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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月25日~1日まで

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子馬7(12月30日)

lllllll

人里離れた場所。

解決?編。子馬目線です。

llllllllll







 人里離れた建物。

 昔、組織が使っていたのを密かに修復して使っていたのか。

 吐かない加害者を繋いだり、事件の証言者を匿ったりする、普段は使われない建物なのか……

 今の俺の知識で何の建物であったかはわからないが、公暗組織はこのような施設を無数に抱えている。その中のたった一つをどうやって探したのかと問う俺。伯父は渋い音調で答える。

「何日経っていると思っている。出る前、熊に何かさせただろう? お前が黙って出たのだからとなかなか口を割らなかったが……流石に時間が経ち過ぎた。それでお前の土蜘蛛に張らせた糸を辿ってきた。まあ、後少しで自力解決も出来たろうが」

 うちでいう陰陽道は陰陽五行に則りながら、鬼道という土御門ならではの力でいろんな現象を起こす。中でも土に関する物に特化している。俺は土以外に、雷の精に気に入られている為それも使うが、動物使役はした事がない。

 だが成り行きで預かった土蜘蛛。一時、巨大化させられて、タカの伯父貴が一本、足を折って何とか止めた子だ。それが伯父貴の肩口からもそりと現れた。

「いいえ、来てくれて助かりました。お前もありがとう」

 土蜘蛛は音も立てず俺の髪の中に入って行った。熊が返しの術を仕込んでいた時に、蜘蛛に気付いて言い含めて使役したのだとやっとわかった。

 もしそれが無かったらこの援軍はなかった。

 俺一人だったら、鴉古谷の自決を止めたとして、一課の者達は必死で食い下がって彼を逃がしたかもしれない。そうなれば、もう何回か雷撃を落とし、死者が多数という事になっただろう。それか俺の体力が続かなくて、あの場で倒れ伏していたか……各種の最悪が頭をよぎる。

「やっと思い至ってきたか、馬鹿者が。いつまでじゃじゃ馬をしている? もうお前は大将だ。自覚を持て」

「だからこそ、動くのを忘れたくないんです。それも当主であっても、二課長ではないんで、ココではただの一兵卒でしょう?」

「兵と言うなら規律を持て。もっとやり方があるだろう? 囮捜査を許可した覚えはないぞ」

「伯父貴がいなくて。でも今しかないなって思って、ハンコは元に戻してますよ?」

 そう言ってニッコリ笑って返す。

「書類偽造とは、余裕だな」

「鼻水垂れてますけれどね」

 それを聞いて溜息をつく小父貴。

 止まっていた護送車に放り込まれる。両サイドに長い椅子があるが、犯人移送用の殺風景な車ではなかった。

 真ん中はベッドになっており、長椅子の上壁には棚がたくさんあり、薬品が並ぶ。救急車の内部や八雲先生の病院を思い浮かべた。俺は転がったまま、車は走り出す。慌てて乗り込んだ医療部の女達が手早く毛布で寝床を整えてくれて、甲斐甲斐しく手当をしてくれる。

 そう言えば本当に体が動かない。鴉古谷を止めるので、全部出しきってしまったのかもしれない。

 俺が手当てされる様子を見ながら、伯父貴が話を続ける。

「お前の母とその家主に会ってきた」

「え……母さんとタカの小父貴に?」

「……和馬の死体が傀儡と化していたそうだな。それで焦ったか?」

「横流ししたモノのありかがつかめる事は稀なので……で、母は?」

 死した体を別の誰かに操られる。それがどれだけ屈辱的か、それも鴉古谷がそれで母を襲うと宣言していたのを思い出し、尋ねる声が震えた。一課のヒトには優しかったけど、俺には優しくない人だった。

「あの女、そう簡単には死なんな。まあ……アレでも一度は土御門を名乗った女だ」

 その言い回しに驚いた。あんな弱い家系のゴミだの、屑だの、ともかく関わりがないと言うのが常套句だったのに、と。

「情報を元に調べに行ったが、和馬が『回帰術』を行使した……」

「はい?」

 回帰術は己の体の一部、ないし全身を従える属性に帰してしまう術。土御門なら土になる。俺は雷も扱うので、それでもできるかもしれない。

 この術は我が身を捧げる事で、その属性を一時的に長く強く支配する事が可能になる。捧げた部位が末梢よりも心臓に近ければ近い程、その支配力は高まる。髪や爪より、腕一本の方がリスクが高いだけに得る物が多いと考えればわかり良いだろうか。

 絶体絶命を乗り切るための逆転技であり、軟弱な者なら意識を飲み込まれ廃人、かつ見境が無くなり制御不能になるので、実際に使われる事は少ない。

 そしてこの術はもう一つ別の使われ方があった。

 自分の記憶や体が敵の手に堕ちないように、自決するための術。自分の体を土に返し、自分の存在をこの世から完全に抹消する。雷で行使するなら、その身を焼き焦がして塵にする。

「父さん生きてたわけはないよ、ね?」

 父さんは完全に死んでしまって十五年もたっている。その体を処理する十年の段階になって、鴉古谷が帳簿を誤魔化し、闇に流し売った。そして宵乃宮に加担する女二人組の傀儡になった。傀儡とは操り人形の事。父は遠い昔に死んでしまっていて、意志など皆無……

 そこまで考えた時に、ハッとする。

「父さんの式鬼が……俺のおもちゃ箱にあって、それを母さんが……」

 あの時はわからなかった。

 けれどアレは父さんが折った蝶。そこに意識を残存させる事は高位陰陽鬼道の使い手なら可能だろう。ただ父がどれほどの力を有していたか、俺は知らない。

「お前の母親を殺すように命じられた時に、いろんなタイミングが重なって発動したようだ。そのおかげで、和馬はあの女の首をへし折る事はなかったと聞いた。それもその体を土に戻すだけではなく、木へ……そのまま成長して見せたという。ざっと樹齢百を超す巨大なものだ」

「木に? 普通は土に還るのが回帰術なのに…………」

「たぶんその種子が近くにあり、それを育成……回帰術に、芽吹きの技を組み合わせたのだろう」

 芽吹きの技は植物の種子を芽吹かせる土御門では初歩に学ぶものだが、樹齢百を超えるような巨木にするのはとても高度な技量と技術が必要で、それを回帰術と組み合わせるなど簡単にはできない。

「……あいつは私などより全くの天才だった。土御門に必要な男……私が行けばよかったのだ、あんな小さな町の仕事で終わる男じゃ……なかった」

 悠馬の伯父貴がどこを見ているのか、俺には分からなかった。母と結ばれれば死期が早まるのを知りながら、それも駆け落ち同然の扱いとなった弟を送り出す兄の気持ちなど想像はつかない。

「和馬が亡くなった日、鴉古谷の父親ミゾレが側にいた。二人は二課で組んで仕事をしていたが、コンビは解消していた。ともかく和馬の死に関わった事によって、ミゾレまでが自殺したと元一課長は思っていたようだ……」

 それで鴉古谷はあんなに俺を恨んだ表情を浮かべていたのかと思う。

 もし父親同士が生きていて、知り合っていれば……などと言う単語が鴉古谷の口から洩れていたのを思い出した時、意識が遠のいているのに気付く……きゅっと視界が狭まり、体が締め付けられて、急に喉も詰まって声も出しにくくなる。

 その変化に伯父貴が普段見ない程、焦った声を上げた。

「こ、子馬っ!」

「心配、しなくても、大丈……から……伯父貴の扱きの方が、もっと……厳しくて……」

「二課長…………悠馬様っ! ここからは私達にお任せをっ………………」

 医療部でも一番各上の姐が伯父貴に目配せをするのを感じた。焦った伯父貴など見るのは、初めてでおかしくてつい笑ってしまう。何か言わなきゃと思ったが、不機嫌そうに伯父の大きな手が目の上に置かれ、その温かさが俺を眠りに誘う。

「……とにかくその体の回復に務めよ」

 誘眠術に落とされたのだろう。その温かさは失った父に近くて、懐かしい気がした。








 その眠りの中で見た夢には、愛しの海さんが出てきた。

 後姿だったけれど元気な髪のハネを見ればすぐに彼女とわかる。目の前の大鍋に甘酒を一杯作って、何やら忙しそうだった。くつくつと煮立つ様子を見ながら、

『あたたかくておいしそうだなぁ~』

 そう思っていると、海さんが振り返りざまに肘打ちかましてくる。それは本当に当たるかのような勢いだったから、ビクッってなった。けれど夢なので、当たる訳はない。

 ホッとしていると、振り返った海さんは構えを解いて首を傾げる。

「……子馬? なーんか声がした気がすんだけど……」

 味見をしたせいか、ほんのりと赤く頬が染まっている顔に、俺は心の中で唇を寄せる。

「ばっ……どっかいるだろっ? え? き、気のせいじゃないぞっ! どこだよ、子馬ぁ~ずるいぞっ」

 きょろきょろ見回しながらますます顔を赤くする海さん。その仕草が酷く可愛らしい。抱きしめたい、夢の中でも……そう邪な思いがよぎる俺の後ろから、

「海お姉ちゃん?」

「汐? ごめん、起こした?」

 そこには目をこすりながら海さんの言葉に首を振る少女が居た。動きに合わせて栗色のふわふわの髪が揺れる。彼女は海さんの末妹、汐ちゃんだった。

「明日夜更かしすんだろ? 早く寝ないと、明日起きてらんね~ぞぉ~?」

 愛しい妹だからこそ茶化した口調で声かける海さんは、無論、素敵である。そんな彼女に対し、髪色と同じ色の瞳をくるりとさせた妹は、

「なにか、あったの?」

 何かを掘り返すように尋ねる彼女に、海さんは手をひらひらさせて、

「なんでもないって。ただの勘違い~」

「ふーん…………」

 そう言いながら自分の部屋に帰っていく汐ちゃんの瞳。

『あれ?』

 彼女の視線はピッタリ俺を見ながら部屋を出て行った。末妹の汐ちゃんは……見えてる? 俺は『いる』のか? それでこれは夢ではなく、ようやく自分の『心』だけが海さんの側に来ているのに気付く。

『海さん……今回の仕事はとても寒かったんだ……』

 手を伸ばそうとする。

 けれど柔らかくてあったかい体にも、触り心地の良い黒髪にも触れられなくて、とても悲しくなる。背筋を悪寒が走り、どうにか彼女をぎゅっとして、『ココだよ』って言いたかったのに、どんどん遠くなって、届かなくなって。

 早く、帰りたい……

 重くなる眠りに意識を攫われ、次第に海さんが見えなくなると、いつになく不安になった。

 このまま俺は……帰れないのではないかと。


lllllllllllll


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん 汐ちゃん





『以下1名:悪役キャラ提供企画より』

『鴉古谷 雫』(パッセロ様より)の家族として創作

『鴉古谷 泉』(兄)

問題あればお知らせください


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