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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月30日

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483/531

呼応中です(おんま)

lllllll

それは夢のように。

初めはおんまの心を…

そして三人称です。

lllllll

 




 君達は俺が大きくて不細工でも笑って受け入れてくれた。

 だから笑っていられた。

 どんな時も。

 遥かな時、一族が待ち続けた『仕事かたなうち』。

 だけど色々な仕事を抱えた土御門の、何故この仕事に自分が選ばれるのかわからなかった。

 けれど本家から出されて、うろなへ来た事は本当によかったって思ってる。

 選ばれたのが俺でなければ、彼らに会えなかったからね。

 たくさんの思い出もなかったんだから。

 少年から大人になっても、変わらずとっても楽しい時間だった。

 皆と居たから『彼女を迎える事で死が近くなる』と言われても、動じないで心に従う事が出来たんだ。

 ああ、今も。

 疑いのない彼らの強い気持ちがまた俺を強くする。

 でも……さようなら。

 もう、行かなきゃ……本当はね、長く居すぎたんだ。

 理に反しても何も言わず別れたくなかったんだ、帰るって約束したから。

 けれど、やっと言えるね。

 本当に……さよなら。

 最後に会えて本当に…………



 閃光の中、タカは細目を開ける。

 おんまの立つ足元の地面が盛り上がり、細い管が這い出し巻きついて行くのが見えた。木の根にも見えるそれが、無表情な顔に到達すると口の中に入り込もうと動く。閉まっている口は堅かったが、鼻腔や耳穴からも入り込み、内外から責め立てられ、最後にはぱっくりと口を開ける。

 その管は紙切れを体内から引き出していた。

「アレは……」

「風蛇、アレを無に帰せっ」

 香取はそれに気付くと命令を飛ばす。手にしていた錫杖が消えて、命令通り矢の様な速さでそれを砕く。原子の粒まで破砕され、その瞬間、余波が叫び声を上げて倒れた。

「ああっ教授っ、教授ぅ! ま、まさか逆凪? なんでっ……ああ、教授っ」

 光に片目を焼かれた桜嵐は狂ったようにその名を呼びながら近寄り、抱え上げるとその場から姿を消した。

 本来、使役する傀儡が攻撃されても、それを操る側が苦しむ事はない。自分の代わりに戦わせる故の人形であるのだから。だが、余波の使う札は、古い本を読み漁ってつけた知識の集大成。誰から教わった物ではなかった。

 それ故に本が間違っていれば、こういう事態を引き起こす。いや、書かれた時点で、悪用されるのを避ける為に、ワザと『わかる者にはわかる』ような爆弾を仕込んでいる事もある。だが師を持たない余波には見極める事も諌める者もいなかった。

 子馬はそれに気付いていたが、それを忠言してやる立場にはない。

 今までやってきた際に、偶然、壊れなかっただけ。自分に向けていつ爆発するともわからない代物を、悦に入って常に持ち歩いている状態に他ならなかったのである。

 閃光は消えたが、その間に葉子の首を絞める指に管はそっと滑り込み、ギリギリと開いて行く。

「葉子さんっっ」

 慌ててタカが走り寄ると、彼女の体が腕の中にそっと降ろされた。

「おんまっ、お前ぇ……」

 地面から生えた管はおんまの巨体を砂粒にして、吸い込んでどんどんと大きくなる。先ほど操られていた時は無表情だったおんまの顔が、管に引っ張られるようになっていたせいか、どう見てもタカには生前と同じく笑っているように見えた。

 だがそれもすぐにはらはらと砂となって管へ吸い込まれ、絡み合って葉を茂らせていく。呆然している間に大きくなっていき、最後には三人の前に一本の巨木が緑を揺らしていた。辺りを濡らしていた鴉古谷の血もすべて吸い込まれ、辺りは静けさを取り戻していた。

「おんま君……」

「…………あいつ、笑ってやがった」

「……ぇえ、いつもの、おんまさんだったわ」

「葉子さんっ!」

「え? 気付いていたのぉ」

「途中、気を失っていたけど……眩しいなって思って目を開けたら……おんまさんが笑ってたの。あの顔が見れてよかったわ。本当に……ごめんなさいね、心配をかけたかしら?」

 タカも香取も気を失っているかと思っていた葉子が声を上げた事に驚きつつ、顔色は悪いが、命が無事だった事に安堵した。

「ユキじゃねぇんだから、黙ってどこかに行くんじゃねぇよっ!」

「だって、タカさんが遅れて来たんじゃありませんか」

 声は弱かったが、そう言い返されてタカは苦笑する。葉子は笑い返しながら、太い樹木を見上げる。

「うちの人、普通のお墓じゃ狭いって言いそうだったけど、……これなら嬉しいかも、ねぇ」

「立派な木だよ。流石、『土御門』のおんま君だよねぇ……僕のトコの教えだと神の御許に安らかにあるんだろうけれど。彼の場合はココで見守ってるって正しい気がするよ……」

 タカが持ってきた時、微かに動いていた蝶。微か過ぎて、そして懐かしすぎて。香取にはすぐにわからなかったが、今ならわかる。あれは親友のおんまだったと。

 傀儡には魂がない。

 それは事実だった。

 だが不意に命を落としたおんまは、式鬼として折った和紙の蝶に『心』を織り込んで残していた。土御門と言う特殊な血を持って生まれたが故の芸当だったが。



 ないはずの心がそこにあり。

 失せたはずの肉体が残っており。

 何より……タカが彼を信じて。



「奇跡、……いや、あれは不可思議の方が言葉として正しいのかなぁ」

 死者を操る禍々しい呪い札は術者へと返り、おんまの肉体は名前通り、土に根を下ろす一本の樹となった。

 それと同時に役目を終えたと告げるかのように、蝶は灰と消えたのを香取は見ていた。

「投げ槍君は凄いねぇ……」

 死に別れた親友の心を信じ、力がある訳でもないのに葉子の危機を知らせた蝶を直感で『彼』と見極めた。今も、家族を奪ったと告げたじぶんを側において……タカの強さは何処にあるんだろうと香取が思いながら見ているのに気付かないまま、タカはその木に触れて、呟く。

「これは柏の木だ……」

「かしわって……」

「寒くて普通の木の葉は茶色になっている時期だが……あの女、あながちウソはついてねぇのか」

 建築や土木関係の仕事をしているため、木材となる木にもそれなりに知識があるタカは、葉のつき方を見て呟く。暫しすればこの木も寒さに影響されて、葉をすぐに茶色に変えていくだろう。

「柏木……源氏物語にそんな名の人物がいるのよ…………」

 桜嵐と知り合ってから、『源氏物語』を少しだけ読んだ葉子はそう言った。



 三人は並んでその木を暫し見上げていた。



 風が吹いてその葉を揺らし、歌を奏でる。春に新芽が芽吹くまで、その葉を落とさない柏の木は、絶える事なく、ココにいつ来てもその歌を聞かせてくれるだろう。

「さあ、そろそろ。ユキ君と賀川君も心配だしねぇ。ココに来ればおんま君はいつでもいるよ。きっとね」

「そうね。あの人らしいわ」

「だな。……よかったのかも知んねぇな。どっかわかんないトコで燃やされっちまうより、こうやって土に還る事が出来て……何より、最後に会えて、なぁ。もともとデッカイ男だったが、こんなに大きくなっちまったら連れては帰れねぇが、また来っからな、おんま……さよならじゃ、ねぇ。オレ達の友情は永久に……」

 さわり……梢は答えるようにその葉を揺らした。



 この後、教会に残していたユキと賀川と合流した。

 かなり桜嵐に打ち据えられていた葉子だったが、おんまの体で抱きしめられていたせいか、骨が折れているような事もなかった。

 それでも打ち身は酷く、すぐに歩くのは無理だったため、一応診て貰おうという話になり、タカと葉子は車で八雲の病院へ向かう。

 ユキと賀川、それから香取の三人は一足早く、うろな裾野の自宅まで先に戻っている事にした。


llllllllllllll


『以下2名:悪役キャラ提供企画より』

『桜嵐』呂彪 弥欷助様より

『余波教授』 アッキ様より

以下一人は、雫の家族として創作

『鴉古谷 泉』(兄)

お借りいたしました。

問題があればお知らせください

lllllllllllllllllllll


柏の木は翌年に新芽が出るまで、古い葉が落ちないそうです。

その為、「代が切れない」という縁起物です。

おんまにはうろな町外の教会近くになりますが、

ここで見守っていてもらいたいと思っています。


では今年、最後の更新になります。

どのくらいの方が追ってくれているかわかりませんが、

16年を迎えようかと言うのに、まだ14年のお正月が来ていない我が作品。

現在12月30日のままです。

一月のうちに14年のお正月が迎えたいものです。

二日までは確実に予約入れます。

その後、来年の更新は未定ですが、

更新した時にお時間ありましたら、覗いてくだされば幸いです。

今年もありがとうございました。

来年もジワジワ完結に向けて動きますので、

どうぞよろしくお願いいたします。

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