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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月30日

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472/531

過去話です(葉子)

思いのほか長くなったので、後二話、葉子目線の過去に行きます。

llllllllll

 





 幼い頃から住んでいた養護施設の子達とならともかく、学校の時に出来た友達なんて。

 私のような素性では、わざわざ連絡取る事もなかったけれど、聖子さんとだけはたまに会ったりしてたの。彼女はなかなか子供に恵まれない事とか、ご両親と藤堂君がかみ合わない事とか、話してくれたわね。

 そうそう私がうちの人と付き合うようになったって報告した時には、本当に喜んでくれたわ。

 そんなある日、具合が悪いのを見咎められて、仕事を早く終えてアパートに戻ったの。

 そのアパートの影でおんまさんと誰かが話していたのを見かけたわ。

「ミゾレが心配しなくても。今度ちゃんと話に行くって」

「でも悠馬さん……いや、当主が相当怒っていて。あいつは耳があるのか、と」

「うーん。一応あるんだけど。ほらぁ鬼みたいなこの大きなのがね」

「茶化さないで下さい、和馬さん。時子さんも色々と言ってくれているんでしょう?」

 そこまで聞いたところで、あんまり無言で眺めているのもどうかと思って声をかけるの。

「おんまさん?」

「ああ、葉子さん。どうしたの? こんな時間にまだ終わらないよね、『柴』」

「ええ、それが……」

「どどどっどうしたの? 何かあったの?」

「……ふら付いたのを大女将に見られて。今日は休めって」

「大丈夫なの、葉子さんっ。ほんと、顔色が。タクシーで帰って来ればいいのに?!」

 まだ私をあの人は『さん』って付けて呼んでた。思い出すとなんだか懐かしいわ。

 二十年ほど前、あの頃は携帯が普及は始めていたけれど、持ってはいなかった。私なんか家に電話すら引いてなかったし、それでもおんまさんは三日とおかずに来るからそんなの要らなかったわね。

「タクシー? そんな贅沢しないわよ。ほんのチョットなの。このぐらい、なんて事ないのに大女将ったら大げさで。今日、よく寝るから。おんまさんこそ、どうしたの? それも立ち話なんて。上がっていただいたら? 何もないけれどお茶くらい……」

「急に明日から遠方に大きなヤマを片付けに行けって言われたから、葉子さんの顔を見に。ココで待っていたらミゾレが来て……で、彼は俺の公暗での相棒、話したことあったよね? 鴉って字に、古い谷って書いて、鴉古谷あこやミゾレっていう、相棒がいるって……ミゾレ、この女性は……」

「刀森 葉子です、その……」

「知ってるよ。課内ではアンタのおかげで大変なんだ」

 睨まれて私は少し身を竦めたわ。珍しくおんまさんが見咎めるのに、ミゾレさんは不服そうにしながら、

「……和馬さん、僕は真っ直ぐな貴方が嫌いじゃないです。だから……」

「うん、わかった。今回の出張が終わったら、ちゃんと話に行くよ。自分の好きな人くらい自分で見つけて、選ぶんだ。じゃ、ミゾレ」

 何か言いたげに、じっと見るミゾレさん。

 今、雨に濡れたかのような青みがかってしっとりとした髪色が、テラリとしてまるで鴉の羽のよう。その前髪から覗く瞳は真っ直ぐで、悪い人には見えなかったわ。

 この後、部屋で彼は生粋の土御門出身じゃないけれど、一緒の部署で働いていて。ちょっと硬いけれど真面目で俺の事を立ててくれるとか、息子さんをすごく可愛がるとても子煩悩な良い人なんだよ……とかって、あの人は言っていたわ。

 階段を上って行く私達を見る目はとても恨みがましそうだった。でもおんまさんの事、好きだったもの。だいたいあの人の家族から、私が疎まれているのは薄々知っていたのよ。だからその視線もおんまさんを思えばこそだと考えれば、腹は立たなかったわ。



 翌日、急に決まった出張に出て行ったおんまさん。その隙を縫う様に彼の親戚が押しかけて来たの。いえ、あれは計画的に彼を私の側から離したのね。

「ただ別れてくれればいい。アンタはそこそこ美人で若い女だ。ウチの和馬でなければならない理由はなかろう」

「反対するのは……私が商売女だったからですか? 今も夜の店ですが調理場できちんとした仕事を……」

 強面の男達。同じような顔で、おんまさんと同じ血筋の人。なのにあの人と同じ温かさを感じない人達。私が余程嫌いなようだったわ。男相手は慣れているから物怖じはしなかったけれど。

「土御門とお前の刀守の関係は知っているか?」

「刀森?」

 延々と時間をかけて、土御門と刀森は昔から仲が悪く、結ばれてはいけない相手だと諭されたわ。刀森の家なんか知らないけれど、和馬の為に別れてくれと言われ続けたの。

「和馬を一族の爪弾きにしたいわけじゃないだろう? 刀守さん」

「彼は私と居ない方が幸せになれますか? なれますよね? だっておんまさんをこうまで思って集まって下さった方々がいるのだから」

「それは、保証する。和馬にはうまく言っておく」

 それは執拗な取り調べのようで、愛していると言うだけでは越えられない壁を作っていたのよ。また、愛があるならば超えてはならない一線を感じたの。今ならまだ引き返せると。

「うまく言わなくてもイイです。私は別の人を好きになったとでも言って下さい。探さないで……と……」

 私は……説得に応じたわ。

 愛してるし、好きだから。自分が彼の為にならないのは嫌だったから。例えば聖子さんみたいに、清楚で素敵な女なら自分を通す事も出来たけど、我が身ながらそんな綺麗な生き方はしてなかった。だから離れるのは正しいと思ったの。

 うろなを再び出るために鞄に少ない荷物を詰めて。お店に無理言ってお暇をいただいて、おんまさんの前からは姿を消したの。ちょうど会合で大女将が居なかったから強行できたのだけど。



 偶然、聖子さんにはその姿を見られちゃったのよね。



lllllllllllllllll


『うろなの雪の里』(綺羅 ケンイチ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/

藤堂(桜井)聖子さん

お借りいたしました。

問題があればお知らせください。

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