仲裁中です(子馬)
神父からの電話の後、報告を受けて。
子馬が走っております。
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「この場は拳を収めよっ! 場をわきまえろ。ここは公暗。人として、また公人として仕事をする所だ」
一触即発、いやもう爆発している雰囲気を肌で感じ、躊躇なく飛ぶように走り込む。俺は二人の男の間に立って、放たれた蹴りを同時に引き受け、それでもまだ手を出そうとしていた者の方を一撃で吹き飛ばす。手にしていた折鶴に式鬼を宿らせ、密かに自分方の者達に『ここは俺に預けてくれ』と声を届けさせる。
そのまま構えを解かず、残心で背後にまで気を張り、特に食ってかかって来そうな幾つかの気配を、無言でひねりつぶした。
「こ、子馬さ……」
「何だよ、邪魔すんなっ!」
「お互い退けっ! 雷針っ!」
更に何本も雷を細くしたそれを正確に敵味方を別つ事を目的に、足元へバラ撒く。皆、鍛えられており腕の立つ者達であるから、波が引くようにその場から後ずさる。
「ら、雷神鬼が出てきやがった。謹慎中じゃ……」
「元は半端者だったくせに……あの若さで課長補佐官とはな」
「封壁の雷神鬼……アレを見たら…………半端者とは、もう口が裂けても……」
「お前は二課の味方か!」
誰彼が呟く。
「あいつは土御門なのに雷を使えるのか?」
「お前は知らないのか……少し前に友禅が主導で一課二課合同戦線を張った逮捕の際、雷が他に被害を及ぼさない様に、アイツは『土』で壁を、中に雷を落して犯人を絡め取ったんだ……」
「それくらいできても……」
「あの時の犯人達は凶暴で、ウチも二課も何人もの死傷者が出て。血みどろになって焦げても焼けても暴れ回るホシを、ヤツもボロボロになりながら拘束し、壁から出てきた図は……二課のヤツにしては、なかなかのインパクトだった」
土御門が司り、使役するのは名前の通り『土』に関するものが多い。
だが俺は刀山と呼ばれる霊峰で訓練中、雷に属する者を偶然に取りこんでいる。彼らを体に入れ連れ運んでいる礼として、その力を行使できる。力というのは一つに特化する傾向があり、一人で多種の事ができるのは、珍しい存在。
それも雷は光であり、火水風土の上に立つ『空』を示す力。
電気などがなかった昔。
雷ほど一瞬にして強大な力は自然界にも稀であり、扱える者はそこそこ尊敬される術師であった。今も雷撃、つまり電流を生身で操る技は修得までに致死へ達する率が高く、体得し難しい。その上、現在はスタンガンや警棒などボタン一つで科学的に事象を起こした方が早くて、安全な為、廃れた技。
ただし、科学による技は常人にも安全に扱えるかわりに効力は人一人を倒す程度で、それだって水を交えれば恐ろしい効果を導き出す。さらに高圧電力は扱い間違えれば、目にも見えないまま自分を、そして味方までも瞬時に焼き焦がす。この前、雷を使う男に会ったが、あれは科学的に起こしたもので、俺のに比べると児戯に等しい。それでもリミッターを外し、敵味方関係なく使えば、周囲を即死させる力を持つだろう。加減の難しい力。
ともかく俺に雷と土、二つを自在に扱う者として付いた通り名が『封壁の雷神鬼』……土壁と雷撃の合わせ技を見た者が付けた名。
『その名前は……勘弁して欲しいよ……』
心の中でぼやく。
これ本当に……中二病的こっ恥ずかしい名前なので、海さんには知られたくない。絶対、指差して笑われるから。
けれど伯父からの七光りで譲られたと思われがちな土御門当主の立場が、この名前が独り歩きしたおかげで俺の立場を底上げするのに近頃は役立っている。
なので、心の中で赤面するだけで、言わせるに任せ、双方集団の真ん中に立ち、にらみを利かせる。
「今回はうちの若いのがそちらの『兵』を傷つけたという報告を受けた。それについてはきちんと謝罪させていただく」
俺はその場の波が収まっている事を確認し、、表情を変え、ニコリと笑うと頭を下げる。
謹慎部屋に閉じこめられている間に、二課である俺の部下と一課の者が小競り合いをして、相手の者に怪我をさせたそうだ。ココに来るまでに聞けば、『宵乃宮の巫女が保護を求めたのに、連れてこなかったのは二課の守護力が弱くて守りきれないからだ』と挑発的に言われたのが発端。
以降は売り言葉に買い言葉、どちらが手を出した出さないと騒ぎが広がり、大き目のドンパチをやらかそうとしたのが、さっきの瞬間だった。
「躾がなってねぇんじゃねぇの? 雷使いとはいえ、若けぇ当主じゃ……」
下手に出た事で一課の緊張が解け、薄ら笑いが漏れる。
二課の男達は文句を言いたげだったが、もう一度『ここは俺に預けてくれ』っと式鬼に乗せ、囁く。特に相手を怪我させた部下には感謝を付け足しておく。発端となった一課の批判は二課の守備力に関して言われているようだったが、暗に俺への批判であり、特に彼は俺を思って拳を固めてくれたのだとわかったから。
頭を下げる俺。部下が止めさせようと動く寸前に顔を上げる。
「で。俺が謝ったのは怪我させた事実、その一点のみですよ……一課のみなさん」
ぴしゃりと言い放って、笑いを消す。その言葉だけは丁寧なまま、怒気の籠った声と目線を投げる。だてに鬼のような顔はしていない。一課も心臓に毛が生えているような輩の集団だから、流石にそれくらいで後ずさる者はいないが。それでも口を閉じさせるくらいの効果はもたらせた。
「躾がなってないのはそちらでしょう? 宵乃宮の件は我が二課の抱える案件。それに対する処置に一課が口を挟む方が、道理に適ってないですよ? それについてのそちらの『謝罪』はいただいてないようですが?」
「なにぉ……」
血の毛は多い連中だ、気色ばむ一課の連中にも涼しい顔で言い放つ。
「二課は一課と違い、そんな『小さい事』で騒ぐ気はありません。ついでですみませんが、一課の内部監査員および一課長に『告発文』を進呈したいのですが、どこに居られますか?」
俺の手に載せると、豆粒のように小さいデータチップを見せ、その姿を求めた。
「あ、それから俺が頭を下げたし、怪我した人の賠償は追って請求したいただければお支払いします。これ以上、この件で騒ぐなら、各人、足元に敷いた雷陣で拘束させてもらいます。どうしますか?」
「な、なんだと?」
「いつの間に」
「な? 子馬様、俺達の下にも?」
「だってぇ一応、公平にね」
俺は初めにこの場を収拾するために投げた『雷針』で、皆の足元、一人ずつに拘束用の陣を敷いておいた。皆、牽制し合ったり、俺を値踏みしたりして、足元には全然注意を払ってなかったから簡単だった。
そんなに驚かなくてもいいと思うんだけど、なぁ……
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん 刀山
問題がありましたらお知らせください。
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なかなか調子に乗れませんが、ゆっくり更新させてください。




