裏:初陣中です【うろ夏の陣】
馴染んで行くよ、重い、重い世界に。
どこかが痛いのです。
何を考えるのも億劫です。
でもここに居ちゃいけない、そう思うのですが、鎖が私を縛るのです。
重くて勝てません、もがくほどに、深みに嵌ります。
それでも必死に傷みを堪えて、動こうとします。
時折、暗い、暗い、瞳と目が合います。
冷たい凍るような視線は私の大好きなあの人に繋がるのです。
大好きな?
私は首を捻ります。
彼を凍るような視線にしたのは、だあれ?
優しい人なのに、彼を冷たくさせたのは、ワ タ シ。
ワ ス レ タ イ なら 眠 レ。
永 久 ニ 巫女 ヨ。
私は更に堕ちていきます。でも微かに感知出来た目の前に大好きな……大好きな……
あれ、誰だっけ?
誰かわからないけれど、銀髪にフードを纏った、間違いなく大切な二人がいるのに。声も出せません。返事もできません。
それどころか彼女達の体を私の爪が傷つけるのです。耐えられません、そんなのダメなのに。
彼らの肌に触れる度、自分の心臓を抉るように痛みが襲い、意識は遠のく一方で。
二人は痛みも忘れたかのように、私の名前を呼んでいます。
えっと……
私は誰?
雪鬼?
違う気がしますが、思い出せません。
そうしているうちに私はそこに現れた天狗さん。
こないだ会った……誰かが言っていた『うろなの、何とかを守る……天狗さん』って彼のことでしょうか?
私は彼が起こした激しくも優しい風に中空に縫い止められます。
よかった……取りあえず、私、ここなら、誰も傷つけない。
ホッとしたのも束の間、私は虫さんまで呼び出して、皆潰してしまえと願うのです。
もう、やめて、やめて。
お願い、お願い。
強く強く願ってみます。
その時、しゃらん、と錫杖の音が響きます。
虫さん達が引いていくので、声が通じたかと思いましたが、その時、
「もうよい。ご苦労であった」
怖ろしいほどに泥と反吐の混じった声が、私を凍らせます。
「はぁい。小角様」
私であって、私でない私が彼に嬉しそうに答えるのです。
とにかく気持ち悪くて、何とかして逃れようと必死に言葉を探しますが、何も表現できません。
目の前が僅かに揺れただけ。
「雪鬼、まだ馴染んでないみたいだから無理しちゃ駄目だよ」
「うち馴染む。今しばらくの辛抱ぞ」
声を聞く度、キリキリと締め付けられる中。
な、馴染んじゃダメ、もう戻れなくなる。
そう思った一瞬、微かに私の胸に下がる十字架が輝きました
一瞬だけ、体が自分に戻った気がしましたが、老人が錫杖を突く音と共にすぐに何もできなくなって。
無駄 ダ 巫女
早 ク 完全 ニ 我 へ 堕 チ ヨ
それ以上はどうしようもなく十字架の淡い光が閉ざされると同時に、私の意識もどこか遠くに飛んでいきます。
爪に残る肉を傷付ける感覚。爪を染める赤い色。
あの二人の傷はすぐに癒えるはずです、そういう体なのはずです。でもそういう問題ではありません。私は二人を傷つけ、その後に、もっと、もっと酷い事を考えています。
悲しいけれど抗い様もなく、心が悲鳴を上げながら。
でも何もできないまま、私の意識は閉ざされてしまうのでした。
三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、天狗仮面、前鬼 後鬼 小角様 お借りしております。
【うろ夏の陣・8月9日】天狗、猫夜叉と遭遇するとリンク中。
裏。雪姫目線になります。
妃羅 さん『うろな町 思議ノ石碑』より、無白花ちゃん、斬無斗君お借りしております。
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