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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月26日

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437/531

シャワー中です

座り込んで。賀川回想です。

lllllllll

 






 台所に座りつくして。

 今、俺が震えているのは過去の残像に対する嫌悪か、と、自分に問う。



 その答えを出すために、過去を思い出す。

 まず感じるのは寒さ、痛み、苦しみ。

 暴力の挙句、女の……いや犬以下の扱いで傷つき、穢れた体。傷を抉られ、蔑まれ、付きつけられる死。それでも死ぬ事も出来ず、自分の手を赤く染める。

 通り越して、無感情、無感動、無秩序。

 最後に辿り着いた狂おしいまでの快楽と嫌悪、やっと死ねるのだと言う切符を目の前にした瞬間に組織の名を聞いた。

 そうやって、いろんな闇を流れて現実に引き上げられた。

 しかし皆が住む光の当たる温室の消毒液の効いた水にはもう住めなくて、慣れたドブ川にしか生きられないのに気付く。導かれて『囮』を志願して、また沈む。誰かを助ける、大義名分を与えてくれた組織も仲間も愛おしかったのに、一瞬で全てを失った。

 逃げた場所は彼女の勧めでなんとか覚えていた言葉が使える祖国。少ない常識でやり過ごし、そこは綺麗でもなく、汚くもなく。姉に適度に苦しい枷を加えられては罪悪感から逃れ、普通に生きられていた。イヤ、今から思えば生きたフリをしていたのか。アレも俺の人生だったのではないかとは思うが、暗いトンネルを選んで歩いていたことは間違いなかった。

 そんな中、雪姫に出会う。初めはその違和感に息を詰めたが。いつしか気になる様になったが、配送員と客の間柄。変化する事のない関係がここ半年で違うモノになった。彼女に会わなければ、今、もう本当に生きていなかったかもしれない。

 心を持って行った白い彼女が振り向いてくれそうだというのに、それを振り払わなければと思った時期もあった。けれども彼女と色のある場所に生きていく事を決め、自分の非常識で彼女を振り回しながらもやっと手を取りあえたと思ったのに。

「雪姫……」

 彼女が浴びるシャワーの音がする。

 彼女が寝ていた枕元に置かれた赤い髪の少女の人形を見た。その時、『女々しい、女々しいぞ、賀川』と腰に手を当てて俺を指差したポーズで、すこぶる偉そうにユキとはまた違ったあかの視線を投げる少女を思い浮かべてしまう。ついふっと笑った自分に『わ、笑う所では無かろう! お前にゆきを託したのだ。意地を、覚悟を見せろ』っと吠える所まで感じた時、そのおかげか震えが止まっている事に気付いた。

 自分がどんなにか汚いとわかっていた、彼女に自分が釣り合わない事は知っていた。過去は過去、どんなに喚いても変えられないから、それでも彼女は自分を見てくれて、選んでくれているなら、未来で答えればいい。自分も守り、彼女も守り切る……鮮烈な夏の熱を持った少女ベルさんに会って、そう思った。今はあの時より、彼女に向き合い、彼女を自分なりに大切にしている。

 空回りしている事もあるけど。

 自信が揺らぐ? いや元々自信なんて存在してなかった。

 俺が震えていたのは過去の残像に対する嫌悪か、と、もう一度、自分に問う。

 全く嫌悪がないわけではない、寧ろ嫌悪だらけだ。けれど床に握りしめる手が赤かろうと、汚かろうと、どうでもいいのだ、彼女が守れるのなら。彼女は俺の汚れくらいじゃ穢れない、純白の雪。わかっているけれど、怖いのだ。ふいに背かれてしまう事が。見ていてくれと言いながら、見られたら困ったなんておかしな話だけど、急に怖気づいてしまった。昔の夢を見て、それを言い当てられるなんて思わなかったから。

「覚悟……だ、覚悟……」

 自分の戦う所を隠し、それでも彼女を守りたいなんて相反する事を続けようとしたり、自分の暗い過去を垣間見る彼女にこんなに動揺したり。彼女が不思議な女性だって事は前からわかっていた。

 ……じっと手を見て自分を律す。気持ちは……揺らぐが、過去の事実は変えられない。

「雪姫……」

 ……衝動で彼女を壊してしまいそうだったから追い出した。それなのに、声が聞きたくなって、気持ちが止められなくて立ち上がる。我が儘な衝動が走って、たかだか風呂を出てくる少しの時間が待てない。扉を開け、彼女がシャワーを浴びてる扉も開けて無遠慮にズカズカ入り込む。

 本当に『真紅の彼女』がいて殴ってくれたか、鍵がかかっていればよかった、そうしたらこんな馬鹿な事はしなかったのにとチラと考えたが、行動は止まらなかった。

「か、賀川さん????」

 湯気に滲んでいたけれど、彼女の美しい体の流れに沿って湯が滴り、髪を濡れ細らせているのが目に入った。カチリと背後で扉は閉まり、二人きりになる。耳に飛び込む聞き慣れた俺の名を呼ぶ彼女の声だけで心地良くなる。このまま襲ってしまおうかと悪魔の囁きが聞こえる気がした。

 服を着たまま彼女に詰め寄ると、熱いシャワーが俺の体も叩く。そのまま彼女を壁に押し付けるように詰め寄って、

「ユキさん。いや、雪姫。何を見たのか、知ってしまったのか、俺にはわからない。けど、俺はこの世のどこより汚い所に住んでいた男だ。俺を見てくれと前に言ってあったよね。それで、今、見たならば。それとわかっても君は側に俺を置いてくれるのか? ……嫌いになったろ? きっと……それでも受け入れられるのか? ……俺を」

 俺の黒髪から落ちる雫をぱたぱたとその顔に受けながら、彼女は赤くて大きな瞳を真っ直ぐに俺へ向ける。ふと気を抜くと、英語でまくし立てそうなので、時間をかけてゆっくりと言葉を組み立てた。

 見上げる彼女の赤い瞳がきょとりとして、コトンと首を傾げてもう一度、俺を見た。



lllllllllll


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

ベル姉様



お借りいたしました。

問題があればお知らせください。



(本格的にストック無しに。来週の更新は未定です。それでも二月に向けて動いていきますのでよろしくお願いいたします)


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