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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月15日

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雨禊中です【うろ夏の陣】



記憶に焼き付けられた罪。


うろなに降り注ぐ豪雨。


禊の雨……

 





『ねえ、雪鬼ぃ。綺麗でしょう?』

 誰の声か、何の声か、ちょっと前まで良く語らった女性の声がします。

『うん綺麗、それにとても美味しそうなの。後鬼お姉様、美味しい?』

『とっても』

 私が見回すと、辺りにはいろんな生き物の死体が転がっていました。

『良いな、お前に血が似合う。ただちょっと気が強いな』

『そ、そんなことありません。前鬼お兄様』

『ははは、前鬼は雪鬼にご執心だね。まあ、酒呑童子にジェラシー感じてたからぁ。その上、隣にいた茨木童子に一目惚……」

『ちっ! お前は要らない事ばかり言ってると、その舌、引き抜くぞ』

『はははははっ! 前鬼ったら正直だねぇ』

『お前は……まあいい、二日……丸三日か。おもちゃで遊んで楽しかったろう?』

 そう言いながら、血の滴る内臓を私の前にぶら下げて、

『それでも喰えないか? 何も喰わずに、飲まずに、血に塗れて、尚、堕ちないのか。面白い、これはこれで面白い……』

『ううっ、前鬼お兄様……後鬼お姉様……苦しいです……』

『ほら、雪鬼、一緒に食べようよぉ? それでそれで、完全に完全なアタイの仲間になるのにぃ』



 その死体は。

 全部、全部、私が、私が、この手で……



「い、いやぁぁぁ……」



 猫夜叉の二人が帰ってどのくらいしたのでしょう?

 手の中の黒軍手君を握りしめながら起きました。

「大丈夫、わ、私、もう帰って来たの……もう、もう怖くないから」

 息が乱れ、手が震えます。もう爪も伸びたりしない、あんな動きもできない。でも確かに私がやった事。

 何を? 何が? 何処で? 私が?

 零れる汗、混乱する記憶。

 息を整え、手の中を眺めます。

 そこには小さな黒い犬。私が巻いた水玉の布でお洒落した、手先だけ白い、黒の子犬。

 そのちょっとツンとした顔が誰かを思い出させます。それでクスリとしましたが、バン、バン、っと何かが打ちつける様な音にビクリと身を振るわせました。

 起き上がると体の痛みは殆どないです。

 でもどうしても気分がすぐれません。笑わなきゃ、そう思うけれど、続けられません。

 頭痛は居座ったようですが、じわじわと染みる程度で耐えられないほどじゃありませんでした。

 充電器に置きっぱなしの携帯にはメールが届いていましたが、見る元気はなく、確認したのは日付と時間。



「15日?!」

 お昼、凄い雨音がします。その音と共に風も激しく、小屋を揺らします。飛ばされた何かが小屋を打つと、怖いほどの音がします。頭がそれに合わせて揺れるよう。急に不安が込み上げて来て、涙が溢れそうになります。約一年間、ココで過ごした時にそんな事はなかったのに。

 頼る様に黒軍手君を握り締めます。



 私がお菓子を作っていたのは、七日頃。お菓子を作っていた時に誰か来て……

 誰だか思い出せないけど。

 そこから猫夜叉二人に送ってもらうまで、一週間近く。殆ど記憶がありません。

 でも私は『怖い事』をしていた様な気がします。


 ただ、残るのは気持ち悪さだけ。



「ま、いっか、お風呂入ろーーきっとすっきりするよ?」

 不安を振り払うために、誰に言うわけでもなく、土間に降り、お風呂の湯をためます。

 お菓子は跡形もなく、置いて広げていた筈の道具もありません。多分二人が片付けてくれたのでしょう。





 覗いちゃダメですよ?





 服を脱ごうとした時、私は首元の傷に気付きます。

 左、首。



 痛くはないけれど、何だろう?

 触れた途端、息苦しくなります。



 爪に喰い込む肉の感覚、鉄を含んだ古い錆の匂い、自分の唇から溢れた言葉。



『雪鬼、もし俺達を裏切ったら……』

『何で裏切るの? 小角様を前鬼お兄様が裏切る気なの?』

『そんなワケはないだろう? ただ俺はお前が裏切るんじゃねーかと』

『どうして?』

『だってお前は……まあいい。小角様の力は絶対だ、だがもし元に戻ったら……呪ってやるからな。ちょうど攫う時に俺の刃で傷付けた跡がこの辺にある。今は治っているけどな』

『痛っ! 何なの? 前鬼お兄様ぁ』

『今は喰おうって言うわけじゃないんだ、まあ、喰うって言えば喰うのか。普通の人間だと大抵犯す前に死んじまうからな。でも鬼を宿せるお前の体なら十分……楽しめる』

『何か、嫌ですっ』

『抵抗しても無駄だ。鬼としての力は俺が上だ。ふ、人間の肌は柔らかいな。俺の子を孕め。巫女と鬼だとどんな子が出来るか楽しみだな』

 そんな会話を思い出して、ぞくりとします。



 私は何をした?

 私は何をされた?



 疑問がクルリぐるりと回る中、私は乱れる息を整える事もできす、フラフラと外に出ます。

 外は凄い雨、風。

 その雨に打たれたら良い気がして、その身を雨に晒します。

 夏とはいえ、冷たさと滝のような水量。叩かれる木々と私の体。



 怪我を治す力のある猫夜叉の二人が、嘗めてくれたのに癒えていない傷。

「何故消えないの?」

 触れると私は私ではなくて、でも私はいっぱいヒトを傷つけた……それが淡いながら思い出され、理由もなく涙が落ちて、ただただ息苦しくなり、泥に膝を付きます。 

「雨が止んだら、会いに帰るの……」

 私は静かに自分の体を抱きしめて、雨に溶ける涙を感じながら、そう呟くのでした。


三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、前鬼、後鬼 小角様 お借りしております。


銀月 妃羅様 『うろな町 思議ノ石碑』より、無白花ちゃん 斬無斗君、イメージ的にお借りしています。


これにて当方の【うろ夏の陣】終了となります。

先に日常に戻ります事、お許しください。

うろな住人全てが無事に戻られます事、お祈りいたします。

ユキに呪いなど禍根を残しましたが、以後の伏線に生かしたいと思います。関係各所、細々とご協力ありがとうございました。

これからもコラボなど、よろしくお願いいたします。


では次回から一転、少し時間を巻き戻し、賀川目線の話に入りたいと思います。

よろしくお願いいたします。

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