疾走中です(タカ)
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遅れて動くタカ。
タカ目線です。
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郵便局は混んでいたらしい、年末だから仕方ねぇか。奈保ちゃんが戻ってきて、しうちゃんを受け渡してから初めの目的地に向かい、用件を済ませて後にしようとしていた。
ココにあるのは整体院の院長、その嫁さんの墓だ。
院長が中坊の時に喧嘩やってんの見かけたのが、縁だった。好いた女の為とはいえ無茶してたかんな、ちょっくら話を聞いてやったっけな。まぁそんな事はあったが、うろなで商売をやってるって繋がりから、町内会の会議なんかでちょっくら顔を見はするが、特別に連絡を取り合ってる仲でもないが。
奴の嫁さんは事件に巻き込まれて早世しちまった。
オレと彼女に面識はなかったが、心を込めて手を合わせてきた。
その院長が中坊の頃に守ろうとした相手がその女性であったとか、葉子さんが奴と嫁さんとは高校の同級生であったとか。そんなだから、今日の墓参りには一緒に行く予定にしてたんだが。
「遅れっちまったな……」
バイトの奈保ちゃんがミスに気付いて連絡してきて、さっきのように待っていたら遅くなっちまったってワケだ。先に出てもらった葉子さん達にゃ二か所目の墓、賀川のの母親が眠ってる方にもう居る筈。
良い陽気だが日陰は少し寒ぃな。
そんな事を考えながら道中に茶を飲もうと温かいペットボトルの茶を自動販売機で買った。その時、財布の中から小さな紙切れが落ちたんだ。
「おっと、いけねぇ」
小さな、とても小さな紙切れだ。
これは親友だった……いや死して尚、親友であるおんまが折り残していた和紙の蝶。こないだは子馬の力でふわふわ浮いてオレをユキやぎょぎょの所に案内してくれたヤツだ。子馬か葉子さんに返さなきゃなんねぇが返しそびれた紙切れ。もう動きゃしないが、遺体がない彼の数少ない形見だろう。
雪が緩んでぬかるんだ土の上ではなく、近くの枯草に落ちたおかげで濡れなかった。だがゴミがついてないか払うように、ふうっと息を吹きかける。
「ちっ……」
急に痛みのような熱さを感じ、紙切れを手放してしまう。そうすると先ほどまでただの無機質だったそれがヨタヨタと不自然に空を舞う。微かに放たれるオレンジの光。
「な、何でだ?」
この前、オレを先導してぎょぎょの元へと導いてくれたような勢いはねぇ。何故動き出したのか、疑問より先に、とりあえず地べたにつく前に救い上げる。それは生きているよう……だが瀕死のように力なく、それでもオレの手の中で必死に羽ばたこうとしやがる。
「おめぇ、何だって言うんだぁ? あん?」
聞いては見たモノの、よ、返事なんかあるはずもねぇ。おんま自身、または子馬やカトリーヌのような力ある者なら、それから意志を読み取ったり、舞わせることなんかできるんだろうがよ、オレには無理だ。
「子馬はうろなを離れてやがる。カトリーヌんとこ連れてってやっから……」
こういう事は、本業にしかわかんねぇし、どうせ今から行く所にいるんだからな。
オレは慌てながら、車に乗り込む。
「ちィっと入ってな!」
失くしちゃ困っから、眠気覚ましのガムが入ったプラ瓶の中に蝶は閉じ込める。中で動いているのか小さく音がした。それはカチコチと、まるで時限爆弾が時を刻んでいるような不気味、かつ、人を焦らせる音色じゃぁねぇか。
「急げってぇのかよ?」
そこからは警察の世話にはならない、ギリギリの速さで向かった……と、思うが。見つからなかったし、誰も傷つけちゃないから、まぁその辺は大目に見てくれや。
駐車場に車を放り込み、走って小高い場所にあるその教会を目指す。そこでカトリーヌを捕まえて喋っているとヤツは顔色を変え、それを問おうとした時にユキがふんわり割り込んできた。
「あの、葉子さんはどこでしょうか?」
優れねぇ顔色のまま、カトリーヌが答える。
「トイレなどは教会内にあるけど、それならユキ君と僕の行った方向だから擦れ違う筈だし、今、確かめたけれど、葉子君の気配は教会にはない……よぉ」
「あの……賀川さんの頭に居る鳥さんがですね? 『あっち』って……」
雪姫の白い手が指し示したのは、教会への道より少しそれた方向だった。
その瞬間、紙切れの蝶はパッとオレンジの強い光を放ち、動きを止めた。
オレはそれを見た途端、蝶が指し示そうとした事に気付き、走り出す。
「葉子さんが危ねぇっ」
「ちょい待っ……投げ槍君っ! そっちに葉子さんの気配はないんだよっ、て、考えられるのは彼女は結界内か……でも結局の所、本命はこの二人なんだよっ!」
「じゃ、カトリーヌっ! 二人は任せたっ!」
「は、話を聞いてたっ!? 憶測が当たっているなら結界を破らないとっ」
「気合でどうとでもなるだろうがよっ」
「なんないって……ああっ、もう待ってっ…………後剣君が居るわけじゃないんだからっ」
カトリーヌがユキと賀川のは教会内に居るように指示を出しているのなんかが聞こえた気がする。ともかく勘でその方向に走っていく。それは『何も感じねぇ』、つまり不自然な場所ってぇ事だ。
がつん!
オレが見えない壁にぶつかったのは、墓場からしばし離れた所。
「しゃらくせぇ!」
体当たりを繰り返せば、何もない場所に不自然な亀裂のようなのを生じる。見えねぇが確かに壁がそこにあるのを感じる。
「ちょっと無理しないでっ、投げ槍君っ」
「こんな時に無理もクソもあるかよっ」
「気合でココまで壊せるなんて、呆れを通り越して、心底感心するよ。離れてっ!!! 風蛇っ」
カトリーヌが白い錫杖を手にその切れ目に突っ込むと、コンクリート破砕現場で響くような重い音がした。そしてカトリーヌも俺も返しを受けて、吹っ飛んだ。
何とか地べたに手をつきながらも保ったオレの視界に、今までそこにいなかった人影が見えた。同時に嫌な匂いが鼻を突いた。
そこには赤い、赤い、血の海が広がっていやがったんだ……
『うろなの雪の里』(綺羅 ケンイチ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/
藤堂(桜井)聖子さん
藤堂義幸先生
後藤剣蔵さん(後剣)
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』(小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
ドリーシャ(ラザ)
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




