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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
6月17日

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立ち話・継続中です

男二人、華がない

 






「で、お前さん、何か言いかけただろう?」

 キヨさんを見送った後、そう言われる。

 自分でも口にしかけた事を忘れていたのに、タカさん、聞き落していなかったらしい。彼は俺に皺の深い顔を向けて話を振ってきた。

「いや、もしかしたら、キヨさんが言っているのは「よいの」さんじゃないかと思うんですよ。もしかしたらタカさんが探しているのもその人じゃないかと」

「よいの?」

「最初、集配を頼まれた時、森の中に来てくれって言われて困っていたら、ここまで迎えに来てくれたんですよ。これからもちょこちょこ頼みたいからお願いしますって」


 俺は森の入口へと続く細い小道を指差す。

「そこは歩いた事あるけど。賀川の。小川で切れてるだろうがよ」

「よいのさんの行く場所はそれよりずっと奥ですよ」

 この小道は遊歩道として二百メートルくらい続いており、ベンチと沢を最後に途切れる。この森は余り手が入っていなくて、自然がそのままに残っている。うろなの良い場所なのだ。

 そう言えば西の山には何かいるらしくツチノコや猫夜叉の噂を聞くが、こちらの北の森は幽霊話がこの頃チラホラ聞かれる。何か棲み分けがあるのだろうか?

 そんな事を考えながら、鬱蒼とした森の方を見る。



 昨年の春先。

 道がない。

 そんな事を気にせず、ふわふわと石を渡り、濡れもせず沢を横切ってみせた黒髪の彼女。継ぎ接ぎをしたワンピースを揺らしながら、森の中、どんどん先へ歩いていく。四苦八苦する俺に、

「最初の頃は慣れなくて、スカート破っちゃったけど。賀川さんも逆らわないといいですよ」

 そう言ってにっこり笑う。

 逆らうも何も、足元に道などない。かき分けながら進み、柔らかく葉が覆う樹木の間を抜ける。森の遊歩道の辺りは気持ちのいい感じなのだが、奥に進めば進むほど、樹海とか……それを通り越して異界とかを想像させる深い森となる。日本では絶滅したはずの狼がふらりと出て来ても、何ら不思議とは思えない場所。

 明るい時刻でもそうなのだから、夜など踏みこめた場所ではないだろう。


 そんな場所を彼女は難なく歩く。

 キヨさんが言った黒髪の彼女、それと同一人物だろう。


 髪の色と瞳の色が真っ黒。

 日本人として特徴的、そして何ら目立つ事のない配色。だのに、彼女の髪はふわりと揺れるのに、視覚的に泥のような重さを感じさせる黒で、それなのに肌が異常に白くて。コントラストが不自然さを醸し出す。

 多分かわいいとか美人とか、そう言う部類なのにちっとも心を揺り動かされない、墨汁の様な重い色。

 球体関節人形、あの手の玩具の不自然なまでの美しさ。好きな奴は好きなのだろうが。アレが意志を持って歩いている、そんな感じだ。とても気味が悪い。

 そう思ったが仕事だから仕方がない。方向感覚だけは自信があるので、一度行けば、何とか次回からは迎えは必要ではなかった。

「道覚えてからは、月に何度か集配を頼まれるんですよ」

 町境に近いのではないだろうか、かなり奥まで入って行くのだ。崖など登ると早道があると言っていたが、帰りは彼女からの頼まれモノを抱えて行かなければならないので、遠くても安全な道を教えてもらった。

 もっと先に行くと、森を抱くように走るJR海浜森林線の町外駅となる「うろな小谷」などにたどり着くと、彼女は言う。もっとも谷は無論、沢や切り立った場所もあるので楽に入り込めないと彼女は笑った。


「お前さんよ、そんな所から何、運んでいるんだ?」

「個人情報になるだろうから余り言ってはいけないのですけれど、どうも絵ですね。そこで描いてるみたいなんですよね」

「絵、か。げーじゅつって奴か、変わり者ってわけだ。そう言うのをやる場所を、ありとえ? とかいうんだろう」

「アトリエ、ですね……」

 タカさん『ありとえ』の方が言い難いのではないだろうか……それを言い正すと、タカさんの目が、じろっと動くので、首をすくめてしまう。



 宛先が美術館だったり、雑誌社だったりするが、封筒サイズから結構大きなモノも運ばされる。その荷主の欄にあったのが、「よいの ゆきひめ」と平仮名で書かれた、たぶん彼女の名だった。

 住所はうろな北の森で止まっていて、番地などは書かれていない。県名を含め、綺麗な漢字で描かれているから、名前はわざとに平仮名で書いているだけで、頭が悪いわけではないようだ。

 相手側からの配送品がある場合も指定して我が賀川急便を使ってくれている。お得意様。だが集配の手間を考えたら、採算に合っているか疑問だ。

「行っていないと大変だから、携帯に連絡入れるんです。土曜くらい入れてるんですけど繋がらないんですよね……タカさん、少し待っていて下さい」

 実は数日前から積荷に彼女宛のA4封筒があった。トラックを降りると、後ろの積荷からそれを取ってくる。書かれた彼女の電話番号を鳴らす。

「……ルーズなのか一週間近く捕まらない事も多くて」

 普通は四日ぐらい手元に置いて、届け主に連絡がつかないと荷主に連絡し返送する。だが一週間でも二週間でも預かり、必ず届けるように彼女から頼まれている。

「るぅず……そうか、とにかく本当に居るんだな、案内できるか?」

「え、今からですか?」

 時間を確認する。現在一時少し過ぎていた。往復軽く三時間、結構辛い。

「電話繋がらない……ですね」

 携帯は鳴る事がなく、そのまま留守番センターに転送されてしまう。

 だいたい携帯があの森の中で繋がるのも驚きだ。携帯のアンテナだけはどんな奥地でももう設置してあるんだな、凄いな携帯会社。

「それにさすがにあの森の奥のボロい家に住んではいないと思いますよ? 絵を描く時だけあそこにいるんじゃないですか?」

「いんや……」


 タカさんが顔を曇らせだす。

「悪戯だと思ってよ、金曜の夕方にかかってきた電話、取り合ってやらなかったんだが……」

「金曜ですか」

 一番忙しない時間にかけたものだ。

「……説明は行きしなにする、早く案内しやがれ、賀川の!」

「ま、待って下さい、ヘルプを呼んで、トラックも移動させないと。タカさんも軽トラ動かして下さい」

タカさんは「わかった」という感じに重く頷き、背を向けて動き出す。その背中に『誠』と、書いてないのが何故か残念なくらい、颯爽としている後ろ姿。この人何物だ?

 俺はそんな事を考えた後で、そういえば何でこんな事になったんだ? っと思いつつヘルプに電話を入れた。


ここもと 様の「山にはツチノコがいるらしい」という設定。

妃羅 様の「猫夜叉」が山に居るという設定。


賀川が最初にユキ宅行ったのは春先でした。夏になっていたので修正。


上記二点、噂として勝手に触れさせていただきました。

問題がある場合はお知らせ下さい。



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。




タカが何者か私もわからないよ。

とりあえず普通のいいおっちゃんなんですけれど。


賀川。影薄いぞ。

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