入った袋とスープを運んで来てくれました。湯気が立つか立たないか、生温くもなく、だからと言って冷やさなくてもそのまま飲める絶妙な温度です。

「ほら、飲みなさい。氷で体を冷やして。倒れたらお母さんがきっと心配するわよ」

「心配、してくれると、いいです」

 氷の入った袋を渡してくれながら、太陽さんが、

「子供を心配しない親なんかいないわよ」

「お母さんに会いたいです」

 顔立ちも何も似通った所はないのに、ただお母さんと言う一点だけでつい母を思い出して、目が潤んでしまいます。さっき泣いて来たからこれ以上、泣いたりしないのです。

 けれど、何か気付かれてしまったのか、彼女に暖かく見つめられます。さっき絵を描いているのを見たと言ったので、泣いているのをも見られてしまったのかもしれません。小さな子供じゃないのに恥ずかしい、そう思っていると、太陽さんは優しく、

「今は遠くに居ても、いつかきっと会えるはず」

 そう言って、中で足を伸ばして横になる事を勧めてくれました。でも流石にそれは断ると、ココでゆっくり休んで行くように言ってくれました。



小藍様 『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より、海さん、汐ちゃん、太陽さん お借りしました。

イルカのイメージイラスト、置いていきます。

お部屋にでもどうぞ。


問題ありましたらお知らせください。


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