造形中です【うろ夏の陣】
くすくす……
壁に血が飛びます。
壊していいと言われた『オモチャ』に爪を叩きつけました。動脈が血を流しているけれど、もう声もあげないからつまらない。美味しそうだけど食べられない塊に八つ当たりです。
そうやって溢れる血に囲まれる様を、後鬼お姉様が面白そうに眺めています。
その側に前鬼お兄様が並びました。その表情は昨日私を組み伏せようとした時の物ではなく、特別警戒するような所はありません。本当に冗談だったようです。
「雪鬼、ココで蟲寄せ出来るか?」
「はい」
爪に集中します。効率よく集めるコツが少しわかってきたのです。全身で呼ぶより、指や爪に何かを集めるようにする方が、いいのです。そうやっていると少しずつ靄の様に彼らが私の側に寄ってきます。
「その蟲、一匹一匹に指示は出来るか?」
「ううん、何となく集めてるだけです。全部じゃなくて、数匹だけを放つ事は出来ます」
たくさん居る中の一匹だけを選り分け、前鬼お兄様の前を通過させます。
「大まかに左右に分ける事は?」
「それくらいなら」
私はお兄様の指示に従い、やってみせると、
「今、何で球状なんだ?」
確かに、今、私の左右に、直径一メートルほどの靄の黒ボールが浮いています。
「頭の中で丸をイメージをしてるから、だと思います」
「じゃあ、蛇をイメージしろ」
私はボールを崩し、そこから二本の紐状のモノを創作します。それが捩じり合って、太い蛇の様にとぐろを巻きます。
「やっぱりな。あの時は腕だったし、お前は蟲に自分のイメージが送れているんだな」
前鬼お兄様は重そうな太刀をさらりと抜き放ちます。
「蟲達をこの形に似せて集めて見ろ」
「太刀に?」
「自分が握っているようにな」
私は少し手を眺めます。そして手を付き出すと、言われたようにやってみます。
始めは上手くいきませんでしたが、すぐにイメージできるようになります。絵を描く時と同じ感覚です。あれ? 私、絵なんて描いた事あったかな?
「上手いもんだな」
「へぇ、形になってきたんじゃないぃ?」
前鬼お兄様と後鬼お姉様に褒められて嬉しいのです。
「振り回しても形を保てるか?」
「はい、ほら、可愛く出来たでしょう?」
そう言うと前鬼お兄様は剣の形を作ったり、壊したり、また精製したり繰り返しをさせます。そして剣に見せかけて振り回し、相手が受けようとした所を蟲の列を崩し、攻めると言う方法を教えてくれます。
「これで何人騙して、殺せるかなぁ」
私は自慢げに手に握った、と言うか握ったように見える漆黒の太刀を振り回します。
「やっちゃえ」
そう言って叩きつけると岩壁が切れるのではなく、削げたような溝を描きました。
「破壊力もそこそこあるな。よかろう、その武器を操蟲鋭牙と名付けよう」
重々しく言った前鬼お兄様の言葉に、後鬼お姉様が、
「子供っぽい名前だわねぇ」
その台詞に後鬼お姉様がさも面白そうに笑います。前鬼お兄様は悪かったなっっと返します。
私は笑いながら、楽しくなってその子達を解放したり、集中させたりを繰り返します。
壁に叩きつけると手前の子達が減るので、補充し、自分の意のままに支配します。
カワイソウに…………
「はい?」
可哀想ってオモワナイノ?
「何で? いっぱい居るんだもの。私の勝手よ」
どうしてどうして、貴女はヒトを切るノ?
「小角様の為に私はこれを振るうの。小角様は私は可愛がってくれます。彼は私を変だと言いません」
彼ってだぁれ?
それはホントに、あの老人ナノ?
「彼は……」
「雪鬼よ」
「あ、小角様ぁ」
私は誰と話していたのでしょう? 小角様が現れたので、爪を戻しながら操蟲鋭牙を散らし、駆け寄ります。
「まだ、ですか?」
「暫し待つがいい」
「ええっ! ……早く綺麗な血が見たいのに」
拗ねたように声を上げると、後鬼お姉様がサラサラと私の白髪に触れて慰めてくれます。
「良い子だからね、雪鬼」
「その体に合わせた名だ。必ず、時が満ちるまでには、馴染む」
前鬼お兄様が喉に何かを堪えた様に喉仏を揺らし、クツクツと笑います。
小角様もそう言いながら暗く笑ってくれたので、私はにっこり笑い返しました。
三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、前鬼 後鬼 小角様 お借りしております。




