悪夢中です 20 (アキの歩み)
諸事情により、更新中二日目します。(予定)
それでもこの夜の夢はまだ明けませんが。
現在2014年一月二日夜が明ける前。
アキの呟き。
アキの過去です。
下へ下へ。
落ちないって思えたら落ちなかったかもしれませんが、穴が足元にあって、落ちないなんて考えるのって難しいと思います。
でも、きっと合っているのだと思います。最後に見たヨモ様の辛そうな顔は忘れられそうになく。できれば願ったとおりにしてあげたいと思いながら。
暗い中、ゆっくり落ちて行きます。
その時、私は声を聴きました。
それはお母さんの……声。
それはお母さんの歩み。
ゆきちゃんには聞かせたくない話。けど、きっと彼女に届いてしまうのでしょう。だから私は他の誰からではなく、私の歩みを示しましょう。
それはむかしむかし。
おかぁさまの意志の下に『祝福』の後、預けられたのは教会。宵乃宮の意図には乗せまいと私を引き受けてくれた香取神父は変わったヒトだった。彼は私を『聖少女』として教会に紹介し、迎えて海外へ逃してくれたの。余り会う事はなかったけれど。
関係者以外は誰も来ない、森の中の修道院で自分の力の使い方を徐々に基礎から応用へと学んだ。
院内の学校にも通わせてくれて、そこそこの学力も身につけたの。一見必要なさそうな学問や知識をここで詰め込んだ。ソレがいつか役に立つのだと感覚でわかっていたから。
友達は作らなかった、ココに居る同年代は誰しもが背負うモノが大きかったから。なにより私と関わっていい事はない、きっと死に近くなる。
今まで生きていた宵乃宮内の常識が少し世の中では変わっているのだと気付いたのはこの頃。教会も偏っていなかったと言えば嘘でしょう。
巫女は彼の餌であり、収穫物であり、物資だという、あの宵乃宮の閉ざされた世界はおかしかったと思う。本来は巫女を守るためだった刀守の意志はソコにはなかった。
施しをくれた教会への見返りは、その力で依頼をこなす事。世の中の汚い部分を垣間見ながらも、そのまま生きていく事も出来たけれど。おかぁさまを殺した宵乃宮を放置できないと思っていた。彼は手下を増やし、偽巫女を作ってかつての闇の帝国を再び手中に収めようとしていたのは、過去視出来たから。
おかぁさまから預かった玉に引きこもって、くらみづはも、かぐつちも、私に何かを強制はしなかった。私に降りる事はなかった、話しかける事はあっても。私は教会という他の領域の神に近しく、巫女としては不適格だったのでしょう。その時は何がと言えなかったけれど、ユキちゃんを見ているとわかったわ。神が求めるほどの混じりけの無い純粋な生き物では私はなかったって事。
それでも宵乃宮は私の事もいつか見つけて、何かを仕掛けてくるでしょう、そう思って過ごしていたある日、夢で見たのは三本の刀を一つにする事。
それですべての決着がつくのだと知ったから行動に出た。
三本目の刀を作るには、かぐつちの玉と同じ素材が必要だったけれど、教会に調べてもらってもそれはわからなかったのに。それを作れる者の姿を夢に見た時、胸が高鳴った。
真っ直ぐで意志の強い瞳は夢の中なのに、私を確実に捕らえているように思えて。それからすぐに土御門から声がかかり、教会には内緒で日本に帰国した。
土御門のお陰で日本の学校に入ってから自然を装い、『彼』に接触した。
彼の名は前田 刀流。
土御門の調べによると『前田』は二本目の刀『争乱』を守る者達。彼もその親ももうそれを詳しく知ってはいなかったけれど。かぐつちの核を見て、ニヤッと笑った彼の顔は一生忘れない。
「おもしれーな。これ。増産してバラ撒きゃいいって事だよな。まかせとけ」
その後、おかぁさまの娘、おおねぇさまや久しぶりに香取神父にもお会いして、協力を仰げるようになっていって。香取神父と土御門の和馬様、そして刀流先輩の父が知り合いだとも知ったわ。
そして。
ある日、おおねぇさまに連れられて目の前に現れた一人の少年と出会ったの。この子と会わなければと思った日は数えきれないけれど。
身なりの整った、優しい表情の彼は、とても素敵なピアノを奏でてくれた。たった五歳とは思えない技術と繊細な音。重なる私の声に降ってくる未来の啓示は、彼の『先』。
過去はそれなりに視れたけれど、未来視、それもこんなにはっきりと視えたのはおかぁさまの死ぬ時だけだったのに。
視えた未来は彼の遠くない時期。
少し先の未来に、彼は姉を庇って攫われる。
攫われた先では酷い不遇を受け、生死の境をさまよう事になるのだと。
彼の母親は、私の乳母である『おかぁさま』の長女。おおねぇさまは彼を見捨てるような女性ではないはずだけど。そう思いながら、眺めた未来にふと見えた白髪の少女。
思えば初めて『会った』のに、あの瞬間、何も考える事無く『我が娘』と理解したの。宵乃宮の巫女は『水』の巫女。水は女性の象徴であり、それは母性と繋がり、巫女は『次代』を望まれる。故に、処女である事は貴重だけれども、絶対の価値ではない。
だから私は母親になるのだと。
それも娘は真っ白な髪に、血を透かしたような赤い瞳。過去視をした時に会った、過去の白巫女に似て。
その赤い瞳に映る青年が成長した目の前の少年で、まだ生まれてもいない娘の想い人だとわかったの。彼が無事に生き延びたなら、彼女の刀守となるのは彼だってコト。
けれど、彼は娘を……ユキちゃんを殺めてしまう。
刀を体に引き受けて、暴走した彼はユキちゃんを……そして彼も死んで、刀は宵乃宮の手に。
だから何度も『演算』した。
未来を無理矢理、視続けた
何度も。
彼の危険をおおねぇさまに告げて回避し、光の当たる人生を送らせれば、どうか……
それとも彼をこのまま私の付き人にして……
いや、彼は攫われる事で強くなる……なら、わざとに攫わせて、頃合いを見て、救い出し、彼を我が手で。
何より娘に出会わぬようにできないか?
何でもいい、どうやってもイイ。
娘が死ぬという結果が変わるように。
頭がおかしくなるのではないかと思う程、多岐に渡る未来視で『演算』を繰り返したの。
そして辿り付いた答えは、彼が攫われて、生き残って目の前に現れた時は、彼に三本の刀を与えるのは私の役目にするという事。
しかしもともと得手ではない未来視の行使で疲弊した私が倒れて、意識がない間に彼は攫われてしまった。間も置かず告げられたのは、少年の死亡。そして狂ってしまったおおねぇさま……
更に三本目の刀『終焉』と共に、今まで沈黙していたかぐつちの玉が消えた事。
私はそれでも彼が死んだと聞いた時、少しホッとしたの。
娘が彼に殺される事はなくなったのだと。
けれどもそれから私は刀流先輩に何も言わず、町を去った。
安堵の息をつけたのは一瞬。その後は時間を追うごとに、彼を見捨てた事実は重くなっていったから。
そして自分だけが想い人と添うのは許される事なのか、再び未来を演算しようとして、失敗した。未来視はもともと苦手で、命を削るほど難しい物だから視えなくなったのか、無理して使った反動なのか、わからなかったけれど。私は『未来』が見えなくなった。
その後、教会に助けを求めに行って。
私は捕らわれた……宵乃宮に……
私の『子』を欲しがる彼は、追って来てくれた香取神父にこう言ったの。
「誰とも知れぬ子より、いっそあなたとの方がマシではないですか?」
と。
あの日、持っていた『くらみずはの玉』が消え、そして私は子供をさずかった……水の神子を。




