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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
2014年1月1日夕方~二日朝

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悪夢中です(賀川)(第502部分・再掲です)

サブタイ通り、再掲になります。前回お出かけ記念で投稿したので、消すのが忍びなく。

時系列的にこの話が飛ぶと読みにくいので、このようにしています。

内容がわかる方は飛ばしても大丈夫です。


二日、朝、三時頃のお話。賀川視点です。

 まだ明けぬ夜。


 日の出も拝むには早い時刻に叫びながら賀川は目覚めた。幸い、同じ階に住んでいる他の工務店員の部屋からは離れており、誰にもその声に気付きはしなかった。


 時計は三時。毎朝の鍛錬に起きるのも早い時刻。寒い部屋だと言うのに汗を滴らせる。


 寝巻を着る癖のない賀川は、いつでも外に飛び出せる普段着のまま横になる。流石にコートや靴などは身に着けていないが。それでも習性で、コートやジャケットなどは手の届く範囲に置いてあり、靴は前の主が使っていた机の引き出しに隠してあった。






 賀川は薄暗い部屋を見回した。


 物があまりない部屋。


 元々は勉強用と思わしき机の上にはぽつんと箱がある。居つくようになった鳥、ドリーシャ用の寝床。


 耳を澄ませた所で、今日はそこに呼吸音はない。豆鳥かのじょは昨日夕方に出て行って、賀川が寝るまで戻っていなかった。だからソコに生き物の気配がないのはわかっている事だったが、側に居る事が慣れてきていたため、どうにも彼を不安にさせる。


 また異常に発達した賀川の聴覚なら、いつも拾える工務店の連中の寝返りやいびきもごく微かしか届かない。寒い為、皆布団に潜り込んでいると見えた。どんなに耳を澄ませても賀川にとっては気味が悪い程、音が少なく、静すぎる夜。自分の呼吸や鼓動の音だけがうるさく感じられた。


 彼は呼吸の乱れを正す為にポロシャツの襟ボタンを外し、気持ちの悪さを軽減しようと試みた。


 ドリーシャがいないのも。


 部屋のカーテンの閉まり方も。


 夜の寒い空気も。


 寝る前と何も変わっていない……


 それは確認できたと言うのに、鼓動は激しく、乱れた呼吸は元に戻らない。何とか落ち着こうと唾を飲み込みかけた。だがその口内に異様な味覚を感じ、吐き気を押さえるのに精一杯になる。


「ぅ……夢なのに…………」


 賀川は誰かに自分が『支配』される夢を見た。


 体は動かず、縛られ、されるがままに。


 昔居た場所の記憶だろうかと思ったが、今、その感覚が残っている気がして手首に残る拘束の感覚を消そうと肌を擦る。そうしているうちに振り返れば何を夢で見たかはっきりイメージできなくなり、ただ『悪夢』としか表現できない気持ち悪さと倦怠感だけが残った。


 その気怠さは仲を為さない誰かと交わった時のそれとよく似て、絶望的な虚無と拒絶、そして疲労が体に圧し掛かる。その感覚に覚えがあった賀川はぼそりと呟いた。


「ま、さか……アイツが? これが初夢? っていうんじゃ……イヤ、それは昨夜、見た……」


 三十日にやって来た薔薇色の髪の少年。毎回、彼に関わると賀川が味わう激しい疲れそのモノだった。


 ただ今回、少年は情報の対価として『初夢』を希望した。しかし昨夜ついたちに見た夢はとても幸せで、アレが初夢だと賀川は思っていた。


「時間差か…………?」


 賀川は日本の風習に詳しくない為、わからぬ事だったが……初夢とは大晦日である十二月三十一日の夜に就寝し、一月一日に起床した夢を指すのではない。概ね、一月一日に就寝して以降、その年の初めの夢を指す。


 だから賀川の『今年の初夢』は、つまりは今見た『悪夢』だという事……それを知るのは数時間先、陽も上がった朝食中。


 葉子にイヤな夢を見たと告げた所、『それは良くない初夢だったわね』と言われ、驚く賀川にそれらの説明をされてから。


 とにかくこの気怠さは薔薇色の髪の少年と関わり合いになった際に感じるもの……と、賀川は確信した。


「何なんだよ……」


 それがわかった所で対処のしようもなく、乱れた黒髪に手をやって、そのまま滑らせるように額を拭う。


 今年二月、ユキの為の祝福の儀式が行われる。


 彼女を死に至らしめない為に必要な事だ。


 これが初夢だろうとなかろうと、そんな時を目の前に見る夢としては、縁起が悪すぎだと賀川は思う。もし、誰かに支配され、自分が死ねば、ユキに不利になる、そんな事態は避けなねばならないのに。


「それでも……夢でも……雪姫に。雪姫に何もなければいい」


 記憶を弄られたのか……詳細は覚えていないが昨年の十一月に海の家の五女、汐を助ける戦いに参加した事があった。その時、雪姫の幻影を見せられた……自分より『似合いの男』と、もつれる彼女を……あの時は幻影だとは気付けなかったが、幻影だろうと夢だろうと、もうあんな彼女の姿は見たくはない。


 縛られていたのが自分であった事は、まだマシだ……時間をかけて息を整えた賀川はそう思い直し、嫌な唾をごくりと飲み下す。


 良い年になりますようにと、珍しく何かに念じる。まるで本当に何かを終えた後の様な倦怠感を全身に感じながら、少しでもそれを癒そうと汗で塗れた体を布団に横たえた。






 夜明けはまだ、遠い。






 息は整ったが、眠れないままボンヤリとしていた賀川は部屋が夜にしては明るい事に気付いた。


 疲れがいつの間にか消え、栄養ドリンクでも飲んだかのように体が冴えていた。口の中に誰かのソレを含んだような不快感は消えていなかったが……


「これは……篠生が近くに居るのか?」


 自分の体が熱く、そして薄ら赤く、光っている。首元に下げた青い石もそれに同調するかのように微かに輝く。その熱は篠生が近づいた時に感じると言われていた温度に近かったが、左手だけではなく全身に感じた為、それとは違うのだと賀川は判断する。


 それにしても人間の体が発光するなんて、何の手品だと賀川は思う。彼は不可思議な現象を信じないし、好みはしなかった。しかし、自分が輝いている事は事実で、もっとも強く違和感を感じた喉元に触れる。


 男の身体的特徴である喉仏がある辺り、ソコを触っているハズなのに、違う手ごたえを賀川は感じた。気味が悪いと思いながら、ごくりと不快な唾を飲み落とす。


 呼吸もできるし、軌道に詰まりは感じない。それを握りしめ、動かす。


「…………っ…………こ、これは篠生の……」


 すらり……取り出されたのは一振りの赤い刃を持った刀。篠生が無造作に突き刺して消えた刀に間違いなかった。


『ソレ、なんとかしたいんでしょ? 僕なら力を貸してあげられるよ? ……ねぇ、ティ。それならどうしたらいいか…………わかるよね?』


 その時、賀川は悪夢の中で小悪魔が囁いたのを微かに思い出した。それも『また、僕に「貸し」が出来ちゃったね、ティ』と、クスっと笑いながら言う声が、今にも耳元で聞こえる気が…………


「そんなワケない……」


 賀川は頭を振ってその幻聴を追い出した。そして思い出しかけたそれを忘れた事にして、そのままギュっと心の中に閉じ込める。


 そして深い息を吐き捨てながら、暗闇でも赤く光る刀身を眺め、それの感触を確かめる事に集中した。




lllllllllllll


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)


http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/


ドリーシャ(ラザ) 汐ちゃん 薔薇色の小悪魔君


問題があればお知らせください。

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