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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月28日

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465/531

批評中です

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神父、香取の目線で。

筆を走らせる彼女の後姿を眺めながら。

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 この地の『滝』に関する予言は昔から土御門が保有して『監視』してきたそうだ。辿ればご神体の刃を作った者は土御門の一人だったという情報もある。事実、現在のご神体は賀川君の中にあって、それはおんま君が打ち出した物だと聞いた。彼自身は死んで、その体を持て遊ばれているというから皮肉だ。投げ槍君が知ったらすぐにでも駆け出して、後先なんか考えずにぶっ潰しに行くだろうなぁ。……なんて思うから、言えないけれど。

 僕だって怒りを禁じえない。けれど今動くのは蜂の巣に突っ込むのと同じくらい危険。自分がではなく、隙を見せれば賀川君やユキ君に被害が及んでしまう。だからむやみに走ってはならないと自分に言い聞かせる。

 宵乃宮は昔、曲がりなりにも人柱を立てる事が出来た為、羽振りがよく、一時は闇の方でこの国の中心を取るほどだった。それが徐々にうまくいかなくなったのは人柱の質が落ちたからだ。原因はおざなりな『祝福』や巫女の精神状態が悪く、神の座であるこの町から長く巫女を離したなど理由は多々考えられた。何より彼女の降ろすべき神が憂いた為だったと思う。

 その上、国の情勢や立て続けに起きた大戦、敗戦、そしてその後の近代化に宵乃宮は政府から完全に切り捨てられる。

 彼らとてその事態を手をこまねいて見ていたわけではなかったが、巫女を人柱として養育してきた刀森の離反、逃げていたアキ君以外の巫女と刀森が使っていた家が燃え、宵乃宮の名は暫く裏舞台から消えた。ただの事故かじとされているが……予測ではその時の巫女達や刀森達を宵乃宮は喰らって生き残ったのではと僕は予測する。

 そして宵乃宮は完全に消えたわけではなく、最後の『札』であるアキ君を狙い、細かく力や資金を集め続けた。時間をかけて塵も積もり、株などをうまく使って増やした資金で再び巫女やアンドロイドの『研究』などに着手し、現在も引き続きユキ君を狙ってきている。

 土御門や我が教会などは目的に違いはあれど、基本的にその抑止力となりつつ、力をも手に入れられればと我田引水を目論む組織になる。

 ただ子馬君は巫女より他の女子に夢中だ。

 あれは本気で恋をしてるのだろう。土御門の当主後継は血によるとは限らないが、土御門で『強き者』を輩出するのはどうやら血の流れに関係ある。一族の者達は当主後継に繋がる大切な『姫』をおんま君と同じに外部から迎えようとする子馬君の動きに注視し、巫女の事は二の次となっていると情報が入っている。

 僕は……教会の支援は受けても意図など汲まない。ただ神が導くままにこの場所でユキ君を……

「どうでしょうか?」

 彼女の筆の動きが止まり、絶妙なバランスで薬剤を振っていく。そして紅い、柔らかな光が僕に語りかける。スプレーをかけられた絵画が本当の輝きを放ち始めた。それを背に彼女は微笑む。

 駆け引きなどユキ君には無縁である。勿論、アキ君もそうだった。

 彼女達は彼女達の生を全うするだけ。だがそこに居るだけで皆、彼女達を欲しがる。それは秘められた人柱の力であったり、その真っ直ぐでひたむきな愛であったり、その体であったり……理由は様々。

 結局、僕もそのうちの一人。神にその身を捧げたが故に、彼女に見た『神』に僕は……

「あの、……えっと、カトリーヌ様、大丈夫ですか? ……またナデナデします?」

「いや、遠慮しとくよ。賀川君が妬くよぉ?」

「そんな事はないと思いますけれど? 何で、ですか?」

「何で、か……そうだねぇ、うん、ちょっとは男心を考えようかぁ。さっきも僕が食べてもよかったんだよ? まぁ彼も女心などわからないようだけど」

「えっと、た、食べるのですか?」

「そう、全部ね?」

 彼女は冗談と思ったのか、意味が分からないのか、微かな間の後にゆっくりと笑うだけだ。聖職者でも男であるし、君の為なら禁を犯してもイイと考えないわけじゃない。けれどそれを望む相手は賀川君だから、彼にはしっかりしてほしいんだよねぇ。

 僕は彼女から視線を外し、じっくりと彼女の絵を眺める。

 そこにあったのは穏やかな海の青、見下ろすように佇むのは薔薇のような髪色の少年と車椅子の老人。二人を包むのは穏やかな春空と光、残り雪が舞う絶妙な間。白き鳥が空を舞う。

 ユキ君の絵は何処かを切り取ったようなであり、ココに至るまでの時間を見る者に考えさせる。それから光や質感はその場の温度さえ感じさせるほど。見る者を誘い、引き込む。

「色が落ち着いてきたね。……ああ。あまりに君の色合いは美しいねぇ。うちの絵具カトリーヌをここまで使いこなしてくれて、正直、うれしいよ。これを作っている父も喜ぶと思う」

「そんな。でも、うろなの海は美しいと母が言ってたので、思い入れがあって。何回か見る事がありましたが、もっともっと、美しいのです……」

「あの海が美しいのはね、神が住まう場所だからだよ」

「カトリーヌ様の言う神って……」

「……私が信じるのはただお一人、だけど他の者の心には別の神が居るのもまた事実。そして皆、等しくあるように、神は誰にとっても神であり、その姿を変えて見えるのは、見る者が神ではなく、人間だからだよ。だから別に他の神を僕は否定しないけれど、根源は一つ。故に神は一人しかおいでにならない」

「……難しいですけれど、空の青も海の青もみんな綺麗というけれど、同じ色や輝きに見えているとは限らないって事でしょうか?」

 彼女なりの解釈に僕は笑う。

「で、この子供の髪は良い挿し色だけれど、何故この子はこの色に?」

「この子は薔薇の妖精なのです、だからその色を」

「薔薇の?」

「はい。この老人はかつては少年だったけれど、人間ですからは年を取って亡くなるのです。でも妖精の彼はまだまだココに居るのです。もうすぐ死が二人を別ちますが、『約束』した永遠の少年は、この老人の想いをこの先も見守っていくのです。永遠の命、刹那の命、それが交わる最後の瞬間……」

「何かの物語かなぁ?」

「夢で、見たのですよ」

 彼女はにこりとしながら、自分の絵を見やった。

 僕はいずれ、友である投げ槍君達に置いて行かれる身だ。僕は永遠ではなく、微かに年を取るのが遅い程度だけれど、おんま君のように命を落とさない限り、彼らの見る事はない時間に僕は間違いなく生きているだろう。時間軸の違う生き物、でも確かに存在する温かい感情が光としてそこにある。僕に見せるのにこの絵を描いていたわけではないとは思うけれど。最後の瞬間に、そして残された時に後悔しないように。そう、暗に諭されている気がした。

 神父だからそんな風に彼女の無意識をそう感じとってしまうだけかもしれないけれど。

「……ユキ君、こちらから光を当てると印象が変わるから、見てみるとイイよ?」

「じゃ、イーゼルを動かしてみます。あ、本当ですね」

 二人で向きを変えながら眺めていると、微かにピアノの音が聞えた。素人耳にもプロの演奏を思わせるそれ。

「確か彼は大掃除するって言ってたけれど、今終わったのかなぁ」

 手が空いた賀川君が弾き始めたのだろうと思い、呟くとユキ君がきょとんとした顔をした。

「……何でですか?」

「いや、ピアノの音が今……」

 きゅぃ、と、僕にだけしか聞こえない声を聴く。いや、それも彼女には聞こえていた。

「今、誰かが『さっきから鳴ってる』って言いましたけども……」

「うちの白るぅの声が聞こえるの?」

「るぅ、は、よくわかんないですけれど、ピアノはここで私が描き始めて、すぐ……かれこれ二時間、たぶん賀川さんがずっと弾いてるんですケド」

「……考え事をしていたからかな? 聞えなかったよ」

「そうなのですか?」

 周りの誰も気づかない事、いや、気付かれないように風蛇をいつも側に置く。だが風蛇は巫女の事が余り好きではないから、側から離しておいた。外を見張らせるためでもあったのだけれど。

「もしかして、耳、聞えないのですか? それも片方だけ? 左?」

「君は鋭いのだか、鈍いのだかよくわからないよ……特に実生活で困る事はないから。るぅが側に居てくれれば風で音を逆耳からも聞く事が出来るんだ。でも言うと特別扱いになったりするの嫌だから、誰にも言わないでねぇ。今度正月があけたら、時間を見てお出かけしよ~約束したよね」

 そっとその白髪に触れてそう言うと、彼女は不思議そうにその赤い瞳で僕を見返してきたのだった。


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『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん


ちらっと話題にお借りしました。

問題があればお知らせください。


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