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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
2014年1月1日

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497/531

年越です

llllllll

再び子馬方面。

三人称です

llllllll





 子馬が目を開けると、元々居た、あの謹慎部屋だった。

「あれ? 動けなぃ……」

 そこは中が様変わりして、いろんな医療器具が運び込まれ、先ほどの医療部の女性と技術部との面々が、子馬をベッドに括りつけ、それぞれの仕事を行っていた。様変わりしているのにどこかわかったのは、窓の外の小さな風景と自分の教科書が部屋の隅に積まれていたから。

「二課長っ目が覚められました。当主がっ」

「よかった。もう戻らないかと……気分は悪くないですか?」

 子馬の目覚めに気付き、周りが声を上げる。

 頭部挫傷、多量の出血、体躯に走った幾重もの切傷、腹部の突傷、鎖骨の欠損、低体温……

 悠馬の判断で素早く陣から連れ出して、土御門の身体が持つ修復能力を稼働させつつ眠りに誘ったものの、子馬は丸一日、生死を彷徨っていたのであった。

 だが本人は自覚しておらず、ただただきょとんとして周りを見やった。

「大丈夫、と、思うけれど……伯父貴……?」

「……子馬を頼む。起きれる様になったらそこの書類をやっておけ、今から謹慎処分の時間になる」

「え? じゃあ、今までの時間は?」

「無論、加味されない。土御門 高馬、本日一日を持って十日間の謹慎処分を実施する」

「ええええええっ! ほ、本日って今日一日? まだ日の出じゃないよね???」

 部屋の片隅に音を消して付けられていたテレビを見やれば、新年を祝う花火が上がり煌びやかに踊る少年達の姿が見て取れた。

「じゃ、今から急いでうろなに帰ったら、まだ海さんの手料理が……」

 子馬の言葉に周りの皆の気配がさっと冷たくなり睨みつける。

「冗談じゃないですよ? 今から帰る? 無理無理、その体では。それも食事は流動からですよっ」

「貴方の独断行動でどれだけみんな心配したと思っているんですか?」

「明け方、徐脈になって。全部が完全に下がってダメかと思った中、やっと持ち直したんだ」

「え? そうなの? ……そう言えば巫女の所で」

 子馬が夢の中で愛しの女性とその妹に会った後、巫女や神父の香取と話したのを思い出した時、周りの者が子馬の手首に鎖をつけ、寝台に括りつけた。

「えええええっ」

「ともかく当主様、絶対安静ですからっ」

「それに傷の治りでデータ取りますから、逃がしませんよ、当主。こないだ手の怪我の時のデータで作った『クッツキ~クリーム』をですね……」

「えええええっ。か、帰りたいよぉ、海さんと手料理と、甘酒に、初日の出をぉ……海さーん。海さぁ……」

 子馬の台詞を遮る様にばたん、と、扉を閉めて悠馬は退室した。

 愛しの女性を思ってさめざめしている扉の向こうで、伯父ゆうまは溜息をつく。子馬の一時的とはいえ危篤状態に一番やきもきした男だったが、目覚めてみるとあの通りで、頭を押さえる事しかできなかった。

「どうして和馬と言い、高馬と言い、姫となると目の色を変えるのか……」




 かつて土御門を出て行く弟、和馬に『それならすべてを置いて行け』と、怒鳴り散らしたのを悠馬は思い出す。いつもにこにこと笑っている弟がこの時ばかりは表情を曇らせて姿を消した。

 それから五年近くが過ぎたある日、時子がやってきた。

 元々陰陽道は方角による科学であり、それによって物事の吉凶を変化させる。分家である『兎の月矢』は占いに特化し、土御門を長く支えてきた。中でもその能力が半端ではない彼女は、お茶を点てながら言った。

『そんなに苦いお顔ばかりされるのでしたら、もう許して差し上げては……時子はこの所、嫌な予感がしてなりません』

『生まれつきだ、この顔は。お前の六角とさほど変わらん』

『……悠馬様。私は前々から『我が園ではなく、行きし地で見初めし女と結ばれれば命短し』と和馬様の事をお伝えしてきたはずです。もうあの女性とは切って切れない仲でございましょう。息子様は来年は小学生だそうです。この機会に彼女を受け入れられては……』

『だから『我が園』……土御門の名を女にもくれてやった。『行きし地で見初めし女』であっても、それでお前の予見は外れる。それで和馬は死ぬ事などない。人間は早うに死ぬ、我々土御門の寿命には追い付かぬ。和馬を迎えるのはその時で十分だ』

『ですが……』

『これ以上の問答は無用!』

 茶を啜ると、いつもは美味い時子の茶がとても不味く感じた。

 そしてその茶の苦みを忘れぬうちに、和馬が建物の屋根に潰されたというありえない報告が届く。土御門がコンクリートであろうと、土に関わるもので圧死など他の術師と一戦でも交えねばありえない話だった。

 とにかく体は決まりに則り回収、和馬の残した子を奪ってこいと命令を飛ばした。

『六角! 時子を呼べ!』

『……っ』

『聞こえぬのかっ!』

『……数日前より時子は臥せっておりまして。とても……』

『悠馬様、参りましたわ。そろそろ私をお呼びではないかと』

 時子は元々線の細い女子ではあるが、更にその日は痩せて見えた。夫である六角が側寄って支えようとしたが、それを差し止め、悠馬の前に座る。その金と黒の眼力は衰えておらず、むしろ爛々として何かに操られているかのようだった。

『何故、和馬が死なねばならぬ? ちゃんと予見を逸らすようにあの女に名をくれてやった……』

『あの時、時子は受け入れるべきだと申し上げました。渡すフリをしただけでは先見を消す事は出来ません』

『フリなどと……』

『よく『字画が悪い』などと『会社名』を変える企業がございます。けれど名を変えたからとて、実が変わらねば何が変わるでしょう。新しい気持ちで向かう、それこそが予見や行き先を変えるのです』

『……だとしても、だ。建物に潰されるなど。和馬の陰陽鬼道をもってすればありえない。誰かの……』

『確かに近くにはミゾレが居たようですが。和馬様の力は時子が封をしておりました』

『何だと? 何故』

『理由はともかく和馬様が亡くなりました原因は、不吉な先見を立て、変える事が出来なかったばかりか、最後の綱さえ切ってしまいました、すべての責任はこの時子に……』

 沸々と湧いていた当たり所のない怒りや悲しみが、目の前の金と黒の髪をした女に傾いて行く。だがその怒りをぶつける間もなく、

『お待ちください!』

 時子を庇うように六角が前に座る。

『おだまりなさい、六角!』

『黙ってなど居れません、お嬢様っ』

 慌てたのか六角が婚姻前の呼び方で時子を呼んだ。普通なら失笑物であったが、笑う者など居なかった。

『和馬様に『すべてを置いて行け』と申されたのは悠馬様です。ですから封印を。それも封印があっても小さな術は発動も可能でしたし、和馬様が本気を出されますれば、その『封』を解けるような単純な物。お嬢様が悪いわけでは決して……』

 六角が庇おうとするのに、時子は首を振る。金と黒にくっきりと分かれた稀有で美しい髪が左右に揺れた。

『封印とはある物を無きが如きに封じ込める物。その思いが強ければ、児戯に等しい施錠であっても解けなくもなるものにございます。また封印を無理に解けば、周りを切り刻む事もあります。和馬様の御気性から、そんな選択肢はなかった事でしょう。もともと時子わたしが、かけねばよかったのです』

 沸騰直前に六角に水を入れられて、悠馬は気を沈めようと努力した。時子は悠馬の気性の荒さを知るが故、行きどころのない怒りを己が受けて集約しようと図ったのは、微かに頭を冷やした悠馬には理解できた。

 怒っていても、もう時間も和馬も戻らない。

 理解できたからには当主としての立場というモノがあった。歯と歯の間からシュウシュウと呼気を抜く音をさせていると、時子がまだその瞳を輝かせながら、六角を押しのけ、再び平伏し、

『先の責は後に受けます故。ただ一つ、これ以上の最悪を招かないようお願いに参ったのでございます』

『……何だ? これ以上の最悪など何がある……』

『絶対に……和馬様の嫁姫に手を触れませんよう。時子が参って説得し、和馬様の息子、必ず連れてまいります故』

 余りに真面目に時子が平伏し願うので、もっと重要な事かと思った悠馬は失笑に近い笑いを辺りに響かせた。時子が顔を上げる。

『どれだけ恨みが深かろうと直接、女子を殴ろうとは思ってはおらん。確かに和馬の子は土御門に引き取ろうと思っておるが、時子の手を煩わせる事などない。しかし殴られて終わるなら、子をもぎ取られるよりその方がイイかもしれぬが。母親なら』

 その台詞で安心するかに思われた時子の顔色が更に悪くなった。

『まさか…………もう誰かを向かわせたのですか?! 悠馬様っ』

『和馬の体は国に引き渡しがある。それと子を取りに、二班に分けて向かわせた。もうじきに到着するであろう』

『は、母であれば、お子を取られそうになれば手を伸ばしましょう……』

 時子がガタガタと震えだした。

『手向かう母を手荒く扱えば、せっかく宿りましたる二人目の『お子』は失われてしまいます…………時子は、時子は……日に二人も……大事な者を救う事もできず、月矢の者として失格にございます……』

 そう呟いて崩れるように気を失う時子を抱え、

『こ……この場を立つ無礼をお許しくださいませ、当主様っ』

 六角が巨体を翻し、彼女を守って疾風のように消えて行ったのを呆然と見送った。

『子、だと……何を言ってるのだ。時子は…………おい、現状況は……』

 側仕えが囁くように、二班ともこちらに向かっていると告げる。

『あの女が今どういう状況か、密かに調べろ……早急に、だ』

 時子の残した言葉通り、子馬を奪い連れてきたすぐ後に、女は町医者に連れて行かれていた。周りの住民に聞き込めば、大量出血によって流産したのだと報告を聞く事になった。


 遠いあの日を思い出し、悠馬は溜息をついた。


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん 汐ちゃん


お借りいたしました。

問題があればお知らせください。

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