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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月30日

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479/531

参拝中です(賀川)

下げた頭に鳩がくるると鳴いて。

賀川目線になります。

llllllllllllll

 







 今日は葉子さんの知り合いの女性の墓参りの後、今まで来られなかった母の墓参りに来ている。

 俺が本国より戻って三年……半くらいになるか。

 それからずっと様子がおかしかった姉は、どうやってか一度、幼少の姿に戻った。その事が精神を安らかにし、そしてたぶん何より魚沼先生にいさんのおかげで、普通に接してくれる様になった。ほぼ倍の歳差があるのは本人達の問題として、口出しする事ではないだろう。

 そうやって弟妹として過ごせるようにはなったが、亡くなった母の事は微妙だった。姉は俺に最後の瞬間に居させる事も、葬儀へ出る事も許さなかった。だから俺は母の墓を訪れる事は出来なかった。

 母の気が狂ったのは俺のせい……幼い時に攫われた……に起因する事は間違いない。それは俺が望んだわけではなかろうと。

 母が生きている時の見舞いはひっそり行っていたが、母は亡くなったのだ。生きている姉を刺激したくはなくて墓に参る事を憚った。その事柄について切り出すタイミングに姉も困っていたようだ。今回は叔母に当たる事がわかって今まで以上に親身になってくれる葉子さんが、間をとりなしてくれての参拝になる。

 時貞の墓ではなく、一人、教会の墓地に埋葬されている事を初めて知った。

 昔送ったカーネーションを持ってきたかったが、ちょうど取扱いのない時期で、手に入らなかったのは残念だったが、その代わり大きな百合の花をその低い墓に捧げ、片膝をつきながら頭を垂れる。

「もう少し、もう少しだけ長く生きてくれていたら」

 姉と二人で笑いながら母を見舞いに行けただろう。

 生き別れた葉子さんと会う事も叶っただろう。

 当時は想像もしなかった情景を目の当たりにすれば、正気に戻ってくれたかもしれない。

 十数年前に現実に戻った俺が見たのは、暴れて手の付けられなかった母。だが、亡くなる前は表面上は穏やかな、動かない人形だった。俺は自ら動く所を見た事はなかった。

 その母が交通事故……どうしてだろうかと言う思いが再び蘇る。

「何故です……お母様…………あの日、何があったのですか?」

 母が入院させられていた施設では、状態の落ちた彼女はベッドの上で虚ろにしているか、調子がいいと車椅子に乗せられ、座っているだけだった。精神を患ってはいたが、大きな病気はなく、それでも気力のなさは彼女の体を確実に弱らせていた。

 その日は戸外で風に当たるのに、施設の庭に車椅子で出されていた。

 職員が気付いた時にはその場所に姿はなかった。跳ねた運転手の話だと、車椅子が横道から突然、車道へ出てきて、ブレーキが間に合わずに母は亡くなった。施設を出て、車が走っていた通りまでは緩い坂道。惰性で転がって降りたとはいえ、庭から施設を出る道まで母が動けるとは思えなかった。

 事実、どうやって坂道まで出たのか誰も見ていないのである。

 だが時貞家は内々に事を処理し、騒がなかった。姉もその決定に従わざるを得なかったようだ。社長として忙しかったのもあるだろうが、弱っていく姿を目の当たりにするのも辛く……どんな理由であれ、最後には施設任せであった事は確かだったから。

「何も出来なくて、ごめん。でも本当に『へんじ』を返してくれたのだったら嬉しいんだ……」

 なかなか折った膝を、下げた頭を上げられないまま。頭のドリーシャがクルクル鳴いてウルサイくらいだが、俺にとっては問題ではなかった。

 後ろで葉子さんが誰にも告げる事無く、その場を離れて行った事に気付かず。

「カトリーヌ! いるかっ」

 どのくらいそうしていたか。

 後から来る予定になっていたタカさんの怒気に近い声が聞こえて、やっと立ち上がれた。

「お静かに。投げ槍君、墓地だからね。しかし、だいぶかかりましたねぇ」

「おうよ、いろいろ済まねぇ……バイトの娘がなかなか戻らなくてな。正月前だから混んでやがったみたいでよっ! それより……」

「ホント、どうしたのぉ? そんなに慌てなくても待ってるよぉ?」

 花の包み紙を分別回収の箱に入れに行っていた雪姫に、寄り添うように付いていた神父が戻ってきながら、凄い勢いで走ってきたタカさんにそう答える。

 日本人離れした容姿に、年を感じさせないというか、間違ってもタカさんと同じ年には見えない香取神父。タカさんの家族に手を出したと言った彼が雪姫の側に居るのは心配ではあるし、事あるごとに雪姫を触りまわっているのが気になる。

 どんなに神に仕える身とはいえ、男だ。

 雪姫の透けるような白肌、ほんわりと微笑むと淡く桜色が挿す頬。

 柔らかな胸に、細い体。稀有な赤い視線は……

 これ以上は母親の墓の前で考える事でもないか……

「今ね、教会の中を見る?……って、ユキ君と話していて。そこで話したい事もあ……」

「あぁ? そ、それよりとりあえずコレ、見てくれやっ」

 タカさんは香取神父の言葉を遮り、手にした何かを見せる。

「わぁ……懐かしいよ。これ、おんま君の使い魔……いや……式鬼とか呼んで飛ばしていたものだよねぇ」

「こないだ子馬の力で飛んでって、それに関しちゃぁどうも篠生さんに関わってたんだがよっ。さっきまでただの紙切れに戻っていやがったのに。急に動き出したんだ、これが……」

「子馬君が動かしてる? でも遠方からであっても、彼が操ってるならこんなに動きは悪くないよね? 数日帰って来ていない今でも、ユキ君の部屋の周りで白と赤の折鶴は警戒を続けているしぃ」

 それは紙で作られた蝶。微かに光るオレンジの光。

 子馬は鳥の形を作って、彼が居なくともそれは機能し続けている。

「まさか『アノ』おんま君が……いや、そんなワケはないよ。死体だから、アレは……」

 神父の顔色が悪くなり、それ見咎めてタカさんが詰め寄ろうとした瞬間。

「あの、葉子さんはどこでしょうか?」

 雪姫が人差し指で唇を触るような仕草をしながら首を傾げる。

 その時になって、やっと彼女がいない事を全員が認知した。顔色が悪いまま、香取神父は一瞬目を瞑り、

「トイレなどは教会内にあるけど、それならユキ君と僕の行った方向だから擦れ違う筈だし、今、確かめたけれど、葉子君の気配は教会にはない……よぉ」

 そこで雪姫が更に呟いた。

「あの……賀川さんの頭に居る鳥さんがですね? 『あっち』って……」

 そう言って雪姫の白い手が指し示したのは、教会への道より少しそれた方向だった。

lllllllllll

少し巻き戻して、次回タカ目線です

lllllllllll

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