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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月26日

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446/531

対話中です(八雲と紗々樹)

lllllll

狂刀が迫ったその時。

三人称です。

lllllll







「これは地味に痛いさ……」

 戦場医師を務める八雲が死を覚悟した回数は少なくない。

 物資として攫われそうになったり、流れ弾に足を撃たれたり……だがそこに現れた素敵な老紳士に救われるなど、人生にはありえなさそうな『いろいろ』がある事は体験していた。

 しかし自分の病院で誰かにメスを入れる事はあっても、自分が刺し貫かれるという想像はした事がなかった。そして、まさにその瞬間、思ったような死への痛みはなく、縛られた椅子と共に自分が吹き飛び、しこたま体を打ち付けるなんて事も考えたことはない。手は木椅子の背に手錠で結わえられて、痛む場所をさする事も出来ない。

「寿々樹……荒いさね。年寄りはもうちょっといたわって欲しいわさ。それより……出来れば帰ってこなきゃよかったさ……」

 リーゼント頭をした弟分の背に呟く。

 寿々樹が自分に体当たりして椅子ごと凶刃から逃してくれたのを悟る。彼がこなければ、自分は死んでいたと八雲は自覚していたが、人格が入れ替わったかのような身内の女がいるこの場に彼を招きたくはなかったのも事実。紗々樹は優しい少女だった、付き合っていた彼が病気になり、不幸にも亡くなった時、発狂して姿を消すくらいには。

 確かに丁寧だったとは言えないが、助けたのに『帰ってこなきゃよかった』と言われる理由がわからない寿々樹。彼が最後に彼女と会ったのは中学卒業頃、詳しく彼女が蒸発した理由を知らない。時が経ち過ぎて、顔を見ただけでは彼女が誰かわからなかった為、八雲の言葉は強がっての事だろうと寿々樹は苦笑いし、

「ねぇちゃん、そんだけ皮肉って喋れんなら大丈夫だよな?」

「まぁ……おかげで死んではないさね」

 重いナイフの柄で殴られた頭ももう一度打ってしまったせいか、視界が歪むが気は失っていなかった。起き上がれないままながら、八雲がそう返事をするのを聞いて、寿々樹は安堵する。しかし八雲を助けるのを優先したため、田中に放った蹴りは威嚇であり、攻撃としては不発だった。ナイフでの攻撃有効範囲から自分と八雲を離しただけ。その為、床に手をつくほどの低姿勢を取りながら、寿々樹は次の攻撃に備え、予断なく刃物を持つ男を睨みつける。

「ちょっと待ってな、ねーちゃん! すぐ片付けて解いてやっからっ」

「寿々樹、私よりアリスが心配さ……」

「そっちは大丈夫だっ!」

 八雲の心配を跳ね除けるようにそう返しながら、刃物を握った気味の悪い男に立ち上がる勢いを利用して飛び掛かる。この部屋はイスと机が幾つかあり、古い資料と医療用具の予備棚が部屋の隅に、扉が二つあるだけのシンプルなもの。ベッドを入れて患者の封鎖部屋にしたり、面談室にしたりと用途は時によって変わる。生活感はない使わない時は病院の倉庫といった場所の為、特に遮りもなく、喧嘩や戦闘はしやすい。

 扉の一つは地下から地上に上がる緊急用の裏口的階段で、一つは病院内をつなぐ廊下に続く。

「うぎゃん!」

 田中の刃物の扱いは悪くないが、飛び掛かった寿々樹の動きの方が明らかに早い。体の移動する勢いを生かした鮮やかな右フックが綺麗に決まって声が上がる。側に吹っ飛んできた田中をくるりと避けた紗々樹は、八雲を助けた寿々樹を見て声を震わせる。

「……寿々ちゃん、ね」

「ぉま…………だれ、だ? いや……さ、紗々樹なのか?」

 昔から今と同じに寿々樹はリーゼントをキメていたから、声や顔だち、身長も何もかもが大人のそれに変わってしまっても彼女にはすぐ彼が誰かわかった。一方、寿々樹は自分の事を『ちゃん』付けで呼ぶ者は少なく、消去法で彼女しか該当しなかったためその名を口に出来ただけ。

 彼女が何故、八雲縛ったり、殺そうとする男とここに居るか理解できない。

 寿々樹のアッパーで倒れていた田中は二百八十度ほど回転して見えた首を、くるりと戻した。

「痛いですねぇ」

「キモっ……やろーはすっこんでろっ」

 フクロウに近い、人間には無理な動きに寿々樹は本心を漏らす。言われたくない言葉をまたも吐かれたピンクの男は目を見開きながらそのナイフを振り上げる。寿々樹は間合いに入り込むと腕を捩じって相手取ろうとするが、普通とは可動域が違う田中に関節技は無駄。動くはずのない方向に曲がる腕から繰り広げられるナイフの攻撃。寿々樹は武器を奪うのは難しい事を悟り、激しく殴打を食らわせるが、田中はよろけたり倒れたりするものの、ダメージが感じられない。

「このアホがっっ! ピンクのゾンビかよ、気味が悪ィんだよ」

「一度ならずも二度までぇっ……」

「ねぇちゃんに近づくなっ、紗々樹っ! おめぇは本気で邪魔だ、キモい」

「この私にまた!!!」

 紗々樹がそっと八雲に歩み寄るのを寿々樹が見咎める。寿々樹が女性に向かって声を荒げるなど普通はない事。しかし縛られ身動きが取れない八雲に彼女を近づけさせるのが得策であるとは思えないが、目前のピンク髪の男が邪魔で、ただ叫ぶ事しかできなかった。

 八雲はぼやけた視界ではあったが、紗々樹の瞳孔が収縮異常をきたしているのを捉えて微かに首を振る。傷が広がったのか、地面を満たしだした自分の血が赤く赤く見えた。

「……一体、何がやりたいんだい? 紗々樹……」

「返してほしいの。ただそれだけ……『T』だけなのよ。残ったのは。後は全部……死んじゃった」

 くすりと笑う彼女。

「試験薬が効いたマウスの大切さは八雲ねぇさんならわかってくれるよね?」

 八雲は微かに目を泳がせた。

「もう、トキの体から薬はほぼ抜けたはずさ」

「でも、『薬物性フラッシュバック』を繰り返してるでしょう? おかしいと思わない?」

「……一体、アレに何を使ったんだわさ?」

「わかってるでしょ? 人工ナノマシンと言えば聞こえはいいかしら? 昔は極微細自己判断薬品分散機なんて呼んでたけど。まだ壊れてない彼は今もマウスよ。そしてエンドポイントになりうる子なの」

「……違うね、あれは真のエンドポイントには成り得ない。あの子はもともと『特殊』なんだわさ。耳一つとっても、先天的によかったのか、後天的に音楽で絶対音感を身に着けていた結果なのか、……投薬のせいなのか、本人努力なのか……ともかくわかりゃしないさ」

 彼女の言う『エンドポイント』とは、要約すれば薬を使って一定の効果などがもたらされたと証明できる個体の事。八雲は再び震わせるように首を振る。人間を何度も『マウス』と呼んでいる時点で、もうこの子は変わってしまったのだと悟ったから。

「死者を悼み、研究を追及するのを悪いとは言わないさ。けど人の道を踏み誤っちゃ駄目さよ」

「……医学の進歩に犠牲は必要よ。私の彼も……だから……もう誰がマウスでもイイの。ねぇデータをくれないならもういいわ」

 紗々樹はポケットを漁り、握った試験管を二つ、八雲に投げつけた。



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悠久の欠片(蓮城様)

http://book1.adouzi.eu.org/n0784by/

皇悠夜さん=ナイスミドルな謎紳士、ルチアさんとの過去話をちらり。




『以下2名:悪役キャラ提供企画より』


『鈴木 寿々樹』

吉夫(victor)様より。


『田中』

さーしぇ様より


お借りしてます。

問題あればお知らせください。

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