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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
2014年1月1日夕方~二日朝

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悪夢中です9(ユキ)

夢の中を渡り歩く……雪姫です。


lllllllllllll

 私が居たのはさっきまで暗い場所でしたが。今はとっても明るいのです。黒雪ちゃんといた場所に戻ったのではないみたい。黒雪ちゃんといた場所はどこかの室内みたいでした。光はないのに自分達の立つ場所に床が仄かに光っていて、姿は良く見えてました。室内でも壁や天井を感じなくって、どこまで広がっているかわからなくて。無限に広がる室内の真ん中に二人でいるって感じでした。

 けれどここは眩しくて。

 それに私が泣いているのでしょうか? 視界が涙に溢れていて殆ど前がみえません。その上、下を向いて、白い床に落ちて広がる涙の跡が微かに見えるくらいなのです。

 ああ、そうです。これは黒雪ちゃんの見せてくれている夢、お母さんの過去。まだ私はお母さんの目線でモノを見ているのです。だから今、泣いているのは私ではなく、お母さんだってわかった時、



「どうしたのかなぁ、聖少女様」



 どこかで聞き覚えのある癖のある声がかけられます。やっぱり『お母さん』がさっきとは別の場所に居るのを感じます。お母さんは顔を上げる事なく、ただ涙を流す顔を覆って、

「おおねぇ様の息子が。あの少年が……攫われ……死んでしまったと連絡が。いえ、アレはきっと私が意図的に殺してしまったの……この世に帰ってきたなら、私は彼を『鞘』にするのだから、遅かれ早かれ『結果』は同じでしかないの……だけれど」

「あの少年?」

「彼は大きく二つの運命を持っていたわ。一つは這い上がれない闇に暗く沈む事。二つ目はそのまま成長した後、彼は三本の刀と共に、私の『娘』を殺す……だから、少しだけ考えてしまった。その少しだけ、が、早くに彼を殺してしまったのよ」

「よくわからないからぁ。ゆっくり説明してよお?」

 涙を拭っては落としながら、深く息を吐いてお母さんは下を向いてしゃべります。見つめる手は私が知っているお母さんの物と同じ色をまとっているのが懐かしくてたまりません。それにしても先ほどよりお母さんの手が大きくなっていたので、さっきより時間が経ったのだなって思いました。

「普段は見ない『未来視』で、ある少年の未来を視てしまったの…………」

「聖少女様は未来もみえるのですぅ?」

「他の人が居ない時にその呼び方はやめて……私は……未来視は余り得手ではありません……そして未来はいくつもあるから、変える事が出来ます。だけど、けれど……『娘』を手にかける彼が視えて、消えなくって………………玉と同じ金属を刀流先輩が作ってくれて、その金属で土御門の方が赤き刀を打った上、金属を家電に紛らせる事で宵乃宮に対するジャミングシステムも構築しかけているというのに。すべて丸く収まるハズだったのに、どうして…………」

「娘? もう少し、詳しくきかせてくれるかなぁ? 聖少……いえ、アキ君」

 そう言ってしゃがんでから滲んだ視界に無理に割り込んで映ったのは……カトリーヌ様でした。

 立ち上がったカトリーヌ様に合わせて目線が動きます。お母さんが顔を上げて分かったのは、カトリーヌ様の顔の位置が今の私に話しかけるよりも高い事です。お母さんと私の身長は中学生の終わりには殆ど一緒だったから、つまりお母さんが私の今の身長より低い、きっと少し幼いのでしょう。けれど喋り方からしても、お母さんがもう幼稚園児の大きさでもないのがわかります。諭すようなカトリーヌ様の優しい眼差しの前で、母は苦し気に嘆きます。

「ああ、未来視は嫌です。おかぁさまが亡くなる時も見たのだもの……もう、嫌なの……それなのに『演算』を繰り返して。結局、迷って、何も決めきれないまま『演算』すらできなくなって。いえ、きっとこれ自体が私が決めた事、でも……あの子を見捨てて殺す権利なんて私にはなかったのに」

「アキ君。それでも視るのなら、意味があるはずだよお? だから話してみないかなぁ」

「意味…………見えなくなったなら見なくていいって事?……そんな、簡単な事じゃないの、でもそうでないと私……」

 そう言ってからも戸惑っているのかお母さんはなかなか口を開かなかったのです。それでもカトリーヌ様が優しく、急かす事無く待ってくれるからか、時間をかけて少しずつ言葉を刻みはじめました。

「私は……きっと遠くない未来に娘を、巫女を生みます。そして少年は成長すれば彼女の刀森となる人……だった。叶う事ならあの少年と彼女(むすめ)を出会わせてあげたい。そう思いながらも、彼が娘を殺すのを見てためらってしまったの。その運命が変わるのは彼が何者かに攫われるという事件で……」

「攫われる、ですかぁ?」

「その先で待ち受けるのは苦難の道、息をする事さえも憚られる場所。そこから這い上がればまた娘に会う未来もありました。……が、今日、死亡が伝えられたと。ああ、せめて安らかに……」

 お母さん、私の事を言ってる? 私の為に『誰か』を見捨てたなんてそんな話……それも攫われるなんて事は世界では一日にいくつもあったり、私も何だか連れて行かれそうになった事がありますけど、けどそう頻繁に起こる事ではないのです。



『玲ちゃん、『私はいない、バスに居ない』って庇ってくれたって聞いたわ』

『もう、あの子はいないんだ、諦めてくれ冴。攫われた玲が悪いんだ。死亡届も出したから、警察ももう動かない。このビデオが届いてもう一週間以上になる。交渉口も閉ざした。もう生きてはいまい』



 いつだったかに見て、聞いた、賀川さんの家で起こった過去。冴さんと賀川さんの父親との会話の欠片、あれも『過去視』というのでしょう。

 賀川さんは幼い時に攫われて。

 でも今はこのうろなで普通に仕事して、笑っていて、私の事を大切にしてくれているけれど。酷い過去の事情とお母さんがその事件が起こる前に彼と出会っていて、それが起こる前に、全てを知っていながら、何も、何もしない、むしろ……



 私が混乱しているうちに、お母さんとカトリーヌ様の言葉は続いて行きます。

「おおねぇさまと言うと、アキ君を養育していた女性の?」

「そう。おかぁさまの娘で。ミサによくいらしているでしょう? その息子でアキラと…………ああ、私は『あの歌』に何を願えばよかったのでしょう? 私は彼に悪意を向けてしまった。だから、だから攫われて助かる事無く、亡くなったの……きっと、そうだわ……私のせい」

 本当に、今、お母さん、アキラって言った? 賀川さん、名前、玲……彼は幼い頃に長い間、苦しい場所に居たと私は知っています。お母さんが、私の為に、彼を……?

「無事でいればいたで、彼には私の娘だけを愛すように、まじないを……娘を殺すなら、自刃を選ぶほどに、『愛せ』と」

 聞きたくない、そう思いました。

 賀川さん、で、間違いないと思います。お母さんが呪いをかけたのは。彼が私を好きと言ってくれたのはお母さんが何かしたからなの? 

 戸惑いばかりが大きくなり、けれど、話はさらりと流れていきます。

「私達は神ではないのだからね。迷ってこそ、人。そこに価値があるんだよぉ。それに未来を僅かに知っていたとしても、それがどう現実になるかはわかりませんよお? 未来視ができる者ならそれ故に、定まりし未来を変える難しさは知っているでしょ~? 貴女が知る知らないにかかわらず、きっとそれは彼の運命で、この世の生を終えたなら、今は神の御許で安住の地にあるはず。全ては神のご意志」

 そっと頭を撫でてくれるカトリーヌ様の手はとても暖かいのです。それのおかげでお母さんは少し落ち着いたのでしょう。

 カトリーヌ様が言う事はわかるのです。未来を知っていても、きっと簡単には変えられないという事は。けれど、けど……お母さんが賀川さんのコトに関わっていたと知って、私の胸は早鐘のように打ち、落ち着いたりしなくって。

 カトリーヌ様はお母さんを切り替えさせようとしているのか、質問を投げかけます。

「ところでアキ君の娘の父親……貴女の相手は誰かなぁ?」

「…………その……と、刀流先輩?」

「……仲がいいのは知っているけどねぇ」

「だ、だから、だ、と、イイなと思っています。ソコは視えてないのだけれど、本当にそうなるなら、でもそれは先輩をも苦しめるかもしれないのに。ああ、どうして私達は普通に生きられないのかしら? 無垢な少年を死に追い込んでおいて自分の事ばかり」

「アキ君には……僕を選んで欲しいなぁ…………神に捧げたこの身、そして今は神の光を貴女に見るのだから。僕は蛇だから、辛い事も汚い事も厭わないよお?」

 後ろからカトリーヌ様が包む様に抱きしめてくるのを感じました。

「何かあれば必ず頼るんだよぉ……?」

 カトリーヌ様の体温が思考を溶かし、お母さんは目を閉じ、私の視界も暗くなりました。



lllllllllllll


『以下1名:悪役キャラ提供企画より』


『黒雪姫』


小藍様より


お借りいたしました。

問題があればお知らせください。


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