表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月11日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/531

造形中です【うろ夏の陣】


くすくす……

 







 壁に血が飛びます。

 壊していいと言われた『オモチャ』に爪を叩きつけました。動脈が血を流しているけれど、もう声もあげないからつまらない。美味しそうだけど食べられない塊に八つ当たりです。

 そうやって溢れる血に囲まれる様を、後鬼お姉様が面白そうに眺めています。

 その側に前鬼お兄様が並びました。その表情は昨日私を組み伏せようとした時の物ではなく、特別警戒するような所はありません。本当に冗談だったようです。

「雪鬼、ココで蟲寄せ出来るか?」

「はい」

 爪に集中します。効率よく集めるコツが少しわかってきたのです。全身で呼ぶより、指や爪に何かを集めるようにする方が、いいのです。そうやっていると少しずつ靄の様に彼らが私の側に寄ってきます。



「その蟲、一匹一匹に指示は出来るか?」

「ううん、何となく集めてるだけです。全部じゃなくて、数匹だけを放つ事は出来ます」

たくさん居る中の一匹だけを選り分け、前鬼お兄様の前を通過させます。

「大まかに左右に分ける事は?」

「それくらいなら」

 私はお兄様の指示に従い、やってみせると、

「今、何で球状なんだ?」

 確かに、今、私の左右に、直径一メートルほどの靄の黒ボールが浮いています。

「頭の中で丸をイメージをしてるから、だと思います」

「じゃあ、蛇をイメージしろ」

私はボールを崩し、そこから二本の紐状のモノを創作します。それが捩じり合って、太い蛇の様にとぐろを巻きます。

「やっぱりな。あの時は腕だったし、お前は蟲に自分のイメージが送れているんだな」



 前鬼お兄様は重そうな太刀をさらりと抜き放ちます。

「蟲達をこの形に似せて集めて見ろ」

「太刀に?」

「自分が握っているようにな」

 私は少し手を眺めます。そして手を付き出すと、言われたようにやってみます。

 始めは上手くいきませんでしたが、すぐにイメージできるようになります。絵を描く時と同じ感覚です。あれ? 私、絵なんて描いた事あったかな?



「上手いもんだな」

「へぇ、形になってきたんじゃないぃ?」

 前鬼お兄様と後鬼お姉様に褒められて嬉しいのです。

「振り回しても形を保てるか?」

「はい、ほら、可愛く出来たでしょう?」

 そう言うと前鬼お兄様は剣の形を作ったり、壊したり、また精製したり繰り返しをさせます。そして剣に見せかけて振り回し、相手が受けようとした所を蟲の列を崩し、攻めると言う方法を教えてくれます。

「これで何人騙して、殺せるかなぁ」




 私は自慢げに手に握った、と言うか握ったように見える漆黒の太刀を振り回します。

「やっちゃえ」

 そう言って叩きつけると岩壁が切れるのではなく、削げたような溝を描きました。

「破壊力もそこそこあるな。よかろう、その武器を操蟲鋭牙そうちゅうえいがと名付けよう」

 重々しく言った前鬼お兄様の言葉に、後鬼お姉様が、

「子供っぽい名前だわねぇ」

 その台詞に後鬼お姉様がさも面白そうに笑います。前鬼お兄様は悪かったなっっと返します。



 私は笑いながら、楽しくなってその子達を解放したり、集中させたりを繰り返します。

 壁に叩きつけると手前の子達が減るので、補充し、自分の意のままに支配します。



 カワイソウに…………


「はい?」



 可哀想ってオモワナイノ?



「何で? いっぱい居るんだもの。私の勝手よ」



 どうしてどうして、貴女はヒトを切るノ?



「小角様の為に私はこれを振るうの。小角様は私は可愛がってくれます。彼は私を変だと言いません」



 彼ってだぁれ?



 それはホントに、あの老人ナノ?



「彼は……」

「雪鬼よ」

「あ、小角様ぁ」

 私は誰と話していたのでしょう? 小角様が現れたので、爪を戻しながら操蟲鋭牙を散らし、駆け寄ります。

「まだ、ですか?」

「暫し待つがいい」

「ええっ! ……早く綺麗な血が見たいのに」

 拗ねたように声を上げると、後鬼お姉様がサラサラと私の白髪に触れて慰めてくれます。

「良い子だからね、雪鬼」

「その体に合わせた名だ。必ず、時が満ちるまでには、馴染む」




 前鬼お兄様が喉に何かを堪えた様に喉仏を揺らし、クツクツと笑います。

 小角様もそう言いながら暗く笑ってくれたので、私はにっこり笑い返しました。


三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、前鬼 後鬼 小角様 お借りしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ