詰問中です(子馬)
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騒ぎの後で。引き続き子馬目線です。
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「なぁ~にをやってんですか。子馬様っ。あんなヤツらに頭なんか下げなくても……」
「いやぁ、今ココ、責任者みたいだからさ。それくらいはするよ。でも、それ以上はしてないって言ったの聞いてた? ……ねえ、お、男にそんなに迫られても楽しくないよ?」
「何を暢気な事を……」
「一課の奴ら、俺達を、当主様をバカにして。悔しくないんですか?」
「きっと一課も大変なんだよ。もうずいぶん長い間、新旧派閥に分かれてるし。新派の友禅さんは共同戦線張ったり、合同訓練持ちかけてくれたりしてるから仲良くしないと……」
「あの子女は俺達を利用したいだけでしょうがっ」
「それもあるんだろうけど、認めてくれてるんだよ。だからうちをゴミ扱いする、旧派の鴉古谷さんよりイイと思うな。ね、空馬……熊はどこ?」
あの後、一応形上、俺が頭を下げた事と、もしそれ以上動けば容赦なく絡め取れる事を飛び掛かろうとした何人かで陣を使った捕獲実演した事で、その場は解散になった。一応、医者にかかっておくように勧めておいたけど。うちの方にも陣を足元に置いていたけど、威力は知っているので動く無能な部下はいなくてホッとした。
ともかく、あの場に居たのは同課とも下っ端ばかりで、俺の望む相手は不在。『その件』は一課長に伝えておくという事で収まった。
そして俺は一課の者達の目が届かない廊下に出る。と、謹慎部屋ではなく、そのまま二課専用の道場に連れ込まれてしまい、強面の仲間達に詰め寄られていた。もう今は身長や体重は俺の方があるのだが、言葉は丁寧でも昔は小父貴と呼んでいた者も部下には多いので、その威圧は凄まじい。
現在二課はほぼ七割までが一族の者で構成されており、約二割が他の血族、残り一割が生粋の人間だ。
三割は俺が当主という事は関係ないが、ノンキャリアで年のいかない俺は階級的には下でも、ここでの役職は上になる。二課長補佐……ここが公暗であるからで普通の警察ではありえない、破格の役職ではあるんだけれど。
当主と言えど蔑ろにできない伯父貴や老人連中は各地に飛んでいて、現在ココにいない。だからこそ謹慎中と知りながら俺を部屋から引っ張り出したし、ツマラナイ小競り合いも起こったようだ。
「空馬ならいつも通り、事務に。そんな事よりですね、もう少し当主として威厳を……」
「威厳? そんなのは元々ないのは知ってるよね? も、もう落ち着いてよ」
「落ち着けませんよっ、貴方のその態度がですねっ」
部下が近くの机をバンと叩いたらミシミシと壊れた。それを見て、側にいた綺麗すぎる女達がぎろりと睨む。
「いい加減にしな。当主様が右を向きなと言ったら右を向くのが、土御門のやり方だ」
「で……」
「で?」
お互い同じ音を返したが、姐さん達の方が上を行く。それで黙った事に彼女達はにっと笑う。
「よろしい」
笑った顔は凄まじく綺麗だが怖い。土御門の男は鬼のような厳つい容姿だが、土御門の女は背筋が凍るほど美しい。それは男とは逆の意味で人間離れしている故に、なかなかいい恋愛はできないそうだ。
それに俺達は普通の人間より長生きだ。生粋の妖怪とか、怪物には全くかなわないけれど。
ともかく色々考えると、ある程度の年に許嫁を土御門内で決められる。
土御門の女達は強い。腕もたつし、心も、……強い。
だけれど、彼女達が瞳を潤ませる時があるのを知っている。それは土御門の男が死んだ時だ。昔は髪の毛一本手元に残すことも許されず、遺体は国に接収された。婆様達に言わせれば、『土御門の女ともあろうものが、男との最後の別れはわかっておろう』と言うが、彼女達も表情には出さないが苦しい思いを抱えていた。死したからと言ってその体を、まだ温かさが残るそのままに、モノとして目の前で連れて行かれる。土御門に籍を置いて、何度体験しても気分が良いものではない。同族として仲良くしてくれたヒトもしてくれなかったヒトも……墓もなく、葬儀もなく、女の涙だけが残った。
俺はその理不尽さを不当に思い、駆けずり回り、現在遺体の一部だけだが手元に残し埋葬できるようになった。その功績が俺を当主として立ててくれる要因の一つになっている。
「それで? 友禅に渡そうとした資料は何だったの? それに許嫁を解消したってどういう……」
「ええええっ……と。ちょっと俺、トイレ行って、そのまま謹慎部屋に戻るね?」
「誤魔化すなっ、こおーまぁ~」
俺は素早く姐さん達から逃げる。
ちなみに女の体も昔は持って行かれていたが、明治頃に若くして亡くなった者の姿が美しすぎて、当時の管理官が死姦するなど幾つかの不祥事があってから、一時的に接収されても死体保護班をその間つけることができ、最終的に土御門に戻されるようになった。
男の体も、いつか遺族のもとに戻される扱いにできればと思っている。
「子馬様っ待って下さい」
「黙ってないで、当主様っ話して行くんだよっ。私達に」
「ごめんねぇ? もう少し時間をくれる? 悠馬の伯父貴みたいには頼りにはならないだろうけれど」
今日だって、前当主の彼がいれば、恫喝一つで事を収めただろう、と。皆、心のどこかで考えていたのだろうなぁ……複雑な表情を浮かべているのを目に捉えながら、
「俺なりの方法で土御門を導くからさ」
言い残して、扉を閉め、駆け出して……トイレで時間をつぶしてから、事務に向かう。
「熊くーん。あ、礼はいいよ?」
「子馬様。なんだか騒がしかったですよ? それに謹慎中では」
「様とかやめてくれ、怖いから」
「じゃ、君とかつけないでくれ、子馬 」
そこに居たのは俺と似たような容姿の男、土御門 空馬。片膝をつきかけたのを素早く言いとめて、俺は笑った。熊と俺が呼ぶこの男は、いつも経理や事務仕事を担当しているが、俺より繊細な鬼道術に長けている。例えば治癒や呪いに関する術などに。
年の頃はいちばん近い、前当主の息子。誰より当主に近かった男。今は俺を理解してくれて、サポートに回ってくれている。いつぞや賀川にかけた呪い札をどの程度にするか、提案して作ってくれたのもこの男だ。
「ちょっとお願いしたいんだけど」
「子馬は当主だ。頼まれれば嫌とは言わないけど、事にもよるさ?」
「うん。定期にやってる、俺の記憶ガード、強化できるか? 一応、データは残してるけど、頭をおかしくされたくないんだよね」
今は特に。海さんとの事を忘れてしまうのは嫌だ。
「…………じゃぁ、脳をいじるようなアクセスがあった場合、相手にその力が返ってしまう呪いでどうだ?」
「そんなのでいいや。でもここに来たのは黙っていて?」
今まで座っていた所を立って、俺をその椅子に座らせ、大きく太い指が俺の頭を触る。
「なぁ……子馬は疑わないんだ? そんな術に隠して自分が乗っ取られるのではないかって」
「ええ? そんな事する? ああ、それでも熊ならいいよ。土御門を悪い方には導かないから。その前にそんな事しなくても、いつでも当主を替わってくれていい。でも、言っておくけど、いい加減な気持ちではやってないから、当主である限りは力をつくすよ、俺。あ、ただ熊でも俺の『想い人』に何かしようとしたら許さないからね?」
そういうと少し間が開いた。
「噂は本当か? 許嫁解消したって」
「もしかして騒ぎになってる?」
「相当……『半端者の子馬』ならいいけど、アンタは今となっては『当主様』だぞ? それも普通の人間の娘とか……」
「違うよ、普通じゃなく、すっごく可愛いんだよ、海さん。今度紹介するから。初対面の俺を怖がらずに握手してくれるし、走ったら女の子なのにとても足が早いし……」
「……そ、か。子馬、頑張れ」
笑って返すと呆れた顔をして、『気を付けて』という言葉とともに部屋を追い出された。
俺はその足で一課と二課が共用する休憩スペースに向かう。さっき、揉め事があった場所だ。普段は一課も二課も顔を合わせないようにお互い使わない、境界のようなその場所。
さっきのような事があると、人が集まるが、今は無人だった。
「よいしょ、っと」
うちの者は謹慎部屋に戻っていると思っているだろう。
コーヒー片手に待った時間はそう長くなかった。
「土御門 高馬、二課長補佐官……封壁の雷神鬼……」
「その名前は仰々しいよねぇ……ま、いっか。ね、一課の人? だよね」
俺はにっこり、迎えに来た男を見上げた。
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん
問題がありましたらお知らせください。
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悪役企画より
『鴉古谷』(パッセロ様より)苗字のみ使用
なかなか調子に乗れませんが、ゆっくり更新させてください。




