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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月11日

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選択中です【うろ夏の陣】


無くなって逝くモノを数えましょう。

もう。

その数も忘れてしまったけれど。

せめて、人間として。




 朱に染まる。

 意識が沈む。



 溶けてなくなる感じを、必死に堪えながら。

 何故こんなになりながらも、私は『私』であろうとするのかわかりません。

 だいたい私は誰なんでしょう?

 私? わたしだったかな?

 答えはもう掻き消えてなくなってしまって。



 たまに食品を口にさせてもらえるも、モノを食べない者が作る食事など美味しいわけもないのです。

 それでも鳥の餌にもならない様なそれを何とか飲み込みました。極限まで少ない量。生きていけるギリギリ。

 たぶんマトモな食事をしてないのはたった二日か三日ですが、異常にお腹が減ります。暑いのも手伝って、喉が焼け付くようです。

 乾けば乾くほど、手を赤く染めるその肉塊が酷く美味しそうで。

 口の中に放り込み、噛んで、お腹を満たしたい。喉の渇きを潤したい。

 それを押さえるだけで必死です。

 わたしでない私は、わたしが弱るほど元気です。

 お腹が空いてはいるようですが、血さえ眺めていれば、そして衝動に身を委ねていれば、疲れも知らないように重い太刀をも軽々片手で振り回し、爪を自在に伸ばして切り裂いて遊んでます。

 虫達を呼び出しては、可哀想に粉々に砕け散らせ、まだ尚も呼び出すのです。

 わたしは虫が嫌いだけど、あんなにまで無闇に殺す事はなかった、ハズ。

 はず、うん、たぶん。




 わたしであったはずのコノ体。

 コレが寝た一瞬、眠りが深く深くなる数分だけ、わたしは自分の力で目が開けられるのに気付きました。ただ、この一瞬も長くはないでしょう。

 わたしは全力で手を自分の意志で動かし、与えられていた小太刀をすらりと抜きます。



 遠く懐かしい声がします。




『誰かの傀儡になるのなら。


 尊厳を持って『死』を選ぶ事も必要だと知っていて』




 そう。わたしは。

 このまま。

 この手で他の命を罪悪も知らぬまま絶ち、朱で染め続ける化け物にはなりたくないの。

 ごめんなさい。



 もはや誰に謝っているのかもわかりません。

 こんなわたしにも生んでくれた母や父でもいたのでしょうか?

 心配してくれる知人や、友達、愛する人が居たのでしょうか?



 怖い、本当は死にたくない。

 でも。

 自由を失って。

 わたしがわたしで無くなって。

 無闇に殺生をするのだけは止めなければ。

 怖気づく気持ちと息を整え、手首に向かって刃を叩きつけます。



 でも。



 何度も何度も、傷みを堪えてやってみるけれど、痛いだけで何故か真面に切れません。

 ではと首筋に冷たい刃を当て、死を畏れる気持ちを押さえて自分の体を止めようとしますが、上手く行きません。

「何で? 何でぇ……」

 血だけが飛び散っても傷は塞がってしまいます。

 わたしはあの赤いネジが必要だと、ふと感じました。でもそんな物はココにはありません。

 あの底光りするような赤……

 刀を叩きつけて傷口から吐き出される、その血が多くなるに従って、もはやわたしとなった私が呑気に起きてしまいます。

「おもしろーい」

 と言って、束の間の自由はわたしから奪われ、その様子を見ている事しか出来なくなります。いや、見ていられるのももう一瞬。意識が薄れていきます。



 お願い。行きたくないの……

 伸ばされる手、握り返せず空を掴む。

 どうにもできないの……

 ねえ。

 助ケテなんて、もう言わないカラ

 セメテ この体と死にたいノ



 誰カ



 私ヲ……




 諦 メ ヨ

 下レ 完全ニ 我ヘ……



「雪鬼?」

「あ? 後鬼のお姉様!」

「何をやっているのぉ?」

「ほらこうやると、血が出て、すぐ塞がるよ」

「鬼の回復力は早いんだよ。ちょっとやそっとじゃ死なない。でも自分で傷つけるのは止めなさいな」

「どうして? 面白いのに」

「治るけどそれには知らない間に力使っちゃうでしょう? 小角様が呼んだ時に動けなくなっていたら困るでしょう?」

「そっかあ」

 せっかく見つけたおもちゃを取り上げられたように。

 残念そうに言う声の中で。


 わたし、何、シテタノ カナ……


 何をしようとしていたかをも、わたしは忘れ、朱の中に気持ちを散らしてしまいました。




三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、後鬼 小角様イメージ お借りしております。

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