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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月21日

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89/531

描画中です(海へ)


だーるーい……です

 










 駅に着いて、電車から吐き出される様に出ると、ベンチに座って休憩を取ります。暑いですが、海が近いせいか風があり、日陰なら何とかなります。暫く俯いて、一時間くらいした頃、やっと立ち上がる元気が出て、浜へ向かいます。日傘と絵を忘れないように抱えて。



「ありか、ありか、どこにあるのかなぁ」

 捜すまでもなく、その海の家はすぐそこにありました。とても繁盛しているらしく、人の出入りがたくさんです。更に近くで何かあるのか、何かの機材のセットや設営が進んでいます。夏祭りの時みたい。

「何だかタイミングが悪いかなぁ。でも終わりの日までにまた来れる気がしないの……」

 一人で言い訳しながら、中に入りかけます。

 混んでるよぅ。

 忙しそうだし。

 お昼ちょうど、時間のタイミングも悪かったかも。

 遠目に黒いマントのお兄さんを見ました。暑そうですが、お仕事でしょうか? お疲れ様なのです。小耳にはさんだ話だと、夕方頃にライブがあるそうです。普段以上に込んでいるみたい。



「後にしよう」

 すごすごお店に前で踵を返して後にすると、もはや重いとしか思えなくなっていた絵を引きずる様に駅に戻ります。日差しが暑いので、日傘だけは死守です。



「電話してみようかな? 賀川さん帰っているかも。迎え来て、か、手伝って下さいって」



 そう思いますが、きっと今頃眠っているでしょう。彼にとって私は世話を焼かなきゃダメなペットに等しい存在。迷惑はかけなければそれに越した事はありません。携帯をしまってポンポンします。

 駅にある椅子と日陰、暫くそこで時間を潰そうと思います。トイレもあるし自販機もあるし。

 でも私はもっと良い物を見つけました。

 小さな木とそれでできた木陰。

 そこに座ると賑やかな海や海の家や、人の流れが良く見えます。泳ぐ人には遠すぎる場所で空いていたようです。

「お母さん、来たよ。夏の海。うろなの夏の海」

 返事があるわけもない、暫く蹲って木の根元で泣いてしまいました。賀川さん、居なくてよかったかもしれない。泣いていたら心配かけるもの。これ以上、疎まれるのは嫌なのです。

「どうして帰って来てくれないの?」

 小さく恨み言を言ってみます。普段着飾らない母が、綺麗な格好をして出かけたのは何処だったのでしょう。電車に乗ったのでしょうか? 町に出たのか、このうろなの海に来たのか。はたまた別の町へ行ってしまったのでしょうか。

「ねえ、私のお母さんを見なかった?」

 優しい木陰をくれる、小さな木は風にサワワと揺れるだけ。遠く海を見て母に声が届くと良いなと願いながら。



 誰にも見られないうちに涙を拭って乾かすと、私は紙に鉛筆を軽く走らせます。

 海だけ描こうと思いましたが。誰か優しい人が描きたくて。

「そうだ」

 駅のお姉さんがいい。

 水彩色鉛筆、そして筆に持ち替えます。ざらっとした手触りの紙にペットボトルの水を広げて。重ねて色鉛筆を走らせて。

 他の駅員さんが着てたベスト着せちゃお、似合う、似合う。

 絵を描いていると人目を引くのか、ちょっと立ち止まって眺めていく人が居て恥ずかしかったです。

 写メした写真の電車を見ながら描き込み、海の雰囲気も。重ねあわせてこんな感じでどうかな?



挿絵(By みてみん)



 暫く描き足したり、描き直したりして、お店が少し人の入りが少なめになっているのに気付きます。日傘を使っても木影が動いて暑くなってきたので、私はお片付けして、もう一度お店に行ってみます。

 先程のラッシュよりは少し空いた店内。

 何とか座れそうです。出来るだけ邪魔にならない位置の席を選ぶと、目敏く接客のお姉様がやってきます。ていうか、うろなにはいろんな毛色の人が居ますけれど、この髪色に襟付きの真っ黒いワンピは目立つようです。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 良い匂いがしてます。お持ち帰りの串焼きや、美味しそうなソースの匂い。お客様の誰もが、幸せそうな笑顔で食事をし、語らって、この場所と時間を共有しています。



 でも、どうしても食べる気にまだなれなくて、

「注文じゃなくて。た、確か、名前、汐ちゃんだったかな? いますか?」

 その名を口にした途端、怪訝な表情を浮かべる店員さん。

「あんた、誰? どこで汐を知った」

 あ、しまった、そんな気がしました。

 理由はわかりませんが、確実に警戒されています。そうですよね、可愛い小学生ぐらいの子供を急に訪ねてくる女が居たら、凄むでしょう。そ、それだけにしてはかなり、怒りに近い警戒色ですけれど。

「あ、あのあの、いいです。すぐに失礼しますから」

 とはいえ、絵を抱えて逃げ去るには私の体力は無さすぎて。まごまごしているうちに、腕を掴まれます。

「うちの汐に何の用? 変な理由で近付いたんだったらタダじゃ……」

 これは拙いです。

 このままだと『アヤシイ女』として警察にでも厄介になりそうです。こんな容姿だし、仕方ないのかもしれません。でも、でも、それは困ります、タカおじ様に迷惑がかかるし、賀川さんだってそれ見た事かと言うでしょう。

 うーん、どうやったら誤解が解けるでしょう。何だかまた眩暈がし出すし、考える事を放棄したい気分でしたが、流石にコレは少し不味いかな? っと思うのでした。




つ、捕まりそうです。


おじぃ様『うろな駅係員の先の見えない日常』より、長後心南海さんイメージ描かせていただきました。

又、心南海さん背景はおじぃ様の写真からお借りいたしました。


小藍様 『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より、海さん、お借りしました。


とにあ様『URONA・あ・らかると』より、カラスマント様お見かけで入れております。(最初書き忘れていてすみませんでした。)


問題がありましたら、お知らせください。


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