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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
7月14日

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照会中です

抜田先生は情報集めが大切だと常々考えております。


 









「巫女なんてのは信じられないんだが」

「話半分と思って聞いて下さればいいですよ、抜田先生」

「いや、今だと「都市伝説」と呼ばれるモノが、国の根幹でどうにも切り離せず、動いている事は知っている。じゃ、なきゃ、いろいろ無駄なモノが公費で建てられたり、置かれたりなんぞしない。風水の布陣とか、何とか、詳しくはないが……とりあえずこう見えても、一応、昔はこの国の真ん中に居たのだから」

「とりあえずという感じではないのですがね。あ、こちらが戦時中に捧げられた、宵乃宮人柱の系譜と使用時期になります」



 俺は机の上、床、……いつの間にか散らかった書物や資料の山に目をやる。

「これは……外国で拉致され、怪しいルートを流れながら、生き残った賀川……時貞 玲の存在ですら、信じがたいが。それの方がまだリアルだな。……それにしても良い音だった」

「玲様はコンクールはすぐに辞退してしまったので、殆ど優勝経験はないのですが。当時聞き付けたファーゲンという有名なソリストや、日本の芸学の教授や海外の学校が目を付けて指導したいと手をあげていて、途中で折れていなければ、音楽の世界を背負って立つ様なピアニストになっていたでしょうね」



 興味本位であの男が幼少時代に残した音源を手に入れて聞いていて、今途切れた所だった。

 どこかで聞いた事のある曲、その正確なタッチは素人耳にも確かでありながら、その膨らみは鮮やかで色彩を持って脳に語りかけるかのような表現力と、何よりピアノを弾く楽しさに満ち溢れていた。

 彼は古い新聞記事に、天才少年現ると取り沙汰されていた子供だった。

 性格的に伸びたか、二十歳を過ぎればただの人になっていたかは疑問で……俺は後者に軍配が上がる気がしたが、どっちにしても大企業の息子。息災に育てば、うろなで燻っては居なかったかもしれない。



 穏やかにピアノの前に座る少年の写真、その隣の姉、冴。

 現在のTOKISADA実質のトップ。一度会って見たが、着物の似合う女性で、話し口にオカシナ所はなかった。だが一度、「弟」が絡むとテンションも性格も狂ってしまうそうだ。



「奴が『天使の盾』で騙されて、仲間を失い、残った者の信用も得られず、尻尾を巻いたのが三年前、だったな」

「誤解は既に解けたのを伝えてますから、近く渡航させるつもりだったのですが。暫し延期ですね」

「ま、姉に殴り倒されているより、好きな女と一緒の屋根の下、普通なら嬉しいんじゃないか?」

「普通じゃないから、そうでもないだろ?」

 今まで沈黙して一人でコロッケを肴に一杯飲んでいたぎょぎょが呟いた。

「今日、巫女とか人柱とか、俺にとっては、おおよそ嘘だと思われるような話をしてきた。少しはどこかで聞いて知っている感じだったがな。その賀川の人生思えば、誰よりも愛情に飢えている男だ。それが、指咥えて『安全を守る』事だけに徹するなんぞ、どう考えても可哀想だろう。そんな事をさせる投げ槍が信じられないぞ」

「意外にお優しいんですね。で、なければ、一銭も貰わず面倒な医療裁判や、勝ち目の薄い訴訟の弁護など買って出ないでしょうけれど」

「意外ってなんだ、そこは。ふん」

 拗ねたようにぎょぎょが酒を飲み出す。スーツは脱いでノーネクタイにカッターシャツ姿だが、河童のようなその姿に哀愁とコミカルさが加わり、表現しづらい面白さを醸し出している。

 それに付き合って酒を飲み出した猫目の篠生という若い男を見ながら、分厚い本、そして広げた古い巻物を俺は捲る。



『巫女』



 元来、神や自然を奉納する神社や仏閣で、神の言葉である神託を伝えたり、神への舞などを献上したりする者。

 その昔、神を舞い降ろし、その容姿故に『神に愛されし白き巫女』が居たという。

 先代の巫女と神の間に生まれたとも噂されたが、確証はない。ただその巫女は今まで巫女と呼ばれた女より、各段に不思議な力を宿していたと言う。

 だがいつの時代も、神が擁した緑の豊かな土地に、真っ赤な戦炎をあげるのが人間と言うモノ。

 その上、長き雨で日照不足に続く飢饉、次の年にはと期待した収穫は干ばつで損なわれ、疫病が流行り、それが人々をあざ笑うかの様に何年も繰り返し続いた。

 少なくなった水源、収穫したコメや食料の奪い合い。戦は戦を招き、土地を耕す者を失った田畑は荒れる。

 何度か戦の決着にと巫女は乞われて神の力を持って平定したが、争いは終わらない。疲弊した白き巫女は神を降ろせなくなっていた。

「自然も、神も我々人間のただ言うなりにはならぬ。それでも少なき物を争わず、分け与える事が出来るなら、神は我らを見捨てない。神卸の舞はもはや争いの煙に満ちた空には届かぬ。煙を断ち切り、額に汗し、毎日を生きられる事を満足としない限り、神は姿を見せぬだろう」

 そう言い続ける巫女の言葉に、もはや人々は聞く耳を持たない。



 神を降ろせぬ巫女に用はないと、人は彼女を守る男を殺した。そして巫女を神への当て付けに犯した。巫女は悲しんだが、それでも皆の為になるならと、かなしむその身を神滝へと投げた。

 それを哀れに思った神が顔を覗かせた時、太陽が射し、悲しみは雨を降らせた。かけられた虹は大地を潤し、煙を祓った。

 人々は巫女に敬意を取り戻し、彼女を『人柱』と称し、讃えた。



 だが人は過ちを繰り返す。

 繰り返すは争いの記憶。その中で切羽詰まると人は巫女を『人柱』として密かに立てるようになった。

 それが効果があったかどうか、念入りに調べ見出したのが『宵乃宮』しょうのみやと名乗る集団だった。 

 巫女をより強固な『人柱』とするには、愛を育ませ、その相手の命を奪った悲しみで埋める事。その悲しみが深ければ深いほど良い『柱』となったと言う。

 いつしか巫女を含めて『宵乃宮』を名乗った一族は、『人柱の巫女』から奪った『巫女こども』に、母親と称する女を付け、年頃まで育て、愛を覚えた頃に、それを男の命と共に稲穂の様に刈るようになった。そして次世代を生み出させた後、必要に応じて『人柱』とする。それは国の極秘の祀り事として、歴史の闇で密かに続けられた。



 だが、近代になり他国との戦中に『人柱』が多量に必要となり、命を繋いでいくシステムを登用せず、哀しみだけを宿した乙女の命は無論、男の子までも巫として使い、昭和の終戦頃にはほぼ全滅したとされる。




「その『宵乃宮』という組織は何が目的なんだ?」

「『宵乃宮』は巫女を差し出す事で、この国の中枢に座を持っていたんですよ。ですが、まともな『巫女』を擁せなくなった為、戦後すぐ、切り捨てられた。国的に近代化を進める上で、人柱など美しい話でもないので。その為、『宵乃宮』はこの国を恨んで、強力な『巫女』の育成し、何かする気のようです。ですが彼女の母、秋姫を擁した女が裏切ったのです」

「裏切った?」

「はい。女は彼女をうろな町に隠し、住んでいましたが見付かり、秋姫は逃亡の末に、雪姫を産んだようです」

「こないだ薬品を使ってきた件は? 殺したら人柱には出来まい。でもあの薬剤で嬢ちゃんは死ななかったが、神がかった状態になった。あれは何なんだ」

「ああ、あれですか」

 篠生は細い目を見開くようにしてから、

「あれは戦中に開発された薬で、元々神事の際に巫女が飲まされる薬剤を改良したモノです。彼女を『宵乃宮』の手に落ちる前に殺そうとする政府の者、あわよくば『巫女』の力を手に入れたい科学者……いろいろな思惑が入り乱れていて、私も良くは解明できてないんですよ」

 解明できていないと言いながら、酒を手に嬉しそうに笑う篠生に俺は鼻白む。酔っていると言うより、それが地なのだろう。知らない事を知り、それを面白いと思うのは自分の中にもある。

 が、自分の身内に近い男が、白き少女を自分の子として守ろうとしている。その実の息子刀流がこの流れに巻き込まれて、交通事故で亡くなった。

 巫女を「人柱」とする前段階は、愛を育ませ、その相手の命を奪った悲しみで埋める事。

 刀流は俺にとっても息子のような青年だったから、そうやって彼のようには笑えなかった。



「何で俺達に情報を渡す? 本来なら賀川に渡すべきじゃないのか?」

「そうですね、でもまだ彼には約束の渡航を果たしてもらっていないので、直で渡したなら、これから私が他で嘗められますからね。近くに居る貴方達が持っていて教えるのは私が関与するところじゃないわけで。貴方はこの情報を買ってくれる上、更なる諜報費と貴方自身が情報屋として整合性を調査してくれる。私は仲介屋ですから、貴方達のコネクションはいただけるし、利益率が高いわけです」

「それだけか?」

「そう言う事にしておいてください。ちなみに巫女が身を投げた神滝はうろなの森にあると言われています」

「滝などあの森にはないハズだが」

 俺がそう言った時、顔を赤く染めたぎょぎょが、

「あんまり森には行かなかったが、ガキの時にカブトムシが良い小遣い稼ぎになるからと入った時、穴に滑り落ちたのを覚えてないか? あそこが何処だったかわからないが、おんまが連れ帰ってくれたあそこで、俺は滝の音を聞いた気がするがな……」

 そう言いながら、うちの弁護士河童は眠そうにしながらコロッケを再び齧り、酒を流し込んだ。



ぎょぎょがどんどん変な人になっているよ

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