約束中です(赤薔薇の妖精)
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取り残された二人。
賀川目線です
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一体どこで……? そう考え込んだ一瞬。
「そう言えばあんなに酷い骨折だったのに、指が動くようになっていてよかったよ♪」
奴はそう言って俺の手を掴んだかと思うと、指先をおもむろにナメた。
背筋に悪寒が走る。
その動きで所在を失くしたドリーシャが飛んで、近くの塀に移動した。奴が呼んだもう一匹の鳥はレディフィルドの鳥と同じく、安定感よく彼の肩に留まっていたが。
「っ……おぃ、舐めるな。犬じゃないんだから!」
「何、赤くなってるの? ちょっとくらいイイよね。けっこう女の子はとっかえてたでしょ?」
「お前は男だし。女の子とは長く続かないだけで、好んで取り替えていたわけじゃ…………」
そう言えばこいつはスキンシップの激しいヤツだった、それを思い出しているうちに、更に両手を広げて、飛びついてくる。
「て、おま、やめろって。ここ日本だしなっぁ! で、三人で会ったのか?」
小柄な体とは思えないほど凄い力で、俺に全力のキスで挨拶してくる。全く躊躇なく『口と口』だ。女ならまだしも、男とのソレは挨拶でもイヤであるから、唇が当たる寸前で頭突きに変える。
アリスの時は彼女が女性だったのでそうしなかったが、男なら殴るのも蹴るのも、頭突きも微塵の躊躇もない。体格は絶対的に俺の方が大きいから、普通になら負けるわけもなかった。ゴツっと容赦ない音が響く。
「いたいよぉ、ティー」
額を抑えて幼気な子供のふりをするヤツを放置して、確認する。肩の白い鳥が俺に向けてピュルルと高く鳴くが、無視だ。
「で、レディフィルドと仲間なのか?」
「うん、まぁそうだね〜。それにフィル君は僕の弟子なんだよ〜☆」
「弟子……だと」
何のだと突っ込みかけたが、その前に彼が、
「だからフィル君に『耳』を鍛えてもらったティは、僕からしたら孫弟子だよね〜♪」
そんな事を言い出すのに唖然とする。
「それにこないだ、『フィル君の継承者』がお世話になったみたいだからねぇ」
何故か『ひめ』という発音に妙な含みがあったが。
どうやら十一月の初め、ARIKAの汐ちゃんが攫われたのを助けようと走った事を指しているのだと、暗にわかる。たぶん俺はあんまり役には立ってない。せめて天狗仮面の半分くらいでも役に立てればよかったが、最後は意識を失くして完全に邪魔した感が強かった。
それに……彼女がどんな理由で攫われかけていたのか外野の俺はあまり理解できなかった。事実、理解しない方がいいのだろうし。まぁ、雪姫と同じで理不尽な扱いである事は間違いないだろう。
そして……その日の記憶が曖昧なのはラッシュを連射してしまったからかとか、怪我の為かとか考えていたが、この薔薇色の男が絡んでいると知ってやっと腑に落ちた。
「でもアリスって子をフィル君と助けたんでしょ? だから継承者を守ってもらったお礼は終わりだよねぇ☆」
「お前が助けてくれたわけじゃないだろ? で、何の押し売りだ?」
「押し売りだなんてひどいよ、ティ~……こないだもぉちゃんと情報もってきてあげたのに、僕を『袖』にするから、『あの組織を追われちゃった』でしょう?」
そう言われて俺はハッとし、彼はにやりと笑う。俺は服の上からだったが、無意識のまま、胸に下がったドッグタグと青い石に触れる。
『思い出す』
元恋人であり、仕事仲間のアリサが亡くなる事となったあの仕事に就く寸前、この男は俺の前にふらりと立ちふさがった。けれど、その時、俺はヤツの支援を断ったのだ。
『ティー、今回の仕事。裏切り者が出るよっ☆』
その言葉が信じられなくて。
今までコイツに与えられた情報に『間違い』があった事はなかった。
だが、子供達の為に、自らの体も命も賭して囮になる『バード』は特に仲間を信じていなければやってはいけない仕事だった。そういうのを精査するのは『上』の仕事で、現場の『囮』に疑う権利はなかったし、仲間を疑いたくなかった。
『誰が裏切ったっていうんだ? いや、そんな事、嘘だ』
『ねぇ、ティー? 僕は嘘は言わないよ? 君がどちらを信じるか、だよ』
糸目から覗く薔薇色の瞳はとても美しかったように思う。
けれど、その時の俺は『仲間』を選んだ。奴は『そう』と言っただけで、信じない俺にそれ以上の情報を流す事もなく、それどころか『裏切り者がいる』と聞いた事さえ、すっかり今まで『なかった事』になっていた……
その後、俺は全て失った。
救出に参加した仲間も。
アリサも。
救おうとした子供達をも……
血の海に沈ませ。
俺だけが生き残った。
自分の子供を守るために裏切った仲間がいたという理由は言えず。
アリスを含む周りの信用も、みな無くして、日本に引き込もった。
もし、あの日、こいつを受け入れていたなら、何か変わっていたろうか?
「俺……やっぱり俺が……アリサもみんなも、あの子も全部…………」
俺が甘かったから皆、死んでしまったのだ……体が震え、足元がおぼつかなくなる。堪えても、視界が潤むのが止まらない。
でも泣いても、喚いても、一度失った命は返ってくることはないから、震えも涙も必死で耐えた。きっと何度やり直しても、あの時、俺が選ぶ道はきっと同じだ。
「今回も『イラナイ』? 僕?」
無邪気に小首をかしげる糸目の少年。細く開いて覗く瞳は、雪姫の瞳にも似た薔薇色だが、彼女の持つ純粋さとは全く違う悪戯な印象を受けた。
「……要るか、要らないか、まずは聞かなきゃわかんないだろう」
嗚咽を飲み込み、声を抑えて。そんな俺の姿を奴は冷静に眺めながら、
「ティーが必要なのは、白うさぎさんの情報だけでしょ☆」
……雪姫の事ももうコイツは把握しているのか。そう考えられる間をおいて、彼は言葉を続ける。
「『撫子』って娘を後ろで操ってた『まなぎ』って男と、その部下の『田中』。それに撫子が居た場所が空席になった(あいた)事でそこに座った『薫』って娘について、かな?」
内容は雪姫を狙う組織の幹部について。
間違いない情報なら手に入れておきたい。レディフィルドも手に入れる情報だろうから、そっちから聞いてもイイが、こうやって持ってきたところを見ると、早く知っておいた方がいいのだろう。二度と、アリサ達の時のように手落ちで雪姫の命を危険には晒せない。今日だって葉子さんが危なかった。
それに子馬や香取神父達、また抜田先生が残してくれた情報などといずれスリ合わせる時、一つでも多くのタイプから得たモノがあった方がいい。
俺は仕方ないといった感じで、溜息をつくと、
「わかった。対価は? 今はあんまり時間が割けないんだが」
「それじゃあ……まず、挨拶のキスくらいはちゃんとして欲しいなぁ〜?」
何でそうなるんだ? そう思いながら。
仕方なくしゃがむと奴が飛びついてくる。頬にキスを落とすつもりが、素早く口にした上、舌まで突っ込んできたので慌てて噛みついてやる。
「うぅん、相変わらず容赦ないなぁ」
すぐに唇を離したが、口に残り、広がる血の味。反射的に酷く噛み過ぎたかと思ったが、面白そうに笑っているので、謝罪はしない。
「そうだ、この国では『お正月』に見た夢は『初夢』って言うんだってね。それを貰おうかなぁ。寝てる時間ならいいでしょ?」
「夢を? どうやって」
「本当に。相変わらずのリアリストだよねぇ、ティってば。方法なんて、気にしなくてイイんだよ☆ 普通にいつものベッドで、寝ていてくれればいいんだから。あぁでもーー、一人で寝た方が、イイと思うよ? 聞かせたいなら構わないけど、何を口走るか、わからないのは嫌でしょう?」
「何を口走らせる気だよ……」
ヘンな事を言うヤツだと思う。けれども俺の夢ぐらいで少しでも雪姫の安全が買えるなら、安いのではないだろうか? だいたい夢をどうやって『もらう』のか俺には見当がつかないが、まぁ毎回、勝手に来て、押し付けては持って行くのだ。
「交渉成立でいい?」
「ああ……てっ……ぅっ……やめっ、ろって! お前はキス魔かっ」
「ティーが嫌がるからだよ☆ じゃぁ、夢で逢おうねぇ」
どこまで本気なのだか、最後に再び飛びついて、唇を奪おうとする少年。俺はそれを振り払う。猫のようにくるりと優雅に俺から離れ、鳥を肩に乗せたまま歩き去る薔薇色の少年の背に、
「どうして、あの時、無理矢理に情報を置いて行かなかったんだ?」
そう尋ねる。
この男は大抵、こちらの有無を言わさず押し売りが基本。それなのに何故、アリサ達を失った日に限ってその情報を置いて行かなかったか。ちらと気になって聞いてみる。
「僕にそれを聞くの? ティ。ーーわかってるくせに☆」
クスクスと笑いながら、悪戯な表情を投げられる。
もし。もしもだ。
あの時、全てを事前に聞かされていたら……俺はあの親子を救おうと奔走しただろう。だがそれはとても危険な行為であり、彼の口ぶりから察するに皆……チームだけではなく、あの組織ごと危険に晒していたのかもしれない。
キスが出来たからか、機嫌よく立ち去るその背を見送りながら、雪姫が彼を見て評した言葉を思い出す。
「妖精? どこがだよ……アレは薔薇の小悪魔だっ」
バサバサと頭に戻ってくるドリーシャ。手に残されたデータチップに目をやり、今のやり取り、誰にも見られてないと良いなと思いながら家に戻った。
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
イルさん
ナイチンゲールのルールーさん
ドリーシャ(ラザ)
レディフィルド君
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




