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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
2014年1月1日夕方~二日朝

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悪夢中です 21 (雪姫)

諸事情により、更新中三日目。

後一日(予定)


それでもこの夜の夢はまだ明けませんが。


現在2014年一月二日夜が明ける前。


ユキ視点です。


「正確には……彼女を閉じこめたんだよねぇ。牢の中にね……」

 カトリーヌ様がそう言っていたのを思い出します。

 お母さんを閉じ込めて、私を身籠った、とも……


 お母さんの声が消え、気付けばソコソコ明るい部屋に、女の子が床に座ってこちらを見ていました。

 私の事は……今更ですから後からでいいでしょう。

 だから目の前の状況を確認します。

 ……床があるっていいですね、とても安心します。私の足……透けていますけれど、触覚はありますよ。

 座った女の子は一瞬、黒雪ちゃんが少し大人になったか、昔のお母さんかと思いましたが、違いました。確かに二人に似ていますが、誰もが『色』は違いますから、他の人だとわかります。

 でも二人と似ているって感じるという事は、私にも似ています、ね……『巫女』か『偽巫女』かなんて言うのはわからないのですが…………色で言うなら何故『その人』に見えるのか不思議で首を傾げると、彼女は微かに笑いました。

「ここは……」

 小さく呟いて見回します。

 どこかの和風邸宅の広間か……大人数が集まる宴会場のような、いや、そんなもので無いほどとっても広い部屋でした。天井はそんなに高くはないですが、柱が少ないので、遠くまで見通せます。いくつかふすまや障子、簾のような物とかはあるのですが、すべて風通し良く開いていています。

 一つ一つ、何十畳もある部屋が何部屋も何部屋も延々続いていて、その終わりの部屋の壁はとても遠いのです。

 そこには青い空と雲だけが見える窓がいくつかありますよ。

 唯一壁になっていない右手には、和風な庭が広がっていました。またまたこのお庭がとっても広く、小さな橋に池や小滝などがあって、渡り廊下や通路は同じような部屋があるだろう建物に繋がっています。

 ここが一番高くて、他の建物はここより低い位置にあるよう。遠くに広がる庭や建物がいつしか雲か霧に覆われて、なだらかに下へと点々と遠くまで広がっているのです。

 その様は雲の上にある建物……でも雲に家なんて建てられるはずはないし、それならばすべてが雲を貫くような高層の建物とか、山の上にある秘境とかでないと説明が付かないような絶景……とにかく全体がどうなっているのか、私の知識と範疇では理解できない構造です。

 そこまで見てから、たった一人の住人に目を戻します。

 彼女の白肌は、何だか血の気を感じないのです。身の回りに漂う色も薄く、気分がすぐれないかと思うのです。病気? って、言葉が頭をよぎります。

 私の方を見ると一瞬だけ目を見開いていましたが、彼女はまるで悟ったかのように落ち着くと静かに私の方を見ます。けれど、何故かこちらを向いているのに視線が合った気がしません。それでも嫌悪は感じられず、優し気な表情をしてくれました。突然来ただろう事には驚いていないような気がします。

 それもこの人からは…………そう、ヨモ様の纏っていた色が見えるのです。ではヨモ様の過去わかいころ

「驚かしゃられた様ね。こちらに来て……わたくし、目がよく見えないの」

「……ええっと……やはりヨモ様?」

 だいたい二人が同一人物なのかも、色による判断と言葉だけですが、今まで同じ色で別の人だった経験はないのです。同じように目も……影さえ見えないという感じではありませんが、余りお見えにならないようですし。

 とりあえず彼女にどこまで近寄っていいのか迷いながら、私は少しだけ遠い気分でした。だって今晩は何だか本当に目まぐるしいのです。

 黒雪ちゃんに出会って、お母さんの夢や、賀川さんの夢、そして水羽さんに、それからヨモ様、そしてこの若いヨモ様……賀川さん大丈夫でしょうか……宵乃宮さんと戦っていたあのシーンが目に焼き付いて離れません。悪い事になっていないとイイのですが。

 矢継ぎ早に回想した時、目の前の娘様は首を傾げ、言葉が紡がれました。

「いいえ。私は那月。今は……伊邪那美と呼ばれているわ」

「イザナミさん?」

「そう。巫女だったの。攫……いえ、伊邪那岐様に選ばれて、今は神産みの神女となったの……」

「イザナギさん?」

 どちらもほんのちょっと前に聞いた名前ですよ、水羽さんに……



『みこの白は『いざなみ』につらなるの』

「いざなみ?」

『このくにのさいしょの神のひとりとしてかぞえられる、かのじょはめがみ、わたしたちの母よ。『かぐつち(あに)』をうんでぐあいがわるいのに、しぬまでかみ産みをもとめられた、はくはつのめがみ。かのじょはいざなぎからみそめられて神となった、みこ』

 続けてこうも言いました。

『いざなみは亡くなって、いざなぎは黄泉までむかえにいったけど、つれもどせなかった。それも神とはいえ、死をこえてはならないの。だからいざなぎはバツを受け、ねむりについた……ソレをおこしたのが宵乃宮よ』

 そしてヨモ様は言っていました。

『地球と呼ばれるこの星の、大和の海に神が降り立ちしはいつの頃か……彼はこの地を釣り上げて拡げりゃれました。それを喜んだ民は、神が望んだ、人であって、人より神の世界に少し近かった『巫女わたくし』は添う事を求められ、子を生しました』

 と。


 さっき聞いた時も思ったのですが、いざなぎ、いざなみ、たぶん日本の神話にでてきたような。

 何でパソコンないかな、ここ。そう思います。私はガラケなので、スマホにそろそろ変えたいですね……



 スマホの件はさておき、たぶん彼女はヨミ様だと思うのですよ?

 そんな事を考えてちょっとボンヤリしていたのかもしれません。

「ここは高天原。貴女、大丈夫?」

 心配されてしまいましたよ。

 高天原。

 確かスキー場か温泉かにそんな地名があった気がしますけど。はっきりどこか知りませんので、首を傾げるしかありません。

精神みたまのみで警戒なく来らしゃられたのね。夢渡りは無防備だと危ないわ…………」

「あ、ああ、いえ。すみません」

 多量の心配の中に微かな呆れを含んだ声音に、私は間の抜けた言葉を返します。

「たぶんここに送ってきたのは未来の貴女なんですけれど……」

 信じてもらえるかわかりませんけど。

 夢渡りって黒雪ちゃんの話にも出てきました。たぶん夢を見て、他のヒトの夢や、過去や未来を覗き見、触れ合う事。さっき、お母さんや賀川さんの過去を見たのもそれで、今もきっとそれなのだと想像がつきます。

 そして水羽さんが引っ張られると死んでしまうって言って気がします。私、さっき黒雪ちゃんトコですごく痛かったし。あ、でも今は痛くないのですよ?

「夢渡り、しているのだと。多分そうだと思いますが、今晩はいろいろ。私では……その、わからないのです」

 そう答えます。少しくらい水羽さんには聞きましたけど、だって本当にわからないのですから、嘘をついても仕方ないでしょう。

 そう言えばお母さんの過去らしい時を眺めた夢は『過去の目線』を借りているようで、お母さんは私がいる事には気付いていない様子でしたよね。賀川さんは窓の外の私を認識しなかったのに、ここでは黒雪ちゃんとしたように、普通に会話が出来ていますね。

 あ、でも賀川さんとも最期の一瞬だけ目があった気はしました。あのまま居る事が出来たら喋れたのでしょうか?

「そうで……あらしゃりましたか。複数の夢や過去、そして未来が絡んで……ああ、とても微妙なタイミングなのね…………未来のわたくしに応え、ココに来てくらしゃられ感謝です」

「いえ」

 未来から来たって意外とすんなりみとめられましたけれど、これまでってないほど私は首を傾げます。ふと思ってしまったのです。

 だって子供を救ってと言われたけれども。まさか『過去』の事を? そんなの変えられるはずがないのに。

 ではコレは未来? と、自問して。でも答えも自分でするなら、これは未来ではなく、過去でしょう。ヨミ様若いし。それもとてもとても遠い時代だと思います。わかるのは感覚なので、何故か説明は出来ませんけれど。

 でも、過去って変えたら未来が変わってしまうのでは? ちょっと不安になります。

「大丈夫よ。未来のわたくしは今日ここに貴女を送られなしゃった。きっとそれはずっと昔から決められ、必要な事だったのでしょう。貴女がココに来りゃる事はきっと予定調和でしかありゃしんせん。ただわたくしは今、貴女が誰かまではわからないのです……その、貴女の御名は?」

 そう言えば……ヨミ様、名前聞いてこなかったですよね。ここでは聞かれたので名乗ってみた方がイイでしょうか。

「私は雪姫です。前田 ユキ……」

 宵乃宮と名乗るべきかと思いましたが、もう私はタカおじさまの子供ですから。そう考えて答えます。ココで答えているから、ヨミ様にとって、自己紹介は必要なかったという事……でしょうか。

「マエダの? ユキは……巫女ではなしに?」

「えっと、引き取られて、その、養女になったので」

「未来ではそうなのね。マエダは…………巫女の、私達の守護をしてくらしゃられているのよ。今は高天原の前方守護を司る者の総称でもあらしゃるわ」

 彼女はさらりと長く漆黒の髪を揺らします。

 そして手をそっと自分のおなかに当てて撫でます。年齢、私と同じか、もしかするともっと幼いくらいなのに、そのおなかは大きくて。きっと赤ちゃんが居ます、司先生のおなかを眺めた時と同じ感覚がするのですから。




「ねぇユキ、お願いがあるの」

「何でしょうか?」

 いろいろ尋ねたい事があるのですが、その『お願い』を聞き届けないといけない気がしました。そこに理屈はありません。先ほどから意味はわかっていません、私。一体、何だろうって思います。けれど、人間が呼吸を辞めないように、私の口からは自然とその先を促す言葉しか出ません。ヨミ様からも頼まれていますしね。

 それに満足したかのようにイザナミさんは私に両手を差し出します。その両手の指は細くて骨に皮が付いているという表現が正しいと思います。手首には細い綺麗なチェーンが巻かれていて、腕を上げた事によってちらりと見えた両足にも同じ物が飾られています。その足も細すぎます。黒雪ちゃんも細いって思いましたけれど、それよりも酷いです。

 近づいた事によって、彼女の体が側の柱と布団やクッションのような物に支えられているだけで、自力では体を上げる事も辛いのだとわかりました。

 その腕に合わせたように見えるチェーンはアクセサリーではなく、縛錠でしかない気がしました。彼女にとっては重いはず。

 目が見えないと言っていたから声やにおいなどで判別し、無理をして差し出された手を私が取らないなどあり得なくって。そっと触れると私の手はそこに無いかのように透けては見えますが、彼女の軽くて冷たい質量を感じとり、触れて受け止める事ができました。

 イザナミさんは口を一度結んでから、細く吐き出す様に私へ言葉を向けます。

「ユキ、お願い。私の子を、ほんの少しの間でイイの。守って」

「ヨミ様からも吾子をと頼まれてはいますが……」

「じっと、隠していてほしいと望むの。たった数分、それでいいのです」

「なぜ、そんな時間を? だって……」

 子供ってお腹の中の赤ちゃんですよね? どうしてイザナミさんがそんなことをいうのかわかりません。だって、自分の産む子を、ほんの少しだけとは言えどうして遠ざけようとするのかわからないのです。

 私を森から連れ出してくれた司先生も今、妊娠しているのですが、それはそれは愛おしそうにお腹を撫でていて。

 今だってイザナミさんも同じように大きなお腹に手を置いていましたよ? 愛情が無いわけではないなら何故なのか、私にはわからなかったのです。

「わたくしの子はココにいたら殺されます……」

「え?」

「これらを身籠ってから何度も何度も繰り返し『夢渡り』で見た事。今日のこの時を。でも誰も助けは来ぬ『夢渡り』……ずっとずっと『助け』を願い……最後の最期でやっと貴女を未来のわたくしが送ってくりゃれて…………今、最後の演算を終えたの。だからお願い。終わるまで、その子と共に葛籠に隠れていて」

 彼女が指さしたのは箪笥のような銀色の箱。籐のように編まれた銀糸の家具です。

 あんまりわからないままでしたが、望まれるままに頷きます。

 彼女は細い筋張った手で、私の手を引きます。そして自分の親指の爪で人差し指の腹を傷つけたのです。絞って雫となった一滴を、私の手の平に落とすとその雫がレースの糸のようになって、何かを描きます。それは模様のような……軌跡を辿っていると、『いのりの水鎖錠』の時に描いたものと近いのがわかりました。そう、ヨミ様の手の上で血が描いていたその形……

「コレは『きずなの水鎖錠』よ」

 いつの間にか描き終わると血は消え、私の手を握らせてから額を押し付けてきます。それと同時に彼女の口から何か『音』がします。何と言っているかわかりませんが、私を守るようにと願いを込めているのが伝わってきました。

『……人は『身体』と『魂』が一対になっているの。精神みたまと言った方がわかりゃれる? 現実に『身体』を置き、夢に『魂』がある時、普通なら『魂』は『幽体』で守られ、『幽体』は『身体』と繋がってありゃれます。現実に返る為に』

「は、い」

『貴女は『幽体』を傷つけりゃれ、生死の隙間に魂がありゃれる……だからこそココに送って来りゃれた……けれどこのままでは困りゃれるでしょうから、産みの神としてわたくしの加護きずなを与えました……これで貴女の想う人の近くに迷わず帰らるるはず』

 額を離してそう言って、彼女が顔を上げた瞬間、嫌な気がしました。もともとイザナミさん、顔色が悪いって思ってはいたのですが、本当に色味がなく息がうまく吸えていない様子で、喉から洩れた声が怖いぐらい枯れていました。私に『加護』をくれた事が彼女の状態を悪化させたのかもと思い至ったのですが、

『だ、い、じょうぶよ。貴女のせいじゃないの……いた、痛っ』

 慮って言ってくれた彼女の座った足元から、私の方へすうっと液体が流れてきて、次第に血の赤が混じります。司先生が妊娠されたと聞いた時に、いくつか本を読んでいたので、コレはおなかの中の赤ちゃんを包む様にしている子宮を満たす羊水という体液ではないかと思い当たります。

 出産が近いのではないのでしょうか。それも出血が酷いのはあまり良くないのではないでしょうか。酷く苦しみだした彼女に近づいて支えたいのに、私は下がってしまいます。

 何故なら足元まで流れてきた血の混じったそれは『燃えて』いて、熱くて怖かったから。




lllllllllllll


『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

司先生


『以下1名:悪役キャラ提供企画より』


『黒雪姫』

小藍様より


お借りいたしました。




問題があればお知らせください。


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