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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月28日

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464/531

追求中です

llllllllll

ユキ視点です。

llllllllll

 





 初めてこの家にピアノがあったなんて知りました。

 それも普通の家にある机みたいな形じゃなくて、司先生の結婚式に賀川さんが弾いたような大きなグランドピアノ。それもよく見る漆黒のではなく、とても木目が美しいのです。素敵な飴色で、曲線と直線のバランスが綺麗なのですよ。このピアノはドイツで作られているレーニッシュというピアノだそう。ドイツではマイスターという制度があって、素晴らしい手工芸などができる方にはその称号が送られるそうです。このピアノもマイスター達が作った素敵な一品。

 ウォールナットの木目が映える天板の芸術的な作りに、綺麗な音、私は絵を描く気持ちを刺激されます。

 でも本当は入ってはいけない部屋だったみたいで。葉子さんがとても慌てていました。

 タカおじ様はそれでも許してくれて、暫くピアノを聞いて、私をとても思ってくださっているお話をしてくださいました。

 そして私達は部屋を出たのです。

「賀川の、その部屋のピアノは使いたきゃいつでも使っていいぞ」

「本当ですか? だって大切な……」

「嘘言ってどうすんだ? もう房はいねぇ………………」

「タカさん? もしかして……」

 葉子さんがタカおじ様を覗き見ると、微かに顔を背け、

「ああ、久しく忘れていた彼女の声が聞えてよぉ、何か笑ってる顔、思い出しちまった。……もう、忘れなくてもイイんだ、オレぁ。だからこそ、これからは誰かにコイツを弾いていてほしい。ただ、弾く時、日中は扉を開けておけ、それから……この部屋にユキを連れ込んで何かすんじゃねーぞ?」

 鼻をすすってから、賀川さんを睨むタカおじ様……何かって何でしょうね?

「し、しませんから。と、とにかくありがとうございます」

 ピアノが身近にピアノがある事が嬉しいのか、賀川さんが笑って返します。さっきもピアノの部屋を出る時の表情が名残惜しそうで、葉子さんと顔を見合わせてしまうほどだったのですよ。

 タカおじ様は賀川さんを見た後、ちょっと天井を見上げながら、

「じゃ、オレは一風呂浴びてメシを食って出かけるからな。正月は午前中は休めるが、午後からは若ぇのを休ませるから。飯の支度なんか頼んだぞ、葉子さん」

 そう言って風呂場に向かって行きましたので、頷く葉子さんと賀川さんで先に食堂に向かいました。

「ね、雪姫……ゆ、ユキさん、今日は大掃除だけど。これから三月までは……少し仕事を減らしてるから。行きたい所があれば言って?」

 朝は調子がいいので配膳の手伝いを終えてから、賀川さんとお話しながら食事をします。賀川さん、人前で私を呼び捨てするのは恥ずかしいようです。私も『アキさん』ってなかなか呼べないです。

「……どこでもいいよ? 遠慮しなくてもいいから」

「え、あ、違います。考え事していて。でも私のた……」

「私の為とかって、それが遠慮だから。俺は恋人だよね? 大変な時、側に居たっておかしくない。っていうか、居なきゃダメだろ? な、何も辞めるわけじゃないんだから、ね?」

 それ以上言ったら口を塞がんばかりの位置まで顔を寄せてきたので、慌てて答えます。

「えっと、えっと、あ、じゃぁ、お正月が終わったら森へ行って絵が描きたいのです」

「森に行くのは年は越してからがいいかもしれないな。じゃ、四日に行こうか。その日は午後からは会社に行くけど」

 そんな約束をしました。

 賀川さんは今から葉子さんの大掃除の手伝いだそうですよ。私も手伝うつもりでしたが、体調が良いうちに絵を描いた方がいいのではと言われ、そうさせてもらう事にしたのです。

 ふわふわと離れに戻ります。

 その時、声がしたのです。

「……二人が『何故』死んだのか、当時のオレはソレばかり考えてた。でもあの日、房の奴ぁどこに行く気だった……それも誰かを連れて戻る気だった。思い出しちまったんだ、あの日の事を」

 タカおじ様の部屋の中から聞こえる声。

 確かおじ様は少し前に食堂でご飯を掻き込んでいるのを見たのです。きっとその後、会社に出る前にお部屋に戻っているのでしょうが、何やら誰かと話しているようです。

「お前ぇ何か知ってんじゃねぇのか?」

「……僕は」

「……なぁ、待つとは言ったが。房と刀流を手にかけたと言ったのはお前ぇさんだ。この際、やっぱりはっきりさせといた方が……」

 房というのはタカおじ様の奥さんで、刀流さんは息子さんで私のお母さんが好きだった人……手にかけたって……考えていると、すぅ……っと襖が開きます。

「ユキ君、立ち聞きはダメだよねぇ」

「……ユキ」

「あ、ごめんなさい。そんなつもりでは」

「冗談だよぉ。わかっているから。通りがかっただけだよねぇ」

 するりと出てきたのはカトリーヌ様。私の手を取ると、

「僕、彼女の部屋はなれに行くから。投げ槍君は会社、行ってらっしゃい」

「お前ぇ、全部を誤魔化すんじゃねぇよっ!」

「誤魔化してなんかないよぉ」

「もしかして……お前自身の為じゃなく、誰かを。誰かを庇ってんじゃねぇよな?」

「……何でそんな話になるの?」

 カトリーヌ様は、にこにこといつもと変わらない感じの笑みをタカおじ様に投げます。

「お前ぇは意外と義理堅いかんな、売られた恩はきっちり返すし、裏切るようなマネをする時には必ず理由があったもんだ」

「僕は君を裏切った、それだけが事実だからぁ。それに僕は蛇だよ、そんなに……殊勝な生き方はしていないよ」

 タカおじ様はまだ何か言いたげでしたが、その場を離れ、私を引っ張って部屋に入り込みます。私はともかく靴を脱いで、カトリーヌ様を見やります。

「……ったく。感がいいのか悪いのか……ピアノの音がしたから、かなぁ。ねぇあれは誰が弾いていたのかな?」

「か、賀川さんが」

「そっか……ねぇユキ君、君は今から絵を描くのかなぁ」

「は、はい」

「後から見てあげるから、ここに居てもイイかなぁ」

「良いですけれども……カトリーヌ様?」

「何かな?」

「その、……悲しいのですか? 無理にそんなに笑っていなくてイイと思います」

 そう言うと笑顔が消えて。泣いてしまわれるのかと思ったのですが、ただ表情が消えただけでした。

 靴を脱いで、つかつかと近寄ってくると左手首を掴んで私をそのままベッドにトフンと押し倒します。シャラリとカトリーヌ様の首から下がる銀色の十字架が、私の胸に落ちて輝きます。

「じゃぁ、慰めてでもくれるのかなぁ」

「慰めて欲しいのですか?」

 右手でソっと頭を撫でると、髪色がまるで魔法が解けるように、さらさらとオレンジに変わります。綺麗な髪だなぁなんて思いながら、

「カトリーヌ様の十字架は思ったよりも重いですね」

 そう呟くと、カトリーヌ様は一度目を閉じ、そして堪えきれなくなったかのように吹き出して笑い始めます。左手を離して、頭を撫でていた私の手を取ると、私を抱くようにしながら起き上がり、

「君はやっぱりアキ君に似ているよ。とても美しい神の御使い……ねぇ、賀川君にも頭なでなでするわけ?」

「母が。よくナデナデしてくれたのです。賀川さんにも……普通はしませんけれど、ありました」

 あの日は賀川さんに『お花』が届いた日だったのです、もう本当は返ってこないはずの返事が来た日。

 溜息をつくように天井を見ながらカトリーヌ様は、

「こんな風じゃぁ賀川君も男としてたまんないねぇ」

 それだけ言って、いつもと変わらない笑顔に戻ったのでした。

llllllllll

『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

司先生、お名前のみ

お借りいたしました。

問題があればお知らせください。

llllllll

更新頻度が上がらずに申し訳ないです。


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