お正月です(ユキ)
朝日が昇って。
ユキ視点で31日も振り返りながら。
「皆様、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
「よろ~ユキ姐さん」
「こちらこそ今年もよろしくお願いします」
朝、目が覚めて下階に降りると、お兄様方と廊下ですれ違い、お互い頭を下げ合います。
地下で朝から鍛えた後のお風呂上りな賀川さんも見つけて、同じように頭を下げると、同じように頭を下げてくれるのですが、頭には鳥さんを乗せて怪訝な感じです。鳥さんが落ちないようにしているって感じではないです。
「どうかしたのですか?」
「……年末新年のあいさつって、苦手で。まぁ相手と同じ事言っておけばいいんだって習ったけど。毎年、この時期はちょっと……焦るんだ」
「そうなのですかぁ……って、ち、近いです……っ。かっ顔、かっ」
「ん?」
「か、か、賀川さんっ! ぁの『ん?』じゃないです、ここ日本なんで、あの、挨拶は言葉でお願いしたいんですけれど……」
賀川さん、言葉の挨拶が焦って、キスだと良いとか意味わかりません。それにその口から渡されるほんのり甘い何かが私の体に纏わりついているのが見えます。それは呼吸するように私の体に入り込んで、この頃、重く感じる体を軽くしてくれます。けれど、人前は恥ずかしいのです。
賀川さんは首を傾げて、
「そだね。けど今日はいい夢を見たんだ。あいつのおかげで『初夢』は悪夢を見るんじゃないかって……杞憂だったし、よかった、よかった」
そう言って機嫌良さそうに笑いながら二階へ着替えに行ってしまいました。
「初夢? って何の話でしょうか……」
「あら、ユキさん、あけましておめでとうね。体調良いなら手伝ってくれるかしら?」
「はい、午前中は大丈夫です。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
「よろしくね。さ、こっちに」
葉子さんに声をかけられ、疑問詞をそのままにしてお手伝いに行きます。
お墓参りで大変な目にあったけれど、葉子さんはお薬が効いていて痛みはないそうです。
昨日はバタバタとおせちや煮物などを用意していました。そうそう鈴木さんが手伝いに来ていたのですよ。
「お料理上手なんですね……」
「これでも喫茶店のマスターでもあるからな。おっと、葉子さん。鍋、重いのはアホがやるって……」
「アホって呼ぶなっ、葉子さん持ちます」
「ありがとう、二人とも」
「アホはともかく、俺は役に立つだろ?」
「だから……おわっと」
「ほら見ろ! 運送屋のくせにそんなトコで倒れかけるとかアホだろ? いやドアホか?」
「………………何で一文字入っただけでムカつき度が増すんだ?」
「ドアホのドは、意味を強くする接頭語だからな! それも見下す言葉をより強調できる」
「窃盗?」
「お前、本当にアホだな……」
「…………っ」
「まあ仕方ないでしょ、鈴木先生! 日本より海外の方が長いんだから。さ、寿々樹ちゃんって呼ばれたくなかったら働く。あ、これもお願いね、賀川君」
鈴木さんに使われる賀川さんと、その間を葉子さんはとりなしながら、今日の支度をしていたのですよ。
鈴木さんの料理の腕は本物で、滑りやすい里芋も手際よく剥いていました。
一緒についてきていた八雲先生は出来た料理を味見しながら、お酒を飲んでしましたよ。足を怪我したとの事で、
「飲むくらいしかやる事ないのさねぇ」
って言ってて。
アリスさん、予想より早く右目は回復したのです。
綺麗な緑の右目で鈴木さんに使われている賀川さんを眺めていたのです。その眼差しはとても優しくて、無言で愛を語っていました。私が見ているのに気付くと、
「貴女の絵を見せてくれないかしら?」
そう言うので、私の部屋に案内します。彼女は私の絵を見ながら、
「諦めたいんだけど……なかなかね……これ、凄いわね……トキの……こんな頃の写真でもあったの? そんなわけないわよね? でもとっても良く描けてるけど」
「それはその、ラフで『想像』なのですけど」
「これがソウゾウ?」
彼女が眺めていたのは酷く汚れてボロボロの少年、たまに頭の中に出てくる賀川さんの少年の頃。私の勝手な想像だと思って前に描いた物だったのです。でもイルさんに会ってから、過去や未来を見ているとはっきりわかっては来ていたのですが。
「想像、なのです」
カトリーヌ様に言われたように誰にでも話していい内容ではないから、そうやって突き通す事にします。今まで想像で描いた絵をいくつかを処分した方がいいかもしれないと考えました。
なので鈴木さん達が帰った後、バタバタ大掃除をしたのでした。ゴミは全部、カトリーヌ様が処分すると言って持って行ったのですが、次に声をかけた時にはもう見当たらなくて。ゴミの日ではないのにどうやってしたんだろって不思議でした。
高馬さんの所から戻って、カトリーヌ様の足元にいた小さな白王さんのお腹が大きかったのは気のせいでしょうか?
今日は葉子さんをお手伝いして、朝におせちをいただきます。
おとそをタカおじ様が注いでくれて、皆で赤い盃にちょっとずつ飲んで今年の健康を祈ったのでした。
簡単にお片づけをしていると、葉子さんの携帯が鳴ります。
「謹慎? それより体……そう。あけましておめでとう、ええ、はい。じゃぁまた」
短い電話でしたが、葉子さんがとても嬉しそうです。
「高馬から、よ。『謹慎中だから長くは話せないけど、あけましておめでとう。母さん』ですって」
「具合は?」
「声からすると本調子ではないと思うけれど、初日の出の前にはデスクワークやっていたみたい『早く海さんに会いたい、手料理食べたい』って。色気と食い気が連結しちゃっているわねぇ……フラれた時は慰めなきゃかしら。海さん、とっても素敵な御嬢さんだもの……冴ちゃんやぎょぎょさんと違って年齢は大丈夫だけど。私にはかわいい息子でも、高馬の見た目はねぇ…………一般受けはしないと思うのよ……」
電話を受けた葉子さんは安心と共に、高馬さんの未来の心配をしながら台所を片付けるのでした。
こんな感じでお正月を迎えたオジサマの家に、嬉しいお客様がやって来てくれたのです。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
ドリーシャ(ラザ)
海さん
ちらっと薔薇の妖精さんとの約束……
『以下1名:悪役キャラ提供企画より』
『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。
お借りいたしました。
問題があればお知らせください




