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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月25日~1日まで

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子馬4(12月30日)

llllll

痛めつけられ、途切れた時間……

三人称です。

llllll






「死んだんじゃないか……」

 そこでは遠近感が狂うくらいに大きな男を、上司の鴉古谷に言われるままに彼らは拷問に晒していた。

 何度か『いう事を聞けば取り次ぐ』と持ちかけたが、男は頷かない。連日続けられた行為によって疲弊した男は、岩とまごうほど大きかったが、刺されて出血しているせいもあって、三十日の今日になって意識が落ちている事が多くなった。

 それでも手を緩めずに続けるように鴉古谷からは指示が入る。数日顔を見せていなかったが、今日には行くと連絡が来た。手を抜く者など一人もいない。彼に恩義を受けていない者はココには存在しないし、人をいたぶるのを快感に感じる輩も少なからずいる。

 縛って吊るし、何度目かもう数える事も忘れた水入れを開始した。水に浸かるまでは身じろぎして何かを呟いていた男。水は無情にもぶら下がった体を吊るす鎖の高さに及んだ。生きていればどうにか浮いてきて空気を求めて口を開ける筈だが、一、二度微かに浮いた後、その体が動かなくなる。

 入れる時には流れていた水だが、その頃には動きが止まり淀んだ為、男が沈んだ場所は血で濁り、深さもあって顔は見えない。水中の監視カメラの映像も不鮮明だったが、肺に水が入ったのか吐く泡も無くなり、脱力しているのは見て取れる。

「浸かってだいぶ経ったなぁ。こりゃあ、流石に死んだな」

「陣が敷いてある。流石の雷神鬼もココでは普通の人間と変わらない。よく持った方だろう」

「まずいんじゃないか? 下っ端じゃなくて土御門の当主だ」

 つい本音が漏れた男に周りの嘲笑が降り注ぐ。

「怖気づいたのか? 相手はあの二課だ。俺達一課の前じゃ何もできまいよ」

「死んだ所で構わんだろう」

 嘲る言葉に失笑が漏れ、思わず弱音を吐いた者や内心冷や汗を隠している者達は黙った。

「だいたい外部監査制度なんて……余程邪魔だったのか、鴉古谷さんが珍しく感情的になっていたな。これからは又、仕事もやりやすくなる。それでもまた監査するなら、同じように監査員が消えるだけだ」

 奴が本当に犯罪を犯してココに放り込まれたのではないのは皆、承知している。

 だが元一課長に加担する者にとって一課は住み心地が良い場所になっていた。

 それを荒らそうとしたのは土御門 高馬を名乗る男。現土御門当主。当主殺しとなれば一族の者が黙っていないだろう。

 だが現在二課は彼を探しているが謹慎中の脱走とみなされ、捜索に気合は見受けられなかった。動揺を隠す為かと思われたが、一課には二課が揉めた件でと簡単な協力要請が来ただけに留まっている。時間がたって大がかりに騒ぎ立てた所で、死人に口なし、どうとでもできると一課の者は判断した。

「後は邪魔なのはあの着物女か」

「友禅か。何とかなるだろう? ここにはあの女が連れてきた古参以外は大分なびいている。民間新入は皆で囲っているし」

 民間新入とは自主的に公暗や警察を就職先とした者ではなく、政府よりランクAと評価されて世の中で暮らす事を否定され、強制的に一課入りした者を指していた。友禅の補佐官をしていた変身能力を持つ女などがそれにあたる。

 雪姫もココに連れて来られれば民間新入させられる……いや、それならまだいいかもしれない。鴉古谷は雪姫がもし一課に堕ちてきたなら、宵乃宮に渡す手筈を考えてあった。

「鴉古谷さんに連絡するか?」

「もうすぐ来るんじゃぁ……」

 水を管理し、その行方を上から見張る監視部屋で、これからの一課について話し合われていた時、扉が開いた。

「鴉古谷さん! どうしたんですか!」

 そこには頭から血を流し、ふらふらになっている鴉古谷が飛び込んできた。

 彼は少し前まである教会の墓場近くにいた。

 自分と同じく宵乃宮に加担する余波教授とその手下の桜嵐と呼ばれる者と。そこで子馬の母、葉子を、父親である和馬の亡骸を使って殺そうとした所、不意を突かれて味方と思っていた二人に殺されかけたのであった。

 それも……宵乃宮に自分が切り捨てられ、父と弟の亡くなった陰にもその影がチラついていたのも知らされていた。頭部を殴られ、脚を引きずりながらも、気力は怒りに焚き付けられ燃え上がっていた。

「土御門はどうだ」

 鴉古谷は周りの目も気にせず、ガラスに張り付くようにして男の様子を眺める。天井から眼下の水面に向かって釣り下がった鎖。監視カメラには変わらず水の微かな揺れにだけ乗って沈んだ男の影が揺らめいていた。

「死亡したようです。さっきから上がって来なくなって……」

 それを聞いてくっくっくっ……と、喉を鳴らして鴉古谷は笑い始める。

 うまく行かなくなった歯車のうち、この男の事だけでも自分の思うようになった事がただただ痛快だった。的外れな復讐であったが、もはや目的よりも目標が達成出来た事に笑みが込み上げる。

「その傷、手当てを……」

「構うな。それより水を抜いて、ヤツの風呂を用意しろ」

 その言葉に反応し、水が抜かれる。用意される風呂とは死者を弔うための物ではない。特殊な強酸で満たされた大きなプールの事で、どんな生き物も骨すら残さず数時間で跡形もなく溶かしてしまう。

「僕は今日を持って、この一課を抜ける」

「我々が土御門を殺したからですか?」

「イヤ。宵乃宮が僕を裏切った……あれだけ尽くしてやったのに。ココを出たら一番に潰してやる……」

 水が抜け、黒髪が張り付いた生気のない強面の顔が見えてくると、恨み言を吐きながらも鴉古谷は嬉しそうに笑う。固まりかけた自らの血を拭いもせずに続ける。

「宵乃宮が一課から手を引いた。その上、僕が退けば友禅が大きな顔をするだろう。つまり今までの様にはいかなくなる、アイツは政府側の犬だからな。それでもココにこだわる者は残っても構わない。土御門を殺したのも、今までの事もすべて僕が引き取り、請け負う。今、地方に散っている者にはのちに連絡すると伝えてくれ」

 犯罪は、今から向かう『闇』では功績と評価される。

 鴉古谷に心酔している者は即座に駆け寄り、忠誠を誓う。

 ただココを出た場合、公暗という安定した組織ではなく完全な犯罪者となる。恩はあれど、日が浅い者や、犯罪者と呼ばれるのを恐れた者達にとって、今までの罪を鴉古谷が持って行ってくれると言うのは有難い話だった。

 どちらに転げた者も、鴉古谷を羨望の眼差しで見詰めた。

「お前達には世話になった。さぁココでの最後の仕事だ。頼むぞ」

 残る者にも声をかけ、礼を言う。もともと彼に傾倒している者達。これでここを出て行っても鴉古谷の影響力は皆無にはならない。何かあれば手を貸してくれる事まで計算しながら声をかけ、鴉古谷は階段を下りていく。

 最下層にあるのは満水にした時、フロアに水が入り込まない様、設置された分厚い扉。潜水艦の入り口を思わせる堅牢なコックを部下が回して開ける。

 鴉古谷は足を引きずりながら、水濡れたその部屋に入った。まだ水溜りが残り、足元を濡らしたが気にかけるほどの量ではなかった。

「降ろせ!」

 冷たい空気の中、見上げるとそこには水と血を滴らせる巨体。

 水を抜かれると建物で言えば約三階くらいの高さに男は吊り下げられた形になっていた。鴉古谷の台詞で鎖が緩められて、その重みで一気にその体は地面へと叩きつけられる。それは酷く不恰好に、重い音をたてて落ちた。

 俯せになった体に近付き、足で蹴る。そのくらいでひっくり返るほど軽い体ではなかった。唾を吐きかけ、

「運ぶのも一苦労だな……」

 そう言って寒さで白い息を吐きながら円柱状の部屋に入ってくる皆を招きよせた。

lllllllllllll

『以下1名:悪役キャラ提供企画より』

『鴉古谷 雫』(パッセロ様より)の家族として創作

『鴉古谷 泉』(兄)

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