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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月27日

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449/531

展開中です(寿々樹)

llllllll

急変……

llllllll

 




 がたがたと震える体。

 あの我慢強い八雲ねぇちゃんが喘鳴の中、激しく痛みを訴え、俺を呼ぶ。

 蛍石化した骨が折れて砕けて、内部から筋肉を刺し貫かれる痛みは如何ほどか見当もつかず。

 どうしたらいい、どうしたら。

 もしもの時、と、言われていた手は全部打った。

 だが。

 異様に上がっていく心拍数。

 鳴り止まない計器音。

 心室細動の波形。

 ……何でこうなる前に救急車を呼ぶ決断をしなかったか。

 急変……あるのはわかっていただろう?

 いつもはどんな患者を前にも怯む事無く指示してくれるねぇちゃんが、ベッドの上で悶え苦しんでいる。

 リズちゃんが必死で押さえて、八雲ねぇちゃんに呼びかけて。

 でも襲うのは強い痙攣、気管にまで及んで激しく息切れしている。

 それはとても苦しげで見ていられない。

 けれど体にパットを張り付け、必死で手を尽くす。

 どうしてこんな事になった?

 どうして……

「紗々樹……」

 心室細動で心筋の収縮が弱まれば、心拍出量が減少していく。

 除細動器は医師しか使えない。

 だが一刻の猶予もない。

 リズちゃんを下がらせ、AEDではなくそちらで強行する……が、効果がない。

 波形が戻らない。

 その時、崩れ落ちるようにねぇちゃんの体の震えが急に止まった。

 そして……ぱたりと計器がゼロを示し、けたたましい程の機械音が消え、心肺停止を示す単調な音に変わる。




「ねぇちゃん!」




 っと、叫ぶ自分の声で目を覚ました。



「何だ、よ……ああ、やな夢……だ。寝ちまってたのか」

 時計は深夜を過ぎ、二時を回っている。嫌な汗に紛れ、伝っていた涙を誰かに見咎められないうちにタオルで拭う。いつも整えているリーゼントは面影もなくヘタっている。

 夢の中と違い、ねぇちゃんに取り付けた計器はほぼ正常範囲内で、ただただ静かに数字と波形を刻んでいた。

「……よかった」

 ねぇちゃんの頭に巻いた包帯の白さが痛々しく、痛みの為に顔色は冴えない。それでも今の所、命に別状があるほど異常がないのを触診で脈や呼吸をみて、やっとホッとする。

 患部に塗りこんだゼリーや皮下注射だけで事足りればいいのだがと思いながら、もしもの時にすぐに滴下出来るよう仕掛けている薬剤の類を再確認した。

 今見た夢はここ数日はあるかもしれない未来きゅうへん、もしねぇちゃんがあの液体に何かしらが含まれている事に気づかなければ、すぐにでも現実になっていただろう。

 静脈を確保したルートに流していた抗生剤を入れ替える。火傷した部分からの感染を抑える物だ。

 その後、そっと隣の部屋を巡視する。

 言っておくが看護師としての巡視だから、夜這いじゃない。

 そこには後藤の小父貴から休みをもらい、しばらくココを手伝ってもらう予定になっているリズちゃんと、アリスちゃんの寝息が小さく響いている。それを確認してから俺はねぇちゃんの元に戻った。

 血液検査の結果は『フッ酸』など、毒性の高い物が仕込まれていた事を示していた。それでも薬で焼けた跡は残るだろうが、すぐに洗い流し、的確に予防的治療に入った為、夢で見たような激しい全身症状を示す可能性は低そうだ。だが使われただろうと予測できた薬品の怖さは後数日、予断を許さない。

 俺の心には『何で』という疑問しか浮かばない。

 だが、ねぇちゃんは眠りにつく前、

『顔にかけて行かなかったトコを見ると、まだ何かが紗々樹の中にきっと残っているさね』

 と、紗々樹の肩を持つ発言をしていた。姉であっても長い事、行方知れずの紗々樹より、何かと尻を叩いてくれたねぇちゃんが身近い。

「ねぇちゃん、殺される所だったって自覚、ねぇよな?」

 浴室に移す時にねぇちゃんの体に触れたが、俺に化学損傷はなく、自慢の服一式をダメにしただけで済んだ。正月前の冬季冷水に閉口しただけで済んだが、だが一歩間違えれば……



 ともかく昨日はぎりぎりの路線だったが、今の所、いろいろ間に合ってよかった、と、思う。

 だが詳しい事は八雲ねぇちゃんからは聞けていないのだが。

 とりあえずねぇちゃんの様子が見える椅子に座って俺にわかる限りで、昨日の夕方頃を振り返る。



 俺は『カナメ薬局』からの帰り道、意気消沈していた。

 カルテを見つけて戻ればすぐに攻略にかかるつもりだった激レア娘の存在を忘れ、外出し、取り逃がしてしまったのに気付いてしまった事に起因する。あまりに気力が削がれ、スマホから結果を見るのさえ憚ったほどだ。

 昔、紗々樹が持っていたおもちゃの箱。中に怪しげな薬品について書かれた紙が入っていて、それを何故今ねーちゃんが手元に置いているのか。疑問は残ったが、姉が昔研究していた本を見て、特別意図もなく懐かしさから持っていたのだろうと適当に話のオチを自分の中に付けた。

 うちの姉である紗々樹と俺は十ほども年齢が離れており、とても綺麗で賢く利発な女性だった。ま、今じゃ四十も過ぎているはずだが。

「何か怪しい事でもしてんじゃないかって、ねーちゃんを疑うなんてどうかしてるな。あぁ……それよりなんで俺、鍵じゃなくて他のアイテムを……ううぅ……」

 一人うわごとの様に呟く。

 そしてもう角を曲がれば病院だという辺りに差し掛かった時、可愛らしい女子の声が響いた。

「絶対おかしいっス!」

「喫茶店も病院もカギがかかってるしな……おい、寿々樹じゃないか!」

「……ぅぃっす」

 そこに居たのはリズちゃんと後藤建設社長だった。前田の小父貴より真っ直ぐで所々融通が利かないが、正しい事に敏感で、酒好きなおっさんだ。

「大変っスよ!」

 可愛らしい黒髪のリズちゃんに会えた事で、俺はゲームの失敗でささくれ立った気持ちを和ませる。だが事態はそんな段ではないと二人に聞かされる。

「俺んトコの仕事で、あそこのビルに居たんだが、リズが変な匂いがするって言ってな。それを追いかけてきたらココにたどり着いたんだが……」

「花の、この強烈な匂いは絶対にあのピンクの変態男っス! アリスさんを攫った時に居たやつっスよ」

 そんな匂いを嗅いだなら本当は来たくもなかっただろうに、何かあったらと来てくれたのである。ただ俺も小父貴もそんな匂いは感じないから、半信半疑ではあったが。

 喫茶店にかけていた鍵を開ける。臭気が強くなったのか、リズちゃんが顔を顰めた。

「匂いは地下の階段の方からするっス。でも人の気配は二階に多いっス」

「例のアリスって外国人がまた狙われてるのかもしんねぇな?」

「小父貴とリズちゃんは二階にお願いできるか? 俺は地下に……」

 そうして地下に降りた俺は縛られたねえちゃんに、ピンクの派手な髪をした男がナイフを振り上げた瞬間に立ち会う。何とかそれを回避した後、ずいぶん会ってなかった紗々樹に対面したのだった。

llllllllll

本日うろな二周年を記念して、二回目の更新です。

(後発組のため、当方の正確な二周年は少し先ですが)

それなのに、すごい暗い話ですみません。

できたら…後一話くらい今日は更新しようかと思います。

今週は更新できないかもですが。


『ワルい奴ら』弥塚 泉 様

http://book1.adouzi.eu.org/n9177by/

『カナメ薬局』設定


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズさん


うろなの雪の里(綺羅ケンイチ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/

後藤剣蔵(後剣)さん




『以下2名:悪役キャラ提供企画より』


『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。


『田中』さーしぇ様より


お借りいたしました。

問題があればお知らせください。

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