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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月26日

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438/531

シャワー中です2

引き続き賀川目線

llllllllllll

 





 押さえられなくて、つい飛び込んでしまった風呂場で。痴漢と言って追い出されなかった事だけで幸いだったのだと、常識は超えた行為だったと後から振り返ったが、その時は衝動だけが勝っていた。

 全裸の彼女が魅惑的だったが、その誘惑も、この時の俺にとってはまた別の話。彼女は余りに突然で身構える事も忘れたのか、きょとりとして首を傾げる。そして何を聞かれているのかわからないと言った感じで、ごく自然に口を開いた。

「えっと、そのですね。賀川さん、その、アキさん、もう、恋人だって言ってくれましたよね?」

「ああ。だけど……」

「私は恋人、ですよね?」

「う?」

「私…………こいびと?」

「ん、あぁ」

「よかった……」

 俺が。

 俺の方がそれでいいかと聞きたいのに。

 彼女は逆に俺へ返事を求め、最後の方は泣き出しそうな小声で聞くので、慌てて俺が頷くのを見てほっとした顔を浮かべた。

「嫌いになったりしません……でも、もう、痛かったり苦しかったりしないですか? 心配で。私、至らないこと言ってしまいました? でもあんなに痛そうだったから。あ、でも、そ、そうですよね。あんなに小さい頃の怪我が今、痛いわけがなくて。でも心が……痛そうで。それに、アキさん、汚くないですよ? ほら、もし気になるんだったら、イイ匂いの石鹸が入ってたので使います? 私これ好きなのです」

 そういう問題じゃないのだが、どうやら本気のようで。俺は反応に困って瞬きを繰り返し、お湯を滴らせながらどうしようもなく、笑う。

 この人にはかなわない。

「え? え? あのですね。ココ笑う所じゃない気がするんですけど。私の側はあんまり安全じゃないから、またアキさんが苦しむのではないか、それが嫌です。それでも側にいてと言う私は酷い女ですよね?」

「いやいや面白いよ、雪姫。俺も相当ずれてるけれど……」

「ず、ズレてますか? でも私、ココに。うろなに居たいし、貴方がもう痛くないならいいです。嫌いじゃないです。その……」

 そっと差し伸べられる手が、俺の頬に触れる。

「好きです」

 たった一言、八年の闇も。

 その後、十指を数える年近くを失った瞬間も。

 日本に帰って襲われた孤独感も。

 何もかもが、たった一言で報われる。今ある拳は彼女を守る為に必要だからこの年月を超えてきたのだと、俺に思わせてくれた。もしあのまま平和に生きていてピアニストになれたとしても、彼女に会えない人生なら、もう一度やり直してあの痛みに耐える方がいい。

「好きですよ。ずっと。きっと、会った時から……笑う顔が好きです。貴方に笑っていて欲しくて」

 温められてピンク色が美しい白肌に、滔々と流れる湯が彼女の肌を艶やかに見せ、胸の突起や下腹部までの流線、その美しい全てが俺を受け入れてくれる。

 それは俺が彼女を意識する前から。

 昨日の様に近くで心音を感じる前から。

 もう彼女が一人、森に住んでいた頃から。

 今に始まった事ではなく、彼女は俺を見ていてくれていた。それは彼女がただ巫女で、自動的に皆を思いやるような機械的な想いじゃないと信じていたい。

「でも、初めは気持ち悪いって思ってたんでしょ?」

「う……だって、黒、重くて何か違和感が……でも気になっていたんだよ?」

 思い至って、赤い瞳で上目使いをしながら睨んでくる彼女の抗議を受け流す。今はその肌の白さが美しいが、日本人にはあり得ない白さに髪の黒。いや白人だってこんなに白くはない。カラコンで調節された瞳の黒と染められた髪に、白い肌は違和感が強すぎて、幽霊か……人間でない何かの様にすら感じてしまったのだと今なら分析できる。

 その容姿と力、故に神に守られてきた少女。流石にいろいろな超常現象を信じない俺でも、彼女ならと思わせる赤い瞳を覗き込む。俺の顔に触れていた手を取って、口付し、

「ねぇ、ユキさ……雪姫、俺は君が想像し得る嫌な事や苦しい事はだいたい知ってる。だから俺は大丈夫。君が側にいない事、守れない事が一番辛い。昨日も言ったよね?」

「は、は、はい」

「君が夢で見た諸々が俺の真実であったと思ってもらっていい……俺の身の上にあったコトはだいたいそう言う内容で、色々な利権を交えて免除されてこの国に戻ったけど、それまでの行いは人間にとって下の下である行為。本当は許されてはいけない、けれど俺はココに居られて、とても幸せだから……側にいてイイなら、今…………もう一度、好きって言って、お願いだから……」

「好きで……っ……く、口塞いだ、ら……言えな…………っ……」

 唇を攫う。

 体に触れる。

 髪を撫でる。

 彼女にたくさんのキスを降らせる。首筋に、その露わな胸の谷間に。

 煌めく青い石、静かに流れるシャワーの水音。

「…………ぁ……」

 舌先で舐めるように敏感な部分に触れると、びくりとした彼女は体を強張らせたままゆっくり恥ずかしげに俯き、俺の腰に回した手をやんわり押し下げて、

「ぁ……アキさん。あの、あの、服、濡れちゃってます」

「うん、そだね。脱いでいい?」

「え?」

「もう体、洗い終わったよね。このまま替わってもらっていいかな? それとも終わってないなら洗ってあげようか? 雪姫、触ると凄く……やぁらかいし、あったかいよ」

「けけけけけけっ結構ですぅっ」

 そう言いながら、俺の腕の隙間から逃げ出すと、

「その石鹸やシャンプー、置いとくので使って下さいね?」

 そう言いながらシャワー室から飛び出すように出て行った。

 濡れた服を脱ぎ捨てて湯を浴びる。

 宵乃宮の刀、アレが彼女を傷つけたなら彼女は消えてしまう。昨日見た男の太刀筋は、師となった魚沼のソレと同じ達人の域だと感じた。

 ……篠生の手から離れた赤い刀が自分を貫いたのを思い出して首筋に触れる。そこには何の傷もないし、本当に突き刺さったのかもわからない。けれど、その刀を使いこなせれば勝機があるのかも知れない。素人の自分に何が出来るかわからないが、とりあえず取り出す方法を子馬に聞いてみるかと考えるのだった。

lllllllllll

(本格的にストック無しに。来週の更新は未定です。それでも二月に向けて動いていきますのでよろしくお願いいたします)

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