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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
7月21日

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見学中です

雨落つる 話しかけては見たものの。

 







「で、西の山の方に住んでいるらしいの。可愛い名前でね、無白花ちゃんって言うの。双子で斬無斗君はまたこれすごく可愛いの。本人に言ったら怒っちゃうかなぁ」

 新しく出来たお友達の名前を賀川さんに教えます。おっきなねこさんになれるのとか、姿が私にチョット似て、あり得ないような銀色の髪や赤や金の目だっていうのは秘密。

「良かったね」

 賀川さんはそう言って私の話を聞いてくれます。

 でも元気がないのか、何なのか、声に抑揚も少なくて笑ってはくれません。



 先程、下着姿を見られた件は、葉子さんの悪戯でした。あんまりに驚くときゃーと叫ぶ事なんて意外とないんだなーと思いました。

 今日はこのワンピースが着られてよかった。だって賀川さんが買ってくれたのだもの。ちょっと胸が窮屈だけれど、今日は一人でファスナーが止められたし、リボンも縦結びなんかしていないし完璧なはず。気付いてるかは別として。

 雨が残念だけど、傘の中の青空が映えます。



 会場である体育館に入っても不機嫌そうな賀川さん。

 もういっかーー考えるの止めよう……そう思って試合などを眺め始めた時、何かおかしな感じがして弾かれるように振り返って見ましたが、何も居ません。

 その仕草に気付いた賀川さんが、

「どうしたんだ、ユキさん?」

「ーーなんというか、変な感じがしたんです。えっと、殺気? みたいなーー」



 その言葉にハッとしたように、賀川さんが寄り添ってくれました。

 今まで歩いてきた体育館の外は、相変わらずの雨が降り続いています。

 待っていてねと置いた白い傘の向こう。

 濃いグレーに濡れた地面、打ち付けられるように降る雨の世界には、だぁれも居ません。

「気のせい、かもしれないですね」

 あんまり気にしてると、賀川さんに気を使わせちゃうかな? だから「何にもなかった」そう思い込んで、持って来ていたスケッチブックに鉛筆を走らせはじめます。

 何故か司先生が、ブルマー姿なのが気になります。清水先生は、嬉しそうです。ブルマー姿も模写しとこう……



挿絵(By みてみん)



 模写っ



挿絵(By みてみん)



 他に剣道している姿を模写したり、観戦したりして……

 とっても白熱した試合が続いていたのだけれども。

 決勝戦はどちらも森でお会いした事のある、とうどう整体院の藤堂先生と幽霊用にとお札をくれた芦屋梨桜ちゃん。

 凄い戦いでしたが、何故か急に梨桜ちゃんが竹刀を捨て、走り出したのです。

 どこに行ったかわかりませんが、何か嫌な感じがしました。気圧が急激に変わる様な。



 オカシナ、不自然な圧力。。。。。。。。。。。。。

 でもどこか懐かしいような。




 仕方なく閉会式に入る事に。

 閉会式に渡される商品に色々あったようですが、中華料理のお店券が勝者に授与されたようです。だから皆そこに行こうと言う話をしています。私は梅原先生を見つけて話しかけに行こうとしましたが、賀川さんが付いてくる気配がありません。

「あれ? どうかしたんですか」

「いいや。先生の所だろ? 行ってくるといいよ。ちょっと暑くて疲れたみたいなんだ」

 いつの間にか座ったまま顔を伏せていた賀川さんが、その姿勢のまま動こうとしません。

 私はちょっと行ってくると言い残して、先生の所に行きました。打ち上げ行かないか? と誘われたので、行きかったのですが、賀川さんが具合が悪そうなので帰る事にしました。



 そういえば、先生の教え子さんかなぁ……急に「森の人」って呼ばれてびっくりしたのです。どこかであったのかなぁ……思い出そうとしたのですが、誰かわからないままでした。

「ユキさん、打ち上げ行く?」

 戻ってきたら賀川さんはもう随分良いようでしたが、顔色が少し悪かったので、

「私も疲れたから帰るよ」

 と、降り続く雨の中を傘を並べて帰ります。途中、雨の中、誰かの嗚咽が聞こえるようで、私が身を震わせます。

 何だろう? この「何もない」空気は。



「ねえ、少し休んで行こうか?」

 雨脚が強くなったので、私達は見かけた喫茶店に入りました。



 コーヒーの香気が漂う落ち着いた深い茶系の店内。意外と中は広くて、ジャズでしょうか、雰囲気のいい曲がかかっています。店内には他のお客様は居ません。

「いらっしゃいませ」

 出迎えてくれたのは声の通る、綺麗な女の子です。白いエプロンに茶色の服にふわふわの髪を止めるのはレースのカチューシャ。本物のメイドさんみたいです。

 カウンターにはタカおじ様より歳が上でしょうか? ロマンスグレーのオジサマがカップを磨いています。顔をあげて暫くこちらを見てから、

「ううううーん……もしかして賀川君? 制服じゃないからわからなかったよ」

「こんにちわ。マスター」

「病気だって聞いたけれど、大丈夫かい?」

「ご心配ありがとうございます。でもいつの間にメイド喫茶に?」

「いやいや、うちの姪、美月だよ。日曜だけたまに店に出てくれているんだ」

 カウンターに座った私達に、にっこり笑ってお水を出してくれる美月さん。

 このお店に賀川さんは宅配を届けているようです。でもお客としては入ったのは初めての様子。この喫茶店『Courage クラージュ』はとても落ち着いた感じで、ゆっくり話すにはいい感じです。

 でも、賀川さんと話が弾む感じはなく、たまに言葉を返しあうだけです。

 目の前にあるサイフォンやコーヒーを挽く機械なんかがあって、マスターの手がサラサラ動くのを見ていて飽きませんでしたけれど。



 賀川さんはコーヒー、私はアイスにエスプレッソをかけて食べる、アフォガート・アル・カフェを頼みました。冷たい中のほろ苦いコーヒーにバニラの甘みが絶妙です。

「おいしい」

 そう言って味わっていると、コーヒーの香気に賀川さんの頬が緩んだ気がしました。

 ただ、余り会話が弾まないのを気遣ってか、

「そう言えば賀川君、ピアノ弾くのかい?」

 と、マスターが話を振ってくれました。賀川さんは首を傾げて、

「どうしてですか?」

「配達の度にピアノを見ていくのが気になっていて、いつか聞いてみたいと思ってたんだ」

 確かに店内の少し奥まった場所に、グランドピアノがありました。でも入口からは少し見えにくい位置です。

「弾けるの?」

「昔、習ってたんだよ、ユキさん」

 何だか困ったような、複雑な表情を浮かべます。マスターが面白そうに笑うと、

「弾いて行かないかい? 年に一度は調弦しているけれど、美月しか弾く人が居なくて宝の持ち腐れなんだ」

 迷っているようでしたが、私が期待に満ちた目で見つめてしまったせいか、重い腰を上げて、

「習っていたのは小さい頃だし、もう指が硬くなってて真面に弾けないよ?」

 マスターはレコードを止めます。

 その間、賀川さんは少しだけ両手を揉むようにしてから、椅子に座ると、そっと鍵盤に手を置きます。その手の格好だけで全くやった事のない人と違うのがわかります。

 そしてゆっくり、ゆっくり、電車が走り出すように、弾きはじめます。それが加速を始め、鍵盤の端から端まで使った演奏に変わり、降り注ぐ雨のような複数の音を一回で、それを何の苦も無く何度も叩き出します。

 飛び跳ねるように舞う音、それに霧のように淡い色が見えた気がした瞬間、ぽつんと急に音を止め、首を振ると、

「ダメだね、全然、触ってなかったから」

 そう言って弾くのを止めて、椅子から立つと、コーヒーの前に戻ってしまいました。

 もう凄いって。聞いたらわかりますって。

 そしてどこが間違っていたか私にはわからないんですけれど。



「賀川君、これで小さい頃やっていたの? ……ギャロップ、だよね」

「やってたのは五歳くらいまでです。それからは数えるほどしか触ってないんで」

「すごいです。私にはとても弾けません」

 マスターも美月さんも褒めてましたけれど、賀川さんは苦い表情をするばかりでした。


妃羅様『うろな町 思議ノ石碑』より、無白花ちゃん斬無斗君

寺町 朱穂 様 『人間どもに不幸を!』より芦屋梨桜ちゃん

綺羅ケンイチ様 『うろなの雪の里』より、『とうどう整体院』の藤堂さん

YL様 "うろな町の教育を考える会" 業務日誌より 司先生(体操服…)清水先生

とにあ様 URONA・あ・らかるとより、天音ちゃん


基本、お名前や雰囲気だけと言う感じですが、使わせていただきました。


剣道大会、7月21日とリンクした感じ、見学中となりますです。

問題ありましたらお知らせください。


あ、賀川が具合が悪いのは裏であった騒ぎによる、気圧の変化で脳が痛んだからです。

気圧変化で脳腫瘍が破裂する事がありまする。…危ない。

彼、霊感とかないんですが。


ユキは「何か」わからないなりに、感じているようです。

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