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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月25日~1日まで

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496/531

振り返り中です(ユキ)

久しぶりにユキ目線。

子馬目線より少し時間を戻して。

墓参りを済ませた夕方頃です

lllllllllllllllllll







 ぼんやり考えます。今日は葉子さんが攫われたりして、大変だったけれど。

 病院から戻った葉子さんは頭を打っていなかったので大丈夫だと言って。この頃、夕方になると具合の悪くなってベッドに居た私の方を見舞ってくれました。怪我を負っているのにとてもご機嫌のようで……それでいて母屋の窓から空を見ては何かを思い浮かべていました。

「『大切なモノは側に。必ず居ます。迷っても必ず貴女の元に帰ってきます』」

 口をつく言葉。

 私の言葉でありながら、私の中の別の何かが発する言葉。これはきっと水羽さんと重なっているその瞬間だと感じます。赤い髪の妖精さんに会ってから、今までよりハッキリといろんなものが見えるのです。それは人影であったり、色であったり、糸や紐であったり。それらの意味はわからない事が多くても、私の意図よりも水羽さんの意志で口から紡がれるそれは、語られる人物には意味がある事のようで。

 浮かぶ言葉を聞いた葉子さんは、微かに目を見開いた後、笑うのです。

「ユキさんは不思議な娘ねぇ……貴女が言うとそう思えるわ。いや、そう思っている事を思い出させてくれる。貴女が巫女だって意味が分かった気がするわ」

「……私、変わったでしょうか?」

 そう言うと葉子さんは首を横に振り、側に居た賀川さんがそれに頷いて、

「雪姫は……雪姫だから……でもこの頃、前よりもずっと綺麗になったけどね」

「ふふ、女はねぇ恋すると綺麗になるの。そこは変わったかもね。でもユキさんはやっぱりユキさんだから……貴女こそいろいろ心配しないで。この家に居なさいね、貴女はこの家の、タカさんの娘なのだから。……って、言っても私はただの使用人だけども」

「失礼するよぉ~葉子君がただの使用人ならぁ、ここに居る皆が皆、よくわかんない状態だよねぇ~」

 そう言いながら現れたのはエプロン姿のカトリーヌ様。

「わ、私はただの使用人、以下でも以上でもないわ」

「そう思ってるのは当人だけだよねぇ~葉子君が居ないってわかった時の投げ槍君の顔を見せてあげたかったよぉ。まさかおんま君があそこで、葉子君を傷つけない為に樹になっちゃうなんて思いもつかなかったけれど。僕の親友は二人とも愛が深すぎて神父として感銘したよぉ……っと、さぁ、お口に合うかわかんないけど食べてね、ユキ君。葉子君も少し休もうねぇ。投げ槍君から怒られちゃうよ」

「タカさんも疲れているのに急な修理が入って大変なのに、私の心配なんて……ねぇカトさん、高馬から連絡はあったかしら?」

「いや、こちらにはないねぇ。子馬君は『その折鶴が飛んでる限りは大丈夫』だって、伯父君おじぎみが言ってたんでしょ? ねぇ~葉子君、投げ槍君に心配させない様にそろそろ休んでよぉ。僕が怒られるからぁ」

「もう大丈夫なの。八雲さんに診て貰ったし。……わ、わかったわ、カトさんったら、そんな目で見ないでもちゃぁんと休みます。そう言えば寿々樹ちゃん……じゃなくて、鈴木先生、明日こちらに来るって言ってたわ。じゃぁ私は行くわね」

「食べたのは入口に出しといて~じゃね。賀川君。頼んだよ」

 一日が静かに暮れ、夕暮れの光と夜の闇が部屋に落ちます。

 私はカトリーヌ様が作ってくれた食事を少し食べ、賀川さんは寝るまで側に居てくれました。邪魔にならない様にしてくれているのか、手元の本に目を落としています。頭の上には白い小さな鳩さん。とても懐いているようです。生き物は飼わないって言っていたような気がしますけど。そう聞くと『ドリーシャは飼っているわけではなくて、よく側に来てくれるんだよ』と彼は言います。

「ところで、何を読んでいるのですか?」

「……楽譜スコアだよ」

「ピアノ、本当に好きなのですね」

「昔は……世界にいきたいって思っていた……」

「やはりピアニストに、なりたいのですか」

 微かに笑う口元、何かを思い出したのか泣き出しそうな表情。

「その夢は……今からじゃ遅いのですか?」

「そう、だね……もう二十五だし。世界中でどれだけピアノが弾ける人がいるか……それに今はココを離れたくない。この家にピアノはあるし、何より俺の居る場所は雪姫の隣だから」

「私、賀川さんのピアノが好きですよ」

「ピアノだけじゃなくて、俺の事も見てくれると嬉しい……」

 そう言って優しく、唇を重ねるキスをくれます。鳩さんはパタパタと私のイーゼルにとまって首を傾げながらこちらを見ています。

 鳩さん以外、人はいないのですが、顔を寄せられると何だか恥ずかしいのです。どうしていいかわからなくて首を竦めていると彼は笑って抱き寄せてくれます。彼の心音が近くて、呼吸が互いに感じられる距離。しばらくジッとしていましたが、賀川さんは溜息をついて椅子に座り直し、また楽譜を眺め始めるのです。

 その後は何をしゃべる訳でもなく過ごしました。目が合うと不安を溶かすように笑ってくれるのです。部屋にゆったりと満たされる柔らかな気配は、紅茶やコーヒーの湯気のように賀川さんから立ち上っているのを感じます。その湯気がゆっくり私の中に溶け込むのがわかりました。

 眠りに落ちながら水羽さんの声を聴きます。

『いそうろうの力は、貴女に合うわねぇ。はやくやっちゃえばいいのに』

『何をですか?』

『それはにんげんだから。いのちをつなぐの。いそうろうが死ぬまえに……』

 その言葉にイヤなモノを感じて目が覚めると、もう真っ暗でした。

 当たり前なのですが、賀川さんは夜を一緒に過ごすわけにはいかないからと、眠った時に出て行ったようです。鳩さんもいません。手には黒軍手君が握らせてあって、それをぎゅっと握ります。

「大丈夫、なのでしょうか……賀川さん、死んじゃうのでしょうか」

 けれど水羽さんの声はしませんでした。いろいろとやっぱり都合の良いようにはできないみたいです。考えていても仕方ないので寝返りを打って寝ようと思ったのですが。

 その時、どこかいつもと違う気がしました。

 少しだけカーテンを開けてみると、曇った窓の向こうで赤い光を纏った折鶴が舞っている……ハズなのに、光は皆地面に落ちて、淡く明滅しているだけです。

「高馬さん?」

 暗い庭には大きな影が蹲っています。コンコンと窓ガラスを叩くとクルリと振り向き、のっそりとこちらに向かってきます。そして扉から入ってくると思ったのにそのまま壁に激突……しなくて、ずるっと投影機で映した影のように入ってきました。

『俺が見えるんですね、巫女……』

「見えないのですか?」

『普通は見えないと思いますよ。ああ、でも海さんの妹ちゃんは見えてるみたいだったけど』

「汐ちゃん? ですか?」

『うん。海さんはとっても素敵な人だし、勘は鋭いけど。基本的に普通の人間だよね。だけど妹ちゃんは色々あるみたい。俺の関与するところじゃないけど……さっきは会えて嬉しかった……あれが最後なんて嫌だよぅ~あみさぁん……』

 ゆらり、それは大きな影なのに、風に揺れるろうそくの炎のように頼りなさげで今にも吹き消えそうです。

「大丈夫ですか?」

『どうかなぁ。体に近寄れないんだよね……今日は契約もしたし、雷も落としたし、叔父貴の壁も壊したし、いろいろやりすぎたかなぁ』

「契約?」

『ああ、巫女ならわかるかな? その辺の風にも、光にも、何か……居るのって』

 ソレは小さい頃にはいつも側にあったモノ。私は日本中を渡り歩いているうちにいつしかわからなくなっていましたけど……そう、初めて森に住んだ時はわからなくなっていたのですよ。けど、ソレに逆らわなくなったらふわふわ森が歩けるようになったのです。

 子馬さんがソレを指しているのは感覚で分かったので頷きます。

『土御門は陰陽鬼道によって彼らを起動させるんだけど。俺はその場限りじゃなくて、固定の『精』と契約して動かす事があって……今日ちょっと水の中で溺れかけたんだけど……』

「え?」

『まぁ、我慢大会だよ。大丈夫。で、その時、水の精と契約ができたのは俺に巫女の匂い、いや、正確には水羽様の加護があったおかげなんだよね』

 子馬さんの透けた左手が開かれると、水色の光の粉が部屋中に飛び散ります。

「綺麗です……」

『巫女に会えたのが嬉しいみたいだね……ともかく……今はちょっと力が足りなくて。ココに置いていた力を使いに来たんだけれど』

 へらりと笑うその顔が力なくて。とても疲れて眠そうです。

 さっき、カトリーヌ様が『その折鶴が飛んでる限りは大丈夫だって、伯父君が言ってたんでしょ?』って言っていました。今、折鶴は地面に落ちて、はたはたと揺れているだけ。

『まだ足りない、かなぁ~全部持って行くとココの守りが出来ないし……』

「……もう瀕死の状況で、守りも何もないでしょお? 子馬君」

 かちゃり、扉が開いて。いつから居たのでしょう、そこにはカトリーヌ様が笑っていたのです。

「何か気配がすると思ったら……どうも手ひどくやられたようだねぇ。君が復帰するまではユキ君の部屋の守りも僕が入るよぉ? てか、復帰できる?」

『今、ちょっと足りない感じで……ココを乗り切ればどうにかなると思うんですケド』

「た、足りないとどうなるんですか?」

『お迎えが来てるんだよねぇ。気を抜いたら引きずり込まれそうに……ああ、まだ行く気はないんだけれど。さっきなんかせっかく海さんの側に居たのに邪魔されて……』

 そこで高馬さんの足元にたくさんの手があって、泥から足を引き上げる時に似た動きでそれに引きずられない様にしているのに気付きます。その手は私やカトリーヌ様には興味がないようです。高馬さんの意識は何だかふわふわしているようで、気が抜けた状態になると腕にひっぱられ、それで我に返ってやっと意識を保っている、そんな感じでした。

『海さんの料理を食べるまでは死ねないしっ……じゃぁ、ココの守りを小父貴、お願いしてもイイのかな……』

「もともとユキ君を守るのは守備内だから……けど君は? 自分の事は大丈夫?」

『……お願いできますか』

「わ、私からもお願いします」

「ユキ君たってのお願いなら仕方ないしぃ。おんま君の息子だからねぇ。でも、タダじゃないよ」

『じゃぁ、……ツケで』

「わかったよぉ……体が完全に機能停止していなければ浮遊した魂を体に戻すくらいはワケないから。るぅ! 送ってやってぇ。おんま君の『風』とは仲がイイから任せられるよねぇ? あ、でも、もし体がダメな時は葬送してあげる」

『そ、葬送って!』

「神の御許へ……」

『冗談っ……わっ、ぷ……』

 きゅるりと音がしたかと思うと、部屋の中を吹き荒れる突風。

 ちらりと白王さんの大きな姿が見えましたが、激しい風に思わず目を閉じてしまいます。その風を感じなくなって目を開けると、子馬さんもカトリーヌ様も、白王さんの姿はなく。いろんなものが吹き飛んだはずの部屋は何も動いて無くて普通でした。そして暗かったはずの外はすっかり明るくなっていました。

 外に出ると、もう太陽は高く上がっていました。日陰にカトリーヌ様がいて笑っています。

「おはよう、ユキ君」

「おはようございます。って言うかもうお昼です? もしかして、ずっとそこに?」

「朝日は嫌いだから、明け方は投げ槍君に変わってもらっていたけどねぇ……」

 小雪が舞い散る中、その手に握られた折鶴がふわりと空に浮き、

「もう子馬君、大丈夫そうだねぇ」

 その言葉に私はホッとしたのでした。

lllllllllllll


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

ドリーシャ(ラザ)赤薔薇の妖精さん

海さん 汐ちゃん


URONA・あ・らかると(とにあ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n8162bq/

るぅるぅの基本設定

(とにあ様宅るぅるぅとは別個体、風属性、白色成体です)


『以下1名:悪役キャラ提供企画より』


『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。

お借りいたしました。

問題があればお知らせください

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