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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月27日

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453/531

治癒中です(まとめ~)

今日はオフ会なので記念の予約投稿~

です!

llllllllll






 ぱたぱたと階段を登りながらリズは呟く。

「賀川さん……ヘンなヒトだとは思ってたっスけど……何か鈴木さんも先生も複雑だし。と、ともかく色々秘密っスね」

 リズは手伝いを終えて横になったものの、田中の残した微かな残り香のおかげで熟眠できていなかった。二人の会話は小さかったが、鼻と同じく人間とは一線を画した鋭い耳はその音声をとらえていたのである。盗み聞きはいけないと思いながらも、尊敬する先輩のベルからユキの事を任された身として、どうしても看過できない内容だった。しかし節度ある彼女はそれは必要がない限り極秘とすべき事だと胸に刻みつつ、一階の電気をつける。

 目に鮮やかな白の部屋。

 豪華なソファーにテーブル、大きな鏡や髪をカットする椅子が並び、一見すると何の店だかわからない。カウンターにその向こうには小さな厨房、淡い色の造花にレースが飾られ、雰囲気的にはウェディング展示場を思わせる華やかな場所。

強面店主、寿々樹の店。『鈴鳴る』と書いて『シグナル』と読むこの場所は、美容室であり、喫茶店であり、フリースクールでもある。

「今、開けるっス……ね……?」

 扉の向こうに人影を感じ、開けた途端、リズは固まった。

 ココが女子専用のフリースクールだとは社長に聞いて知っていたので、そこには自分の見た目と同じくらいか、もう少し幼い少女が立っているのを予想していた。

 だがそこに居たのは日本ではなかなかお目にかかれない『上品さ』を備えた英国紳士を絵に描いたような服装をした御仁。冷気に包まれながら帽子を手に取り、優雅に頭を下げる。

「夜分に失礼いたします、お嬢さん」

「えっ、ほ、保護者の方ですか? 今、誰も来ていないっスよ」

 寿々樹の口から『家出した娘』ではないかと聞いていたため、その家族で、ここに探しに来たのではないかとの予測からそう口にする。だが老紳士はふるりと首を振った。

「いえ、クラウド……八雲さんの古い知り合いですよ」

「先生の? あ、私は緋辺ひなべA(アンジェ)・エリザベス、みんなにはリズって呼んで貰っているっスよ」

 リズがぺこりんと頭を下げると、再び綺麗な仕草で頭を下げ、

「これはご丁寧に、リズさん。初めまして。私はすめらぎ、と申します。このうろなには夏にとても久しぶりに来ましてね、今は商店街の端で古本屋を営んでいるのですよ」

 すっと自然に店内に踏み込んだ皇は白い店内を見回し、不思議そうな顔をした。

「素敵なお店ですね。しかし造花だというのに、すごい『匂い』ですね、リズさん」

 その台詞にリズはハッと身構える。

 この部屋に置いてあるのは殆どが造花で、生花はカウンターの一部だけである。それも匂いの強いユリなどは飾られていない。今ココに漂うとすれば、夕方の襲撃で田中が残したもの。だがそれを嗅覚で感じ取れるのは『魔力』を持つ者だけ。

「ああ、急がないといけません。八雲さんにお会いしたいのですが」

「八雲先生は今、とてもヒトに会える状態じゃぁ……」

「……だからこそ来たのです。地下の病院の方ですね?」

 さらりとした身のこなし、リズは回り込もうとしたが、一瞬、視線が交錯しただけで、彼が得体の知れない存在だと感じた。だがリズも町に紛れて生きてはいるが『堕天使』と呼ばれる高位の存在。二つのヒトの形をした生き物がお互いの存在が『何』であるか探り合う。

 だが、カウンターの向こうにある地下への階段から、何かが落ちる金属音が響いた。

「行きましょう、リズさん」

 さっき田中と紗々樹という無法者達が訪れ、かき回して行ったばかり。リズと社長が縛っていた雑魚共は、様子を見に戻るとまるでその存在をかき消したかのように、縛った縄類だけが切れる事もなく、そのまま残されるという不気味な状態で消えてしまった。その為、特に敵の情報を得る事が出来ないままである。

 そんな中、彼を導いていいものか迷った。

 だが、響いた物音は心配であるし、本当に知り合いならば……命の危険に晒された今の八雲に意識があれば、一目合わせてやればどんなに元気づくだろうかと思った。リズはその御仁の瞳の奥に輝く光が穏やかなのを見て、自分の直感を信じる事にした。

「……危害を加えたらただじゃおかないッスよ?」

「貴女の判断に感謝します」

 そんなやり取りの後、二人が下りていくと、アリスが不安そうに立っていた。

「リズ? 後、誰かいるの?」

 目の見えない彼女は足音で別の誰かがいるのを感じたようだ。

「なんだかスズキ、慌ただしくしてて。クラウド女史は大丈夫なの? ねぇ、ただ朝だからなのかしら?」

「リズさん、そのお嬢さんの方を。自分で入らせていただきますので」

 リズは一瞬だけ考えたが、このまま盲目のアリスを放っておくわけにもいかない。コクリと頷くとそっと彼女を隣の部屋に連れて行く。皇が無法を働くなら壁をぶち破って対処する事も、リズは視野に入れながら。

 その背を柔らかく笑いながら見送る皇は、電気のついたその部屋に向き直る。そっと扉を開けると中には八雲の腕をアルコールで拭いて、注射を施す寿々樹の姿があった。

「あん? 俺の可愛い生徒じゃなかったのか…………誰だ? どっかで……」

 ちらっと見たものの、男性であった上、穿刺中であったのでそれに集中する。

「ねぇちゃん、踏ん張ってくれ……頼む」

 足元にはステンレスの容器が転がり、中から丸くした綿花がいくつも飛び出していた。先ほどの物音はこれで、慌てて誤って零してしまったのだろうが、その事で逆に落ち着きを取り戻したのか、ゆっくり確実に針で血管を捉える。

 その様子に医療者としての誇りを見ながら、

「皇です。一度、こちらには伺わせていただきましたが、あの時は簡単な挨拶だけで……」

「俺はヤローの事は患者以外、記憶しねぇ様に出来てるんだ」

 抜針まで終えた寿々樹はモニターの方を着目する。眉間に皺を寄せ、近寄るのが恐ろしい程の表情を浮かべた。

「何で上がってこない……」

「もしかしたら『ルチア』の名の方がわかりやすいでしょうか?」

 無視したかのように八雲の看護にかかっていた寿々樹だったが、その名前にある話を思い出す。



 海外のある村に八雲が医師としていた時、攫われかけ、村と自分を助けてくれた老紳士がいた話。



 まだ若かった八雲は当時から目つきはキリリと厳しかったが、その事を語った時だけは珍しく夢見る少女のような顔をした。

『戦火の中に英国紳士風のナイスミドルって……うっそだろ、アホが……』

『本当なんだわさっ……ルチアって名前でね、その後、魔法のように足の痛みを癒してくれたわさ……って、寿々樹っ、調子に乗ってアホって呼んださねっ』

『わーっ、ねーちゃん許してっ。でもねぇちゃんがそんなファンタジーな事言うとは思わなかったぜ』

『なっ……ファ…………お前が苦手な血まみれ話でもしてやろうかっ!』

『やめてくれ、ねぇちゃんのその手の話はリアルすぎてシャレになんねぇって……』

 まだ寿々樹も学生だった頃の会話。



「いいですか?」

 数秒であったがぼんやりとしていた寿々樹の側を抜け、八雲の点滴管が刺さったその手を、邪魔せぬようにソッと下から救うように握る。指先を絡めると、八雲の首筋辺りに顔を寄せる。

 すうっと目を細め、鼻をクンとやって匂いを嗅いでサッと離れた。その目は獲物を狙う獣のようで、人間味のなさに寿々樹は警戒したが、

「血が随分汚れています。まったく美味しそうじゃない……まぁ飲みませんけれど。彼女は腎臓……それと肝臓もおかしいのですか? 心臓も弱って……」

 匂いだけで何がわかるのだろう? だが現在の病状的には当たっている。

 本当は……叫んでその場から逃げ出したいほど、八雲の体調は悪い。だが一息吐くと落ち着いて対処を続けながら、皇に答える。

「体の中が引っ掻き回されたように安定しない……急に上がった物が下がったり、俺じゃ対処療法しかできねぇし、高血圧と思って対応しようとしたら急に下がったりで、ヘタに手ぇ出せねぇ。これでも少しは落ち着いたから、他の病院に移動も考えて……」

「待って下さい。少し私に時間を下さいますか?」

「そんなに長くは……」

「ほんの数分。翁に付き合ってください、損はさせませんよ」

 そう言ってから八雲の方に向き直すと、空いていた手を重ねた。

「貴女は約束したはずです。『治れば、皆に手を尽くす』と。人間の刹那にある命を、少しでも長く生かす手を持つ貴女を必要とする者がまだいるのです」

 そう静かに声をかけると、微かに目を開いた。

「……何故居るさ? ……夢、か、ね? ルチ……ぁ?」

「仲介の君がね、導いてくれたのですよ。さぁ、お眠りなさい、八雲さん。目が覚めた頃には彼の治療と相まって随分よくなっているはずですよ?」

「…………まだまだ死ねそうには、ないさねぇ、これは……」

「ええ、この翁を使っておいて。私が行くことのできない黄泉の国へ逃走なんてさせませんよ?」

「はは……三途の川守りもこんな立派な紳士が来たら、さぞかし驚くさよ」

 八雲の乱れていた呼吸が柔らかく変わり、ゆっくりと目を閉じる。

 皇が手を握っていたのはたった数分だった。だが寿々樹の目の前で計器の数値が目まぐるしく変わり、最後にはほぼ平常値に落ち着いた。

「こ、こんな事があるのかよっ……」

 すっと綺麗な姿勢で皇は立ち上がり、微笑む。

「八雲さんの体は傷ついていて、ちょっとのショックで壊れかねないので無理な気功はできませんでした。ですが、先ほどの薬剤と合わせ、だいぶ良くはなったはずです。でも落ち着いても動かすのは危険だと思います、後は君が診てあげるのでしょう?」

 その言葉に寿々樹はリーゼントのない頭を下げた。


llllllll


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズさん


悠久の欠片(蓮城様)

http://book1.adouzi.eu.org/n0784by/

皇悠夜さん=ナイスミドルな謎紳士、ルチアさん



『以下2名:悪役キャラ提供企画より』


『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。


『田中』さーしぇ様より


お借りいたしました。

問題があればお知らせください。

本日はもう一話、九時の予約にしています。

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