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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月14日

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降雪中です 【うろ夏の陣】

消える寸前に。

 










「小角様。私は誰を殺せばいいの?」

「誰でもよい」




 音は聞こえません。

 触覚は寒さを残し、他はとうにないのです。

 視界は赤と黒で混濁。

 鼻につくのは錆びた何がしかの匂い。

 口は痺れているようにか言葉が出ず、微かな塩気だけを感じます。

 最初に感じていた痛みはもうありません。



『鬼寄せならともかく、ここまで追い込んだオロシより逃れた者はおらぬ』



 誰かが囁きます。



 逃げられないのだと、何から逃げているともわからずに。

 目の前に綺麗な女の子。

 来ないで、だって、

「まず逃げられないように足を切らなきゃ」

 なんて、酷い事、平気で口にしているから。



 その時、自分と彼女の間に二つの影が割り込みます。



「見つけたぞ、雪姫!」

「私をその名前で呼ばないで。私は雪鬼よ」

「違う!雪姫だ!思い出してくれ!」



 誰でしょう?

 誰でも良いです。

 誰も傷つけたくないの。

 もし、この二人が本気で殺しに来てくれたのならと思いますが、そういうわけではないようです。

「どうして本気で来ないの?前鬼お兄様も、後鬼お姉様もいなくて退屈なのに。この前もそう。もう飽きたわ。あなた達も殺してあげる」

 そんな事を言わないで。

 虫さん達で作った幻の剣、操蟲鋭牙そうちゅうえいがが黒い服の方の子を切りつけます。



 刀身である虫が浴びた血の一粒ずつが、私を消して逝きます。

「ぐあぁッ!」

 彼の口から溢れた叫び、彼を「斬無斗ッ!」と呼ぶ声。

 嘲るように、

「あはは、騙された、騙された!蟲で出来た塊だもの。受け止めたりなんか出来ないのよ。ふふ、少し楽しくなったわ」



 殺さないで、もうやめて。



 でも届かない願い。

 また二人が私に向かってきます。

 その陰で綺麗な女の子が『盾』を展開し、向かって来ます。


「いっけえええぇ!」


 光る盾と黒い太刀。

 乾いた音を立てて消えるは太刀の方。盾が更に押し出され、触れた爪が折れ、巫女服の袖口が裂けた途端、久しぶりに頬に風が当たるのを感じました。



『ワタシ……』




 奪イシハ 体ノ自由。

 奪イシハ ソノ記憶。

 奪イシハ ソノ名。

 奪イシハ 死ヌ権利。

 全テヲ、全テヲ 奪イ尽クシタ



 ナノニ 何故。



 何故、ダ、雪鬼!




 イヤ……



 何故、ダ、巫女!







『行カナキャ、ワタシ』

 白い盾が細かく、雪のように降り注ぎます。

 はらはらと。

 私が生まれた日の様に。

 はらはらと。

 可愛い少女が握った盾が、砕けた光が私に降り注ぎます。

 その光に乗って、微かに。

 僅かに声がします。

 誰かが呼んでます。

 行かなければ。



『おねがい、やめて。あなたは、だれなの?』



 声を振り絞ると、夏に降る雪の光に助けられて心の声になります。

『私? 私は雪鬼よ。ふふふ貴女こそ誰なの?』

『わたしはだあれ……?』

 欠ける意識、記憶はもうないのに。でも確かに私を呼ぶ声がするのです。

『私は雪鬼。雪鬼は小角様とずっと居るの、ずっとお傍で暮らすの。だって前は出来なかったんだもの』

 ゆき? ユキ? 雪鬼?……また微かに呼ぶ声が聞こえます。

『違うわ、それはわたし』

 ユキ、雪……浮上してくる意識。

 ココに居てはいけない。

 馴染んではいけない、私には帰るべき場所がきっとあるの。

 死ぬ事も考えた、でも本当は帰りたいの。

『な、なあに……私が雪鬼よっ』

 私が考え続けると、どこかで悲鳴を上げるような声がしました。私は微かに思い出せた記憶で名前を紡ぎます。



 はらはらと降り積もる。

 私の生まれた日の様に。

 うろなに雪が降る……


『それは、それは、私の名前。私は雪姫、宵乃宮 雪姫よ』

『だって、私は。雪鬼よ? 私は雪鬼よ! わたしは……』

 ユキはわたし。

 雪姫と呼ばれるのは私。



 だって、二人が呼んでいるから。



 でも暗い、暗い瞳がまた、私を支配しようとします。



 巫女 ヨ

 辛ク カ ナ シ イ 想イ ヲ シタク ハ ナカロウ



『あのご老人は誰なの? 小角様? 本当に貴女が慕っていたヒトなの?』


 消 エ ヨ マジナイ ハ 完璧ノハズ。

 ドウシテ ドウシテ 拒否 ヲ !!!!!!!



『小角様はわたしを可愛がってくれました。彼はわたしを変だと言いませんでした。私を雪鬼と……』

『それは私の名よ。雪姫は私の名』

 私は、わたしは強く強く首を振ります。

『違う、違う、私は、雪鬼? いいや、イバ、ラ……』

『茨?』

『茨……雪鬼、ゆき? 違うわ、あの人はイバラギ、私を茨木……いえ、あの人だけ茨鬼と呼ぶの』

『じゃあ、茨鬼さん。貴女が慕うのはあのヒトなの?』

『そう、そうよ、そのはずよ……わたしは、お、オ、小角? お……』

『私はあの人が嫌です。あの人に似た目をする彼が、彼が……彼を……』

 私もわたしも、混乱していきます。

 混乱の中で答えを探します。

『お前は茨の様に鋭くても、俺の肌をどんなに傷つけようと、茨鬼、お前が好きだって。今は離れても必ず見つけるって……小角様、おづ……の、さま?』

『一人寂しい私に、笑ってくれたの』

 あれは春を越えて、わたしの前に誰も居なくなったのです。

 人目を避け、森を生きた時間は綺麗でした。

 春夏秋冬、キノコが歌い、花が咲き、虫が奏でる。鳥は舞い、実りはお腹を満たし、雪は穢れがなく……けれど寂しかった中、わたしにただ一つあった灯……考えた事なかった、けれど失われ閉ざされた事で気付いた灯。



 カ ナ シ イ ノ ダ ロ ウ ?



 巫女 ヨ

 今 コ ソ

 堕 チ ヨ



『嫌よ』



 何 ヲ …… 今 更 ……



 微かに、赤い光が見えた気がしました。



『あれは、わたしを呼んでいるの。だからあの笑みを奪ったのがわたしなら、私は彼にもう一度笑ってもらう努力をするのです。逃げても何にもならないから』



 巫女 ヨ

 ク…… 猫夜叉 メ !

 コンナ所マデ 相性 ガ 悪イ トハ……

 宵乃宮 人柱……


 フフフフフ……

 ダガ モウ コレガ 最期 ノ 足掻 キ ダ



『それでも、いいの。本当はあの人に会いたいの、賀川さんに。それは叶わないかもしれない、けれど。無白花ちゃんに。斬無斗君に。言わなきゃ。何か、言わなきゃ……』

 茨鬼さんが呟きます、何かを思い出したように。

『違う、違うわ。酒……天童子さま。わたしがお仕えするのは酒……いえ、朱天童子様です』

『でも、ここは貴女の場所じゃない、私の場所』

『わたしは? わたしは?』

『ごめんね。茨鬼さん。私は、私は行きます』

『雪姫……わたし』

『私は大切なお友達と帰ります。猫夜叉の無白花ちゃんと斬無斗君と、……帰ります』








「雪姫!」

「ゆきぃ……」





『辛い事をさせてごめんね、無白花ちゃん。その肌を、体を傷つけてごめんね、斬無斗君。間に合わないなら、もう、いいの。殺して……私を化け物にしないで』

 届かないでしょう、けれど私は呟きます。茨鬼さんが引き攣った声をあげます。

『死んじゃうのよ、もうそんな事したら死ぬよ、良いの?』

『うん、私の親友なの。あの子達なら私を止めてくれる。でも辛い事させてしまうのがとても心残りだけれども……私を殺したら二人は泣くのかな?』

『そんなの止めてっ!!!!!!!』

 引き止める茨鬼さんの声を聴きます。



「違う...違う違う違う私は雪姫じゃなぁぁぁぁぁっい!!!」



 茨鬼さんの叫び、それを感じながらわたしは『私』に完全に重なり出すのに気付きました。




三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、前鬼 後鬼 小角様 イメージでお借りしております。


*天燕*様『精霊憑きの新天地?』より、如月澪ちゃん


銀月 妃羅様 『うろな町 思議ノ石碑』より、無白花ちゃん 斬無斗君 お借りしています。


もう少しだけ。

うちのユキに力を貸して下さい。

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