表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
2014年1月1日夕方~二日朝

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

531/531

悪夢中です 22 (雪姫)

諸事情により、更新中四日目。

予定完了。

また更新止まりますが、時間みてまた更新できれば。


この夜の夢を早く明けたい……

それより何故こうも使いにくくなったの…涙


現在2014年一月二日夜が明ける前。


ユキ視点です。

死の表現があります。無理な方はお避けください。

 



 火を帯びた血液の中にイザナミさんが崩れ、痛みからか叫びます。ガソリンに火を放ったならこうなるのかと思うような濛々と上がる炎。その場に荒い息をしながらイザナミさんが叫ぶ声で、複数人の女性が廊下を渡ってやってきます。

「火、火が……イザナミ様が」

「消すのだ! 早く」

 皆騒ぐのですが、誰もが火が強くて近づけないのです。それから誰も私に気付いていないよう。

「夢、ココが過去なら本当は居ない? 私?」

 いない私がココに居て、ならばココで感じている熱さも騒ぎも過去の事なら。

 そう考えながら水羽さんの『そ。ここは『夢』がこーさくしてるからキをつけて? せっかくカイヒしても、ひっぱられて、のみこまれるとホントに消えちゃうわよ~』って言葉を思い出します。

 そう、引っ張られては駄目。落ちるのを完全に止められるわけではなかったけれど、スピードは落とせました。汚れも綺麗になったし、痛みだって飛ばせました。

「水を‼」

「退避しろ、この煙と炎では人間は助からん」

「イザナギ様を呼んで……」

 女性達の騒ぎに鎧のような物で武装した者達がやってきて、誘導し始めます。でもこの激しい炎も、喧噪も、過去の物。熱で喉が焼けそうなのも、燃えて倒れてくる建物も。

 ここにはいない私を傷つける物ではない……そう思えば全く熱さを感じなくなり、焦げかけた髪や着物も元に戻ります。

「ああ、皆さまは……」

 その頃には周りにいた人達は炎の熱さに耐えきれずその場にはいませんでした。辺りは火の海となり、空にもうもうと煙が上がって、天井が徐々に崩れてきます。

「イザナミさん、大丈夫ですか?」

 熱く感じられなくとも燃え盛る炎が怖くないと言えば嘘になりますが、私はそっと近づいて彼女の方に触れます。さっきまでは熱さを感じられたのだから、きっと触れる事が出来ると思えば……と、必要な感覚だけを欲すると、微かに彼女の体を支える感覚が伝わってきました。

 私は感じなくなったけれど、熱いのも痛いのも彼女の身の上には本物だから。放って置く事は出来なくって。辛いからか私に必死にしがみ付く重さを感じられます。

「ココから逃げなきゃです」

 私が必死に抱え上げようとしたけど、人一人、身重の妊婦を抱えるなんて難しくて。軽いのだと念じたら軽くなるのかとも思いましたが、鎖が邪魔で。細い鎖なのに切れてくれません。

「切れて、何で切れないのでしょう……」

 私がくるくると考えているのがわかるのか、イザナミさんは苦し気なのにまた微かに笑って言います。

「それは流石に切れはしんせん、いざなぎ様の錠だから。それに逃げても無駄……っていうか、胎の児から逃げるなんて……」

 一気に言い切った言葉に、この火は彼女の足元をじりじりと焼いていて、外聞もなく開いた足の間の塊がその源だとわかりました。

「むりなの、よ…………」

 まだ自分の体から出切っていない胎児の頭。それが彼女を焼きます。その子を引っ張り出せばいいのでしょうか? でもイザナミさんがしがみ付いているから、手を握り、体をさすってあげる事しか出来ません。

「私、どうしたら……」

「貴女が巫女でよかった。痛みが、和らぐの、よ。うむ、わ。わたくし、この児を。大丈夫よ、ユキ、きっと貴女が居れば、隠し通せりゃるのだから」

 冷静になったように息を一度整えたイザナミさんは、ふうっと息を吐いて吸い込むと、ぐっと力を入れました。

 何も出来ない、って思うより、祈りを。私が巫女であることの何かがイザナミさんとその子の命を助けられるなら、と。

 零れる汗、漏れる息に苦し気な声が混じって、いつもで続くのかと思いましたが、ふっと、彼女の体が弛緩します。

「ああ、わたくしの吾子」

 髪が焦げるのも厭わず、彼女は泣き声を上げる火を纏った子を優しく抱きあげようとしましたが、力も動きも鈍くて難しいようです。そのかわりに手が離れたので、私は移動する事が出来、燃えている赤ちゃんに手を伸ばし掬い上げます。私は彼女に渡そうとしましたが、迷った末に受け取ろうとはせず、

「わたくしは抱けないの……お願い、未来の巫女よ。そこに隠れて。ほんの僅かでイイの、彼が『神』として安定するまで。さすれば夫の手から逃れりゃれる……本当はこの子も連れて行ってほしいと望めど……それには時間が……ありゃしません」

 ああ、彼女のおなかはまだ大きくて、抱きあげた子の出てきた場所から小さな別の足が見えて……

「双子⁈」

「イザナミ! 伊邪那美っどこだっ」

 誰かが彼女を呼んでいます。私を急かす様にイザナミさんに肩を押されます。

「この子だけでも庇いとうせ……望むのです。その子を死なせりゃれないで」

「でもイザナミさんがっ!」

「あの人はわたくしを……愛し過ぎりゃれてるの。私を傷つけた子を……彼は許さない」

 私はわからないまま言われていた銀の箱の中へ入ります。箱は銀の針金が編まれた造りで、さっきの火事で表面は煤けてはいましたが、中は何枚かの着物が焼ける事無く綺麗に吊ってあり、暑くもなく光が透けて入る故にそんなに暗くもなかったです。赤ん坊はもう泣き止んでいたし、その身の炎は消えていたので、近くにあった衣を巻きつけて抱え直しました。

 イザナミさんが口にする死ぬとか、殺すとか、怖い単語。でもイザナミさんが嘘をついているとは思いませんでした。妄想? 子供がおなかに居ると不安定になるとも聞くし、事情はよくわからないけれど、せっかく生んだ赤ちゃんが殺されてしまうなんて。そんなことがあるのでしょうか……どうしてそんな事を彼女が……

「おね、お願いであらします、お願いっ!」

 その時イザナミさんの酷い悲鳴の後、縛り出す様に懇願が響きます。

 私は顔を上げ、銀の隙間から覗き見ます。

「やめてぇ……やめて、イザナギ様っ」

「我が妻を、イザナミを傷つけるなど、許せん。邪魔だ、退け」

「いやあああああ」 

 ああ、覗き見なければよかったのかもしれません。

 まだあの赤ちゃんは生まれる感じがしなかったのに。血糊を浴びたイザナミさんを静かに、けれど確かに恫喝する男の人の手には、一振りの立派な剣と逆の手には小さな人形が片足を掴まれて宙吊りになっていました。

それは無理矢理引きずり出されただろう、赤ん坊。その黒い漆黒の目が合いました。

「あ、れ?」

 その赤ん坊がとっても『おかしい』って思いました。ありえない、と。でもそれを確かめる時間はありませんでした。

「おねがい、やめてぇっ」

 ああ。

 産声は……聞こえません。合ったと思った目線はもう動きません。だって、その体にあるべき頭の位置にそれはなく、炎の中でもそれは何の感慨もなく床に転がっているのがはっきり見えました。

 無理に母体から引き剥がした赤ちゃんを切り捨てた男の顔に、見覚えがありました。

 人間とは思えない縦の瞳孔に金色の瞳、乱れ揺れる黒髪、幼げな顔立ち。喋り方は荒いので、声ではわからなかったけれど。

「篠生……いえ、宵乃宮さん」

 顔に傷はないのですけど。亡くなった赤子の頭と体。その無体な姿が怖くて呼吸が荒くなって、手足が震えてしまいます。一瞬でもイザナミさんの言葉を妄想と片付けようとしてしまった、さっきの自分が愚かしくてたまりません。

 笑った彼は、泣き狂うイザナミさんに話しかけます。

「私から逃げるつもりか? お前は大切な『門』。神を産み続けてもらわねば」

 その時、手に握っていた剣がボロボロと崩れます。柄に嵌った三つの玉だけを残して。

「な、何故、天之尾羽張あめのおはばりが……」

「……罪なき神を切ったからよ。我が子なのよ!」

「コレはそなたを、神の母を傷つけた! それを罪でないとは」

「その子は迦具土かぐつちではないわ……その子は闇淤加美くらおかみ、水の神よ」

 怒りのあまり、冷静な判断が出来て居ない事に気付いたのか、彼はすぅっと表情を消しました。

「なるほど、双子……」

 その後、何が面白いのか高く笑い声を上げ、手にしていた肢体を地面に落とすと、踏みつけたのです。どっと血が飛び散り、瞬時に灰となります。

「ええ。そんなモノは知らん。水の神はその胎に……だろう?」

「っ……」

「次は闇御津羽くらみづはを招こうぞ」

「……ぁ、や」

 彼は言葉を亡くした彼女を抱え上げます。長い着物に隠れた細い足には鎖が付いていて大きな鉄球が見えました。そのまま引っ張ればイザナミさんの足は折れてしまうでしょう。だからか彼は鎖を手に巻き付けて、そのまま無理矢理に引きずっていきます。

 助けなければ。この後、彼女が何をされるか、あんな酷く傷ついた体と心で。

 けれど私の手の中で泣きもせず黙っていた赤ん坊が、私の髪を掴んで引きます。

「ああ」

『いけば、わかりゃれます……『わたくし』はどうあっても大丈夫ですから、必ず我が愛し子達を……』

 わたしを送り出したヨミ様の言葉。

 彼女が望んだのは腕の中の赤ちゃんの無事。

 彼の体はもう炎を纏っていなかったし、先ほどまであまり生えていなかったはずの黒髪がもう随分と長くなっていました。少しべた付いた生まれてすぐの赤ちゃんの肌ではない、さらりとした綺麗な顔立ち。先ほどまで声を荒げていた男性と同じ色の金目が少し怖いけれど。生まれたばかりとは思えないくらいに首が座った赤ん坊。

 なすすべもなく、イザナミさんとイザナギさんを見送る事しか出来ませんでした。

 しばらく私は声を殺して泣いて……震えながらも銀の箱から出て、彼を煤けた床に立たせます。そう、もうその子は立てるほどまでに成長していて。

 私はゆっくり歩いて行きます。

 そこには転がった三つの『玉』。

『赤』は火を司るかぐつちの玉。

『青』は水を司るくらみづはの玉。

 そして最後の色のない玉は、泣き声を上げる事なくイザナギ神の切られた子の……

「くらおかみの『玉』」

 私はその玉に吸い寄せられるように近づきました。それは傷ついてバラバラと欠け、濁って、壊れかけていました。

「これを……」

『その玉に届けてくりゃれ、我が吾子に』

 だから私はそっと、ヨミ様にいただいた透明な玉を近づけます。そうすればひび割れ壊れた玉は吸い寄せられるようにその中に入って行き、『玉』としての体裁を整えます。

「ありがとうございます」

「もう……話せるの?」

 振り返れば立たせていた子から拙い言葉が漏れます。その口にはもう歯が生えていて、たった数分で間違いなく少年になり、いつしか彼は小学生の半ばくらいの姿になっていました。服は巻いていた衣だけでしたが、すぅっと黒い霧が上がり彼を包みます。

「篠生さん……」

 身長低いですけれど、黒いスーツに近い服を身に纏った彼は雰囲気も包む色も『今』とそのままです。

「貴女はいずれ私と会うようですね。どのようにかまではこの短時間ではわかりませんが。イメージはソレをお借りしました。守っていただきありがとうございます。私は火の神、火具土かぐつち。神とは言えこの世に生まれたばかりではどうしようもなく。兄神として生まれるハズだった闇淤くらお様を失いましたが……私は残った。その意味はあるのでしょう。ではいつかお会いする日を楽しみにしています」

 ことん。

 私の手から壊れかけた玉がすとんと床に落ちました。また壊れたのではないか……ビックリしましたが、それはきちんとした玉の形であった事にホッとします。

 もう一度、触れようとしましたが。もう私の手と体が実体をなくしており、それは叶いませんでした。私はもう、ここに居ない存在になりつつあるのだとわかりました。


 ぐらり、と視界が揺れ、何度も繰り返しているせいか『ココから離れる』って事はわかりました。



 暗転していく世界のどこかで、水羽さんがどこかにいる気配がします。

 答えはないだろう、そう思いながらも私は今、目にした出来事の一つがどうしても気になって呟きます。



「あの子……くらおさん……の纏っていた色は透明……アレは賀川さんの色……でした」



また暫し……


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ