回想中です(寿々樹)
llllll
本日は集中して更新していますので、
三回目の更新です。
思い返して。寿々樹目線です。
llllll
ずっと姿を見せなかった実姉がねぇちゃんを縛り、ユキちゃんを攫おうとしている奴と共にいた事。
去り際に投げて行った薬品はとても危険なもので、紗々樹の事は到底正気とは思えなかった。
一体、何がどうなっているのだろう?
看護をする為にバタバタしていたし、苦しさを噛み殺すねぇちゃんに聞けないまま、そんな思いを抱えたまま、俺はとても昔を回想していた。
「近づくんじゃねぇ! このブスが!」
「寿々ちゃ……」
「触んじゃねぇ」
今じゃ絶対に女性へ対して使わない言葉を小学生の俺は彼女に投げる。
かーさんの鈴木家も、親父の山田家も、どちらも医療系の人間を輩出する家系だった。だが俺は幼い時に霊安室に誤って入って見た、事故死のおっさんの未処置の血まみれ姿に衝撃を受け、医者にだけはなりたくなくて勉強を怠った。
理由もまともに言えぬまま、出来ない子になっていった俺に、『やればできるよ、寿々ちゃん』と言ってくれる彼女の言葉が逆に痛くて堪らず、
「お前なんか大嫌いだっ」
と、酷い言葉をぶつけた。
年の離れていた彼女は俺が十になる少し前には、六年制の薬科大学に入り、優秀さは群を抜いていた。要さんが見せてくれた論文もその一部。
そんな彼女の恋人は留学に来ていた外国人で、実際に付き合っていたのはたった半年くらいだろう。後は遠距離だった彼が、その国民の義務として登録していた兵士として就軍したのは、紗々樹が大学三年の頃だったか。
当時、不幸にも起こった戦争に派兵され、その先で死ぬ事はなかったが彼は帰国後、疲労感を訴えるようになり、記憶障害や関節痛に悩まされた上、白血病を患った。帰還兵であった事と病気の因果関係が公式に認められる事はなかった。
彼女は学校卒業後、海外へ出てすぐに彼と共に暮らしたが、それに焦ったのは親父だ。医師を婿にさせ、当時経営していた病院を継がせるアテが外れた。俺はグレまくり、中学の半ばには髪をリーゼントに固めて、イキがっていたから当然無視だ。ゲームに嵌ったのはこの頃だった。
しかしあまりに後継ぎに執着する父に愛想を尽かし、離婚を決めた母は長年育児で放棄していた研究をしに、フランスだかヨーロッパだかに行ってしまって、未だに帰ってこない。
そして俺を引き取った形になったのが母方の鈴木家だった。
「……って、わけでさ。今のお前の名前は鈴木 寿々樹っていうんだわさ。戸籍上」
「は? 聞いてねぇよっ」
「改名したきゃ法律関係もいるし、どうにか出来るわさ。ま、それより卒業後はどうすんだい? 中坊上がりで……」
「そんな事、おめぇにゃ関係な……わああぁっ」
そして後見に立ってくれたのが、今のねーちゃん、鈴木 八雲。
今日から鈴木の子になったのだからもう容赦はしないさよ……そう言って干渉してきた。
この髪形をキメてくれる先輩も俺のようなグレた男だったが、鋏一本で生計を立てていた。それを見習って中卒で美容師学校に滑り込んでいた。理容師を選ばなかったのは、ヤローの髭剃りは無理だと感じたからだ。
美容師を目指しながら、ねぇちゃんから追い立てられて、夜間高校も通わされた。海外での仕事でねぇちゃんが居ないときは、タカの小父貴をはじめ、みんなに揉まれてうろなで三年を過ごした。まだ刀流兄もいたし、子馬生まれたてで、その親父も生きてた頃の話。
バタバタと月日は過ぎ、二年で美容師免許を取得でき、高校卒業まで後少しの冬になった。
「ありがとな、ねーちゃん」
医者になりたくなかった理由を人に初めて言った後、感謝を口にした俺。今だって男が血まみれなのは嫌だが、この頃にはゲームのおかげで血まみれ系も克服していた。
「そうかい。自分の道として美容師の資格を取得してさ、感謝もできるようになったなら聞けるだろうさね……」
その時に海外で恋人とウマくやってるだろうって思ってた紗々樹が、随分前から行方不明になっていた事を聞かせてくれた。海外に出て、たった数か月で恋人は亡くなったそうだ。薬剤師として少しでも彼を支えたかった彼女にとって、失意は絶望に変わったのだろう、とねぇちゃんはそう結んだ。
「日本を離れる前、寿々樹の事をすごく心配してただわさ。お前は頭が悪いわけじゃない、やらなかっただけさ。今からだって望めば、医者にでもなれるし、紗々樹と同じ薬剤師だってなれるさね」
失踪当時なら俺は聞く耳も持たなかっただろう。
けど、その頃の俺はもうだいぶ変わっていた。
紗々樹は恋人の事がなければ、ねぇちゃんの専属薬師になっていたはず……そんな事をぼんやり思って。卒業後はどこかで美容師の腕を磨くつもりだったが、紗々樹の卒業した大学の門を叩いた。受かるか微妙だったが、三年間で成績は驚くほど伸びており、物理や化け学は得意だったのが幸いした。
「寿々樹が薬剤師ねぇ……まぁ受かったんだから行ってきな! 学費はいずれ体で返すさね。でも学生は学業が仕事さ。支払いは卒業後でいいさ」
そう言われて大学の寮に入ったけど、少しでもと看護助手などバイトやっているうちに、薬だけでは人は癒せないと感じた。紗々樹が薬剤師として死に至る彼氏を前にどうしたかったかわからない。けど、薬剤師の資格も持ちながら看護もできたら……少しは気持ちが違っていたかもしれない。
そんな事を考えた為、薬剤師の免許は持ったものの、その足で三年、看護学校に通った。実習の時以外は変わらずリーゼントだったから、目立ったし変わり者と呼ばれたけど女子率高くて頑張れた。
そして卒業の後、病院を数軒渡りながら看護師と薬剤師を務めたが、ねぇちゃんの病院を改装するのに合わせて一階は自由にしていいと許可をもらった。もともと完全予約制で日本に帰った来た時にたまに稼働する病院。それでも薬剤師の名前が必要で、名前を貸す代わりに場所を借りた形だ。
「たまに客が来たら看護師も頼むさね。そう回数は多くないさ、医療事務はその時パートで頼む程度だし。近くに他の病院も建つらしいから、そこも取り込んだ調剤薬局にするさね? それとも一度腕を磨いて美容室でもいいさよ?」
「うーん…………ねぇちゃん、ここで喫茶店、兼フリースクールがやりたいんだけど……」
「………………………………はい?」
いつぞやの看護の実習で行った小児科で知りあった女子が病気は克服したが、勉強が遅れた上、友達関係がうまく築けず不登校になっているのを聞いてそれを決めた。
流石に驚いたようだったけれど、ねぇちゃんは、
「まぁ、好きにするさねぇ」
そう言って笑ってくれた。
振り返れば、基本的に俺がここまで歩めたのは、八雲ねぇちゃんの大らかな対応のおかげだ。
「……紗々」
ねぇちゃんの口から喘ぐように彼女の名前がこぼれた。眉を寄せた皺が深くなったのは痛みが強くなった為だろう。ゆっくりと目を開いて俺の顔を見ると、口の端を上げて笑ってみせる。
「ああ……大丈夫さね、そんな顔をするでないよ。看護師なのに強面なんだからさ、そんなじゃ患者が不安がるだろうさ?」
「だって、紗々樹、ねえちゃんを……何なんだよ? トキって、あのアホが何か関係あるんだろ?」
「聞いていたのかい…………お前、守秘義務があるのはわかってるさね? 患者の個人情報さ。それも本国でも隠匿された内容。知らなきゃ知らない方がいいさ」
「あんなアホでも、俺にとっても患者だし、ユキちゃんの為にヤツをサポートしてやるなら全力でやりたい。それに紗々樹が何であんな……ねぇちゃんを本気で……一体何が何だかわかりゃしねぇ。こんな状態でまた紗々樹に会ったらどうしていいか正直わかんねぇよ」
「話しても私の目線だし、自分に都合いいように加工してしまっているのかもしんないさ?」
「それでもいい」
俺の求めに対し、ねぇちゃんは口を開いてくれた。
llllllllll
本日うろな二周年を記念して、本日三回目の更新です。
(後発組のため、当方の正確な二周年は少し先ですが)
それなのに、すごい暗い話ですみません。
集中更新したので今週は更新できないかもですが。
(……月末日曜が楽しみです、参加者様よろしくお願いいたします)
『以下1名:悪役キャラ提供企画より』
『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。
お借りいたしました。
問題があればお知らせください




