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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月4日

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昼食中です

ああ、びっくり









 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。あ、もう一人いたのでその分足してごめんなさい。

 慌てて声が出なかったけれど、大切な事なので、一人ずつに一回、心の中で言わせていただきました。



 この日、森の中をフヨフヨ歩いていると、何か気配がしたので、何気に覗いたら、そこには可愛らしい男の子が四人いて。

 すっかり驚かせてしまったのです。

 その中でもしっかりした感じの少年タツキ君が、私と話してくれて、ダイサク君とユウキ君という子はすぐに警戒を解いてくれました。



 この数日、タカおじ様のお家には朝皆が出て行った頃に森から戻り、少し顔を出したら、お昼ご飯の食料を摘みながら森に戻っています。

 私が悪いのですが、賀川さんが態度を変えてしまいました。体調がよくなった彼は自宅に戻ったのだろうと思いつつ、あの家にいると無意識に彼を探してしまいます。

 忘れよう、もうそんなに会う事はないのだから。

 そう思えば思うほど、食堂でパソコンを鮮やかに打っていた様子や、お茶を啜りながらタカおじ様やお兄様、そして葉子さんと仲よさそうに過ごしていたのを思い出してしまいます。町を抜けると雨が落ちる中歩いて行った剣道大会や、その帰り際に彼の指から流れ出た弾む様なピアノの音が聞こえる気がして振り返ってしまうのです。

 その光景を思い出す度、本当に何故だか心がイライラするのです。

 そんな顔を工務店の人達に見せたくないので、葉子さんにだけ会って、森の家に帰るのですが。

 その道すがらに可愛らしい四人の少年を驚かせてしまったのです。



「驚かせてしまったようで、ごめんなさい。よかったら、お詫びに一緒にお昼ご飯を食べませんか?」



 せっかくなので、そう声をかけてみます。知らない女の人に声を掛けられ、どうしようか、暫く話し合っていた光景を眺めていると『食べていく』結論に達してくれました。

 そして採ってきた山菜が足りないだろうと、皆で摘み足しに行きます。

 一番警戒を解いてくれそうになかったシンヤ君に笑いかけます。そうすると、恥ずかしそうにしながらやっと緊張から解放されたような表情をしてくれてホッとしました。



 山菜にきのこ。



 特にキノコが嬉しそうに歌っています。



 食べてったら、食べたべたー♪

 ……こんな感じでしょうか。



「これは大丈夫? ユキねーちゃん」

「あ、それはダメって、ダイサク君」

「これは?」

「うん。それはおいしいよーって言ってるから大丈夫」

 そう答えると、ちょっと怪訝な顔をされている気がします。

「うん、大丈夫だよ」

 これで具合を壊した事なんてないのです、自然は嘘はつきません。どんなに他の植物に擬態してようと私にはチラッと気をつけてって囁いてくれるから。

 だから大丈夫。

 慣れない人や、キノコの歌が聞こえない人はこの採り方だと問題でしょうけど。



 そう思っているとキノコの歌とは違う囁きが聞こえたので、ちょっと奥手を覗き込みます。

 そこに綺麗なオレンジ色を見つけて声を上げます。



「あら」

 クサイチゴです。



 皆食べた事なかったみたいで、美味しいと私が言うと、興味を持って口にしてくれます。本当に美味しいみたいで顔が綻びます。



 自然の中で自然の物を口に運ぶ。



 なかなか今の子が体験することはないのでしょう。私だって、この森に来るまではココではないけれど街にいて、コンビニが近くにある生活が当たり前でした。

 甘さだって、この山では至高の甘味に類するこのイチゴも、大量生産の袋詰めのお菓子や飴玉に比べたらさしてないでしょう。

 けれども仄かな甘みが優しく包み込むように感覚を癒してくれます。

 森の中での生活は不自由でもあり、危険な事も沢山あります。

 でもたまにならこんな体験、しておいた方が良いのかなと、四人の顔を見ていると思います。

 きっと大きくなってこの体験を思い出した時、その瞬間に側にいた大切な仲間を彼らは忘れる事はなく思い出すでしょう。

 僅かすぎる自然の甘味と一緒に。



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



 味噌汁を作って、分けていただいたおにぎりも食べて。

 私が絵を描くと言ったら、その絵を眺めたり、小さな菜園の手入れを手伝ってくれたり、とても楽しい時間を過ごします。



 四人の屈託のなさを見て、タカおじ様やぎょぎょのオジサマ達もこんな風だったのかなと思います。壁がなくて、自然に相手が思いやれて。

「幾つぐらいから、男の子って複雑になるのかなぁ」

「なあに?」

 四人が来てくれて、忘れていた賀川さんの事を思い出して、つい呟いた言葉に気付いたのはシンヤ君。

 最後まで緊張の解けなかった彼でしたが、もうだいぶ慣れてくれたようです。



「ううん、ちょっとある人の事を思い出していたのです」

 そう言うと、不思議そうな顔をしながら、

「ユキさんの好きな人の事?」

「ななな、何で『好きな』人なの?」

「違うの? 嬉しそうな顔してたから、僕、そうだと思ったんだけど?」

「と、特別好きじゃない人よ」

「それ、特別じゃなかったら好きって事かなぁ。それともすっごく嫌いって事なのかなぁ」

 あどけない笑顔でそう返してきます。彼にしては何気なくした質問に、余りに微妙なあの返事を返してしまいました。それを謝ろうとした時、

「何、話してるんだ?」

「ん? 天狗仮面って本当にうろなの平和を守っているかって話」

 ユウキ君の質問に、どうしてそこでそう切り返したのかシンヤ君がそう言った所で、

「こっち来いよー高い所に居るから取れねーけど、カブトムシ居るぞっ!」

 大興奮のダイサク君の声が飛びます。



 シンヤ君とユウキ君が弾けるように飛んで行く後ろを、

「みんな、子供だね。……虫取り網持ってくればよかった」

 っと、大人な発言に子供の嗜好を混ぜた言葉を並べながら、タツキ君がいそいそと三人に近付いています。

「結構大きくない? あれ」

「すっげーすっげーぇ。良く見つけたな、ダイサク!」

「だってアレ、でっかいぞ。あれだけ高い所にいるのにこんなに見えるんだぜ」

「大きいのは、すっごい高いんだ。こないだデパートで見たカブトムシ展で売ってた」

 各々、それぞれの視点で興奮気味に蝉の声が響く中、じっと一点を見つめています。



 私は近付くと、一緒にそれを見上げます。うーん、虫、ね。

 何が良いんでしょう? でも男の子達は好きかなぁ?

「掴まえずに返す?」

「え?」

 四人が私の言葉に振り返ります。

「近くで見てみたい? もしかしたら落ちて来てくれるかも知れないけど」

「見てぇー見てぇー! でも捕まえに登るのかよ?」

「無理だぜ、ユキねーちゃん。この樹、足場が少ないから。俺でも登れねーよ。あーあ、せめて隣の木だったらなぁ」

「そんなに簡単に落ちてこないと思いますよ。凄い爪で樹にしがみ付いているんだから」

「だよねぇ、タツキ君」



 無理だろーっっと、その高い木をまた四人は一斉に眺めます。

 この四人だったら、ちゃんと返してくれるかな? そう思って樹に近寄ると、コンコンっと軽くノックをしてみます。

「…………何してるの? ユキさん」

「ん? 落ちて来てって頼んで……きゃっ!」

 タツキくんの質問に目を離した隙をついて、彼が降ってきます。頼んだのは私だけど、油断もすきもありません。気を抜いてはいけません、最大の敵はやはり虫です。



「ホントに落ちてきた!」

「ええっ! 揺らしてもないのにこんな事って」

 あんなに高い所にいた虫が、突如目の前に来たので、もう四人とも理由もなく大興奮です。この後は、誰が何を言ってるかわかりません。でも、何が良いのか私には少しもわかりません。

「ととと、とにかく優しく遊んで、森に返してあげてね」

 私がドキドキしながら近くの樹に隠れながらそういうと、四人は良い声と笑顔で「はい」っと了承してくれました。


三衣 千月 様 うろなの小さな夏休み より、皆上竜希君 真島祐希君 金井大作君 相田慎也君お借りしました。


長くなったので、引き続き、お借りいたします。

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