収拾中です(悠馬)
過去を振り返り。
三人称です。
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遠い、昔……大切な弟を許せず、更にこの世に生れ落ちさえできなかった命の事を思い出していた悠馬に声がかかる。
「いい跡継ぎじゃないか。あの明るさと無鉄砲さには呆れるが。そう言えば母親の……葉子と言ったか、彼女も物怖じしなかったねぇ。人間の女にしては肝が据わっているよ」
「友禅……」
「お前の直系の熊も悪くないけれど、あの子は自分を知り過ぎていて伸びきれなかった。でも子馬は笑って自分のやり方で道を切り開いて、多少の無茶もやってのける」
悠馬の前に花魁を思わせる派手な着物を身に纏った女、一課長の友禅が立つ。鴉古谷の首に帯を巻いたのはこの女性だった。
「あれは本当に和馬のようだよ」
「……和馬と似てるから困るんだ、友禅」
慣れ合うほど仲が良かったわけではないが、友禅は悠馬と和馬兄弟の事をそれなりに知っていた。
友禅は昔、土御門本家の近くに住んでいた。そしてある時期、その近くの子供達を束ねていたリーダー格が悠馬だった。
彼は強かったが、末弟である和馬が泣いたなら、誰より先に泣き止ませようとした。そして自分の知識をつぶさに教え、いつも引っ張って回り、下にも置かぬ可愛がりようは有名だった。
和馬はそんな兄に懐き、ついて回った。土御門特有の厳つい顔ではあったが、荒い悠馬と対照的にとても柔和で優しかった。そして変幻自在に土を操る鬼道の潜在能力は悠馬を上回り、稀代の陰陽鬼道術師になると言われ、それ故に古くから示唆されていた『刀打ち』の任務につき、うろなへ住み着いた。
そのような仕事より当主の座につかせたいと、一番反対したのは悠馬だった。
そろそろ頭角を現す時期だったとはいえ、悠馬もまだ子供に類された為、大人の決め事には逆らえない。年いかぬうちに和馬がうろなの別宅に預けられても、会えば変わらない過保護な兄だった。
そんな弟が、因縁のある宵乃宮と関係がある刀森の女と関係し成した子。それが子馬。
あの騒ぎの後、悠馬はまだ小さかった子馬に会った。
あれほど毛嫌いした女の息子だと言うのに子馬は和馬の幼い頃に似ていた。抱きしめたい気持ちを抑え殴った子馬を、一人反抗して守った六角に世話役を任せ、厳しく当たった。
悠馬は子馬と出合った瞬間に和馬以上の能力を見出した。『力』を溜め込む丹田と言う倉庫が体にあるが、そこの許容が土御門の中でも、並み外れて大きかった。
だが当時、その倉庫はカラでしかなかった。
それも彼を連れて行く時、母親のお腹にいた第二子を部下の暴力が原因で亡くしてしまうと言う失態。
たった一つ残った子馬を、亡くなった和馬の為にも一人前にしたくて、悠馬は無茶を強いた。いつしか当主を任せるほどの男となったが、悠馬の望みは果てしなく……
「何故、和馬は子馬を早く磨いてやらなんだか……」
「さぁねぇ? 土御門に関わらせたくなかったのかもしれないね。こんな過保護で強引な兄様の居る場所に……」
「そ、そんな事はない、和馬に限ってそんな事は……」
「まぁ土と雷以外の支配は低め……ああ、今回現場で水を操ってたけど?」
「……いつの間にか水の精と契約したようだと技術部のヤツが騒いでいたが」
「ふうん、水ねぇ……くらみづは、か……前に見た折は風も使っていたし、順調にオールラウンダーに育ってるんだねぇ。結果オーライだろう。そうそう、子馬が町に戻る前に話し合いをしたい……いいね、悠馬」
「……宵乃宮か」
「他にもあの巫女が欲しいのは多いみたいだねぇ。宵乃宮に落とすくらいなら、余所の国に納めればとか、岩戸に閉じ込めようとか考える者も多いし。ランクAに格上げした方がいいんじゃないかと私も思う」
「……帰る前に場を持とう。で、資料の方はどうだ」
「問題ない質と量だよ。鴉古谷が強請っている様子も鮮明に映っていたしね。言い逃れはできんよ」
一課が管轄する『資源』のリストの改竄跡や、元一課長鴉古谷へ渡った闇献金などがつぶさに記されたデータは子馬のパソコンから出され、友禅の手に既にわたっていた。
「しかしよくこんなデータが手に入ったね」
「鬼島の小父貴へ挨拶に行った折、宵乃宮関係だと、くれた資料を基に調べたようだ」
「あの御仁の、ね……この頃、パスも戸籍ももうないのに入れろとか騒いでたって聞いた気が……まぁ納得だね。こっちの映像も助かったよ」
また鴉古谷が潰したはずの鎖骨に仕込んだ視神経を介した映像は、きちんと子馬の体に残っていた。技術部のダミーデータで右の鎖骨を鴉古谷は抉ったが、本当に仕込んであったのは逆骨。子馬にも右と知らせて左に埋め込んだため、その点でもバレる事はなかった。ただGPSはジャミングで使えなかった為、監禁場所の特定には時間がかかったのであった。
友禅は資料を手に、刻むように言った。
「鴉古谷は悪い奴じゃなかった。ただ時間が経ち、色々とやり過ぎた。宵乃宮もこちらの流れに気付いて手を切った直後……もう尻尾はつかめないだろうが。一課の機能自体はこれで『正常化』する。感謝を述べておこう。お前達一族から供出される物資に関して、どういう判断が出るかはわからないが。ではまたな、悠馬」
ひらりと着物を揺らして、彼女は悠馬から離れた。
それを見計らったかのように、悠馬は息子である空馬、子馬が熊と呼んで信頼を置く男が歩いて来る。
「子馬……いえ、当主様の具合は?」
「目が覚めた。途端にうろなへ戻ると言って皆を慌てさせている」
それを聞いて空馬はホッとしたように息をついた。
「そんな顔をするなら、あの女の所になど行かさず、あの土蜘蛛を早く渡せばいいモノを。そうすればあそこまで弱る事はなかったろう……時子の差し金か?」
「どうとっていただいても構いませんよ、父君。それより出張費用の伝票を出してください。事務所に用紙はありますから。その間に私は当主様をからかいに行ってきますので」
空馬はそう言い残して悠馬とすれ違った。
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うろな町~僕らもここで暮らしてる~(零崎虚識様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7914bq/
『帰ってきた儂(鬼)』『忙しい儂』より
すべては親父を殴るために
http://book1.adouzi.eu.org/n5357bu/
鬼ヶ島厳蔵さんに会いに行った時
(12月17日)頂いた資料
『以下1名:悪役キャラ提供企画より』
『鴉古谷 雫』(パッセロ様より)の家族として創作
『鴉古谷 泉』(兄)
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