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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月27日

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452/531

対話中です(八雲と寿々樹)

lllllll

話し込む二人。

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 暗い病室の中、八雲と寿々樹は小さな声で話し込んでいた。寿々樹は疲れた表情を隠せない。それでも聞くと決めたから、話を遮る真似はしなかった。

 遠く昔に置いてきてしまった姉であり。

 妹のように可愛がった少女であり。

 彼女の暴挙に戸惑いながら二人は会話を重ねる。

「紗々樹のいた組織は極秘裏に動いて、解体されたり、再編成されたりしたようさ。……薬品を与えた人間は任務に送って、データを取りつつ、戦死すれば、また新しい素体を用意していったようだわさ」

 人体実験、そして研究を積み重ねていく。戦争と国の機密に守られて。

 ゲームで強いカードを作る為に、弱いカードのポイントや特性を犠牲にしていくシステムがあるが、それに似ていると寿々樹は思う。

 とりあえず危険な人体実験に姉が加担した事を寿々樹は理解した。

「で、それとアホが何の関係があるんだ?」

「トキは素体の一人だったのさ。それもかなり初期段階の。紗々樹に最後に会った日、護衛として連れていたさ。『T』と呼称されていたさ、そこでは……」

「攫われてた頃のあのアホに会ってたのかよ?」

「まぁさ、そういう事さね。本人は特別、覚えていやしないだろうけど」

 音も立てず、何の躊躇もなく後頭部を殴られたのを思い出し、笑う。あのまま撃ち殺させなかったのは紗々樹の身内への愛情か、ただの気まぐれか。

「戦地に送られて、そこで戦死扱いにでもなったのか……どういう経緯でトキが紗々樹の研究室ラボに入り、また外れたかはわからないけれどもさ。数年後、偶然、見世物になってたトキが救出されてね。再会したのさよ。でもそこの子供達は薬や暴力で支配されて、コロシアム形式でお互いを殺しあったり、廓のようにその身を売らされたりしてたんさ」

「それでアホみたいに注射針が嫌いで暴れるんだな」

「トラウマなんだろうよ。子供の中でもトキは酷く暴れて、こちらに被害が出てね。これはもうどうにもならないと判断される寸前、ちょうど組織で教官をやってたオニジマって御仁ヒトが出てくれて、拘束衣を着せる事に成功してねぇ……紗々が連れてた子だと気付いた時は驚いたけど、ともかく治療に入ったさ」

「なんか、アホの人生、半端ねぇのな……」

「さね……ともかく脳みそが完全破壊される薬は使われてなかったのは幸いしたね。けど、いろんな薬を抜いて落ち着くまでに半年はかかったさ。月日なんて数えて過ごしてなかったみたいだから、本人は治療施設に入ってたのは意識がまともだった二~三週間って思ってる感じだけどもねぇ……まぁ、治療の間に親がわかって、日本の大企業TOKISADAの御曹司って聞いた時も驚いたけど、ほぼ同時に引き渡し命令が下りてきてさね……」

「引き渡し?」

「どこかの国で人間兵器ささきの実験体であった事を隠蔽したかったらしいさ。連れて行った先で殺されるのは目に見えていたさ……で、先に出て来たオニジマ教官は顔が広いからね、『攫われてやっと助かったのに』と相談したら、それは惨かろうとが動いてくれて。私は当時の彼が落ち着き、その意味も分かっていない事を上に説明したりして。まぁイイとこの子だからね、外交問題上もあって殺されずに済んだ感じさ……」

 八雲は針の先を見ただけで、今以上に見境を無くし、興奮状態で暴れる獣のようだった少年を思い出す。食べ物に手を付ける事もなく、痩せ細って。表情もなかった彼が最初に反応したのは窓辺に降った白い雪だった。

 きっとあの頃から、彼にとって白いモノはとても特別だったのかもしれないと八雲は思う。白髪赤瞳の少女に尽くす為、嫌いな注射針に手を差し出すのを見れば、今は飼いならされた子犬のようだ。

「落ち着いた所で親が引き取ったけれど……うまく行かなくてね」

「その辺からは知ってる。今じゃ、魚沼の小父貴の嫁にまでなって、冴ちゃんも落ち着いてるけど、賀川に対して相当おかしかったらしいな」

「可哀想な子達だわさ。まったくね……『天使の盾』に戻ってきてからは度々、傷跡の多かった彼を治すっていう事で呼び出しては、彼の様子を診たもんさ。急に組織を追い出されて、日本に戻った時は心配だったけどさ、三年もたって、まさか前田の子飼いになって……ココで再会するなんざ、驚いた…………喋りすぎたさね……すまないけど、酸素の流量をあげてくれるかい?」

「ああ、大体わかってきたから。今日はここまでにしよう、ねぇちゃん……息苦しい?」

 八雲の求めで数値が悪いのに気付き、彼女がまだ油断を許さない怪我人だという事を思い出す。だが八雲は作業の終えた寿々樹の手を掴んで、引き留める。

「タカやあの子が『ラッシー』なんて呼んでるアレ……は、たぶん紗々樹の仕込んだ薬だか何だかを、トキ自身が制御していると思うんさ。ただ二撃目になると制御が不能になると聞いたが、たぶん紗々樹はこないだトキが海外で敵に放ったそれらの情報を聞いて……一撃目さえまだ制御できてない時の……それでも、情報を…………欲しがって……っ……足をあんなに痛めても、腕の骨折もまともに感知できない……あんな……さ、紗々樹に、トキもデータも渡しちゃダメ、さ。それからトキにとっては紗々樹の投薬は辛く暗い過去の事……あの白少女にも……教えるんじゃないさ……よ」

「わかったから、わかったから……痛むのかっ、ねぇちゃん! ねぇちゃん」

 まるで寿々樹が見た悪夢のように八雲が喘ぎ始める。

「任せた、よ……紗々の、事……本当にすまなかったってっ伝え……トキを助けたくらいで、紗々の罪が変わるわけじゃないけれど……任せるさね……」

「そんなの、そんなの、任されるわけにはいかねぇよっ!」

「どうしたんっスかっ!」

「リズちゃん、そこのアンプルを! 早くっ」

「は、はいっスよ」

 騒ぎを聞きつけて、隣で寝ていたリズが起き出しポニーテールを結い上げると、寝起きとも思えないスピードでてきぱきと手伝い始める。だが八雲の意識は途切れ途切れになり、一向に容体が安定しない。急ごうとして渡されたアンプルを取り落してしまうくらいには寿々樹は混乱していた。

「いつの間にこんなにアルブミン値が下がってんだよっ! コリンエステラーゼも何で……有機リン剤中毒? いや急性肝炎? …………わっかんねぇよ」

 八雲が顔色が悪いのは痛みのせいと思っていた。だがそれは急激に肝機能が落ち、黄疸を起こしている為だった。薄暗かったため、目まで色が悪くなっている事に寿々樹は気付けていなかった。

 他にも同時多発的にがくりと身体機能が下がり、焦っている間にもどんどんと状況が悪化する。だが今更移動させても間に合わない……そう思う。

 寿々樹は紗々樹が残した『もっとも……ちょっと手を加えてあるから気を付けてね』という言葉を思い出して、ゾッとする。

「何が『ちょっと』だよ……」

 その時、ピンポンと喫茶店を閉ざしている時にフルースクールの生徒が使うベルが鳴った。深夜もう三時は過ぎている。普通はこんな時刻に誰も来ない。だが、ここに通うのは問題を抱えた女子ばかりだ。たまに家出したり、家族と喧嘩したりで帰宅出来ず悩んだ末にここは来るというシチュエーションはなくはない。

 ただ場合が場合だ。

「リズちゃん、すまないけどたぶん生徒だと思うんだよ。家出した娘とか。喫茶店を開いて迎えてくれる? この寒空の下だ、あったかい物でも出してあげて……ココア、ああ冷蔵庫に入っている仕込みのスープでもいい。鍋のまま温めて……こっちが落ち着いたら行くよって伝えて……」

「わかったっスよ」

 それでも最低限のもてなしで迎えようというのがフェミニストであり教育者と言えるかもしれない。本当は猫の手も借りたい場面ではあったが、自分の仕事を全うせずに八雲を助けても、叱咤されてしまうだろう。

 ただ安易に自分が手が離せる状態ではない。

 寿々樹の落ち着いたらという言葉が、嫌な意味でそうならないと良い……指示を受けたリズはそう思いながら階段を急いで登って行った。


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うろな町~僕らもここで暮らしてる~(零崎虚識様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7914bq/

すべては親父を殴るために(零崎虚識様)

http://book1.adouzi.eu.org/n5357bu/

ゴンザレス・オニジマ教官(鬼ヶ島厳蔵さん)

ちらりお名前。


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズさん



『以下1名:悪役キャラ提供企画より』


『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。

お借りいたしました。

問題があればお知らせください

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