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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月30日

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477/531

過去です(悪役企画:鴉古谷 泉)

lllllll

ある少年が今の立場になるまで。

一人称。鴉古谷です。

llllllll

 







 気付いた時には母親はいなかった。

 いや、当時母親と思っていたヒトは継母だったと後から聞いた。血の繋がりはなかったけれど、彼女は優しかった。だが腹違いの弟を生んで数年でいつの間にか見なくなった。亡くなったのか、それとも別れたのかはわからない。多分後者なのだろう。

 生まれた弟の雫の髪色が、まるで人口塗料で染めたような青だったのがいけなかったのかもしれない。不憫なので弟が生きている間にそう言ってやった事はなかった。雫は母親が居なくなった事に暫く泣いたが、それは父親を困らせると気付いたらしい。幼いのに母を呼ばなくなって、父が居ない時は、

「いずみ兄ちゃん」

 僕をそう呼んで張り付き、ニコニコとして泣かなくなった。

 父はどこか暗い瞳をしている人だった。

 出生については話してくれなかったが、両親も親友もまともにおらず、辛い生活が続いていたようだ。そんな中、誰かに声をかけてもらって当時の職に就いたらしい。

 僕と父親は弟と違って、髪が微かに青みがかっている程度で、見た目は至って普通の人間だ。弟のかなりはっきりとした青の髪はとても変わっていたが、僕と同じく人を超越したような力はなかった。

 ただ父はたまに煙草に火をつけるためにマッチで作ったほどの火を作り、僕達が喜ぶからとシャボン玉を吹いた時に風を操って見せた事があったが、人前でひけらかす事はなかった。そんなに見せるほど大した力も持たなかったのだとも思う。

 それでも迫害を受けてはきたのだろうけれど。

「ほら、今日は何をしようか」

 その頃は公暗特殊二課と言う所に務めており、たまに休暇が取れるとポケットに入れた華奢なナイフで鉛筆を削ってくれたり、外でも遊んだりしてくれた。その時だけは瞳の暗い影が和らぐ。

 不在がちな父親で、まだ小さかった時は買い込んでくれたパンやお菓子で食い繋いでいた。そんな中、帰ってきた父が作って一緒に食べる温かいご飯やみそ汁は美味しくて、その時間があれば僕達兄弟は幸せだった。

「今、僕と一緒に働いている人がだね、泉。学校を作るそうだ」

「学校?」

「ああ、そう言うヒトを集めた特殊な所だ。そこならきっと……お前も雫も変な目で見られる事はないだろう」

「僕は……大丈夫だよ。うまく溶け込めてる……と思う。でも雫はそう言う所がいいかもしれないね、父さん」

 ニコニコと弟は笑い、その隣で父が機嫌のよさそうな表情を浮かべた。

 それは僕達家族の温かかった最後の記憶。

 結局その学校に僕達が行くことはないまま、父は二課から一課と言う所へ所属が変わったと聞いた。その頃から様子がおかしくなった。

「ぱぁぱぁ~」

 まだ幼かった青い髪の弟が前の調子で張りつこうとすると、

「汚いから寄るな!」

 と、声を荒げ、手を上げるようになった。今までは物静かな人だっただけに僕も雫も戸惑った。いろいろ考えた末、迷惑をかけまいと出来るだけ俺達は父に近寄らなくなった。

 父が洗面所で何時間もかけて、手をゴシゴシと洗っているのをよく見るようになったのはこの頃だ。僕達が汚かったのか、自分が汚かったのか……今から考えると、精神的におかしくなっていたのは間違いがなかった。

 美味しかった味噌汁や温かい飯を三人で囲む事は無くなり、僕達に時間が割けなくなったらしくパンさえも買って来ず、新品の電子レンジの前に金が置いてある事が多くなった。僕が金を持って買い物に行けるほど大きくなったこともあるだろうが。自炊も考えたが僕にはその能力はなく、どうしてそうなったか分からない弟だったが、コンビニの飯は美味しいと飛びついているのだけが救いだった。

 暫くすると裸銭ではなく、財布や封筒にまとまった金が置かれるようになって、父は家に帰宅する回数が極端に減っていく。すれ違いに理由を聞けば、仕事が忙しいと言い、それ以上に追及はできない、前よりも酷く淀んだ目で僕らを見るのだ。

 ヤバい仕事に足を突っ込んでいる事はわかっていたが、口を挟む事は出来なかった。

「何かあるのか、泉」

 僕は名前を呼ばれて、何かを言おうとしたが、

「父さんは……ううん、何でもない。それより雫の頭を染めるね」

「……そうか。任せたぞ」

 小さかった雫も少しずつ大きくなって、いろいろ呑み込むようになっていく。

 そんな生活が何年か続き、それが通常になったある日、黒髪に染めた弟と共に学校から帰ると、激しい水音がした。父が手をまた洗っているのだろうかと思ったら、紺色の服を一心不乱に洗濯していた。その黒っぽい服から滲み出るのは赤いものだった。父の体に傷はなかったからそれは返り血だと気付いたのは後の事で、弟と僕は見ないふりをして、それについて何も触れなかった。



「どうしてこんな事になったんだ」

 ある夜、トイレの後、水を飲もうと入った電気もついていない台所で父に話しかけられた。無人と思っていたそこに座っていた父は、前以上に暗くどんよりとした目でこちらを見て呟く。珍しく掌に炎の塊を作ってぼんやりそれを燃焼させながら、

「こないだ、大切な人を殺してしまったんだ」

「父さん……殺すなんて……」

「うすうす……わかっていただろう? 力は殆ど継がなかったが、お前は異常に勘がイイ」

「…………大切な人なら、何でそんな事をしたんだよ」

 怒り出すかもしれないと思ったが、その日の父は比較的落ち着いていたように思う。

「仕方がなかった……命令されれば……正しいと思ってなくても、やらなきゃならない。それが大人だ。それだけなのに、あの人は僕を……優しいと、そして真っ直ぐな気持ちが強いと言ってくれた。でもそうじゃない、そうじゃないんだ……」

「父さん……」

「命令に逆らえないのは、役に立たないと言われて捨てられるのが、そして……逆らってまた迫害にあうのがイヤだったからだ。あの人を助けたくて動いたのに、僕は役には立たなくて二課にも居られなくなって……ああ、あのヒトこそ優しく、真っ直ぐで強い人だった。一族に見放されても、一人できちんと歩んでいた。あの日も僕が足の腱を切って、骨を折り砕いたというのに、誰でもないような、名もない『働き蟻』を助けるために、最後まで必死で立っていたんだ、そして更に下らない偽善を纏った僕を助ける為に……」

 炎を消して、机に伏せた父が何を話しているのか、正直わからなかった。

 さしてしないうちに、父は職場で重大な事件を起こし、精神病院に放り込まれる。現場で周りにいた者達を敵味方関係なく殺傷したらしい。

 だが父の仕事は『裏』であり、その事実は『なかった事』として処理される。その為、暫くして家に戻ってきた。が、そんな問題有りの男を置いてくれる場所などなく、自主辞職と言う形で首を切られた。

 無職になった父は家でぼんやりと過ごした。当然金が家には入らなくなり、いつしか生活に困る様になってくる。

 少しだけ。

 年齢を偽ればバイトに行けるかもしれない。そう思い始めるのは時間がかからなかった。僕はそれなりに身長があって、見た目が少し大人びて見えていたから。

 学年が変わり、学校を隔てても、いつも一緒に帰っていた弟をアパートの前に送り、

「もう一人でもお留守番できるよな? 雫」

「だいじょうぶぅ~」

 僕はその返事に頷いて背を向けると、本で探して連絡をつけていたバイトの面接に向かう。決まった仕事は飲食店。まかないもあるし、売れ残りは家に持って帰ってイイという。帰宅は遅くなるが、食いしん坊の雫は喜ぶだろう。

「雫? 父さんもいるんだろ?」

 家に帰ると、もう電気をつけなければいけない時刻なのに室内は暗かった。その中に笑い声ながら『ごめんね、ごめんね』と謝る弟の声が聞こえる。家の中に漂う濃く淀んだイヤな匂い。

「雫! 何があっ……」

「ごめんね、僕が、僕が全部、ごめんなさい。ママが居なくなったのもごめん。笑ってくれなくなったのもごめんね……だから起きてよぉパパぁ、ごめん。ごめんよぉ」

 父はいつも携帯していたバタフライナイフで首を掻き切って事切れていた。

 何の感慨はなく、ただ一人でこれを見つけた弟が可哀想とだけは考えた。

 役場の人に手を貸してもらって簡素に葬儀を済ませた頃、懇意にしていたという男の使いが来て、僕達兄弟はその人の元で働くようになった。その男の名は『宵乃宮』という。

 そして僕が帰るまでの数時間、父の死体と過ごした弟はだいぶおかしくなっており、『ごめん』が口癖になった。その時の影響か、少し頭が弱いまま育った。父の器用さを継いだのかバタフライナイフを巧みに操っていたが、少し前の戦闘でしくじって命を落とした。





 僕自身は父の居た公暗警察特殊一課に捩じ込まれ、そこでそれなりの地位を手に入れていた。僕は父の言葉から悟り、何者にも情をかけず、汚い事も平気でやった。

 そんな仕事をメインとする集団の中では、多少の無理も道理と通った。僕はあらゆる仕事を引き受け、こなした。どんなに悪い事をやっても心が痛む事はない。父のように良心や友情など、優しいと言う類のものに心を囚われれば、死んでしまうと悟ったからだ。

「一課長補佐官の鴉古谷さんですね。俺は二課に所属となった土御門 高馬です」

「こうま?」

「高い馬と書きます。よろしくお願いします」

 そして数年前に二課へやってきた高校上がりの男は何かと目についた。故意か、偶然か、過去に進めた僕の取引に関する不正を掘り返すような事が度々あった。何とか追及は逃れたが、それでも何かを感じた者はいたのだろう。友禅と言う上司が派遣され、目を付けられた。

 そんな因縁を持った高馬という男は『半端者』と言われていたが、いつしかその呼び方は影を潜め、『雷神鬼』と二つ名を取り、二課の『璧』とまで言われるようになった。僕の目から見て短期間で回りの信頼を得て、二課の大半を占める『土御門』の当主となったのには驚いた。

 前当主、悠馬の独裁ぶり、更に高馬への扱いの酷さは一課でも有名だったからだ。

 メキメキと力を付けた彼が僕を猜疑の目で見ているのは明らかだった。僕の前にチラつく高馬について調べれば、父とかつて一緒に仕事をしていた『和馬』という男の息子だったのに驚いた。多分……その男こそ、それまできっちりと仕事をこなしてきた父を『惑わせた』のだともわかった。

 そして裏取引で横流ししていた『物資』について、雷神鬼が喰いついてきたのは数日前の事。

 その物資の一つは……土御門から国に接収され、処分されたと工作して横流ししていた『遺体』だった。



llllllllllll

『以下1名:悪役キャラ提供企画より』

『鴉古谷 雫』パッセロ様より


以下二人は、雫の家族として創作

『鴉古谷 霙』(父)

『鴉古谷 泉』(兄)

問題あればお知らせください。

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