投薬中です(寿々樹)
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久しぶりの更新。
クリスマス後、夜勤前に賀川は薬を貰いに。
寿々樹目線です。
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「アホ、お前、薬物中毒になったことはないか?」
「……俺はそんなに異常か?」
「ん? ああ、ずっと継続して使っていた薬がないかっていう事だ」
「何かヤバい方の話かと……」
「薬はな、繰り返し使ってると耐性、つまり体が慣れてしまうんだ。アホはその傾向が強い薬が多いのが気になってなぁ……」
夜勤前に俺の調合した薬を取りに来たアホに、そう言った途端、表情が変わった。
「何かあったか?」
「いや……」
口元にこぶしを作った手を持って行くと、人差し指の第二関節辺りを唇にそっと当て、何かを言い淀む。それ以上は聞き出すことができないまま、薬を手渡す。
「ねーちゃんの言った通りにきちんと調整してあるから、必ず決められた通りに飲めよ、抜くんじゃないぞ、アホが」
「あんまりアホ、アホ言うなよ」
「アホにアホって言って何が悪い」
「ま、勉強は苦手だからな、俺。そういう意味では鈴木を尊敬するよ。これでゲーマーじゃなかったらな」
「俺の人生はゲームと女子に捧げてあるからな……笑うなっ。ふん! 年明けには入ってる分で飲みきり中止。血液検査、決定な」
「ええっ……もうそんなに調べなくても調子はいいんだから……」
「ダーーアホがっ!」
ぽかりと叩くと上目遣いで抗議してくる。逆に苛めたくなるのだが、うるうるされても男にゃ興味ない。
「子供じゃないんだから、採血や注射は、いい加減なれろ。ユキちゃんの為、だろーが! もう少しで薬がなくても安定するってねーちゃんも言ってたし。先月無茶しすぎたアホが悪ィんだ。動かないと思ってた指が動くだけでもホント凄いんだ。足だってねぇちゃんが診て、特別に知り合いまで呼んで処置して……お前はホント、いろんな運命に感謝しろよ」
「……う、ん」
この頃、『ユキちゃんを守るために体調管理は必要だろう』と促すと、おずおずと採血テーブルに腕を乗っけてくれるようになったが、急に針を見せると本気で硬直し、暴れる。こないだ、指や足が動かないときの処置は相当我慢して受けていたようである。
注射の話をするだけで賀川はブルーな顔を隠すことなくガックリ肩を落としながら、
「わかってる……じゃ、また年明けに。アリスを頼む。起きたらよろしく言っておいてくれ」
正月の間に飲む薬を手に出ていく。
聞けば、昨夜はユキちゃんとイルミネーションデートでお泊り、今から夜勤、翌日はまたデート……だとぅ。爆発しろリア充め、と、思いながらその背を見送った。ま、身体接触はなかったようだが、それはそれで腰抜けだなと思う。意中の女子と一晩屋根の下にいて何もない事の方が不健全……でも未成年だしなユキちゃんは、と、リアルだと考えられる男の方が女としては安心だろう。
ただ賀川が言わなかっただけで、まさか一糸纏わぬ乙女のシャワー中に、ズカズカと入り込んだなど俺は知らなかった。
「ま、多少やり直せる場合もあるが、決断が必要なのはゲームも現実も同じだな」
俺は手にしたデータを見る。
調べこむと賀川には極端に効果がある薬品と、全くと言って効かない薬品がある。一定濃度にはもはや慣れてしまって、効力を発揮しなかったり、逆に飲ませてもいない薬品の効果が出たりする。中でも痛みに対してそれは強く働く。人間として感じなければおかしなレベルを遥かに超した痛みさえ、全くと言っていいほど感じていない時がある。向精神薬でも飲んだかのように。
「強い睡眠薬を与えても効かないし……何だかな……」
ねーちゃんもすごく真剣に診てる。だだどうしてこんな事になるやら。原因を掴まないと、と思う。
これからもねーちゃんがアホを診るなら薬を用意するのは俺。どんなに男はどうでもよくても、医療関係となれば命がかかっている以上は手を抜けない。
「……患者が女の子なら原因究明も燃えるけど、な」
「ね、スズキ? 今、トキがいた?」
「ああ、起きたんだ~アリスちゃん。薬を取りに来て、今、帰った」
目を覆っていても明らかに落胆しているのがわかる。女子には悲しい思いは少しでもさせたくない俺は、さっとその手を取って話を変える。それにしても賀川のどこがいいんだろう? どちらかというと見てるとグリグリ苛めたくなるが、それが女子が言うカワイイと言う所なのか。
「カウンターに座って、お昼用意するから。生徒も来てないし、ポイント消化したら、すぐに軽食を作るからねぇ」
ゲームで時間チャージ分のHPを使用し、マップを二巡回して。帰還していた『うちの娘』にご褒美をやっておく。めぼしい成果はないがゲームも人生も積み重ねが大切だ。
「さぁアリスちゃん、サンドウィッチ。キャベツの千切りには塩だったよね、炒めたウィンナーと一緒に右端にあるから。搾りたてのブラッドオレンジのグラスはここ。オニオンスープは熱いから気をつけて」
「いい匂いだわ。ありがとう」
目が見えないとは思えない綺麗な仕草で彼女は食事を始める。
賀川の知り合いという事だけで狙われた彼女の命とその瞳。ねーちゃんも医師として所属していた組織の人間であるから、いろいろ覚悟はしているんだろう。町もカウントだけである程度歩けるという。けれど夜に巡視に行けば酷くうなされている日もある。
「ねぇ、トキにあんまり昔のことは聞かないであげて」
「へ?」
「階段を下りてる時に聞こえたから」
彼女は賀川をトキと呼ぶ。ねーちゃんもだ。
アホは昔、海外で親元から攫われ、八年間、消えていた。そして戻っても上手く家族に溶け込めなかった。彼は逃げるようにして海外に行き、助けてくれたその組織に拾われ、所属。三年半くらい前に失敗の責任を背負ってまた日本に戻ってきたと聞く。
「……組織に入る前の彼は、記号で呼ばれるような生活をしてたのよ」
アリスちゃんはそれ以上語る事無く、黙々と食べ物を口にする。その態度はそれ以上の質問を受け入れないと暗に示していた。
「ご馳走様」
「あ、ああ」
「……ねぇスズキ…………貴方は、鎖で繋がれた人間の気持ちってわかる?」
彼女も賀川と同じ仕事をしていた。それは非人道的犯罪を阻止するために、非人道的な『囮』を使う。毒をもって毒を制す。囮になるのは子供であるから合法的ではなく、命を落とす者も多いと聞く。そんな組織に入った彼女も普通では考えられない場所に堕ちたことがあるのだろう。
返事に迷っているとアリスちゃんは口を拭いて、微かに口角を上げた作り笑いで、
「いいのよ、気にしないで。病室に戻るわ」
「あ、アリスちゃん、来月半ばに包帯とれるってねーちゃんが言ってた」
「そう……私、見えるかしら?」
絶対とは言えない、成功率。自分から切り離されて機械に埋め込まれた瞳。自分の瞳だから拒絶反応はないが、視神経がどれほどうまく繋がるか見当がつかない。
彼女は俺の返事を待つ事もなく、部屋に戻った。
「……ユキちゃん、大丈夫なのか」
大星は白き髪に赤き瞳の少女、前田の小父貴の養女、雪姫ちゃん。二次元から抜け出たような、色合いの少女。うろなは変わった容姿の者が多いが、黒髪の日本人にあってよく目立つ。彼女が捕まえられたら命はなく、その体は弄ばれるのだろう。
「ま、ちょっとでもあのアホが精神的にも身体的にも安定すれば、ユキちゃんの為になるよな~」
子馬に言われて、いろんなものを仕込んでみたり、ここに来れば薬の調節をしているが。より効率よく、安定させるために、俺の知らない過去から今まで使用した薬をもう一度確認しようと思った。初めはそこまでかかわると思っていなかったから、海外にいた時のカルテまで細かく確認したかというとそうでもない。
喫茶の方を準備中にする。
むろん生徒は待たせる事がないように、専用の呼び鈴や呼出メールを教えているから大丈夫だ。離れる前にゲームの進行を確認する。
「うおおおおおおおおっ! キタキタキタぁっ!!!!!」
見れば、どれだけ時間をかけても運がなければ見る事はできないという幻の激レア娘が訪問していた! 最高のおもてなしをして『お泊り』まで持っていき、小躍りしながら鍵をかけておく。
「ふふふ、すぐに戻るからね。この日の為にため込んでいたアイテムを放出して……」
すぐに相手をしようかと思ったが、ここで逃がしては元も子もない。計画を練る時間も必要だ……そう思い、浮かれながら地下の病院施設に入り、トキとアホが呼ばれていた頃のカルテを借りに行った。
「ねーちゃん……?」
声をかけたが返事がない。
仕方ないので棚を漁ってカルテを探す。普通のカルテ群にこの頃使っている分を見つけて抜き出したが、前にちらと見せてもらったアホの組織時代の記録はそこにはなかった。
「うーん?」
几帳面な性格だから使ったカルテはすぐに書き込んで戻す。使ってないから古いカルテが置かれている場所に入れたのだろうか?
「でも今かかり付けてるのは、アホとアリスちゃん、たまに小父貴達を見るくらいだしな。ここか?」
ねぇちゃんの机。その引出にもない。
だけどねぇちゃんの趣味とは違う可愛らしい小箱を見つけ、手に取る。
「これ、……紗々樹の?……うぁっ! しまっ……」
かしゃん、不注意で落下させてしまい簡単に蓋が外れる。中にはキラキラしたプラスチックで出来た玩具のネックレスと紙切れ。
「げっ! こ、壊れてないよなぁ……あれ?」
幸いネックレスは切れていないし、蓋は割れていなかった。元のように押し込んで『なかった事』にしようとした瞬間、紙切れに書かれた物が目に入る。素人にはアルファベットや数字が少し読めるだけで、亀の甲羅にある六角形の模様が並んでいるように見えるだろう。
だが薬剤師の俺には薬の化学構造式だとすぐにわかる。
俺は素早くそれを記憶し、元のように仕舞って部屋を出た。
アレは…………見てはいけないものではなかったろうか……元の目的を忘れ、逸る気持ちを抑えながら喫茶店に戻ると、ねぇちゃんがそこに居た。表情を見られないように、意味もなく鏡に向かってリーゼントを整え、咳払いなんかしてみる。ねぇちゃんは首を傾げる。
「どうしたさね?」
「ぅ……あ、ああ、賀川に薬を渡しておいた。それよりねーちゃんどこに行ってたんだ? ここ、通ってないよな?」
「裏から抜けたからねぇ。ほら、ブラッドオレンジを買いに行って来たんだわさ。今日の分で切れるって言ってたわさ。アリスが好きだからね……視覚がない今、慣れた物や好きな物を一つでも多く、与えてやりたいんだわさ。で、寿々樹はどこかに行くのかい?」
「ん? ああああぁ……ちょっとな。メールで知らせたから、生徒は来ない。喫茶店は閉めてていいから……」
「……なんか変な子だねぇ、まぁいいわさ。行ってきな。気を付けて……」
俺は端末で『今日は休みだよ』と、可愛い生徒達に一斉送信をすると、店を出た。
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『以下1名:悪役キャラ提供企画より』
『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。
お借りしてます。問題あればお知らせください。




