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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月30日

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471/531

墓参り中です

一日挟んで30日のお話。

葉子目線になります

 




「寒いけれど、いい天気が続くわねぇ」

「………………明日、降ってきます……雪」

 側に居たユキさんが呟くの。空を見上げて白い吐息と共に言うそれは、まるで予言のようで彼女の心がない、ただ事実を告げる虚ろな返事だったのよ。彼女が言った通り、降ってくるのよこの翌日。朝は晴れていたのだけれどねぇ。森に住んでいた子だから、そう言うの、鋭いのかしらなんて普通ならその程度に考えるのだけれど。

 その時、空を眺めていたユキさんの表情は人間離れしてたの。この所、とても艶が出てきたのだけれども、異様なほど人を誘い込む存在感を纏っていたの。アレは高馬が来た日、水羽さんと名乗るヒトと彼女が入れ替わった時にも似てたのよ。

「ねぇ、ユキさん、……なの?」

「ぇ……っと、な、何ですか? 葉子さん」

 次の瞬間にはいつもの緩い笑顔を私に向けてくれたから。

「いいえ……それをお願いね」

「ユキ君、こっちだよ。一緒に行こぉね」

「は、はい」

 花を包んでいた紙を処分する場所にユキさんが向かう隣に、カトさんが寄り添ってついて行くのを見送るわ。後ろを振り返ると賀川君が片膝をついて手を組んでいるの。賀川君の母、私にとっては姉に当たる人のお墓。ここはカトさんの担当する教会のお墓だって言うから驚いたけれど。

 日本風の縦長の墓石ではなく、低めの墓石が並んで知るわ。刻まれているのは名前だけではなくて、聖書の一文だったり、十字だったりと個性があるわね。

「賀川君のお母さん、キリスト教の信者だったのね」

「教会……母と何度か行った気がします……」

 私は児童養護施設に入れられたけれど、賀川君の母、つまり私の姉さんが入れられたのはキリスト教系の孤児院だったよう。姉は養子縁組が決まって、院を出たそうだけど、養父母には余り可愛がられなかったみたい。何だかたらいまわしにされて、姓も何度か変わっていたわ。

 私、何かの折に戸籍謄本を取り寄せた時、もう少し真面目に眺めればよかったと思うわ。でも母の名前を目に入れたくもなくて、まともに見た事なかったのが悔やまれるの。おんまさんの言葉にもこの事だけは耳も貸さずにいたから、仕方ないわね。

「姉さんは……私の事を知っていたのかしら? もう少し早ければ。一目、会いたかったわ」

「たぶん母も、そうだったと思います。で、タカさんは?」

「さっき行ったお墓があるでしょ? そちらにも回ってからこちらに来るって。ゆっくり参っていて大丈夫よ。カトさんがユキさんを見てくれてるし」

「そうですか……」

 遅れてきているタカさんの事やらをまとめて告げると、そう了解を返して祈りに戻る彼の肩越しに、墓石に添えられた百合の花を見ながら。

 ちょっと昔を思い出したの。



 さっき、うろな町の墓地にも行ったの。あちらはよくある日本風の墓場だったわ。

 そこには高校の時にお友達だった『聖子さん』が眠っているの。

 今、うろな町で整体院をやっている藤堂君の前のお嫁さんよ。二人とも中学から仲好くて、高校の時には『美女と猛獣』だわ、なんて冷かしてたわ。

 聖子さんは私なんかと違ってとても品がよい女子だったの。華道の家元の娘さんと聞いたわ。

 私は高校を卒業して、さほどしないうちに町を出て夜の仕事に就いたから。

 その後、藤堂君は警察官に、聖子さんは誰かに決められた将来に嫌気が差し家を捨てて教師になり、二人が二十歳で結婚したなんて知らなかったの。





 不法な店の検挙で捕まった所、無理矢理うちの人に連れ帰られて、うろなに戻って『柴』で働くようになった。それから暫くした頃、彼女と再会したの。

『二十歳の時に籍を入れたの? ほんっと二人とも熱かったわよねぇ~学生の頃から……』

『もぉう、葉子さんったら変わらず意地悪っ。……で、そういう葉子さんはどうなの? 友達って感じの男子は多かったけど、恋人はいませんでしたよね』

 あんまり聖子さんばかり囃しても悪いから、普段は口にしない気持ちを考えてみたの。

『そうねぇ……この頃ね、気になる人はいるのよ』

『え、どんな人ですか?』

『……彼、おんまさんって言って、公安の人なのよ。警察にお世話になった時、偶然いて。身元引受人になってくれたの。だから義務で見てくれているんだけれども…………年は十も離れているから、よくて妹って思っているわ』

 そう否定的に言うと、聖子さんは笑ったわ。

『十くらいなら許容範囲だと思いますけれど? 優しくしてくれるんでしょう』

 身元を引き受ける親もいない、高校出の女が生きていくのにどういう道を歩いたのか、彼女には言えなかったから笑っておくわ。彼に隠せるなら隠すけれど、出合ったのが警察署だもの。そんな女を好き好んで迎える男がどれだけいるか。でも教師の勘かしら? 何かに気付いたように、

『……きっと葉子さんが好きになった人なら、色々……わかってくれると思います』

『そう、……ねぇ』

『見た目はどんな感じの人なんですか?』

『あ、藤堂君が野獣なら、あの人は鬼みたいよ?』

『ぇ…………?』

『ふふっ……おんまさんは本当に笑わないと怖い顔だけど……まぁ、野獣なんてからかってたけれど、藤堂君、パッと見ると怖いけど、よく見れば結構渋くてイイ男じゃない? 私の趣味じゃないけど。ほら、性格は真っ直ぐだし、女子に影では人気あったんだから。でも校内の美人で三本の指に入る聖子さんが側に居たら、普通の女子なんて、ね。だから皆、二人を囃す方が楽しくて……』

『また、そうやって。からかわないでよっ~葉子さん……わ、私はそんなに美人じゃなかったわ』

 両手で顔を伏せて首を振る彼女はとっても可愛くって。自分じゃわかんないわよね。藤堂君、聖子さんもだけど、この頃できたいい人も……本当にいいコばっかりだわ。そんな子に恵まれるのは、彼がとても真っ直ぐだからだと思うわ。

『でも、ねぇ? 聖子さん、そんなで大丈夫? 高校で生徒にナメられたりしないの?』

『あら、葉子さん。これでも学校ではピシッと、シメる所はちゃんとしてるんですから』

『そっか。昔から芯はしっかりしていて、変に頑固な所もあったモノね。聖子さんは頭良かったし、勉強を友達に教えるのもうまかったし』

『成績なら葉子さんの方が……』

『ああ、私はダメ。……成績なんか何の役に立たない職業だから。それにしても藤堂君が警察なんて、似合いすぎだわ。正義感が強いし』

 それからもいろんな話をして、二人で笑ったのよ。



『うろなの雪の里』(綺羅 ケンイチ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/

藤堂(桜井)聖子さん

藤堂義幸先生 星野さん(存在のみ)


お借りいたしました。

忙しい中、確認ありがとうございました。

問題があればお知らせください。

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