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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月25日~1日まで

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子馬3(12月27日?~)

lllllll

怪我も癒えぬまま、身動きも取れず。

子馬目線です。

lllllll




 意識を失っている間に夢を見た。とても昔の夢だ。



「あんなに……ひどく当たったワシにも泣いてくれるんか。半端者」

「憶えの悪い俺に鬼道を叩きこんでくれたのは、御爺だった。それにいつだって、お仕事いっつも頑張ってた」

「お主は憶えが悪いんじゃなく初めが遅かっただけじゃ。それにより自由度が増し、その許容はらいを受け入れるほど。和馬はそれをわかっていたのだろうな。お主の力はワシも……いや現当主をも凌ぐと知れ」

「そんなコトあるわけないよ……小父貴、そんなに褒めたら、俺、調子に乗っちゃうから。いつもみたいに叩いてくれていいよっ」

 しわがれた御爺の手は、いつもなら厳しく俺の頬を叩く。だがその日、ただ優しく俺の手を、頭をずっと撫でてくれた。

「奢らぬよう、厳しゅうせねば。そう当主は……ああ、もうワシが教えられる時間は、もうない。ぉ主は……和馬と似とる……もう泣くな、子馬。もうワシは逝く。お前はまだ幼い半端者……だが男だ。これからの土御門を……頼む……」

 最後にそんな会話をして、逝った御爺の体はすぐにどこかへ持って行かれた。葬式もなく、体を運ばれて行かれる事に疑問を感じた。遺体が何処かへ運ばれる、これは一度ではなく、土御門では毎回の事だった。

 俺の知る世界では、人は死んだらお葬式の後、火葬してお墓に入る。そして仏壇に位牌を置く。香取の小父貴の話では魂は神の所に行くけど、やっぱりお墓はある。

 けれど土御門の男は墓を持たない……女も一度は遺体が回収されて、戻ってくるのは酷く後だ。それがどうしてか、俺には分からなかった。

 当時、俺の身を引き受けてくれていた時子にそれを聞くと、

「それはですね、子馬。私達は特殊な力を有しているからです。それでも私は月矢の人間で勘がイイだけですが、土御門の血筋にある者は人間より身体能力が何倍も強いのです。しかし数が圧倒的に違うのです。土御門の先祖様達は、力を誇り、はじき出される事より『融和』を望みました。例えば『氷の乙女』などの話はその代表格のお話でしょう」

「土御門に生まれた一際美しく賢い娘が、時の帝と土御門を取り持って……って話?」

「そうです。私達は時の権力者の元で庇護される代わりに忠誠を誓っています。今は日本政府に、そして警察公暗にその身を置く。死した後はその身まで国の物と定められています」

 まだ幼かった俺に、女の体は『事情』があって戻る様になったと言うだけで、詳しくは教えてもらえなかったけれど。

 男の体は一切、戻ってこなかった。

 女達は泣いて見送るしかないのだ。時子の側で話を聞いていた六角は何も言わなかった。時子の方が長生きをすれば、いつの日か六角が連れ去られる。二人の間に子は恵まれてないがとても深く愛し繋がっている。

「ねえ、時子、六角。確かに心は離れないとして、それでもやはり形としても側に居たくはないのかなぁ?

 いずれ風化していくその体であっても、一緒に墓に居て、朽ちたいと思ってはいない? ……だからこれは違うと思うんだ」

「子馬……」

「こんなの続けちゃダメだ。いつか……こんな事、やめなきゃ……居る場所は自分で決めるモノだ。それも死んでまで尽くさなきゃいけないなんて、ないと思うんだっ」

 最後の自由を捧げる事により永久に一族の平穏が守られるならと、皆了解していた。だが出来る事なら……戻るべき場所にと願って何が悪いのだろう。

「最後くらい自由にありたい……」




 遠い日に口にした言葉を思い出しながら、目を開けた。

 現在では墓なんかどうでもイイと言う考えの人間は多い。けれど本人の意思に関係なく、それも死んでまでその体を辱められる可能性がある、このシステムはおかしい。




 今は男の遺体も一部戻ってくるようになった。いろんな偉い人の元で個人的に働き、その見返りに便宜を図ってもらったり、功績はすべてその権利に置き換えてきた。

 土御門に生まれれば、生きている間も警察以外に入れなかったが、それに向かない者もいる。だからその『土』の力を生かした農業をはじめとする他の産業へ参加できるようにし、子供の下地を鍛える教育関係の施設も造った。六角が持っていた父さんの事業計画書なんかを基盤に、改稿したものだけれど。

 俺も大きくなり土御門で認められるようになった。

 厳格に躾けられ、磨かれたと思う。母には会わせてもらえず、振り返れば理不尽で辛い日々だったが、当主就任も前当主の伯父から贔屓されたと言われる事はなかった。会った時から容赦なく殴られて、六角が庇ってくれなければ危ない所だった。その後、伯父の悠馬の指導で、俺が何度も死にかけたのをうちの一族で知らぬ者はいない。

 俺は寒さに身を震わせ、空を見上げる。

 と、言っても空はない。

 高い天井から吊るされた鎖が俺の腕に巻き付いている。脚はしばられているが、オモリがないだけマシだ。それがあったら俺の両腕は引き千切れている。無いとしても宙吊りで自分の巨体を支えるのが腕だけとなると辛い。鎖骨もまだ治っていなくて、それでも伯父の扱きの方が苦しかった気がして、何だか笑ってしまう。

 肩は脱臼している。普通の場所なら降ろしてもらえばすぐに治るのだけれど、俺がここから出る事は出来るのだろうか。

 一課の不正に関わろうとした時、公然と言ったのは、影でこそこそしていて俺の行動自体が揉み消されるのを恐れたからだ。それを逆手に『私刑』で俺は殺される予定。囮は失敗すればその行く末は決まっている。

 しかし俺を切ろうと刃物を振りあげた鴉古谷はおかしな気がした。まるで堪えていたものが溢れたかのように、恨みがましい目を向けた。酷い怨恨の念を感じたが、母さんまで手を伸ばそうとし、それも父の体を使うなんて異常だ。

 何だか重い物を乗せられたり、殴られたりして、何度か気を失ったように眠った。だからもうあれから何日か経っていると思う。

 今頃、年末か年明けだろうか。

 海さんとお酒でも飲んで、年越しを祝いたかった。初めての年越し、それからお正月限定でARIKAを開けると聞いていたから、俺は公認で初の『海さんの手料理』をいただきたかった。

「ぅぅ……食べたかったよぅ」

 あの時、鴉古谷に蹴られた後からとても意識が重い……海さんと過ごせなくても、せめて謹慎部屋でぬくぬくしてたはず……でも俺は寒い中、ぶら下げられてる。生きて出られるか、思ったよりも難しいなぁと思う。

 クリスマスイブの日、初めて彼女と重ねた肌。アレが最初で最後……なんて嫌だ。

 絶対生きて帰るんだ。

 海さんの事を思い出して、更に笑いを深めてしまったのを見られ、気が狂ったのではないかと囁かれる。

「おい、いう事を聞くと言えば、何とか鴉古谷さんに取り次いでやるぞ。土御門当主」

 可哀想と思ってくれたのか声がかかる。

 嘘をついてここを脱出も考えたが、父さんの遺体を粗末にした連中の仲間に一瞬でもなりたくなかった。母さんの事も心配だし、くだらないプライドだろう。けれどそうできるだけの自分の体の丈夫さと、きっとタカの小父貴が母の事はどうにかしてくれるだろうと思える余裕がある。だから頷かず、首を振った。

「……偽証する気も仲間になる気もないよ。今更、聞き入れられないと思うし」

「貴様の態度が悪いからだろう?」

「君達が……俺を殺した事になると思うよ」

「何だと?」

「まぁ……鴉古谷さんが罪には問われないようにしてくれるんじゃないかな?」

 にっこり笑う。まだ回復してない鎖骨の辺りから血が零れる。腹部の治り切れない傷の痛みに耐えながら、

「でも……当主を殺されて、二課が……いや土御門が黙っていると思うなよ」

 そう言いながら監視室の向こう側にいる男を睨んだ。

 でも勝手に出て来た事をみんな怒って何もしてくれないかもしれない。やっぱり『半端者の子馬』だって評価になって、皆、呆れているだろうか。

 あの時、一課と揉めてると聞き、慌てて駆け付けたけど、俺が出した資料のコピーは置いていた。誰かが謹慎中の俺がいなくなった事で騒いで、それが現一課長の耳に届いてくれれば……

 けど、囮にもうまくなれなくて、救出を待っているだけなんてカッコ悪すぎるなぁと思った。

「俺は悪いことはしてないよ。君達が国家のモノを勝手に持って行くから悪いんだよ」

「アイツらは俺達から絞るだけ絞って、こんな給料じゃ命をかけていられない。なぁわかるだろう?」

「わからなくはないけど、それはやっぱり君たちのモノじゃないよ」

 そこで会話は終了した。

「水を入れてやれ!」

 そんな声が響く。

 こんな方法おとりでしか尻尾がつかめないのは情けないし、それさえ失敗してる。

 ああ、『もっと、自分の身体を大事にしろっって言ってるだろ!』って、また海さんの言葉が聞こえた気がしたよ。

「海さん、愛してるよ……」

 今、足から数メートルほど下にある水面が、もう少しであがって来る。そうすれば肩は浮力で楽になる。反面、その水は氷になる寸前の石清水だから体力を奪うし、出血が増え、筋肉の塊の俺に浮力は少ないから溺れそうになるんだ。両手両脚しばられて吊るされて水ん中入れられたらどうなるって考えて欲しい。釣竿の餌じゃないんだから。

 水が引いたらまた肩の痛みと濡れ鼠で極寒の空気に晒される。今空気、何度くらい、か? 凍るのは四度からとか、塩分が含まれていると氷点が下がりとか、考えなくてもいい事に思考が及ぶ。

 とにかくこんなのの繰り返し。他にも一課ご自慢のあれやこれを見せてくれた。

 俺が苦しがっていると水を司る精がケタケタ笑っているのが見える。力が使えれば契約も可能だろうが、金の腕輪がそれを許してはくれない。

 もう何日、何も食べてないよぉ。もう海さんの手料理とか、贅沢言わないから、こないだ駅で食べたうどんの汁を、一口だけでいいから俺の口に運んでほしい。

 ここの石清水を飲んでいれば塩気もあるからそれなりに生きていけるけど、寒い。やっぱり人間として温かい物が食べたい。今、あのグラスに温かいコーヒーを入れて、海さんが差し出してくれたら俺泣くなぁ……体が水に浸かり、またゆっくりと意識が落ちていくのがわかった。

『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん(イメージ)

お正月限定、冬の『ARIKA』オープンの話


『以下1名:悪役キャラ提供企画より』

『鴉古谷 雫』(パッセロ様より)の家族として創作

『鴉古谷 泉』(兄)

問題あればお知らせください


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