子馬1(12月25日回想~26日)
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時間を巻き戻して。
クリスマスイブに海さんと幸せな夜を過ごした子馬目線です。
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海さんと過ごした幸せなクリスマスイブの夜。
その翌日にプレゼントを渡して。
素敵な彼女との時間に舞い降りた宵乃宮の巫女、雪姫は俺に二課での保護を申し入れてきた。
しかしすぐに本人の意思が変わったという事で済ませる。彼女の本心はわかっていたから。現場での勝手な判断ではあったが表面上は穏便に事が運んだ。大量の提出物と謹慎処分、それで済む事になった。
翌12月26日、二課の俺の部下と一課の者が小競り合いをして、一課の者に怪我をさせた。聞けば宵乃宮の巫女が保護を求めたのに、連れてこなかったのは二課の守護力が弱くて守りきれないからだと言われたそうだ。
以降は売り言葉に買い言葉、どちらが手を出した出さないと騒ぎが広がり、大き目の怪我人が相手側に出てしまった。
本当に子供の喧嘩、天下の公暗が何をやっているんだと言いたかったが、俺の事を思ってつい手を出した部下の気持ちはありがたかった。それにちょうどよかったのでその場を収めた後、俺は一課長か内部監査員へ取り次ぎを要求した。
手にしたチップには前一課長が研究所に運ばれた『資源』を横流ししていた事を示す資料が入っていた。前からずっと調べていた仕事で、外部監査と言う名がつけられている。香取の小父貴が俺の父親の遺体を見たといった、きっとそれで物的証拠も押さえられると踏んだ。
現一課長友禅は、前任である鴉古谷の不正を是正するため就任した。だが確実な尻尾を掴めず、一課は内々に二分されているのが現状だ。きっと協力してもらえるはずだと思った。
だが不在を理由にすぐには会えなかった。
俺は熊に『小細工』を頼んで、それから一課と二課の境目でコーヒー片手に待ってみた。
「土御門 高馬、二課長補佐官……封壁の雷神鬼……」
「その名前は仰々しいよねぇ……ま、いっか。ね、一課の人? だよね」
そして俺はすんなり現一課長である友禅に会えた。
彼女は本部など公式な場に呼び出されない限り、その名の通り綺麗な着物をいつも身に纏っている。それ自体が彼女の力の源だと言う。だがこの時、彼女は黒のスーツで、どこかに出向いていただろうなと漠然と思った。
出された高級な茶の香りが部屋を満たす。
「で? 鴉古谷元一課長が横流ししている所を見たのか? 証拠の映像でもあるか?」
「いえ……けれど資料やデータ上では明らかです。それに今、ないはずの俺の父親の遺体が宵乃宮の手のモノの近くにあると情報が……」
「宵乃宮……そして消えた物資の一つという事か。だがそれを操っているのは誰だ? アイツじゃないだろう? アイツが持つのは驚異的な跳躍能力だけ。それも飛翔には届かない程度。だが勘がよく、頭が切れる。ココにあるのは現状不確かな状況証拠ばかり……この程度では毎度揉み消され、ヤツはまだ一課にのさばっている」
彼女に投げられた言葉は辛辣で、彼女自身も苦虫を噛み潰したように悔しげだった。その反応は俺の予想内ではあった。だが今揃っている証拠だけでも協力してもらえると思ったのは甘かったようだ。
「確実な証拠が欲しんですよね?」
「ああ。例えば、横流しされた遺体を運び出す現場に立ち会っているのを抑えるとか……もしかして……」
「あの人は前々から俺を煙たがっているから……今日、煽るように派手に動いたんだから、今度こそ俺を強請るか、消しにかかる。そうでなくても何かしら接触があると思うんです。そこを押さえてはどうでしょうか? 協力してもらえませんか」
「二課の奴らは……? お前が囮になる、って事だろう? 納得するのか」
「前当主でもいれば言って来たんですが、今は不在で。だから黙って来ました……何かしら鴉古谷さんの証言を取らないといけないでしょう。俺の体内には普通の検査では見つからぬ場所にGPSと録画機材を仕込んであります。もし間に合わず死んだら、俺の遺体がどうなるか……それを追って、証拠を握って下さい」
ことり、と、テーブルに小さな追跡用の端末を置いた。
「既にこの部屋に入ってから、俺が望んで協力を求めているこの会話は貴女が録音しているでしょう? 俺の意見は土御門の総意。貴女が失敗しても咎をかける馬鹿者はウチには居ない」
「やるなら失敗する気はないがな。当主を囮に、か。そんな計画、二課の奴らでは実行はできないだろうな。前当主なら違うかもしれないが」
「同族で作られている二課の良い所だけど。今回は……」
「この計画、お前の一族の者が死んだら、その遺体にGPSを仕込んで追う方法も取れる。それならばもっと安全に……」
俺は首を振った。
「俺達は『家族』です。死んだからと捜査に使うなんて、俺には出来ません。それに俺が死ぬ前に友禅さん、来てくれるでしょう?」
「……あんまり信じすぎると痛い目を見るぞ。それにお前自身は……自由になる事はない。そのつもりだろう?」
死んで遺体が家族のもとに帰れる事。
それを俺は望んでいるが、それは一族の俺以外のすべての事。生存している間も、死亡した時も、俺の体は国家に帰属させるつもりだ。自分の意志で、最後の奉公として。
「勝手にするって言う意味では、それは俺は自由です。他の誰にも自由には見えなくても。今、たった一人、彼女が居てくれればそれでイイって思える相手がいます。彼女に笑って会えるように、俺は俺の仕事をやり切ります」
そのやり方が『無茶だろっ、自分を大切にしろ』って言われそうだけど。
彼女が囮なんて聞いたら怒りそうだし。
でも今はそれしか思いつかないから……俺は目の前の女性に頭を下げ、協力を要請した。
そうして友禅一課長との謁見を終えた俺は、自分とこの者には見つからない様にうろなへ戻るような素振りで動いた。
その先で背広の男達に囲まれた。
「何だか怖い顔してるね」
軽く抵抗して、捕まっておこうか。
そう思った時、良い匂いを嗅いだ。
さっき嗅いだお茶と同じ匂い……そう理解するとほぼ同時に全身へ痺れが走り、バランスが保てなくなり倒れた。
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『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん
お借りいたしました。
問題あればお知らせください




