表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
30日補足

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

507/531

30日補足5【悪役企画】

そして少し過去を眺める人達。

「あれ? 知らない看護婦さん?」

「はじめまして……いつもは別病棟で、今日は応援に来てるんです。横になって下さいね」

 見知らない顔に怪訝な様子をしたが、言われるままに横たわるユキ、用意されていく注射……色付きのアンプル。

 これは『6月24日』。

 数日前まで母親の言いつけ通りにうろなの森に隠れ住んでいたユキ。彼女が体の具合を悪くして倒れていた所をタカと賀川が発見。それから中学の清水先生や梅原先生に導かれて森を出、うろなの病院に入院していた。その日の映像、黒雪姫の過去見で作られた画像だった。

「きっともうすぐ退院できるからそんな顔しないで」

 その看護婦の顔は宵乃宮の手の者、そしてタカなら自社の従業員としてよく知っている女、松葉 奈保のものだった。床に付くほど長い髪を綺麗にまとめて、小学生にも見える童顔すぎる顔に年相応の化粧を乗せている。ユキは見知らない看護婦を不思議そうに見やりながら注射を受けていたが、酷く痛みを訴えた顔をしはじめる。

「痛いのは初めだけだから……痛いのは初めだけって言ったでしょ!」

 奈保は抵抗するユキに対し怒声を投げて、怯んだ隙に薬剤を打ち込む。その唇がにんやりと弧を描く。

「かんごふさん?」

「大丈夫、すぐ退院できるわ……退院もうすぐよ、遺体になって……だけれども」

 ぐったりとしてユキの意識が失われた。息が浅くなり、色のない肌がますます色を無くして見せた。

「殺すのって楽しいわ~濃度間違えちゃったみたい。ふふ。ま、生死は問わないって言ってたし」

 すべてをユキの体内に入れた後、彼女はもう一本、注射器を取ると、採血をし、それを懐に収めた。

 髪や血液などユキの身体は一部でも高く売れる。

 篠生はそれらを情報と金で拾い集め、拡散しない様にしていた。夏の頃、意志を乗っ取られた 『冴』に買取を求めていたのはその為だった。

 奈保はユキが入院した際、こうやって怪しげな薬剤を打った上、血液を持ち去った。この時以外も、検査用に正式に採取された物さえ、その一部は裏で密かに搾取された。それは黒雪姫へ使用され、今まさに過去見や未来視をまなぎは視認出来ているのだった。

「さて遺体を鏨に盗ってもらうように手配をしなきゃ……あっ!」

 そして奈保が最大に嗤った瞬間、側に置いていた空になった注射器とアンプルが不自然に割れた。ガラスは彼女の腕を傷つけ、床に血が飛んだ。

「なに!」

 瞑っていたユキの瞳がパチリと開く。後ずさる看護婦姿の奈保。

 深い赤瞳を彼女に向けながらユキはすっと起き上がり、ベッドから足をおろしてぶらつかせる。いつも柔らかすぎてほんわりとしたユキの人離れした雰囲気とはまた違う、近寄りがたい威圧を放つ少女。

「ぎしきのクスリなんて、ひさしぶり~……で、ココ、あんまりヤなんだけど~」

「何よこれ、何で死なないのお?」

 大した怪我を負わされたわけではなかったが、無抵抗と思っていた者の攻撃に叫ぶ奈保。扉を開けようとするが、焦りからかうまく開かない様子だ。その時、一人の男がその部屋に入ってくる。その隙に奈保は外に出て走り去った。男は見舞いに来た賀川だった。彼はすぐに一度廊下に出て、戻って来た時にはシーツと長い紐を手にしていた。

「どうしたの、ユキさん。何かあったかな?」

「……出して」

 小さな声でユキが答え、ゆらりとベッドから立ち上がる。みしり、と、音がし、パイプのベッドが不自然に折れ曲がる。その瞬間、窓が内側に砕けた。しかし音はなく、破片はまっすぐに賀川を狙う。とっさにシーツを広げてその一撃を賀川は凌ぐ。その後もベッドマッドがズタズタに裂けた。その間にふわりと窓から部屋を飛び出そうとしたユキを、賀川は必死で止める。この部屋は下階ではなく落ちて頭でも打てば死ねる高さだ。

「待ってっ、って! 危ないからっ」

「出してぇ、ここはやーなのおっ。えんそ、においきらいぃっ~」

 賀川は腕から抜け出そうになるユキを、シーツで包んで動きを封じようとする。

 その頃の賀川は辞めてはいたが、それでもかつての仕事柄、喧嘩や格闘技の心得はある。しかし彼女の動きは機敏で無駄がなく、するすると逃げようとした。『出して』と繰り返す彼女に対し、何とか手首を掴んで、

「じゃあ、海に行こう」

 と、賀川は叫ぶように言った。

「……うみ? うろなの?」

「う、ああ、海だよ。連れて行くから」

「うみぃ。いくぅ~……やくそくぅ」

 途端、信じられないほど穏やかな顔でユキは笑った。そしてカクンっとその腕にくずおれて眠ってしまう。

「な、何だった? と、ともかくここから離れた方がいい」

 賀川は念の為かユキを縛って、近くにあった注射器とアンプルを回収する所まででその動画は終わっていた。

 この後、ユキと賀川は二人で約束通り海へ向かい、時間を過ごした。それからユキはタカの家に養女として迎えられることになる。





 まなぎは賀川やユキの動きより、ベッドや周りのモノが裂けて行く様子を注視して、その画像を繰り返し眺めた。

「何か気になる事があるのかしら? 早束」

「ええ……まず注射器が割れ、ベッドが折れ曲がって……ガラス全面が砕けて。更にマッドが裂けています」

 まなぎは画像を拡大する。音もなく砕け散る窓ガラスの派手さが目を引いたが、彼はそれより前の注射器が割れる寸前に画像を巻き戻す。それにより窓の方から銃弾のように一発、何かが飛び込んでくるのをまなぎは見つけた。

「ここでペンが曲がってますね」

「そうね」

 弾丸のような何かが注射器を破壊する前に、音も立てずに近くに置いてあったペンが捻じ曲がるのを見て、まなぎは笑った。

「気持ち悪いわよ。一人で笑って……」

「いえ。これは白巫女が、イヤ、それとも彼女に宿る何かが、か、わかりませんが……彼女はピンポイントで『流星』、または『砂』ないし『氷』を降らせているようです」

「え? 流星を降らせるって? 彼女を人柱にして切らないと得られない力ではないの?」

「宵乃宮のデモようにキロとか、数百年前のメガトン級のものは無理かもしれません。が、近くにあるモノを押し曲げる事で重力を狂わせ、空からたった一本の注射器やアンプルを狙い、そして病院の一室だけに集中して飛礫つぶてを落とす……音もなくそれを可能にしているようです。扉がなかなか開かない事や、音がしないのは、気圧の変化や、真空を作りだしているからか……と、思いますが……」

 宵乃宮が人柱として力を集め、落とす流星はとてつもなく大きいが、精度に欠けている。

 そしてユキが……正確には水羽くらみづはが……落としたのは、小さいがとてつもない精度を持った飛礫。

 この時は脅しであったのか、誰も射抜いていない。しかしこの力を使えば人知れず、ピンポイントで狙った者を殺傷できる。

「へえ、高性能のレーザー砲以上ね。氷や砂なら証拠もなく人を殺れる、素敵な兵器だわ。宵乃宮の流星が生む大量破壊よりも、もしかしたら需要があるかもね」

 紗々樹の言葉にまなぎは更に笑みを浮かべ、

「紗々樹、私と組みませんか?」

「それは何か、私に利益があるかしら」

「宵乃宮の計画では、貴女が手にするのは刀守の男の『遺体』。彼女を完全に人柱にするのはあの男に命が必要だからです。けれど、『生きている方』がよくないですか?」

「……生きたまま手に入れられるの?」

「あの男の命を盾にすれば、白巫女はいう事を聞いてくれるでしょうから」

 紗々樹は首を捻った。

「白巫女自体を操ればいいことじゃないの?」

 まなぎはヒトを操る事が出来る。ふんわりとした白巫女の普段を資料で見知っている限り、意志の強そうな撫子を人形のごとく扱っていたまなぎならそれは簡単に思えた。しかし紗々樹の言葉に首を振った。

「巫女と言う生き物は他人を深く恨まない人種で、私の手には落ちにくそうなのですよ。だから……あの男を生け捕りにしたいんですよ。アレの敵意を煽るのは簡単そうですから。私のコマにすれば、白巫女も私の意志に逆らえなくなる。私は……死ぬまで白巫女を飼い殺したいんです。撫子を殺した恨み……次代を生む、たった数年で許すなんて、ない」

 まなぎは指に嵌めた赤いトカゲの指輪に的外れな復讐を誓う。

「巫女を細く長く生かし、神の入れ物とすれば、長く安定して力を手に入れられます。その為に宵乃宮ろうじんには早々に消えてもらおうかと。既に数人、話はついています」

「……いいわ。その計画、もう少し詰めて話を聞きたいわね」

 紗々樹がそう返した時、まなぎの端末が音を発した。

「……ちょっと呼び出しがかかりました。では紗々樹、考えておいてください。ではまた後程」

 踵を返すまなぎにひらりと紗々樹は手を振り、その背を見送った。

「くすくす……Tが手に入る、それも生きて。良い条件ね」

 嬉しそうにそう呟きながら、黒雪姫の手に刺さった点滴に横から薬剤を足す。紗々樹は暫し作業を続けた後、

「言音、来て」

 そう声をかけると部屋の隅に丸まった毛布から、髪の毛が伸び放題の子供が顔を覗かせる。

「黒雪の車椅子から警告音がしたらこのボタン。で、普通に目覚めたらこのボタンを押して。時間になったらオムツ替えて、尿量等のチェックと……いつものコトよ、できるでしょ? 私、暫くラボに戻るから。あ、貴方の調整も数日内にするわ。それにジジのトコに出す前までに髪、切ってあげる」

 こくりと頷いたのを見て、紗々樹は部屋を出て行った。静かに鍵がかかり、残された子供は毛布の隙間から黒雪姫を眺める。床に伏して見上げるその仕草は、ペットが呼ばれるのを待つ様子と酷似していた。

 暫くは起きないだろう、そう思う言音だったが、長い睫毛が揺れたのを見逃さず、ビクリと身を起こす。

「ことねちゃ……そんな目をしなくても、だいじょうぶ。しんぱいない、の。いつものコト。きょーは、おじいちゃまがむかえに来てくれる、ゆめ。見たの。ああ、ゆめじゃなくて、よげんだったらイイのに」

 眠っていた黒雪姫が微かに目を開けて呟く。その声を聴いて言音と呼ばれた子供は目覚めたら押せと言われていたボタンに触れる事無く、毛布を引きずりながら近寄る。二人の顔はとても酷似していた。ただ言音の喉には小さいながら喉仏がある。その事から男性型の巫女のクローンだと推測できた。

「ねぇ、ことねちゃん、ちから、かして。アキの巫女さまにたのまれたの」

「……だ、ダメだよ。く、く、黒ちゃん、いま、す、す、凄く疲れてる。いいいい、いの、命がけになる。それに、それ、も、も、もしバレたら」

 ドモリどもり言葉を紡ぐ言音。その喋り方が普通なのか、それには触れる事無く黒雪姫はゆっくりと首を振った。

「でもね、ことねちゃん、わたしね、今なら。しばらく『いなく』ても、みんな、わたしはただ、ねてるって思うと、おもうから。だから……わたしを……」

「じゃ、じゃぁ、も、もう少し。あ、後、少しだけ、ほ、本当に眠って。起きても、い、い、意志が変わらなかった、たら、たら、ね? く、黒ちゃん」

「うん。おねがい。ことねちゃん」

 拙い二人の聞き辛い会話。それでも二人には伝わっているのだろう。言音の手がそっと伸ばされ、細く小さな手が重なったのを見て、黒雪姫は安心したかのように目を瞑る。これらの会話をこの施設の中で知る者は誰も居らず、大人が黒雪姫の意識の回復を知るのは正月をずいぶん過ぎてからの事となる。

いずれこの30日裏側は30日終了辺りに移動させるかもしれません



"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生、梅原先生。










『以下4名:悪役キャラ提供企画より』


『早束 まなぎ』

とにあ様より



『松葉 奈保(次女)』

パッセロ様より


『黒雪姫』

『言音』

小藍様より




お借りいたしました。








問題があればお知らせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ