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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
2014年1月1日夕方~二日朝

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悪夢中です15(香取)

夢に入り込んでみた香取。


lllllllllllllll

「ここ、どこだろうねぇ?」

 香取はどこかをひたひたと歩いていた。自分の蛇の中でも一番に信を置き、連れ添う風蛇『白翁』の力は風であり、それは空間を操る物でもある。香取自体にはその力はなく、風蛇の力を借りている形。しかし、それを借りれば誰でも出来ると言うわけではないし、借りる事が出来るだけでも万人の持つ力ではない。

 それを使って香取は夢に滑り込んでいた。夢と言うものも、風蛇の操る『空間』に属する物であるから、そう難しくはない。しかし見ている本人の了承がなく入り込もうとすれば、弾かれてしまう事がある。

 事実、彼は迷っていた。今宵は『アキ』が夢を混線させているからかなぁ~っとのんびり考えていた。

「ユキ君の夢じゃなくって、これは……賀川君の方かなぁ?」

 香取が巫女に関わっていい事は何一つないと思っている風蛇は、入る前に彼を止める『進言』はしてある。それを聞かずに迷ったのだからと、ツンと鼻を鳴らすだけでまともな返事はしない。

 止めはしたが、邪魔はしていないのだ。好意で力を借りている香取は文句を言える立場ではないし、文句を言う気もなかった。

 ただ、機嫌を損ねて答えてくれない風蛇が何か言ってくれないか、そんな匂いを言葉の端に乗せてみているだけだ。そしてそれはがっつりと無視されていた。

 先ほどユキに香取がやった行為は褒められた事ではない。風蛇の意志として巫女は忌避対象であっても、我が君だからと若い雌に無体を働くのは矜持に反する。情報を得るためであっても、だ。

「うーん」

 どこに今いるか、と言われれば誰か夢のどこかである事は間違いないが、誰のモノであるか判断するには風蛇が黙している以上、現時点では材料が足りなかった。

 だが、瞬きした瞬間、それはすぐに誰のものかわかる。

『神父様……そ、その、気持ちは嬉しいのですけど。私が好きなのは刀流先輩ですから』

 目の前にあるのはもう闇ではなかった。いつも居る事に慣れた教会、目の前にいるのは中学生の頃のアキ。いつだかに交わした台詞と一礼をおいて、足早に去っていく彼女の後ろ姿。

「これは『私』の……」

 弾かれて辿り付いた夢が、自分の記憶ゆめによるモノだと香取はやっと気付いた。

 幼いアキを一目見た時から、彼は彼女に『神』を見た。賀川の祖母である女性から彼女を預かり、十の齢まで海外の教会に住んでいた彼女の事を気にかけていたが、二人が会う事は余りなかった。引き取った教会は彼女を神の御心を湛えた『聖少女』として祀りあげた。表面上、ただの神父である香取とは立場が違ってしまったのだ。

 そんな彼女が中学に入る少し前、急に日本に戻ってきた。彼女の有用性を知っている教会は香取に命じて彼女に便宜を図った。特殊な力をただ搾取するばかりではいずれ育てた『恩』だけでは使役できなくなるだろうと、教会は考えていたようだと香取は思う。

 彼女は選んだ『少年』の下に赴くと、自然を装って近づいて、共に一つの素材を作りあげた。その少年こそ親友であるタカの息子『刀流』で、香取が知った時、二人はすでに恋仲だった。



 香取はまだ幼いともいえる少女、アキの背を見送る。

 過去のこの日は……確か数日前に不調で倒れた彼女がやっと意識を取り戻したばかり。不調の原因は未来視を重ねた事。ある少年の未来を変えられなかった事に心を痛めていた彼女に、時間を置いてまた声をかけなければと思ったものだった……と考えた所で、声が飛んできた。

『カトリーヌでもそんな顔するんだねぇ?』

『……おんま君、何か用? 珍しいねぇ』

 夢でも大きいと目を見張るほどの巨体と強面に懐かしい笑顔。普段は教会まで来ないおんまに戸惑いながら返事を返す。

 そう、彼女と入れ違いに彼が来たのだった……過去の違わない記憶。夢にしては鮮明で、混乱した所がなく、まるでフイルムを見ているように、香取は過去の発言を見聞きする。

『ちょっとね、探し物を知らないかなと思って』

『探し物? 土御門の捜査網に引っかからないモノお?』

『うーん。僕の作った刀の柄に入れてた『玉』なんだけれど。あれ、遊びに行っちゃいそうなおヒトが宿ってたからねぇ』

 行方不明になったTOKISADAの『赤い宝刀』。会社の機密とされたその製法を巡って、一人の少年が攫われ、この日に届いた訃報が先ほどアキを泣かせていた。

 玉が消えたのは親友の不幸を救ってくれと、少年の誠が真摯に神へ祈り、その願いが届いたからだが、事実がわかったのはつい最近の事。

「神宿る玉だっけ? 彼女の『おかぁさま』が持っていた玉もわからず仕舞いだったよーな?」

「ああ、くらおかみの玉は浄化の為に預かってもらって、でも彼女は亡くなってしまったから。宵乃宮に渡ってないとイイのだけど」

「渡ったか、まだ?」

「うん、わかってないんだよ。所在が」

「じゃぁ~どちらも気にかけとくよぉ。おんま君」

 そう言うと、おんまは肩を竦めて笑ってから背を向けて、その場を去っていく。その背を見ながら、彼が生きていればよかったのにと香取は思う。

 だが、現実に彼は死んで、その遺体はほんの数日前まで彼の意思なく弄ばれていた。彼は大きな力を持っていたが、それを振りかざすような男ではなかった。その顔と体に似合わない笑顔の下で、謙虚に、そして自分の使命に生きた男。

「……おんま君、今から十年しないうちに、君は死んじゃうんだよぉ。お願いだから気を付けて……」

 そんな言葉をその背中にかけてはみたが、夢は夢、未来が変わる事はない。何も出来ぬまま懐かしさに目を細めていると彼が一瞬、振り返って微かに不思議そうな顔をした後に何かを口にした。

 しかしその言葉を香取は当時と同じく聞き取れず、ただニッと笑って手を振るとおんまはその場を去った。

 当時は挨拶程度だろうと気にかけていなかった言葉。だが過去と違い、おんまに注視していた香取は意図せず口の動きを読み取って呆然とする。

「今、……『き、み、も、』って、言った?」

 夢の中だ、過去にしたかった事や出来なくて後悔した事を、果たしたりやり遂げたりする事は可能だ。うまくいけば空だって飛べるし、大富豪にだってなれる。しかし起床してみれば出来ていなかった事が出来ている事も、なかった物を手にしているなんてムシのいい事はない。だが、香取は今の自分と過去のおんまの会話が間違いなく『伝わっていた』と感じた。

 夢は夢。

 しかしこの夢には巫女の『アキ』が関わっているのを香取は感じている。今宵の夢は現在の為の必然。過去と現在が交錯している奇跡。しかし下手に崩れれば、最悪、誰かが……

「きゅぅ!」

 足元の風蛇が香取にきつく声を上げ、思考を止めさせた。

「この空間。最悪を思い浮かべる事は、凶行……かぁ。そう……もし私が死んでも骨は拾わなくていいからあ」

「ぎゅ」

諫めるように風蛇が鳴いた時、そこはもう教会ではなかった。再び香取と風蛇はただただ暗い場所にいた。香取が目を眇めて足を向ける方向を定めかけていたその時、いきなり白い影が飛びかかった。


lllllllllllll


URONA・あ・らかると(とにあ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n8162bq/

るぅるぅの基本設定


お借りしました。


問題があればお知らせください。



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