失敗中です(悪役企画:紫雨と奈保)
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少し時間を巻き戻して。
タカ目線です
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少し時間を巻き戻すとだ、オレは商店街の事務所に居たんだ。
「すみません、社長。私のミスで」
「イイってコトよ、失敗くらい誰にでもあらぁな」
「おねぇちゃんのしゅっぱい~」
「もう、紫雨ったら! ほ、本当にすみません。すぐにやり直しますからっ」
バイトの奈保ちゃんが顔を赤らめながら、資料を手に倉庫の方に飛び出して行く。長ぇ黒髪を三つ編みに結い、働く姿はこの頃うちのモン達の注目の的だ。ユキも可愛いが、あの容姿だし、まぁ賀川のが騎士のごとくに寄り添ってりゃあな。
そんな事を考えながらオレは膝の上で笑っている妹の紫雨ちゃんの頭に手を置き、窘める。
「しゅっぱい、じゃなくて、失敗だ、しうちゃん。それにそんなに人の失敗を笑っちゃなんねぇ。人間は間違えるもんだ。だが間違えた後をどうやって埋めるかが問題なんだ」
「……しうも、しゅっぱい……? しゅ、しゅ、しっ、しっぱい? タカちゃんもした?」
「ああ、生きてりゃなぁ。でも次、間違えなかったらイイんだ」
「でもがんばってもできなかったら? しかられるよ」
「なんだぁ、叱られるのが嫌か」
こくりと小さな頭が頷く。
「それはな、しうちゃんに、次を頑張って欲しいからだな」
「でもでも、がんばっても……たたかれたり、むしされたりするの」
「……お友達にか?」
幼稚園にゃ通ってないはずだが、近所の子にでも苛められているのか? オレはそう思った。姉妹の仲は良さそうだし、両親は亡くなっているから。
だがそれが彼女の血の繋がった両親の事で、バイトの奈保ちゃんとは本当の姉妹ではないなんて考えもしていなかった。
頷かない事をとりあえず肯定と取ったオレは、彼女のおかっぱ頭に手を置いた。
「意地悪な事をする奴も世の中にゃいるもんだ。だけどそんな事はされると辛いと感じるのは、勉強なんだ」
「べんきょう?」
「体で、心で感じなきゃ、痛みってぇのはわかんねぇ。辛いと感じた事を他にしちゃなんないって言う人生の勉強なんだ。……何よりどんな事でも努力するのは無駄にはなんねぇ」
「ほんとう?」
「ああ。しうちゃんはもう優しい子だ」
よしよしと頭を撫でると、とても穏やかな顔をしやがる。暫くそうしてやってから、膝から降ろし、雑用を片付ける。これは後でもいい仕事なんだがな。
今日、本当は葉子さん達と墓参りに行く予定だったんだ。
だが仕事に支障が出るミスが起こったのを奈保ちゃんが知らせて来たんだ。差し替えの資料などの書類を最後に確かめて、判を押さなきゃなんねぇから、皆にゃ先に行ってもらった。
まさか、墓場に行かぬ様に引き伸ばしの為に奈保ちゃんが資料を作り間違えたなんて、オレぁは思いもしなかったんだ。
奈保ちゃんの仕事はもうちょっとかかりそうだし、と、一つ思い出したオレは腰を上げた。
「ど、どこイクの? タカちゃん」
「ん? これを付け忘れる所だったんだ……そうだ、手伝ってくれるか?」
「これなぁに?」
「正月の飾りだ。玄関口に飾る、玉飾りってやつだ。ま、ちょいと遅いが昨日は二十九日で飾れなかったからなぁ」
「なんでぇ? きのうはダメだったの?」
「二十九日はなぁ、二重に苦しむなんて読める日だかんな。これは年の神様を迎える為に飾るんだ、縁起悪い日に飾るもんじゃねぇんだよ」
「ふうん。おおきいミカンだねぇ」
「こりゃ橙って言うんだ。代々栄えるようにってな。こいつは譲り葉、これは紙垂に扇……全部縁起が良いんだ。今から玄関口にコレを飾るから。さぁ、しうちゃん、頼んだぞ」
「きゃあっ。タカちゃん、たかいよぅ~」
お飾りをしうちゃんに持たせ、肩車する。響く明るい笑い声にオレもニヤッとしてしまう。いつ聞いても子供の声は心を和やかにしてくれるってもんだ。
随分昔、おんまが亡くなって、房子と刀流までもを亡くし、自暴自棄になっていた時期もあったっけな。あん時ぁ、今は商店街で一丁前に働く玩具屋なんかもまだ小学生だった。そうそう今は高校の制服姿で毎朝元気に走っていく、自転車屋の菊花ちゃんも幼稚園か小学生に上がったばかりか……そこいらだった。
オレが下向いて暗ぇ考え事してっと、おずおずっとやって来やがるんだ。そんで今のしうちゃんみたいにな、肩車なんかしてやると『うっきゃー』って無邪気に喜びやがるんだ。
なんかなぁ……小さかった時の刀流を思い出しちまって泣きそうになりながらも、その声のおかげで気持ちが紛らわせていたっけなぁ……アレのおかげで、下ばっかりじゃなくて、天を真っ当に拝めたんだと思う。
がらがらっと横扉を開ける。
この建物は改築してるが土台は古くから使ってる。玄関扉は戦前の建築当時のままの古いもんだ。だが昔の職人の仕事ってのはすげぇな。全くの歪みもなく使えやがんだから。大きく開くから、暖房は逃げちまうが、手前半分以上が土間仕様でコンクリになってるから、車を突っ込んだり、椅子机を片付けりゃぁ事務所を作業場に変える事も可能だ。
「ほれ、その紐を、ソコに引っ掛けんだ」
「きれい……まっかなネジだねぇ」
「ああ、いつだったか……息子の刀流が毎年飾るならこれなら錆びねぇって付けてくれたんだったな」
「そ、なんだぁ……タカちゃん、これでいい?」
飾りを取り付けて、肩車のまま少し離れて様子を見る。外は少し寒いがいい天気だ。
「うん、いいんじゃねぇか? しうちゃんのおかげで正月にゃぁ、神様も安心して降りてきてくださらぁな。そうすりゃ、我が家は来年も安泰だろうさ。ありがとうな」
「らいねん……」
肩から降ろすとちょうど奈保ちゃんが用事を済ませて戻ってくる。
「社長、印鑑お願いします。そしたら郵便局へ急いで行って出してきますんで」
「オレが出してしてきてやっても……」
「いえ、私のミスですから。でも紫雨、お願いしてるから……」
「タカちゃんとあそんでるから、だいじょぶだよぅ」
「じゃぁ……頼んだ。年始の年賀状やらに巻き込まれないように、ちゃんと速達にしなや」
「はい、わかりました」
中身の訂正を確かめて、印鑑をつきながら、
「そう言えば奈保ちゃんよ。来年度まで、うろなにゃ居る気はねぇのかよ」
「え? その、どういう……」
「知り合いにな、教育関係の奴がいるんだがなぁ。しうちゃん、来年小学校に入るってんのに、まだ届け出がされてねぇって聞いてよ」
「そ、それは」
「事情が変わったってぇなら仕方ねぇから。仕事を辞めたい時はちゃんと言ってくれりゃぁ大丈夫なんだがな。それより来年のしうちゃんがどうすんのか気になってなぁ」
元々彼女のランドセルやらを買ってやりてぇって話だったんだ。銭はココでもそこそこ稼げてるはずだ。会った事はねぇが姉の薫ちゃんとやらも、働いているらしいから色々何とかなるとは思うんだが。
「そ、その、ご、ご心配ありがとうございます。それが急に、遠縁の親戚が来ないかって……でも、その、他人でしょう、やっぱり。贅沢を言える立場じゃないとはわかっていますが、そこに行くか、このまま三人でうろなで過ごすか……姉とも話してるんですが、迷っているんです……」
「そうか。色々聞いて済まなかったなぁ」
「いいえ。お気遣いいただいて感謝します。じゃ、紫雨、ここにいてね」
「タカちゃんといっしょにいればいいんだよね?」
「ダメよ、いつまでもあそんでちゃ」
「まぁそう言っても、子供は泣いて笑って遊ぶのが仕事だからな。気にすることはねぇ」
一瞬、しうちゃんの表情が歪んだ事にも気付きはしなかった。そしてオレの疑問を何とか受け流してホッとする奈保ちゃんの言葉の裏に、どんな含みがあるかなんて考える事もなかったんだ。
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URONA・あ・らかると(とにあ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n8162bq/
菊花ちゃん
"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
高原直澄さん 他先生方 (イメージのみ)
『以下2名:悪役キャラ提供企画より』
松葉 奈保パッセロ様より
松葉 紫雨とにあ様より
(この二人とも前までタカ目線の時、ひらがな表記にしていましたが、
タカが『しう』を呼ぶ時、紫雨が他の姉を呼ぶ時、
地の文は漢字に変更しました。安定しなくて申し訳ないです)
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