30日補足【悪役企画】
結局、書き終わってはいないのですが、書き溜めているうちに整理が付かなくなったので、一度投稿します。ただし本編一月一日の夜まで書き進んでいましたが、一度12月30日まで時を戻し、30日にあった事の敵の裏側なんかを書いておきます。
その前に随分更新していないので、あらすじを。
うろなの北の森で一人暮らしていた宵乃宮 雪姫は、故あって前田 鷹槍の養女に落ち着いた。
絵描きとしての才能が開花し始めている彼女は、うろな裾野の家と森の小屋との往復をしながら、制作活動を行っている。
彼女は日本人でありながら白髪紅瞳の持ち主。刀森という近縁一族に守られた『巫女』であり、一定の条件を満たすと『人柱』としても使える。その為、体を狙われている。
また巫女は神や自然と一体化し、伝える、繊細な体をしているため、『祝福』という儀式を行う事で人として長く生きる事が出来る。夏には一時回復した彼女だったが、徐々にほころびが生じ、弱ってきた為、二月にその儀式を行う事が急務となっている。彼女の体だけではなく、祝福の力をも欲する『宵乃宮』との決戦はその時だろうと定めながら、水面下での奪い合いや葛藤、そして争いが各所で巻き起こっていた。
では。しばらく、30日敵側の動きをお楽しみください。
その部屋は窓がなかった。それでも機械による循環機能で空気はクリーンに保たれている。しかしそこに座った男、早束まなぎにはその空気が重く淀んで感じられた。それは不機嫌そうに長机の上座にある者から発される気配と存在そのものに由来していた。
この建物は早束 まなぎが専務を務める『ゴールドメンクラウド』という外資系会社の社屋。だが社屋と言っても普通の社員は存在を知らないその建物は、町より離れた場所に建てられており、宵乃宮の隠れ家として長く提供されていた。外観も内装も一見普通の会社に見えるもので、この部屋は質の良さげな黒の絨毯の上に長机や椅子が円形に並べられ、多人数用の会議室の様相をしていた。
「平が巫女宅の見張り、そして鴉古谷が土御門当主殺害の準備中なのですね」
童顔で人の好さそうな猫顔の青年が不機嫌さを押さえ、優しい口調でそう告げる。彼はうろな町に住む者なら、うろな文具に勤める『篠生』と見間違えるほどその顔はそっくりだった。だが力を持つ者にはその顔面に酷い火傷の跡を見る事が出来た。
宵乃宮、彼はそう名乗り、長く巫女を支配してきた男。
丁寧な言葉を並べてはいたが、いらだちを含んだ声音。猫のような愛嬌さえ感じる童顔であるのに、暗く深い闇がまとわりついた彼の片目は今、眼帯で覆われている。覆われてない方の細い目は閉じられているかのようにも見えるのだが、静かな獰猛さは隠しきれてなかった。
そんな彼の様子を意に介さず、銀色に輝く扇子をひらりと揺らめかせる女。源氏物語をこよなく愛し、それが過ぎて道を踏み外した余波教授は、その事さえも雅に感じ、この場に居る事を楽しんでいた。その隣にはいつも付き従っている桜色の髪と瞳をした桜嵐が変わらずそっと寄り添っていた。
「平はそろそろ鴉古谷に引き継ぎの時間ですわ、教授」
「そうね、そんな頃合いかしらね」
この場に今いなかったが話に上がっている平 和人は、スナイパーであると言うのに腕は悪い。しかし逃げ足の早さだけは特記すべき能力を持っていた。一度、神父の香取に捕まり逃げて来た際、スパイになった事も疑われた。それでも逃げ足についての前評判と、人材や資材調達等の優秀さでその疑いを解かれ、再びこの組織に溶け込んで仕事をしていた。
「彼らがこの町外のお墓と、例の神父が管轄の教会へ、巫女を含め墓参りに行くのは間違いない情報よ。ねえ、桜嵐」
パチリと扇子を閉じ、机に3Ⅾ画像として表示されたうろな町周辺の地図を指し示す。
「はい、教授。葉子さんが同級生の男にそんな電話をしていたのを傍受しましたから。で、使用ルートはこう……かと。狙うのは移動中ではなく、教会の側にあるこの辺りが適当でしょう」
ふわりと桜嵐が前田家からと工務店事務所がある場所より目的地へ向かう二つのルートを示した。その後は招かれるように余波の椅子のひじ掛けに腰を下ろし、すらりとした足を組み、長くて美しく均整の取れた肢体を誇示する。余波は腰に手を回してその体を自分に寄り添わせながら、逆の手で桜色の髪を撫で、愛でるように指を絡めた。
その座席後ろには生気と表情が感じられない大男が壁のように突っ立っている。
薄手の黒袴に薄墨色の和装姿のこの男。元は『おんま』とタカが呼ぶ昔の仲間であり、葉子の夫だった男の死体を使った、この時点では余波が好む巨大な傀儡だった。
「今回はまず刀森の女を目標として下さい。その為には前田の家主を切り離したいところですね。奈保。出来そうですか?」
「大丈夫です。社長の印鑑を必要とする書類がありますので。電話で呼び出して、その完成を遅らせて到着時間を離します」
余波と桜嵐が寄り添っているのを見て、現在『うろな工務店』にアルバイトととして潜入している奈保はキス魔の本性を発揮して隣の椅子で暇そうにしていた妹、紫雨を引き寄せようとしながらそう答える。しかし紫雨は次姉のその動きを察して、クルリと椅子を回し、無碍にした。
これらの会話が行われたのは正月前、三十日になろうかという深夜の事。
この日の朝。
宵乃宮へ報告されたように、前田家に寄り集まり暮らす者達が墓参りに赴く。その最中に葉子が捕らえられ、刹那の一瞬、『彼』が黄泉路から戻って来る……
その後、帰宅した賀川はユキが『妖精』と呼んだ少年の姿をした『薔薇の小悪魔』イルから、『初夢』と引き換えに『情報』を貰い受ける事になる。
更に語るなら、墓参り中に起こった騒ぎの現場から逃げた鴉古谷 泉が、私刑にかけていた子馬の『雷』で返り討ちのように拘束される事になるのだが。
この会議はそれらの少し前の話。
「刀森の女の生死は問いません。後を追って来れば、前田の家主を倒す事を優先して潰して下さい。今回は白巫女と現刀守は機会があれば程度で」
「え? タカちゃんはわたしのっ……!」
おかっぱ頭を揺らして椅子を向け直し、紫雨が主張しようとしたが、その前にすっと手が伸びてその口を塞ぐ。
「むぐっ……薫おねえちゃ、バレンタインまでって……」
「あの男は巫女確保の為には最大の障壁。早く手を下さないのが紫雨が悪いのよ。バレンタインまで、は、最終期限であって、その間に他の者が手を下すこともある。当たり前でしょう?」
誰もが振り返るような美人、紫雨のもう一人の姉である薫が告げた言葉に、紫雨はその視線を桜嵐に投げた。その後、フッっと息を吐くように笑うと、
「タカちゃん、つよいんだよ? だって桜嵐はまえ、タカちゃんにかてなかったんでしょ?」
「なっ……」
「そっちにいくまえに、タカちゃん殺ったげよっか?」
嘲笑を帯びた少女の素直すぎる辛辣な言葉に桜嵐はピンクの瞳でキッと睨んだ。
「あ、あなただって手を下しかねてるでしょう、紫雨」
「桜嵐とはちがぁーもん。その前のジカンをたのしんでるだけだよぅ。なかよくなればなるほど、死ぬトキにいいカオしてくれるんだから」
確かに以前タカと相対する機会があった桜嵐だが、武器を捻じ曲げられて撃退されたことは間違いなかった。喰ってかかりそうな状況だったが、男性物のスーツを身に纏った薫は二人の視界を遮るように割って入り、妹の紫雨の非礼に対し、無表情ながら桜嵐に詫びるように頭を下げる。
更に余波が桜色の髪を撫でながら膝の上に彼女を誘い、『貴女はするべき事をしているわ』と告げた。その事に桜嵐は満足し、教授に感謝を述べながら笑いかけ、紫雨から視線を反らすだけに留めた。
その向かい側で、手持ちの緑茶をゆっくりと啜っていたアンドロイド研究者である手塚 草平が、
「武器の開発は私が得意とするところではないのだがね、君の武器の強度は前以上にあげてある。出る前に取りに来たまえ」
「マスターの武器は科学の粋を集めた一級品。後は使い手次第だな」
手塚の隣に座った半袖半ズボンの男、三鶴見 ライは美しい光沢を持った銀色の両腕をひけらかす様にその拳を握る。彼の装具は手塚の制作であり、自慢の一品だった。少し前、彼の腕はねじ切られる事があった。だが、それは捕らえられた自分が悪いのだと思い、義手の性能のせいなどと露とも疑っていない。
「ライが貴方の補佐はしてくれるようですが。その後、金剛は見つかりましたか? 妹機も壊れたのですから。その後続機はどうなっていますか?」
手塚は宵乃宮の言葉に、飲んでいた緑茶の中に苦みを感じたかのように顔を歪めた。
「金剛はマスター権限を奪われたようなのだがね、巫女側に付いたわけでもなくその影を見ない。今の所無視して支障はなかろう。後TUDAの廃品で雑魚は量産しておいたが、やはり良機を作るには……」
手塚が言葉を濁した所で、宵乃宮は両手の指を組み、
「手塚、貴方の研究はそろそろ『娘』を迎えに行ける状態ですか?」
「そ、それは資金さえあれば何とか……」
手塚の娘は何年も前に死んでいた。
正確には殺されて臓器を不正に摘出、搾取されていた。その臓器は別件で殺人犯となった女の体内にある。その臓器を取り出して自らの作った子供型アンドロイドに仕込む事。手塚の心中で、それは『娘』を取り戻し、蘇らせる事だった。普通の『アンドロイド』を作るのも難しい中、小型化が必要な子供サイズとなると莫大な費用が必要で、その捻出の為に彼は宵乃宮へ組していた。
「その開発資金、前払いしましょう」
「ほ、本当かねっ」
「二月には巫女の『祝福』を奪いに行きます。それまでに役立つよう、組み立てて下さい」
「む、『娘』を戦闘用に、と?」
「嫌なら無理にとは言いません」
宵乃宮はそこまでで手塚との話を切ろうとした。
この話を断れば手塚は何らかの手柄を上げるまで、資金を回してはもらえない。
宵乃宮にとっては粗悪なアンドロイドではなく、優秀なモノならそれに越した事はなかった。自分の『娘』を中に収めるなら、そのアンドロイドは手塚が持つ最高の技術の粋を集めた物になるのは間違いない。先に戦闘に使うのだと告げていれば、機体に備え付ける武器も最高を目指すしかない、『娘』の為に。
手塚が資金を使って娘の機体を作るだけ作って、宵乃宮の配下から逃亡する恐れも否定できないが、アンドロイドの整備や調整にはまた多くの資材と資金が必要で、火急に逃亡する可能性は無に等しかった。
「では、宵乃宮の望みが叶った暁には、娘を戦いから解放してくれるのかね……」
「ええ、好きにすればいいですよ。……巫女が次代の出産を済ませた後、人柱として私が断つ瞬間までを期限としましょう。それ以降、私の元に残るか、どうするかは追々詰めればいいでしょう」
「しかし、今、兵隊達が少なめになっている件と、今までの資金元が断たれ、いくつかの口座が凍結にあったと聞いたが……大丈夫かね?」
「ああ、抜田の横やりは教授が止めてくれました。それでもその際、確かに凍結された物もありますが、ダミーもありましたからね。既にいくつかは機能を回復しましたから、すぐにでもそちらに資金を動かします。兵隊は平が粟屋を使って補充を探しています。後は外国の傭兵からも三鶴見が引っ張ってきています。今はパスと搭乗機を手配していて、正月明けには補充が完了するでしょう」
「……もう席を立ってもかまわないかね?」
喜びの余りか抑えきれずに震える手塚の声に、宵乃宮は退去を許す旨、静かに手で示した。それに従い、手塚と三鶴見が部屋を出ながら、
「桜色の君は武器を取りに来たまえ」
普段、手塚が見せない満面の笑みで言うのに引いたような表情を見せた桜嵐だったが、同時に余波が立ってそっとその背を押した為、特にコメントを付けずに部屋を出て行く。その後に続いて余波が部屋を出かけたが、宵乃宮が声をかける。
「余波教授。もし人数が必要なら粟屋に集めさせますが? そのまま現地に居る平か、ああ鏨を貸しましょうか」
「ふわ? オレっち?」
席の末端であくびを噛み殺しながらも、ぐったりと机に突っ伏したり伸びたりと、密かに忙しなかった鏨が涙目で声を出した。ちゃらちゃらと彼に首に下がるアクセサリーが揺れる。
その姿を見て苦笑に近い表情を浮かべた余波に、『あー、オレっちのことバカにしてる~』っと鏨が言いかけたが、それさえ途中で面倒くさくなったのか、耳をいじりながら椅子に腰かけ直して机にだらけた。
「……ご心配なく。桜嵐と鴉古谷、それに柏木で十分よ。それよりどうして貴方は『あの年寄り』を狙うのかしら?」
葉子とタカは確かにユキを狙うには邪魔ではある。だが巫女を後回しに、再三彼らを狙う程の理由が見当たない為、その疑問を余波は投げかけた。
宵乃宮の琴線に触れたのか、包帯で覆われていない片目がぎろりと開き、
「色々理由はありますが、貴女がそれを知る必要ではないでしょう? 教授に必要なのはたくさんの死体。それも力の強い者の」
「そうね。その辺の詮索はナシとしましょう。とりあえず今回は柏木のテスト運用もしたいし。あの神父の白き大きな子と会えそうだし、楽しみよ」
「ではもう一つ仕事を差し上げましょう」
「なにかしら?」
「鴉古谷はそろそろお引き取り願おうか、と。弟同様、好きなように潰して来るといいでしょう」
余波は扇子で口元を覆って笑みを隠す。
鴉古谷は宵乃宮の大きな資金源だったが、この所、公暗一課で目を付けられ、更に抜田が繰り出した妨害工作も彼の立場にヒビを入れていた。鴉古谷は一度一課を離れ、宵乃宮との関係を続けるつもりだったが、宵乃宮にその気はなかった。
「あらあら、父親の代から子飼いだと聞いていたのに」
「こちらの足を捕らえられる前に、鴉古谷は切っておくべきでしょう」
「そう。けれどには鴉古谷には『柏木』を分けてもらった恩があるから……」
ほぅっと溜息つき、悩まし気な表情を浮かべると、アシンメトリーに切られた前髪がちらと揺れ、
「名残惜しいけれど、桜嵐に殺させてあげるわ。兄弟仲良く同じ者の手に落ちるのもまた風情があって良いわ」
鴉古谷 泉の弟、雫は作戦に失敗し、口封じとして桜嵐の手で殺されていた。桜嵐が傍にいれば『綺麗に散らせてお見せしますね』と受けて返す所だったが、武器を取りに先に出たため、返事はなかった。ただ静かに無表情の男、柏木がその後ろに控えるだけだった。
「お任せしますよ、教授」
「ふふ。最終的に巫女の右手がもらえるなら特に構わないわ。ねぇ柏木、貴方もその手で妻を殺させてあげる。では……本当に名残惜しいけれど、お先に失礼するわ」
この後、彼女は鴉古谷にとどめを刺す事も出来ず、さらに柏木を操り損ねて『逆凪』を受ける事になるのだが。
柏木は命じられるままに余波の体を掬い上げて肩に乗せると、そのまま部屋を出て行った。
いずれこの30日裏側は30日終了辺りに移動させるかもしれません
"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
(会社などの設定)
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
チェーイールーさん
『以下16名:悪役キャラ提供企画より』
『早束 まなぎ』
『松葉 薫(長女)』
『松葉 紫雨(三女)』
『鏨』
とにあ様より
『木曽 撫子』
YL様より
『手塚 草平』
『アリス』
『金剛』
弥塚泉様より
『平 和人』
蓮城様より
『松葉 奈保(次女)』
『鴉古谷 雫』
『鴉古谷』泉(姓を使用)
パッセロ様より
『桜嵐』
呂彪 弥欷助様より
『余波教授』
アッキ様より
『三鶴見 ライ』
小藍様より
『粟屋 浩一』
弥塚泉様より
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




